2024年8月18日日曜日

初任者とともに学校を変える

今年の5月。ある記事に目が留まった。それは昨年度採用された東京都新採用教教職員のうち、4.9%にあたる169名が離職したといった内容の記事であった(https://www.yomiuri.co.jp/national/20240424-OYT1T50229/)。

私は小学校教諭として自校の初任者校内指導教諭という立場にある。この立場になって今年度で3年目だ。毎年、1~3人の初任者が着任し、共に働いている。もちろん、この3年間でやめた教員はいない。しかし、周りの学校の様子を聞くと、実は多くの学校で記事にあるような状態が起きている。「5月の大型連休を迎えられなかった。」「休みがちだったが、遂に来られなくなってしまった。」そんな話を聞くたびに、私がどれだけ恵まれているかを実感する。

レベッカ・ピーターソンというある年の最優秀教師に選ばれた教師が「初任者教諭に向けてのアドバイス」として書いた記事を読んだ(https://www.edutopia.org/article/advice-new-teachers-teacher-year)。そこには以下の4点を実行することでなりたい教師を目指すことができると述べられている。

① 日々の振り返りをする。

よかったことやよりよくなるための手立てを出来る限り創り出せる手段(ブログ、メールでのやりとり、SNS等)を使って。

② 見通しをもって、積極的に手立てを打っていく。

何を学ばせたいのかを明確にした上でその過程を組み立てる。その上で、考えた手立てを積極的に実践し、①のように振り返りをする。

③ 協力し合う態度をもつ。

 自分と同じように子どもを教えたり、子どもと喜び合ったり、尊厳や思いやりをもった教師たちと協力し合うこと。一人で仕事を抱えるのではなく、仲間たちと仕事や感情的な負担を分け合うこと。これができると成長はより進む。

④ 我慢する。

 自分自身にも生徒たちにも忍耐強くいること。常に学び続ける。すぐに何か成功をおさめようとするのではなく、忍耐強く少しずつ自身の働き方をよくしていく。それが自分のスタイルを築き上げることにつながる。

どれも魅力的なアドバイス。その中で、私が特に注目しているのは③である。この記事では初任者に仲間を見つけることを提言している。だが、学校の体制として「初任者がよき仲間、先輩を見つけられる仕組み」を構築したらどうだろうか。その取り組みの一例が「メンターメンティー研修」である。初任者であるメンティーが先輩教諭であるメンターから様々な学びを見出していく仕組みである。私は大学院派遣教諭として大学院で学んでいた際、横浜市で進められていたこの研修制度に出会った。それからの4年間、自校でもメンターメンティー研修を充実させるべく、実践を続けてきた。

様々な成果と課題がある中で、一つ言えることがある。それは『初任者を育てることは学校を育てること』ということだ。この4年間メンターメンティー研修の充実を図る中で、若手教諭たちは様々な先輩から学び、自分なりに実践し、それを後輩の初任者教諭に還元するようになった。学校としてそのような風土が出来上がってくると自然と学び合う・支え合う教職員の関係が醸成される。この雰囲気は間違いなく子どもたちにも伝わり、よりよい学びや個性を輝かせる子どもたちの育成につながっていく。『「輝く職員室」が「輝く教室(子どもたち)」をつくる』。私はこの言葉を信じ、初任者と向き合いながら、学校組織がよりよいものとなるように全力を傾注していく。

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 以上は、埼玉で初任者校内指導教諭をしている田所昂先生が書いてくれました。過去4年間、メンターメンティー研修をかなり計画的に行うことで、指導役の彼がいなくてもメンティー経験者たちがメンターになって動かせるまでになっているそうです。(横浜市のこの制度はもっと長いのに、そうなっているところはほとんど聞きません!★)これから、現場での具体的な取り組みを紹介してもらいます。

★制度があるから、うまくいくのではなく、大切なのは当事者が制度を理解し、自分のものにし、それを年度を超えた視点で磨きをかけていくことです。その出発点になっているのは、『「教師力」向上の鍵 「メンターチーム」が教師を育てる、学校を変える!』横浜市教育委員会著です。「横浜市 メンター」や「横浜市 メンターチーム」で検索すると、ネットでも情報が得られます。メンターとメンティーの両者の成長が見られる事例をご存じの方は、ぜひPLC便り=pro.workshop@gmail.com宛にお知らせください。

