2016年6月26日日曜日

アクティブ・ラーニングの続き


先週のテーマは「アクティブ・ラーニング」でした。

パートナーから「アクティブ・ラーニングの度合い」を測る目安として13項目の質問が提示されました。その部分を引用します。

 
あなたの授業のアクティブ・ラーニング度=生徒の主役の学び度は、次のような質問に答えることで明らかにすることができます。対象が、小学1年生であっても大学生であっても(さらに言えば、幼稚園児でも教師を含めた社会人であっても)。
   
・クラスの生徒たちは、敬意をもって接せられ、大事にされていると感じ、クラスの一員という感覚をどの程度もっているか?

~ 以下12項目が続く

 
    この13項目を読んで、みなさんはどのような感想を持たれたでしょうか。

私は子供自身が学級の運営や授業に関与できる部分を可能な限り広げていくこと、それこそがまさにアクティブ・ラーニングの大前提であるということです。それによって、学級への帰属意識や授業に対するオーナーシップが生まれてくるわけです。

この前提が理解されていないと、アクティブ・ラーニングは子供たちが活動できる手法だけを授業に持ち込めばよいという形式主義に陥る危険性が大いにあります。

かつて、わが国での「総合的な学習の時間」の導入時に同じような過ちが散見されたではありませんか。スキルを身につけさせればよいのだと言わんばかりに、架空の設定で手紙を書いたり、話し合いをする事例もありました。そうではなくて、現実の身近な問題を取り上げて、それを子供たちが自分の力で解決していくなかで、結果としていろいろなスキルが身についていくというのが正しいやり方だったのです。

手法だけに焦点を当てすぎると、このような間違いをしてしまうわけです。

今回はぜひ総合導入時での失敗を教訓に、アクティブ・ラーニングの本質を理解した上で、実践に取り掛かりたいものだとつくづく思います。どうもこの国の教育実践は振り子が極端に振れすぎるきらいがあります。

「流行」に流されすぎず、「本質」のところをしっかりと見つめたいものです。欧米には、すでにこのことについての、実績のある理論と実践があります。

このブログで紹介している文献を手掛かりに、ぜひこれからもみなさんとともに、考えていきたいと思います。

2016年6月19日日曜日

アクティブ・ラーニング=生徒中心の授業 ?


 教育の世界では、「子ども中心の学び」「子どもたちが主役の学び」は長年言われてきています。デューイ、モンテッソーリ、シュタイナーをはじめ、多くの理論や実践がすでに長年存在しています。
 21世紀の教育を考えたら、それを本当に実現しないとおかしいと言わざるを得ません。すでにそれが言われだしてから、百年以上が経つのですから。
 遅ればせながら、日本でも「アクティブ・ラーニング」が2~3年前から急に言われ始めました。これからは、それが主流だと。
 でも、要するには、「子ども中心の学び」「子どもたちが主役の学び」をカタカナで言い換えただけですね?

 あなたの授業のアクティブ・ラーニング度=生徒の主役の学び度は、次のような質問に答えることで明らかにすることができます。対象が、小学1年生であっても大学生であっても(さらに言えば、幼稚園児でも教師を含めた社会人であっても)。

