2021年10月30日土曜日

大学の地域連携・地域貢献

 

先日、日本経済新聞を読んでいたら、大学と自治体の間で「包括連携協定」を結ぶ事例が増えているという記事がありました。そこで、ネット検索をしてみると、次のような項目が検索上位にありました。

【横浜国立大学・地域連携推進機構】「企業や自治体との包括連携協定について」 

包括連携協定は、地域が抱える社会課題に対して、私たち教育研究機関と自治体や民間企業がそれぞれの強みを活かし、協力し合うことで課題解決に向き合うための枠組みです。人的・知的資源の交流と活用を図り、多様な要請に応えながら大学の知の向上をめざしています。それぞれ地域にとっての適切な役割を模索しながら、真剣に課題に向き合っています。 

 大学も少子化の中で生き残るためにいろいろ大変です。かつての「象牙の塔」などと言われた時代が懐かしくもなります。「横浜国立大学」の連携事例が紹介されていました。

★南足柄市と横浜国立大学の連携事例(横浜国立大学ホームページより)

フィールドワークをビジネスプランにつなげる

その連携協定の事業の一つが集中講義「実践地域と起業」です。この講義では学生が2泊3日間南足柄市に滞在し、講義やグループワークを通して、同市の課題の解決や魅力の発信を起業(ビジネスプラン)という形で提案するものです。参加した学生は18名。留学生2名、地元出身者1名を含む、幅広い学年・学部の学生が集まりました。

1日目。学生たちは市役所で講義を受けた後、大雄山駅前において2時間ほどフィールドワークを行いました。駅前の雰囲気を肌で感じた後、バスに乗り込み、主要な企業の工場や物産館、事業所、観光スポットなどを見学。宿泊先の最乗寺では、夜と翌朝4時半から1時間ずつ座禅を行いました。学生には大変興味深い体験となったのではないでしょうか。

これは、小・中・高校の総合的な学習の時間にも当てはまることです。学習内容に関連する様々な資料(図書資料、写真、動画など)や場合によっては専門家の話を聞いたり、モノづくり活動を行ったりすることもあるでしょう。また、必要なら校外に出かけていき、フィールドワークを行うなど、立体的な授業を構成することが可能です。

また、日本経済新聞1020日付では、「地域貢献 地方国立大が躍進」の記事が掲載されていました。これは同新聞社が全国の761国公私立大学を対象に「地域貢献度」調査を実施した結果に基づいたものです。「地域経済分析システムを講義で活用」「大学発ベンチャーを支援する制度・取組」などの評価項目に基づいて点数化したようです。

1位が名古屋市立大で、同大学の郡健二郎学長は「公立大学ゆえ、名古屋市民に認められないと、大学として存在していく意味はない」と言い切っているようです。

「開かれた学校づくり」は小・中・高校でしばらく前から盛んに言われてきましたが、大学においても地域に開くことが当たり前になりつつあるようです。「学びの原則」の一つである「協働する学び」の視点からも、ますます教室の外との連携・協力の機会は増えていくものと思います。 

1029日付の日本経済新聞1面には、連載記事「教育岩盤」において、「新陳代謝へ脱・前例主義」と大きな見出しがありました。この記事のサブタイトルにある「変化を嫌う」はまさにこの数十年間、わが国の教育現場を覆ってきた空気です。

「脱・前例主義」で豊かな発想で、大胆に切り込んでいく実践が増えることを期待します。

2021年10月24日日曜日

新刊案内『学習会話を育む』

本には掲載しなかった、「訳者まえがき」の下書きをこの本の紹介として使います。執筆したのは、訳者の一人である竜田徹です。(「生徒」は、小学生、中学生、高校生すべてを含むものとしてお読みください。また、一部は、その後に書かれた「訳者あとがき」で使われました。)


■グループワークやペアワークを高めるために

 本書を読まれるにあたって、訳者の一人としてはじめに三つのことをお伝えします。

第一に、本書の内容は日本の教育現場で行われているグループワークやペアワークを高めることに確実に貢献するだろうということです。小学校・中学校・高等学校等どの校種にも、どの教科の話し合いにも役立てることができる内容です。授業に会話を取り入れるいろいろな方法についても、生徒の実際の会話の記録とともに具体的に紹介されていますので、自分の教室ですぐに実践してみたくなるでしょう。

授業の中で、ペアでの伝え合いや、グループワーク、クラス全体の話し合いや討論に取り組んでいる教師も多いと思いますが、そのときの生徒の様子をちょっと思い出してみてください。次のように感じたことはないでしょうか。

・進め方の「型」や話し方の「型」に捕らわれすぎた結果、生き生きと話せていないように感じられる。言語活動の「型」はどう使えばいいのだろうか?