2024年8月11日日曜日

対話からはじめる 5つの対話の基礎力

夏休みに入り、普段ではじっくりと関われなかったけれども、長期休業の間は、これまであまり話せなかった人とゆっくり話をする機会が増えると思います。または、教員研修が続く日々!?を過ごす中、自分とは異なる価値観をもつ人との対話が増えるのではないでしょうか。こういった機会を通して、私たちは学び、成長していきます。

では、人が成長するために欠かせないものは何でしょうか。先に答えを言うのなら、それは「リフレクションと対話」です。これらは、人との出会いや他者との会話を通じて得られるものです。

しかし、対話の場において、一人でも評価や判断を保留できない人がいると、その場が壊れてしまいます。本人は気付いていないかもしれませんが、そのことに気付き、私たちは対話の場に貢献する仲間となることが重要です。一人で早く進むよりも、みんなで遠くへ行くため、「一人ひとりがリフレクションできること」と「対話ができること」が大切なのです。

ここでは、ふりかえりと対話を通じて、新たな価値や解決策を生み出す「創造活動」の手段としての対話の実践方法を紹介します。対話に参加する私たち一人ひとりが身につけるべき5つの基礎力とその実践方法についてお伝えします

 

ひとつ目の「リフレクション」とは、昨今、教育界でよく聞くキーワードとなりました。これは自己を客観的かつ批判的に振り返り、未来を創造する力のことを指します。自己を振り返り、批判的な姿勢で経験から学ぶことが求められます。OECDも指摘しているように、多面的・多角的に物事を捉える能力を養うためのひとつの有効な方法です。「一度こう思ったら私はもう考えない/考えをかえない」という姿勢では、真のリフレクションはできません。答えが明確にある場合にはそもそもリフレクションは必要ないのです。

 

ふたつ目の「対話」は、そのリフレクションの場となります。対話には、自分の安心して考えられる思考の枠を超えて他者と向き合う力が求められるのです。そこでは評価や判断を保留し、多様な視点に触れることで、自分自身の枠を超えることが重要です。リフレクションはどこか一人になって熟考するものだけではなく、対話の中で行われるダイナミックな活動なのです。

対話を効果的に行うためのポイントは次の通りです。相手の世界に対しても同じように耳を傾け、その背景や理由を理解しようとする姿勢が大切です。

1. 自己内省自分の考えを客観的に振り返ること。

2. 共感の聴き方相手の意見だけでなく、経験、感情、価値観にも焦点を当てて聴くこと。

また、よくあるディベートと対話には違いがあります。ディベートは自らの主張を変えず、リフレクションを必要としません。正当性を示すことが目的です。一方で、対話では「主張は変わりうる」ものであり、傾聴と相互学習を通じて、自己の中に変化が生じます。すべての参加者が関わることで、共創が生まれるのです。つまり、対話は共創のための手段であり、対話を通じて共に創り上げることが目指されます。

さて、あなたの職場の職員会議や学年会はディベートと対話どちらになっていますか。対話には、異なる考え方や、自分には全くない発想に慣れていくことが求められます。「その発想は全くありませんでした。もっと教えてください」や「真逆ですね。意見の背景を教えてください」といった会話が交流されることから始められます。この意見の違いを賞賛する文化こそが、多様性を活かし、これまでにない創造性を発揮できる鍵を握ります。共通点のみに焦点を当てるチームは多様性を失ってしまいますが、それぞれの違いを尊重するチームは、多様性を活かすことができます。

 




それでは、対話の5つの基礎力を紹介します。

① メタ認知

メタ認知とは、自分が何を考えているかを認識する能力で、理解や学びのプロセスにおいて重要です。この力を高めるには、自分の内面を客観的に見つめ、考えがどこから来ているのかを問いかけることが必要です。

対話においては、「なぜそう考えるのか」を自分の外にある事実ではなく、内側のメンタルモデルに求めます。意見の背景には、過去の経験を通じて形成された見方(メンタルモデル)が必ず存在するためです。そのため、自分の内面を客観的かつ批判的に振り返るリフレクションが重要になります。批判的とは、多面的・多角的に捉えることを意味します。

メタ認知の「4点セット」として、意見、経験(知っていることも含む)、感情、価値観があります。感情に紐付いていない経験は記憶に残りにくく、感情を伴うことで価値観が明確になります。

 


② 評価判断の保留

評価や判断を一時的に保留し、自己内省を行うことで、他者への共感が生まれます。評価を保留できないと、新しいことを学ぶのが難しくなります。対立の原因は意見の違いではなく、判断基準の違いにあります。人々が守りたい価値観を理解し、その背景を探ることが重要です。価値観レベルでの合意は難しいかもしれませんが、習慣化することで可能になります。