     クラスの生徒たちは、敬意をもって接せられ、大事にされていると感じ、クラスの一員という感覚をどの程度もっているか?
     生徒たちは自分たちのクラスをどれだけ自分たちのものと思っているか? 時間や環境や教材の使い方について、どれだけ意思決定にかかわっているか?
     生徒たちは自分たちのオウナーシップをもっているか?(それとも、教師や教科書にお付き合いしていると思っているか?) 学ぶ際の形態(一人、ペア、グループ)や、プロジェクトや課題を決定する際にどれだけの選択肢が提供されているか?
     授業は教師の発問★が多いのか、それとも生徒たちが考えた質問が中心に授業が運営されているか?
     生徒たちは、自分自身や自分の考えを表現することを安心して、しかも積極的に行えているか? それとも、自分の本音や本心は教室では隠した方がいいと思っているか?
     あなた(教師)は、どれくらいの頻度で生徒たちのニーズや要求を尋ねているか? → 生徒たちの声(考えや主張)は学級運営や授業内容・方法にどれだけ反映されているか?
     あなたは、どれくらいの頻度で生徒たちの理解度を測り、その結果を教え方の修正や改善にいかしているか?★★
     あなたは、具体的に生徒を見取ったり、理解する方法をどれだけ持ち合わせているか?
     あなたの教室の座席はどのようにアレンジされているか?
     座席を含めて教室の環境づくりに、どれだけ生徒たちがかかわっているか?
     生徒たちは、クラスメイトと(それも多様なクラスメイトと)頻繁に話し合ったり、考えを付き合わせる機会が提供されているか?
     授業で教師が話をしている時間は何割ぐらいか? それに対して、生徒たちが真剣に、互いに敬意をもって接しながら話し合っている時間は何割ぐらいか? ~ あなたは、どれくらいの割合がアクティブ・ラーニング=生徒たちが主役の学びにはいいと思いますか?
     一斉指導からファシリテーションを基調にした教え方(=生徒たちたちが主役になる学び方)に移行するために、どんなことをすでにしていますか? これからどんなことが可能だと思いますか?

◆ 他に、質問項目で加えたいものが思い浮かびますか?★★★

 アクティブ・ラーニング=生徒たちが主役の学びを実践する際に、最後のポイント(つまり、一斉指導とファシリテーション)は避けて通れません。しかし、100%の一斉指導から100%のファシリテーションが求められているわけでもありません。バランスが何よりも大切です。対象や教える内容等によって、そのバランスは異なります。
 常に、教師が語って聞かせたり、説明したりすることは求められる一方で、生徒たちに発見させたり、体験したり、練習したり、考えを共有しあったりすることも求められています。

 ちなみに私も、ライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップに出会う15年ぐらい前までは、教師の選択肢は一斉指導かファシリテーションだけだと思っていました。でも、3番目の(かつ、おそらくもっとも効果的な?)方法があったのです。それは、コーチング=カンファランスです。★★★★

  それについては、すでに『効果10倍の教える技術』の58ページ(表3を参照。より詳しくは、『理解をもたらすカリキュラム設計』)で紹介していました。

当時はまだ、そのパワーをはっきりとは認識できていなかったので、2つの間に申し訳程度に位置づけていただけですが、それからしばらくしてから日本でのライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップの実践を通して、しっかり認識することができました。いまなら、間違いなくもっとスペースを確保して、はるかに充実した内容を盛り込みます。

この最も効果的な教え方・学び方に興味のある方は、
を参照してください。



★ 発問は、すでに答えが分かっている場合にするもの。教師がその発問をすることを止め、生徒たちに価値ある質問を出してもらい、それを中心に据えて授業を展開する方法に関心のある方は、『たった一つを変えるだけ』を参照してください。
★★ このことや、下の見取りや理解の具体的な方法に興味のある方は、『テストだけでは測れない!』をご覧ください。
★★★ ここ3年ぐらいの間に出たアクティブ・ラーニング関連の本で、こうした大切な問いが提示されている本はありましたか? ご存知の方は、ぜひ教えてください。
★★★★ そういえば、ファシリテーションにしても、コーチングにしても、カンファランスにしても、全部カタカナです。つまりは、日本で生まれたものでも、やられていたものでもないことを意味します。まだ日本語になっていないというか、カタカナ自体で理解されるようになりつつあります。教師による一斉指導だけでは効果的ではないという認識が広まってきているので(?)。なんといっても、「聞いたことは、忘れる」ですから。


2016年6月12日日曜日

21世紀の教育で大切な「創造力」


教師のほとんどは、20世紀に教育を受けてきた人たちです。その中に、「創造力」という概念は含まれていませんでした。(20代の先生たちは、21世紀の最初の十年の教育を受けていますが、残念ながらいまだに教育は20世紀、いやひょっとしたら19世紀の教育を引きずったままです。それは、正解主義や権威主義に代表されるものです。★)
それらに対して、21世紀の教育の柱(キーワード)の一つとしてあげられているのが「創造力」です。
 このことは、『たった一つを変えるだけ』の訳者まえがき(特に、vページやviiページ)で紹介しましたし、このプログでも繰り返し紹介してきました

 いま訳している本★★の中にも創造力が当たり前のように登場します。

 しかし、創造力を言葉として知っていることと、それを子どもたちが身につけられるレベルで理解し、かつ授業で実践できることとはまったく別物です。(このことも含めて、『たった一つを変えるだけ』や『算数・数学はアートだ!』は訳しました!)