・活発に話し合っているように見えて、実際には本題から離れた「おしゃべり」になっていることが多い。もっと学習目標に焦点化して話し合えるようにしたい。そして、話し合いを、学習内容の理解や自分の考えを深めることに役立てたい。

・ある論題の賛否をめぐって討論をしたとき、最初の自分の立場に固執してしまい、テーマそのものへの理解を深めるという本来の学習目標を達成できないことがあった。授業の中で討論を行うときのポイントは何か?

・一つ一つの発言が短すぎる。一言だけで済ませようとしている。教師から促されなくても、自ら理由や事例をつけて長く発言してほしい。自分の考えを他の人に伝える際に、自分の言葉を自分で工夫できるようになってほしい。

・ジグソー学習やディベートなどさまざまな言語活動に取り組んできたが、同じ活動ばかりでマンネリ化している。もっと言語活動のレパートリーを広げたい。

・ペアワークやグループ活動の評価がむずかしい。話し合いの何をどのように評価したらよいのか? これまで自己評価やルーブリックなどを活用してきたが、あまりうまくいかなかった。話し合いの学習効果を適切に見取るための方法を知りたい。

・そもそも、どうして授業でペアでの伝え合いや3~4人グループでのやりとりを取り入れる必要があるのか? 話し合いを取り入れることにはどんな効果があるのか? 授業の中に話し合いを取り入れる意義や理由を明確にしたい。

・「言語活動の充実」や「話し合いの工夫」をテーマとして校内研究を行いたいが、教科や学年の垣根を越えて取り組むにはどのようにすればよいかわからない。話し合いを取り入れた授業改善の意義と方法を校内で共有したい。

本書を読めば、これらの疑問や問題に対し、読者一人ひとりがより新しく明確な考えをつくり上げることができるでしょう。


■「学習会話」とは何か? どんな力が必要か?

二番目のポイントは、本書のテーマである「学習会話」とは何かということです。「学習会話」はAcademic Conversations の訳語です。やや硬いニュアンスのある「アカデミック」と、日常的なニュアンスのある「会話」とが組み合わされた言葉です。本書では「学習場面に適した会話」という意味で用いられます。決してお堅い学術用語ではありません。

「学習会話」は、あまり耳なじみのない言葉かもしれませんが、この言葉が日本の学校教育に示唆するものは小さくありません。例えば、日本の授業の場合、「話し合いを始めましょう」と言うことはあっても、「会話を始めましょう」と言うことはあまりないでしょう。しかし考えてみれば、話し合い活動を成り立たせるためには、大前提として、一対一のやりとりを適切に積み上げることが必要です。つまり、生徒同士が自分たちの力で会話を適切に続けることによって、効果的な話し合いは成立するのです。「話し合い活動がうまくいっているかどうか」を捉えることもたしかに大切かもしれませんが、それより教師にとってもっと大切なのは、「生徒一人ひとりがうまく会話をしているか」を捉えることなのです。

この「学習会話」について著者は次のように主張します。

一年間をかけて、教師に頼らなくても自分の会話をコントロールできるようにするということに重点を置きましょう。また、考えを明確にすること・支えること・評価することは、双方向のスキルであることに気づかせましょう。つまり生徒は、いつ、どのような形でパートナーにこれらのことを促すかを理解する必要がありますし、同時にパートナーから促された場合の対応の仕方も理解しておく必要があります。(p.257

 つまり、生徒たちが学習場面に適した会話の力を身につけること、話し手としても聞き手としても自分の会話のあり方を自覚的に高めていくことが目標とされているのです。このような生徒が育てば、アクティブ・ラーニングなどの対話的・創造的な学びの効果が高まることは間違いないといってよいでしょう。中心的な学習会話の力として本書で提案されるのは、具体的には次の五つのスキルです。