リフレクションを通じて「自分」と「自分の考え」を切り離すことが必要です。評価を保留することは、自分の意見を捨てることではなく、ネガティブな感情をコントロールする手段です。相手の意見が自分の大切にしているものを脅かしていると感じたとき、その感情を理解し、コントロールすることで、相手の話に耳を傾ける姿勢が整います。評価の保留は傾聴のための手段であり、自分の意見を永遠に手放すものではありません。傾聴が終われば、再び自分の意見に立ち戻ることができます。

 

③ 傾聴

傾聴とは、相手の意見だけでなく、その背景や経験、感情、価値観を理解しようとすることです。「他者に共感する」とは、他者の立場になって考え、理解してみるということであり、共感は「他者の靴を履いてみること」と説明されることもあります。

ここで注意してほしいのが、共感は、相手に賛同することでも、相手に感情移入することでもないということです。意見に対して反応するのではなく、その背景を知り、理解しようとする姿勢が重要です。あくまでも、相手がどう考えているのか、どんな気持ちなのか、それはなぜなのかを、相手の立場になって深く理解することを意味します。

 

④ 学習と変容

傾聴を通じて得た新たな視点を自分のものとすることで、学習と変容が生まれます。学習と変容のプロセスには、まず相手の世界を想像し、次にその世界に共感し、最後に新しい視点を手に入れることが重要です。

対話を通して相手の世界を傾聴できたなら、その学びを自分の世界に取り込みます。対話における学習とは、傾聴を通じて得た情報を自分のものにするプロセスであり、それが変容をもたらします。この学習は、自分の意見を変えることや、相手の意見に賛同することを意味するのではなく、対話を通じて自分に新たな視点を加えることを期待します。

たとえ相手の意見に賛同しなくても、傾聴を行えば、相手がそう考えるに至った経験や大切にしている価値観を知ることができます。これにより、自分の知らない世界を知る機会が生まれます。

対話における学習と変容は、相手の世界を想像し、共感し、新しい視点を得るという3つのステップで進行します。相手のメンタルモデルを理解し、共感し、新たなものの見方を取り入れることで、自分自身も変容していくのです。

 

⑤リアルタイムリフレクション

対話に参加している際に自分に起きていることを俯瞰し、自分の言動と内面をメタ認知することです。 リアルタイムで自分を振り返ることで、対話の質を高めることができます。

私たちは人間ので気をつけていても評価判断をしてしまうことがあります。大切な事はその瞬間に自分が評価判断を行っていることに気づき、自分の中のネガティブな感情を制御し、評価判断のスイッチをオフに切り替えることです。なかなか簡単なことではありませんが、評価判断の保留を習慣付け身に付け、徐々に難易度の高い対話に挑戦していくことが求められます。

 

 

創造的な知識は、一人で生み出すものではなく、個別化されたものでもありません。一人で考えることには限界があります。チームでリフレクションと対話を繰り返すことで、多様な学びを得ながら、新しい価値や解決策を創造できるのではないでしょうか。

 

 

★熊平美香『ダイアローグ 価値を生み出す組織に変わる対話の技術』第1章参考

 

2024年8月4日日曜日

コミュニケーション力とパッション

コーチングの成否を握る重要な要素の一つがコミュニケーション力だと思います。

コーチングの基本的な考え方は、質問型コミュニケーション、すなわち、「聴く」「問いかける」「フィードバックを与える」という3つの基本的行為を使い、相手にとるべき行動を選択してもらうことだと言われています。

そのためには、(1) 答えは本人がもっているという確信をもつこと (2)コーチングの対象の強力な味方になること (3)コーチングの対象が選択して自発的な行動(アクション)を促すことが大切であると言われます。コーチングは、円滑な人間関係づくりと、意欲や新しい発想の引き出しを(コーチングに関わる両者に)可能にするものだと言えそうです。「批判する、責める、文句を言う、ガミガミ言う、脅す、罰する、ほうびで釣る」などの外的コントロールでは得られないものです。

間もなく出版予定の『インストラクショナル・コーチング』では、コミュニケーション力については、一章まるごと割さかれていて、筆者のジム・ナイト氏も、重視していることが分かります。★1  同書では、主に質問と傾聴の二つに分けて、詳しく論じられていますが、これ以外にも、コミュニケーションにとって重要な要素はたくさんあると思います。

