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2019年5月5日日曜日

「「働く野性」を考える(2)ー 働くモチベーションを生み出す組織」

前回は(2019年4月21日)、「働く野性」というとてもインパクトのある言葉を冠した研究を紹介した。特に、働くモチベーションを生み出す機能がうまく働いていない組織のパターンとはどのようなものかを考えた。今回は、それを受けて、同書が提案している「VOICEモデル」を紹介したい。

VOICEモデルとは、モチベーションの高い組織を生み出すことのできる5つの経営手法を提案したもので、若い世代を対象とした働く意欲に関する調査研究や企業のケーススタディなどをもとに策定されたものある。5つのアプローチの頭文字をとってVOICEモデルと呼んでいる。以下、その概要の掲載する(pp.56-74):

Value Approach(共有価値観のデザイン)
企業のミッションやビジョン、あるいは行動哲学、行動規範などの製作と共有化を通じて、その事業の社会貢献性や社会変革性などを従業員が実感できるようにすることでモチベーションを高める。

Opportunity Approach(成長機会のデザイン)
組織を、従業員にとっての「成長の舞台」という観点から組織のあり方を見直す。

Innovation Approach(創造する楽しさのデザイン)
組織内にイノベーションのメカニズム(改善、改革、創造を尊重する文化と仕組み)を作り出すことによって、従業員の創造性や起業家精神を引きだし、モチベーションを高める。

Communication Approach(情熱循環のデザイン)
仕事に対する情熱やプロとしての自己成長について、従業員同士が自然に語り合う機会や組織風土を作り出すことでモチベーションを高める。

Empowerment Approach(能力発揮環境のデザイン)
従業員個々人がフラストレーションなく存分に実力を発揮できるような権限と職場環境を整備する経営手法。ワークライフバランスや労働の自主・自律性の付与と深く関係している。


教師の成長は、専門職としての力量の形成や向上といった観点、教育公務員としての使命感、倫理観などの観点から語られることが多かったのではないか。

一方、現職の教員が、生き生きと、元気に働き、成長していくための指針やモデルはこれまでほとんど提示されてこなかったのではないかと思う。例えば、Communication Approachのように、仕事に対する情熱やプロとしての自己成長について、従業員同士が自然に語り合う機会を意図的に設けている学校はどれだけあっただろうか。

同書には、「働く野性とは、職務に対する情熱であり、成長や卓越性への意欲であり、仕事への集中や没頭をもたらすもの」(p.23)とある。これは、報酬や福利厚生、従業員満足度といった外発的なものを超えたところにあるものとしている。

さらに、働く野性は「仕事そのものの面白さや深遠さ、あるいは組織に所属する人間集団の質など、より本質的な部分に宿っている」(p.23)としている。

今の学校が、この「本質的な部分」から遠ざかる方向に向かっているとしたら、非常に大きな問題であるし、子どもたちにとっても不幸なことだろう。子どもたちは、魅力的で、生き生きと、元気に働いている先生と一緒に学びたいはずだ。

今の学校は「働く野性」を生み出す組織になっているだろうか。私はちょっぴり不安だ。

<資料>
「PLC便り」「「働く野性」を考える(1)ー モチベーションが生まれる組織になっているか」2019年4月21日 https://projectbetterschool.blogspot.com/2019/04/1.html
野村綜合研究所(2008)『モチベーション企業の研究ー「働く野性」を引き出す組織デザイン』(東洋経済新報社)

2019年4月21日日曜日

「「働く野性」を考える(1)ー モチベーションが生まれる組織になっているか」

「働く野性」という言葉がある。野村綜合研究所が『モチベーション企業の研究ー「働く野性」を引き出す組織デザイン』(2008,東洋経済新報社)という本で使った言葉である。本来、人間には、何らかの目的で働きたいというナマの欲求があるはずであるという仮説(あるいは希望)に基づいた、面白い言葉だ。営利を主たる目的としない学校においてこそ、求められることなのかもしれないと思った記憶がある。

この本は、2006-7年頃に実施された国際比較調査で日本人の働く意欲が非常に低くなっていたことから問題意識が生まれ、モチベーション・マネジメントの優れた事例を調べるために立ち上げられたプロジェクト研究から生まれたものらしい。個人のモチベーションを高めるテクニックや部下などの力を引き出すためのコーチングについてではなく、モチベーションを生み出すための組織デザインを研究することが主眼であるとしている。

人は、どのような環境で、働く野性を最も発揮したくなるのだろうか。従業員の目がいきいきと輝いている会社とはどのような考え方に基づいて運営されているのだろうか。学校という組織を考えていく上でも示唆を得られそうだと思った。

今回は、まず、働く野性を発揮できない環境とはどのようなものかを考えてみたい。本書があげる「モチベーション不全組織のパターン」とその主要因を紹介しよう(p.35、図表3より):

パターン1 存在価値や仕事の意味の喪失
 ・外形的な数値のみが評価基準として肥大化
 ・仕事の矜持に関する対話の減少

パターン2 自己成長に対する閉塞感や不安感
 ・同じリーダー、同じ役割、同じ仕事の継続
 ・ポストの先詰まり、新陳代謝の速度鈍化
 ・新しいことの学習や自己研鑽機会の不足
 ・事業戦略における挑戦の不足
 
パターン3 組織の保守化とイノベーション行動の阻害
 ・既存事業の恵まれた収益性
 ・保守的行動と挑戦的行動に対するリスク/リターン格差
 ・既存事業部門長の権限が大きく、組織横断的なリソース投入が困難
 ・マーケット志向ではなく内部競争志向の従業員意識
 ・内部統制、ネガティブチェックプロセスの発達
 
パターン4 自分に対する被害者意識と他人に対する攻撃性の拡大
 ・成果主義に基づく個人評価の行き過ぎ(手柄を自己誘導する傾向の増大、自己アピールと相互批判の拡大)

パターン5 ワーク・ライフバランスの崩壊
 ・慢性的な過重労働を前提としたビジネスモデル
 ・仕事に対する自己コントロール感の喪失       
 
学校と民間企業とでは、目的や使命において違いはあるが、ここで挙げられているモチベーション不全組織のパターンは、現在の学校という組織にもほぼ当てはまるのではないかと思うが、皆さんはどう思われただろうか。

本書では、組織において、モチベーション低下の原因はどこにあるのか、どのような要因が絡み合って悪循環が起きているのかなど、全体の連関図を的確に把握してはじめて、効果的な手立てを策定することができるはずであると述べている(p.37)。まずは、学校に置き換えて、モチベーション不全の要因があるかどうか、考えてみてはどうだろうか。

次回は、本書が提案するモチベーション再生のための戦略であるVOICEモデルを紹介し、学校組織において有効であるかどうか考えてみたい。

<資料>
野村綜合研究所(2008)『モチベーション企業の研究ー「働く野性」を引き出す組織デザイン』(東洋経済新報社)