①考えをつくり上げるスキル。②~⑤を包括するスキル。考えをつくり上げるという目的やそのプロセスの全体像を見通す。

②最初の考えを出すスキル。考えをつくり上げていくためのたたき台となる考えを出す。これがなければ学習会話は始まらない。

③考えを明確にするスキル。質問したり言い換えたりすることで、会話する人同士がその考えの意味を共有する。

④根拠を用いて考えを支えるスキル。適切な根拠、事例、理由づけなどを用いて自分の考えの説得力を高める。

⑤つくり上げた考えを評価するスキル。討論などで、複数の考えを判断基準に照らして比較し、価値づけ、一つを選び出す。

 これを図で表すと、図1-2になります。


本編では、各スキルの内容や指導法、生徒同士の会話のサンプルなどが詳しく紹介されており、「学習会話」を育てる指導を考えるうえで大いに役立つことでしょう。


■考えをつくり上げるための有効な方法

最後に、スキル①の「考えをつくり上げる」について簡単に触れておきます。「考えをつくり上げる」は、Building up ideasの訳語です。当初、ideaにはそのまま「アイディア」という訳語をあてていましたが、日本語の場合、「アイディア」には初期の一時的なもの、思いつきというニュアンスをもつことがあります。それに対し、本書のideaは、会話を通して練り上げていくもの、プロセスを含むものとして提案されています。そこで、本書では「考え」と訳すことにしました。

「考え」には、個人的な意見だけでなく、各教科が育成する概念的理解、複雑な問題に対処する方法、出来事や作品の解釈、解決策なども含まれます。このことは、「学習会話」が、国語科のみならず、各教科における思考力・判断力・表現力の育成に役立つということを示しています。

著者は、「会話は、ただ役に立つだけでなく、学習に不可欠なものです」と述べています。日本の学習指導要領でも、学習内容の深い理解に至るためには対話的な学びを取り入れることが重要だと書いていますが、「学習会話」はその有効な方法の一つとなるにちがいありません。

学習会話は各教科の学習でどのように使えるのか、学習会話の中で生徒たちはどんな考えをつくり上げていくのかを分かりやすくするために、本書の特設サイト(https://sites.google.com/view/academicconversations/)には、本書で紹介されている学習会話のアクティビティーをまとめた索引をつけました。そこでは、本書には掲載されなかったアクティビティーを読むことができます。また、本書で多数紹介されている「問いかけ」も索引化しています。これらは、授業で学習会話を計画するときの参考資料としても活用していただければ幸いです。


■本書の提案の新しさ

授業中の話し合いを向上させる鍵は、生徒一人ひとりがもつ「会話スキル」にあると捉えた点に、本書の提案の新しさがあるといえるでしょう。会話にアプローチすることが、話し合いの学習効果を高めることにつながるのです。それが「学習会話を育む」という発想です。話し合い指導の工夫はこれまでも数多く積み重ねられてきました。しかし、話し合い学習を充実させるために生徒一人ひとりが身につけなければいけない力は何か、また、グループやペアでのやりとりを高めていくために教師がすべきことは何かという点については課題も多く、ノウハウが十分に共有されていない状況です。それらの問いに対して、本書が示す「学習会話を育む」という発想は、シンプルで明確な方向性を示すものだといえます。


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2021年10月17日日曜日

ピアノの演奏についての本が、教え方・学び方に参考になる!

 京田辺シュタイナー学校で国語を教えている吉川岳彦さんが紹介してくれた本です。

『ミスタッチを恐れるな 伸び悩みの壁を越え、演奏に生命力を取り戻す』

(ウィリアム・ウェストニー著 西田美緒子訳 ヤマハミュージックメディア)

 コントロールできるという自意識過剰な錯覚を捨てることで、もっと深い、もっと穏やかな種類のコントロールを手にする、そうすればより深く学習できるようになる。72ページ)

 私がこの本に出会ったのは、42歳で妻と娘とともにドイツに渡り、現地の大学院の試験に備えていたときだった。主専攻はシュタイナー教育のクラス担任コースであったが、修士課程ではこのほかに、副専攻を一つ必ず取らなければならない。私が選んだのは“Musik“すなわち「音楽」だった。

 副専攻の実技試験では歌とピアノ、そしてピアノ以外の楽器の演奏が課される。吹奏楽部での音楽経験はあった。しかし、ピアノは弾いたことがなかった。

 さて、渡独したのが5月、試験は6月末である。ピアノの練習はした。しかし、家探し、語学学校での勉強、娘の幼稚園の手続き、ヴィザの申請、日々の生活など、当時、たどたどしい日常会話程度のドイツ語力で悪戦苦闘する中での練習である。そもそも練習するピアノもなかった。使っていたのは36ユーロで買った「カシオトーン」である。