その一つが、パッション(情熱)かもしれません。

人を説得し、動かすための3要素として、アリストテレスが、ロゴス(論理、納得感、思想)、エトス(信頼、徳、倫理観)、パトス(熱意、感情移入、共感)があげていることはよく知られています。人を説得するときに、もちろん論理的な説明は必要だし、信頼感も欠かせない、しかし、それらは、一部にしか過ぎない。人の説得においては、パトス、すなわち、感情がとても大きな役割を果たすと考えている人は多い。★3

感情と強く結びついたことは、忘れない。心に刻み込まれる。脳に「溶接される」と表現する人もいるほどです。

皆さんは最近、心が揺すぶられるような経験をしたことがありますか?

YOASOBIというユニットが大変人気です。岸田首相が訪米の際、バイデン大統領の公式晩餐会に招かれたことで多くの人が驚きました。小説をもとに音楽をつくるというコンセプトの、若者たちに圧倒的な支持を受けているユニットです。若いミュージシャンにありがちな奇抜さはなく、ごく普通の真面目な若者が、音楽と真摯に向き合っている姿がとても好感をもて、私は年甲斐もなく大ファンになりました。

この2人が、NHK18祭でやった HEART BEATという曲のパフォーマンスには、心が震えました。これは、YOASOBIの2人が、18歳世代の様々な想いを聞き、インスパイアされて制作した曲「HEART BEAT」。この曲を、1000人の18歳世代の若者たちとYOASOBIが創り出した一回限りの感動のパフォーマンスということです。とにかく、若者たちの表情を確かめながら、曲を楽しんでください。

https://www.youtube.com/watch?v=LX2nTwdOXRE

私が教えている若者たちも、この年代ですが、私は、この若者たちの心を、ここまで震わせることができただろうかと、心の底から自問しました。

できていないと思いました。今は、世界的なミュージシャンとなったYoasobiと同じことができないとは思うけれど、やはり、何か自分に欠けているものを、もう一度探そうするきっかけになりました。

ありがとう。


★1『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化、2024)まもなく発刊予定です。


★2  カーマイン・ガロ[井口耕二訳] (2019) 『伝え方大全』日経BP, p.63. 


★3  「YOASOBI 18祭」

アーティストと1000人の18歳世代が共演する一夜限りのステージ『NHK18祭(フェス)』。さまざまな悩みを抱えた若者が集まり、練習を重ねたパフォーマンスでひとつになる。「初めて全力で自分を表現できた」「涙が止まらなかった」「この体験は一生の宝物」。1000人の歌声とほとばしるエネルギーが心を打つ奇跡のステージの模様を届ける。

2024年7月27日土曜日

サイエンス・リテラシーと私たち

 以前、このブログで「原子力発電とどう向き合うか」というテーマでサイエンス・リテラシーについて考えました。 今回は、わが国の科学・技術をめぐる大きな問題の一つである、リニア新幹線建設に関する問題とサイエンス・リテラシーについて取り上げたいと思います。

JR東海が進めるリニア中央新幹線の開業予定は当初の2027年から、今年3月に「34年以降」にずれ込みました。私が一番問題だと思うのは、南アルプス直下を全長50キロにも及ぶトンネルを通すことです。南アルプスはその成り立ちからして、フィリピン海プレートが大陸側のプレートに潜り込む場所であり地殻変動が今も日々起きている場所です。現に南アルプスのなかのいくつもの山並みは年に4ミリほど隆起を続けています。このような場所で地震が起きないと考えるほうが不思議であり、JR東海は「活断層はできるだけ避けてトンネルを計画し、万一避けられない場合は、最短で通す」と述べています。かつて「日本列島改造論」の考え方に沿って、さまざまなものがつくられましたが、この昔の発想をいまだに引きずっているような気がしてなりません。

サイエンス・リテラシーの観点から言えば、「大地の変化」「地殻変動」「地震予知」「環境保護」などのキーワードが関連してくる問題です。首都直下型地震や駿河トラフ及び南海トラフ地震、そして富士山の噴火とその周辺部で影響のありそうな事象はいくつもあります。また、それらを専門家だけに任せられるのか、市民参加の事業評価は可能なのかなどいくつも検討すべき課題があります。リニアの工事費は結局その一部が税金で賄われることになるわけで、その影響は私たち市民一人ひとりに及んでくることになります。 