 私たちは、創造力を言葉として認識できるだけでは、何の意味もなく、具体的に子どもたちが身につけられるレベルで理解し、かつ日々の実践に結び付けていく必要があります。なので、さらに創造力関連の本や資料を読み漁り始めました。

 最初に見つけたものの一つが、上記の『たった一つを変えるだけ』の29ページで紹介しているSuccessful Intelligenceでした。この本を潮出版は『知能革命』と訳して(違和感をもってしまうタイトル!)、すでに1998年に出版されていました。著者のロバート・スタンバーグは、人が成功するために必要な能力を分析力、創造力、実践力の3つであるとして詳しく紹介してくれています。簡単に言うと、分析力は問題解決に、創造力は解決すべき問題の決定に、実践力は効果的に解決を導き出すのに用いられる」(194ページ)としています。

 この本の中で、創造力について紹介に値すると思ったのは、次の2つのリストです。

一つひとつの項目を、ぜひじっくり味わってください。金曜日の「RW&WW便り」にも書いたように、大切なことは教師があるべき姿をモデルとして示し続けることこそが最大の教育的効果を生みます。(モデルを示さずに、ただ言うだけだったりしたら、何もしない方がいいかもしれません。)次に大切なのは、こういう特質を使わざるを得ない授業を組み立てることです。★★★それは、教科書をカバーする授業でないことは確かです。


●あなたは、これらの中でどれが特に大切だと思いましたか? ~ どちらもすべてなのですが・・・、私が特に大切だと思うのは、「創造的な人の特質」では、1と2と6です。「自分を活性させる20箇条」では、15~20です。
●これまでの管理職や先輩で、これらの多くをモデルで示してくれていた人を思いだせますか?
●あなたは、これらの中のどれは、すでにやれていますか?
●今後数か月取り組んでみたいのはどれですか? 一つか、二つを選んで(「16.選択ができる ~ 一度に、あまりにも多くに手を広げることもなく、あまりにも少しのことしか手がけないこともない」を参考にして)、ぜひ身についていないものを補い続けてください! ~ 私は、「創造的な人の特質」の3番目から取り組みます。


★ あとで紹介する『知能革命』の196ページには、「学校というものは、のちの人生で重きをなさない能力を評価するきらいがある。その結果、生徒の目標を追求する気持ちを失わせてしまう」と書かれています。私たちは、学校という場で何をしているのかにもっと気をつける必要があり、そして改める必要もあります。
★★ 一人ひとり能力も、興味関心も、学習履歴も異なる子どもたちをいったいどう教えたらいいのか、という本です。
★★★ 具体的には、たとえばこんな形で、です。



2016年6月5日日曜日

子どもたちが意欲的に取り組む理科学習の例

 20128月に文部科学省から出された『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)』の中で、アクティブ・ラーニング(以下、AL)が取り上げられて以来、小学校・中学校・高等学校の授業・学習について語られるとき、ALという言葉が頻繁に使われるようになっています。書店にもALという言葉が付いた本が多く並ぶようになりました。しかし、ALの具体的な中身については、はっきりとしていません。
 そこで、今回は、理科におけるALの具体的な実践例を紹介します。この実践は、「自ら学ぶ意欲を育てるための理科学習」として、かつて私が中学校で子どもたちと一緒に取り組んだ『発展研究』(単元末に行う課題設定学習・課題選択学習)と名付けたものです。 

学習活動に対する子どもたちの自己評価と疑問・さらに調べたいこと

私は、理科の授業において、単元のそれぞれの観察・実験ごとに、子どもたち一人一人が、次の5つの観点で、自分自身やペア・グループでの仲間との学習活動について自己評価を行い、「自己評価票」 別添図1)に記録することを通して、自分たちの学習活動の改善に向けて意識するようにしました。