 結局、試験は練習不足と「落ちると後がない」というプレッシャーから、惨憺たる結果であった。不合格である。どこかで「副専攻だし、日本での教員経験を考えて、何とか採ってもらえるだろう」という甘えた考えがあったのだと思う。落ちこんでいたが、9月に再募集があるというメールが大学事務局から届いた。

 再試験のため、私は中古の電子ピアノを手にいれた。そして、ピアノの練習法について書かれた本をAmazonのサイトで探していて、この『ミスタッチを恐れるな』を見つけたのだ。

 この時期に買った本では、『音楽家のためのアレクサンダー・テクニーク』(ペドロ アルカンタラ著、小野ひとみ、今田 匡彦訳・春秋社)、『音楽のためのドイツ語事典』(市川 克明著・オンキョウパブリッシュ)がとても役に立った。

 また、大江千里の『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』(Kindle版)は何度も読んだ。大江千里さんは、もちろんプロだ。しかし、日本での成功を捨てて、ジャズ・ピアニストとして再出発することを47歳で決断した。それもジャズの本場アメリカ・ニューヨークで。目指す所は違うが、今までの教え方を捨てて、シュタイナー教育をドイツで学ぼうとしている自分に重ねて読んだ。

 ピアノの話に戻ろう。

 練習を始めたときは、「間違った鍵盤を弾いてはいけない」という意識が強かった。だから、いつも指をコントロールしようとしていた。当然、力んだ指はこわばり、肩はがちがちに固定されてしまっていた。身体を固めながら、同時に動かそうとするのだから、とにかく疲れるし、ぎこちない動きになる。それでも、極端にゆっくりの速度から、何度も練習を繰り返すことで、それなりに指は動くようになってきていた。日本から『ミスタッチを恐れるな』が着いたのは、それくらいの時期のことだ。

 第一にミスタッチをする。第二に「しまった!」とか、いろいろな声を出す。第三に正しい音を慎重に弾きなおす。この三つを大急ぎですませる。問題の音符がとくにややこしければ、同じことを何度も繰り返す。

 何かが修正されているだろうか? 何も。(104ページ)

 笑ってしまった。私自身、その通りのことをやっていたからだ。今、手元にあるこの本は、ほぼ半分近くのページの端が折ってあり、鉛筆で引いた線とコメントが多く書き込まれている。その中から、もう一つ紹介したい。

 理想とされる自然な方法は、ただ自分を信頼し、エネルギーの自由の流れにまかせて演奏することだ。懸命になって、音の位置をひとつずつ見つける必要はない。体にはもう、音の個々の位置と空間的な関係を独自の身体的方法によって結びつけるチャンスをたっぷり与えてきたからだ。(106ページ)

 そして、「独自の身体的方法」を見つけるための方法が「ミスタッチ」なのだ、と著者は言う。「ミス」を単なる「ミス」としてではなく、「なぜ、こういう動きになるのか?」など、興味と好奇心を持って、それを見ることが大切だ。そうすることで、「ミス」は探求の対象になるのだ、と。

 楽器の演奏に限らず、これは何かを身につける時の基本ではないだろうか? 赤ん坊が立ち上がって歩こうとするときのように。人は「間違うこと」で、自分自身も含めた「世界」を探る。そして、より深く「世界」を識り、利用することができるようになる。「ミス」を恐れて行為しないこと、行為を既知の範囲にコントロールしようとすることは、自らの可能性を閉ざすことだ。

 さて、電子ピアノの良いところは、ヘッドフォンをしてしまえば、いくら「ミス」をしても外には聞えないということだ。私は、安心して、何度も「ミス」をすることができた。実に楽しかった。音を外したって気にならなかった、むしろ、そうやって音楽に身を任せようとすることで、バッハの美しさが素人のピアノ演奏にもかかわらず、自分自身に深く、深くしみこんでくるようだった。私は、長く吹奏楽部でトロンボーンを吹いていた。しかし、これほど演奏すること、音楽そのものの楽しさを感じたことはなかった。