 私も翻訳にかかわった本で、『だれもが<科学者>になれる』(新評論・2020)は原著の出版が1999年です。しかし、ここに書かれた理科の授業を超えるような国内の実践には、残念ながらお目にかかったことがありません。まず乗り越えるべき目標がここにあります。

 特に若手の先生方には、これを目標にしてほしいと切に願うばかりです。日ごろは教科書の内容をカバーする授業でも、学期に一つは、『だれもが<科学者>になれる』にあるような探究活動を取り入れたいものです。

 まず、教科書にある実験方法や材料の選択肢を広げてみるなど、少し工夫をしてみるだけでも子どもたちの反応は違ってくるでしょう。「やらされる」のではなく、「自分たちが選ぶ」ことは大切な学びの原則の一つです。また、そのための時間を確保すること。これも大切です。この探究の時間を生み出すために、それほど時間をかけなくてよい項目の時間を削ることで時間のやりくりができるでしょう。教科書会社の作成した指導計画にも余裕の時間がある程度見込まれていますから、それらを合わせて、重点項目に当初の予定よりも時間をかけることができると思います。

 また、学びを教室内だけのものにしてしまうのではなく、保護者や外部の専門家、隣接した学校との協働学習などさまざまなかかわりが考えられます。今はネット環境がありますから、何も実際に来てもらったりするだけでなく、ネットを通した学びが充分に成立するものと思います。学習成果の発表なども同様です。

 こうした試みにより、間違いなく子どもたちのサイエンス・リテラシーが高まることでしょう。そうした基盤ができてこそ、リニアや原子力発電などの巨大科学を専門家任せにすることなく、クリティカルにものごとを判断できる健全な市民社会が形成されるのだと思います。

2024年7月21日日曜日

ぜひ、夏休み中にブッククラブを!

 まずは、下の写真を見てください。

あなたは、何を発見しましたか?

私は、・参加している先生たちの表情のよさ

    ・前向きな姿勢

    ・全員が同じ本を持っていることから、本の内容についての話で盛り上がっていることが伝わってくる

    ・男女(人種も)の構成のよさ

    ・距離の近さ(固いイスではなく、ソファーに座っている)

    ・置いてあるお菓子

です。

上の写真も、下の要約も

https://www.edutopia.org/article/starting-faculty-summer-book-club からです。

 夏休み中のブッククラブは、教師間のコミュニケーションを促進し、授業や学校をよりよくするための専門知識を高め、教師が議論すべき重要な教育上の問題を提起する方法になります。教師は、学期中は孤立し、独自の縦割り組織のなかで生活しています。1冊の本を中心に据えたブッククラブは、教師に安全で楽しい環境で話し合い、さらには議論・討論する機会を提供します。真夏の選択肢として、今から始めても遅くはありません。

最初のステップ

同僚との夏休み中のブッククラブを進める前に、その目的を決めてください。読書クラブの目標は、教員を集めること、士気と仲間意識を高めることでしょうか。これらはすべて、よりテンポの速い、気楽な本、すぐに読めてユーモアのある議論を引き出す本を選ぶのに役立つ貴重な目標です。一方ブッククラブの目的は、スタッフを集めて重要な議論を行うことです。この目的のために、夏休み中のブッククラブは教師の学びと成長の有効な手段になり得ます。

(訳者追記・目標と目的が一緒に書かれているので、分かりましたか? 訳者としては、「何が達成できたら、呼びかける者として満足できるか?」をできるだけ明確にすることが大切ではないかと思います。たとえば、「最低でも、二人か三人★に参加してもらう。4~5冊自分が選んだ本のなかから参加を表明した人たちに一冊に絞り込んでもらい、それを全員が読んできて、楽しく話し合う2時間ぐらいのブッククラブをする。そして願わくは、その本に書いてあったことの一つでも二つでもを9月以降に実践し、それを紹介し合う日取りを設定できるとよい」といった感じでしょうか?

 どこで集まるかは、大事です。「最悪」学校でする場合は、可能な限り、上の写真のような雰囲気になれるところです。(通常職員会議をしているような会場や雰囲気は、よろしくない、ということです!)