習内容について

観察・実験に対する自分自身の取組・活動について

データ処理について

観察・実験を通して生まれた「新たな疑問()」

観察・実験を通して生まれた「さらに調べたいこと(調)」

 ある時期以後は、観察・実験ごとに、子ども一人一人がノートにレポート作成を行い、観察・実験を含めた理科学習を通して生まれてきた、学習内容に対する子ども自身の「疑問に思ったこと()」と「さらに調べたいこと(調)」を自分自身のノート・レポートに書いてもらうようにしました。

例えば、植物の気孔の観察は、ムラサキツユクサで行うことが一般的ですが、私が担当してきた理科の授業では、1年間に及ぶ「マイ・トゥリー(ぼくの木、わたしの木)」の継続観察をしていたので、季節ごとに観察している「マイ・トゥリーの葉の気孔は、どうなっているのだろう?」という疑問をもつ子どもが必ず何人もいました。

また、液体の沸点の違いを利用した物質の分離・蒸留の実験では、水とエタノールの混合液やみりんを扱うことが多かったのですが、ここでは、子どもたちから「ワインやウィスキーでは、どうなるんだろう?」といった疑問が出てきます。 

課題設定学習のプロセス

【課題設定】このように単元の学習を通して生まれてきた・湧きあがってきた「新たな疑問」や「さらに調べたいこと」を、自分自身の学習課題とします。

【観察・実験計画の作成】その課題解決に向けて観察・実験方法を考えます。

【学習の見通しと安全面の確認】課題解決の見通し・可能性と安全面のチェックを教師と共に行います。

【観察・実験】および【記録】自分たちのペースで観察・実験を遂行しながら、対象とする物質や生物の様子や変化・結果を記録します。予想や仮説と異なる結果が出ても、その結果が本当に正しいのかどうかを確かめるために、与えられた時間の範囲で繰り返し観察・実験を行うことができます。

【考察・討論】観察・実験の結果から「わかったこと・考えられること」、「疑問に思ったこと」、「さらに調べたいこと」について、一人一人が理科の学習者・科学者・研究者としての自覚と責任をもってまとめます。

【レポート・プレゼン資料の作成】考察・討論した内容について、ペアやグループで話し合いながら吟味・検討をします。さらに、レポートの作成と報告会でのプレゼンテーション資料の作成を行うのです。

【研究発表】最後に、自分たちが探求したことについて、プレゼン資料に基づいて、探求課題・研究テーマや探求のプロセスと結果について発表を行うとともに、仲間や教師から研究発表についてのフィードバック(意見や感想、評価)をもらうのです。

 このような一連の学習プロセスが、単元末に『発展研究』として行う「課題設定学習」の流れです。基本的には、「課題研究」や「自由研究」と同じ学習プロセスです。 

課題選択学習のプロセス

しかし、子どもたちの中には、理科に対する興味・関心がそれほど高くない子どももいます。「自分なりの疑問」や「もっと調べたいこと」を自己評価票や自分のノート・レポートに書けない場合もあります。そのような子どもたちに対しては、その単元の学習で身につけた知識や技能を活用し、仲間と協力・協同すれば解決できる10個程の学習課題群(単元の学習において一度行ったことのある復習課題・観察・実験も3つほど含む)を準備しておき提示するのです。

子どもたちは、それらの学習課題群の中から自分自身が興味をもった学習課題を選択し、先に述べた「課題設定学習」と同じプロセスで、科学者・研究者として、理科の学習に主体的にかつ能動的に、しかもペアやグループで仲間と協同して取り組むことができるのです。 

今回紹介した『発展研究』(単元の学習終了後に行う「課題設定学習」と「課題選択学習」)には、これまでPLC便りで取り上げられてきた「学びの原則」や「ライティング・ワークショップ(WW)が成功する要因」との共通点が多くあるのです。

[参考]
櫻井茂男(2009)「自ら学ぶ意欲のプロセスモデル」『自ら学ぶ意欲の心理学』pp.21-36有斐閣