 9月の再試験。今回の受験者は5人。私は2番目に演奏した。もちろん緊張したが、今回は自分が緊張しているということを認識できた。

 左手3の指、最初の音はド。親指が三度でミを重ねる。右手が16分音符の上行形を二度繰り返し、曲は動き出す。私はひたすらピアノの響きを聴き続けた。

 試験後、面接官がホールから出てきた。そして、私の前に来ると、 “Wir respektieren Ihre fleißige Übungen. (我々はあなたの熱心な練習に敬意を表します)と言って、にっこり笑った。

 様々なことがあった3年間の留学後、今、私は京都でシュタイナー教師として教えている。そして、生徒たちにも「ミスタッチ」が存分にできる場を作ろうと、実践を重ねている。『ミスタッチを恐れるな』は、ピアノや楽器の演奏のコツに留まらない。教わる人、教える人、すべてにとって、大切なことが書かれている本だ。



2021年10月10日日曜日

イノベーター・マインドセットに必要な8つの特徴

オンライン授業の甲斐あってか、感染者が減少し緊急事態宣言も明けてようやく学校も落ち着いてきた頃ではないでしょうか。11台のICT端末が配られることによって革新的なことができた学校がある一方、何もこれまでと変われなかった学校もありました。私たち教師は子どもたちに求めている創造的な学び以上に、教師自身が創造的にならなくては、何も変えられない実態が浮かび上がっています。

 



ジョージ・クロース著 白鳥信義・吉田新一郎訳『教育のプロがすすめるイノベーション 学校の学びが変わる』では、イノベーターのマインドセット(心の持ち方、考え方)は、能力、知性、才能が開発され、それが新しくてより良いアイデアの創造につながる思考様式とし、このイノベーターのマインドセットが教育に関わる全ての人にとって必要であるといいます。イノベーターのマインドセットにおける8つの特徴★が、ご自分がどのように実践しているのか、取り入れられそうか、振り返ってみてください。

 




    共感的

自分自身がこのクラスの生徒になりたいか?

共感的な教師は、教室の環境と学びの機会を教師の視点ではなく教師中心から学習者中心へと転換し、子どもの視点から考えられるということです。

 

    問題発見/解決者

問題を見つけることは、学びの大切な一部である。

よりよい問題解決者になる手助けは、より良い問題発見者をどのように育てられるかということです。教師は子どもたちに問題を提示してしまうために、本来子ども自身が見つけなければならないことを丸ごと経験できていません。

 

    リスクテイカー

学習者のニーズを満たすために、授業をよりよく教える方法はあるのだろうか?

革新的な教え方と学び方にはリスクがもちろん伴います。一人一人の生徒のニーズを満たすためにはリスクをとることが必要です。実践に伴うリスクは必要不可欠であり奨励されるべきものです。

 

    ネットワーク

全てのアイデアは、根源的にアイディアのネットワークです。

人々が積極的にアイデアを共有する教室ネットワークは、より良いアイデアが生まれます。アイディアを共有し、思考を明確にして、新しくより良いアイデアを作り出すことなのです。孤立はイノベーションの敵なのです。もっと学びを共有する必要があります。

 

    鋭い観察力

ひらめきはいたるところにあり、しばしば予期せぬ場所にあるものです。ただそのことに注意しておく必要があります。

効果的な学びの機会を作り出すには、教育分野以外で共有されているアイディアからも、学んでそのアイディアを生徒のニーズに結びつけていること。そのための観察力です。

 

    クリエイター

学びとは作り出すことであり、消費することではありません。知識は学習者が吸収するものではなく、学習者が作成するものです。

何かを作り出すことは、情報への個人的なつながりを深め、より深い理解をするための重要な鍵となり、この作り出すということが非常に重要なのです。

 

    回復力

それが出来ないという人は、それをしようとする人を妨害すべきではない

イノベーターのマインドセットを持っている人は、日々新しいものへの挑戦となるため絶えず反対され、問われ続けることとなります。人は新しいものや異なるものに対して身の危険を感じるものです。学校という環境は子どもの思考を広げることに挑戦し励ますために最適な場所であると同時に、彼らが挑戦して失敗しまたやり直すことのできる安全な場所でもあるべきなのです。

 

    振り返り

何がうまくいったのか? うまくいかなかったのか? 私たちは何を変えられるんだろうか? どのような質問が前に進むのに役立つだろうか?