 誰が参加するか、誰に声をかけるかも大事なポイントです。上で紹介したように、達成目標が3人なのか、それとももっと多いのか、そして学年レベル、教科レベル、校務分掌レベル、教職員全員レベルなど、どのレベルで考えるかによります。

 ここで言えることは、参加したくない人を無理やり参加させると、その人はブッククラブの間中、負のオーラを発散し続けることになりかねませんので、積極的に参加している人たちへのマイナス効果になってしまうということです。ですから、義務づけた参加は誰にとっても不幸です。

 ベストの方法は、どうしても参加してほしい人2~3人には声をかけて(さらには、日程等をその人たちを優先して決め)、その他の人たちは自由参加にすることでしょうか? そうすれば、あなたが最低限達成したい目標は確実に達成できる一歩を歩めますから。

 そして、負のオーラを発しない(と同時に、ブッククラブの場を独占するようなことがない)ことが確認できるのであれば、管理職の参加もぜひ確保したいものです。管理職の参加は、あくまでも学びの機会であるということと、他の参加者とフラットな関係で話し合える機会と理解して参加してもらうといいでしょう。

ブッククラブのための事前準備

 大切な事前の準備としての選書された本を各自が個別に読むことに関しては、

・当日の1~2時間の本について話し合いに参加できる読み方をしてもらう。そのためには、必然的に、線を引いたり、付箋を貼ったり、メモを取ったりするなどして(方法は自由!)。

・本のなかで自分にとってのハイライト箇所を最低7つは選んでもらう。ハイライトは、特に共鳴した点。逆に、反発を感じた点。すぐにでも実践したいと思ったこと(あるいは、学校/学年/教科で取り組みたいと思ったこと)。誰かと話したい/共有したいと思ったこと。2~3回読んでも、よく分からなかった(のでハッキリさせたい)点などです。

 この準備ができていれば、当日のブッククラブは間違いなく、うまく話し合えます。

 あとは、いつ、どこで、何時に会うのかのアナウンスを確実にすることです。

 可能であれば、数日前には参加人数の把握ができれば、飲み物やお菓子の準備も滞りなくできます!

 夏休みのブッククラブのあと、学期中に参加メンバーを1回以上フォローアップのミーティングを開くとよいでしょう(もし、この案が参加者から出てこなかったら、呼びかけ人であるあなたが、再度の声かけをするということです)。最悪は、ドーナツやコーヒーを飲むためだけにメンバーを招集するのもよいでしょう。管理職にメンバーになってもらっておくことは、このためです。学期が始まってから、その本とその内容について何か考えたことや実践したことがあるか尋ねてみましょう。そうすることで、グループでの話し合いが続きます。

当日以降のフォローアップのもう一つの可能性は、夏休み明けの最初の職員会議で一人以上の参加者にブッククラブについて話してもらうことです。そうすることで、参加できなかった人が次のブッククラブに参加するよう促すことができます。

 夏休み中のブッククラブは、教員間の会話や友情を育む、楽しくて気軽な方法です。同時に、教師が寛容でフレンドリーな雰囲気の中で、自分たちが抱える大きな問題について考え、それに立ち向かえる方法(や行動)についても考えることを可能にしてくれる場です。

ちなみに、これまでにも何度かブッククラブをお勧めしてきました。

https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%96 なにせ、一番いい教師の学びの方法★★ですから!

 

★何よりも大切なことは、目標(「期待値」と言ったほうがいいかも知れません)はかなり低く設定することです。必ず成功するために。最後の方に出てくるように、それを徐々に広げていけばいいわけですから。逆に、校内の全職員を対象にするアプローチは、これまでの経験が示しているように、失敗が必ず約束されています。毎年、講演中心の校内研修をやって、それが終了後に何も生まない/続かないことをすでに繰り返している学校がいかに多いことか(これって、授業で教師が教科書をカバーする授業と同じではありませんか。まったく同じ構造ですから)! 目の前にいる人たちの個々のニーズや状況(や興味関心やこだわり等)を見ずに、「予定調和」的なことをし続けては、誰にとっても何もよくありません。

★★なぜ、そう言い切れるかというと、講演会やワークショップ、研究授業等(これらは、残念ながら「その場限り」が約束されています!)に比べて、こだわり続けることが容易だからです。本があるので、いつでも戻れますし、戻る/読み直すことでさらに理解が深まったり、広がったりもします。さらには、アクションに移せる可能性も増します。それを一人ですることは容易ではありませんが、仲間が数人いるとそのハードルもかなり低くなります。さらには、継続して読む本の輪を広げたり、一緒に読む仲間の輪も。

他には、主流であり続けている教員研修(教師の学びの方法)に比べて、どんないい点があるでしょうか?

2024年7月14日日曜日

ひらめきに至る8つのステップで授業を設計する

子どもたちが多様な意見を出し、新しい考えをひらめくような授業を作りたいと思いませんか? 教師が支持する手順に従って、全員が同じテンポで進む学びは、本当に「学び」と言えるのでしょうか。そんな疑問を持ちながら、ひらめきを生む授業設計を模索していると、興味深い本に出会いました。それが、虫明元著『ひらめき脳』です。



 

この本では、創造性の事例を研究した結果、「8つのステップ」がジグザグに絡み合うことで、ひらめきが生まれることが発見されています。直線的に順番に進むわけではなく、互いに影響し合いながら行き来することで創造性が発揮されるのです。これらのステップは、「体験的ステップ」「認知的ステップ」「対話的ステップ」の3つに分類され、それぞれ以下のように説明されています。

 

体験的ステップ

 

1. 五感で体験する重要性

単なる文字情報だけでなく、実際の現象や状況を身体を通して五感で感じることがひらめきには不可欠です。心から驚くような経験は、従来の固定観念に疑問を投げかけ、新たな視点をもたらします。

 

2. 想像と遊びの役割

遊びは純粋な楽しみのために行う活動であり、想像力や空想を解放し、無意識の領域へ導いてくれます。遊びを通じて、自己の内部に現実世界とは異なる世界を創り出します。現実と空想の世界を行き来することが、ひらめきの触媒となるのです。

 

3. 具体的に表現すること

創造性は単に精神的な活動だけでなく、身体的な表現や感情表現といった特定の環境での活動に関連しています。アイディアやコンセプトを頭の中に抱えているだけではなく、それを具体的な形にすることが重要です。心の内部と外部世界との相互作用によって、真の創造性が発揮されるのです。

 

認知的ステップ

 

4. 疑問や質問

好奇心や発見への希望を持ち、常に良い問題を見つけ、新しいインスピレーションを求める内的な対話を行うことが重要です。

 

5. 深い学び

良い質問は深い学びへと導きます。創造的な生活では、常に学び、実践し、習得し、深い知識を追求することが求められます。事実と誤情報を区別する批判的な思考も必要です。

 

6. 遠隔融合

創造的なマインドは、異なるアイディアや観点を融合させる能力を持ちます。これにより、新たな次元やアプローチが生まれる可能性が広がります。

 

7. 比較と選択

創造的なプロセスには、発散的思考と収束的思考の両方が含まれます。多くのアイディアを広く探求し、多くの選択肢を比較して、制約条件のもとで最適な選択肢を見つけ出します。この発散と収束のサイクルを通じて、アイディアは洗練され、最良の選択肢が見つかります。

 

対話的ステップ

 

8. 対話

創造的な思考は対話に基づいています。他者との対話だけでなく、自分との内的対話も含まれます。他者との対話は新しい視点を提供し、内的対話を豊かにしてくれます。

13の体験的ステップでは、子どもたちの遊ぶ姿を見ると納得できるのではないでしょうか。子どもは遊びのプロですから、どんどん新しいアイディアを生み出し、工夫し、よりエキサイティングにして遊びそのものを創造的な活動にしています。

 

また、この47の認知的ステップは、子どもたちの創造的なアイディアを促進させる授業設計にそのまま活用できるでしょう。そして、令和教育のキーワードであるステップ8の対話を通じて学びを深めていくことで、授業はより創造的になると考えられます。

 

私は、このステップすべてが、算数授業で取り組んでいるワークショップ「数学者の時間」に当てはまるものだと感じました。これまで8つのステップとして意識していたわけではありませんが、「ひらめきに至る8つのステップ」に当てはめてみると、とても納得のいくものでした。実際に数学者の時間で取り組んでいることを、8つの要素に当てはめて書き出してみると以下のようになりました。

 

「ひらめきに至る8つのステップ」から見る、数学者の時間における授業を創造的にする8要素

 

1. 五感で体験する重要性

これは、体験してやってみることです。問題に熱中し、具体物や半具体物を使って学ぶことを指します。五感を使った体験は、子どもたちに新たな視点をもたらし、深い理解を促します。

 

2. 想像と遊びの役割

授業に遊びの要素を取り入れることです。ホイジンガやカイヨワの理論を参考にすると、遊びは自由で自発的、限定された空間と時間で行われる不確実な活動です。特定のルールに従いながらも、現実から離れた架空の世界を創り出すことができます。授業という限られた時間と場とルールの中で、集中して取り組んだり、自分のペースで問題から離れたりする自由を持たせることが、遊びのある授業と考えています。