どのような場面においても学びを再検討することで、微調整、修正、再発見することができる領域を見つけることが可能です。私たちが取り組んできた努力やプロセスに疑問を抱くことは、イノベーションにとても重要なことです。後ろを振り返ることは、前を向くために不可欠なのです。

 

“良い教師とは現行制度の制約内で生徒にとって革新的な学びの機会を工夫できる人これが私の信念です実際そうすることが不可欠だと私は思っています。”著者

 

何かを変えようとするには、制約はつきものです。情熱をもち、かつしたたかに取り組んでみましょう。イノベーションのマインドセット8つの特徴は、つまずいたときの私たちの支えとなってくれるはずです。私たち教師がモデルとして示すことだけが、子どもたちが得られるものですから。


イノベーターのマインドセットにおける八つの特徴(本書P.53より

https://georgecouros.ca/blog/archives/4783 (英語ソースはこちら)

2021年10月3日日曜日

学校の物語を語ろう 〜「ストーリーテリング」の力〜

高校の世界史の先生はストーリーテラーでした。ジンギスカーンを語れば、黒板の右から左へ、馬に乗って砂漠をかける姿が目に浮かんできました。ワクワクしました。時空を超える感覚というのでしょうか。その時のワクワクした気持ちが、私を教職に向かわせたと言っても過言ではありません。今でも、夕闇迫る教室の光景を鮮烈に覚えています。

ストーリーの力は強力です。マーサ・ラッシュも『退屈な授業をぶっ飛ばせ』★1で、ストーリーテリングにまるごと一章を割いているくらいですから。彼女は、物語の力を力説するストーリーテリング研究者の言葉を数多く引用しています:

「口頭によるストーリーテリングは、人間文化の中で最強のコミュニケーションの形と言っても良いだろう。(p.61)」(ウエイン州立大学クレイグ・ローニー)

「教材が、「覚えることリスト」のようにきっちりと整理され、凝縮された事実だけになってしまったら、生徒は学ぼうしとしなくなるだろう(p.73)」(ジョージア・サザン大学ディローレス・リストン)

ストーリーテリングが、人の心を揺り動かし、人を行動に誘う力をもっていることが、とてもよく表現されていると思いませんか。

このストーリーテリングの力を、学校と保護者・地域とのパートナーシップづくりに活用してはどうか。『学校リーダーシップをハックする』★2 の第5章では、そのような提案がなされています。

生徒に物語を語ってもらうことで、学校と家庭、地域の間のつながりを強化しようという試みです。学校は、基本的に受け身で、地域や家庭と積極的につながりをつくろうとしない傾向があります。そのような旧来の考え方を打ち破り、学校から主体的に情報を発信しようというのです。

学校での出来事や授業で学んだこと、できるようになったこと。そのようなことを、興奮気味に、生き生きと伝える生徒の声は、学校に関わるすべての人を変えてしまうくらいのインパクトがあるはずです。

これを実践している学校では、ポッドキャストやビデオキャストを利用して、学校の物語を配信しています。学校内での素敵な出来事を取り上げて、保護者や生徒に知らせる週一回の番組を作っている学校もあるそうです。もちろん、ニュースキャスターは生徒です。

「私たちは、情報提供を通して信頼関係を築いています。学校での出来事を知れば、保護者は子どもが受けている教育の質をより確実に感じることができます。一回でも自分の子どもが語る学校でのストーリーを聞けば、きっとあなたの活動を称賛してくれるでしょう。そして、あなたのねらいややり方を理解することで、一番の理解者になってくれるはずです。日々の学校でのストーリーを配信することが、学校コミュニティーを一つにまとめることにつながるのです。」( 『学校リーダーシップをハックする』原著,p.79)

生徒の映像を配信することに、不安を感じる人もいるでしょう。しかし、これまでに成功を収めてきた事例では、問題が起きているわけではないようです。コミュニティーと、これまでにない良い関係を築けるのであれば、リスクに見合う効果があるとさえ述べているのですから。むしろ、透明性が高まることで、陰湿な問題が起きにくくなるのかもしれません。

いずれにしても、学校で起きている素敵なことを、もっと多くの人に知ってもらう。学校のファンやサポーターを増やすためには、今すぐにでも取り組みたいことです。


★1 マーサ・ラッシュ著 (2020) 『退屈な授業をぶっ飛ばせ-学びに熱中する教室』新評論.

★2 近日発刊予定 『学校リーダーシップをハックする』 ハック5「生徒の声で語ってもらう―積極的にアピールして周囲の支持を高めよう」.