 

3. 具体的に表現すること

これは、形にしてみることです。数学者ノートに書くことを指し、実際に文字にして自分の思考をモニターします。考えを形にするために問題を作ることも含まれます。具体的な表現は、アイディアを具体化し、他者との共有を可能にします。

4. 疑問や質問

質問することは数学的に思考し、創造的になるために必須です。数学者の時間では、自分や友達、批判的な友達に対して説得できるように質問し、問いを投げかけます。

 

5. 深い学び

じっくりと学ぶために、一つの問題を多様な方法で考えます。概念を身につけるためには、多様なアイディアで学ぶことが重要です。単一の方法だけでは限定された場面でしか活用できません。だからこそ、筆算だけを学ぶのではなく、多様な方法で学ぶことが大切です。

 

6. 遠隔融合

アイディアを掛け合わせることで良い解決方法を生み出します。授業で取り組んできたミニ・レッスンを組み合わせ、問題解決に活用できないかを考えます。

 

7. 比較と選択

発散と収束を繰り返します。数学的思考の本質である特殊化(試すこと)と一般化(パターンを見つけること)を繰り返すのです。数学的思考そのものがひらめくための創造的活動そのものです!

 

8. 対話

他者と対話し、自分と対話します。教室内にはいつでも相談できる環境があり、同時にじっくりと一人で考えられる環境も大切です。

 

みなさんも、ぜひ、ご自分の授業を「ひらめきに至る8つのステップ」に当てはめて振り返ってみてください。すでに取り組んでいることは継続し、足りなかった要素を付け足すことで、授業がよりダイナミックになるはずです。それによって、教科書を越え、学習者がより主体的に学んでいくことができるでしょう。

2024年7月8日月曜日

インストラクショナル・プレイブックの実践を始めませんか

学校教育における「プレイブック」の可能性を論じた記事をPLC便りに書いたのは、二年ほど前です。★1 その記事は、「教育実践に関わる人々の経験と叡智を集めたプレイブック。しかも、検証と更新が止むことなく続けられる。プレイブックの作成と更新そのものが、教師の学びと成長を生むプロセスになっていると言えそうです。」と結んでいます。

当時はまだ学校用プレイブックを具体的に紹介できる手立てがなかったのですが、この度、『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化、2024)が発刊されることが決まったことを受け、多くの皆さんと、学校用プレイブックの可能性を再確認し、学校における実践に向けて、第一歩を踏み出したいと思い、改めて取り上げたいと思います。

同書の最終章(第6章)は、「インストラクショナル・プレイブック」(教員用プレイブック)です。

今、日本の学校は、深刻な危機にあると言っても過言ではありません。そのような現状を救う可能性をもった一つの方法が、インストラクショナル・コーチングです。★2 教員を元気にし、学校を、学び合える、ポジティブな空気の充満したコミュニティーに変えてくれるものだと確信しています。

そして、その中核にあるのが、「インストラクショナル・プレイブック」なのです。同書では、インストラクショナル・プレイブックの必要性について、次のように述べています。

「世界中の教室の本棚には、教員研修/ワークショップの後に開かれることがない本がたくさん飾ってあります。インストラクショナル・プレイブックはその状況を変えるためにデザインされたものです。研究されたことを棚から取り出し、教室での実践に移すことによって、コーチと教師をエンパワーするものです。」


効果的な教え方、それも、研究の裏付けるのある教え方を、教員が教室で実践できるようにするためのツールが、インストラクショナル・プレイブックなのです。

「インストラクショナル・プレイブックが重要な理由は、本を読んだり、教員研修に参加したりした後でも、教師が教え方を効果的に実践するための具体的な情報をもてていなかったことにあります。ほかのすべてのプロの仕事と同じように、教師が紹介されたアイディアを実践することが期待されているなら、アイディアは具体的で、行動に移せる知識に変換されている必要があります。」

さあ、一緒にインストラクショナル・プレイブックについて、学び始めませんか?そして、日本版インストラクショナル・プレイブックを創りましょう。

新しい一歩を踏み出したいと思われた方は、ぜひご連絡ください。pro.workshop@gmail.com



★1 学校版「プレイブック」の可能性を考える PLC便り 2022年5月15日  

https://projectbetterschool.blogspot.com/2022/05/blog-post_15.html

★2 インストラクショナル・コーチングの時代がくる PLC便り 2022年4月7日  https://projectbetterschool.blogspot.com/2024/04/blog-post.html