2024年7月27日土曜日

サイエンス・リテラシーと私たち

 以前、このブログで「原子力発電とどう向き合うか」というテーマでサイエンス・リテラシーについて考えました。 今回は、わが国の科学・技術をめぐる大きな問題の一つである、リニア新幹線建設に関する問題とサイエンス・リテラシーについて取り上げたいと思います。

JR東海が進めるリニア中央新幹線の開業予定は当初の2027年から、今年3月に「34年以降」にずれ込みました。私が一番問題だと思うのは、南アルプス直下を全長50キロにも及ぶトンネルを通すことです。南アルプスはその成り立ちからして、フィリピン海プレートが大陸側のプレートに潜り込む場所であり地殻変動が今も日々起きている場所です。現に南アルプスのなかのいくつもの山並みは年に4ミリほど隆起を続けています。このような場所で地震が起きないと考えるほうが不思議であり、JR東海は「活断層はできるだけ避けてトンネルを計画し、万一避けられない場合は、最短で通す」と述べています。かつて「日本列島改造論」の考え方に沿って、さまざまなものがつくられましたが、この昔の発想をいまだに引きずっているような気がしてなりません。

サイエンス・リテラシーの観点から言えば、「大地の変化」「地殻変動」「地震予知」「環境保護」などのキーワードが関連してくる問題です。首都直下型地震や駿河トラフ及び南海トラフ地震、そして富士山の噴火とその周辺部で影響のありそうな事象はいくつもあります。また、それらを専門家だけに任せられるのか、市民参加の事業評価は可能なのかなどいくつも検討すべき課題があります。リニアの工事費は結局その一部が税金で賄われることになるわけで、その影響は私たち市民一人ひとりに及んでくることになります。 

 私も翻訳にかかわった本で、『だれもが<科学者>になれる』(新評論・2020)は原著の出版が1999年です。しかし、ここに書かれた理科の授業を超えるような国内の実践には、残念ながらお目にかかったことがありません。まず乗り越えるべき目標がここにあります。

 特に若手の先生方には、これを目標にしてほしいと切に願うばかりです。日ごろは教科書の内容をカバーする授業でも、学期に一つは、『だれもが<科学者>になれる』にあるような探究活動を取り入れたいものです。

 まず、教科書にある実験方法や材料の選択肢を広げてみるなど、少し工夫をしてみるだけでも子どもたちの反応は違ってくるでしょう。「やらされる」のではなく、「自分たちが選ぶ」ことは大切な学びの原則の一つです。また、そのための時間を確保すること。これも大切です。この探究の時間を生み出すために、それほど時間をかけなくてよい項目の時間を削ることで時間のやりくりができるでしょう。教科書会社の作成した指導計画にも余裕の時間がある程度見込まれていますから、それらを合わせて、重点項目に当初の予定よりも時間をかけることができると思います。

 また、学びを教室内だけのものにしてしまうのではなく、保護者や外部の専門家、隣接した学校との協働学習などさまざまなかかわりが考えられます。今はネット環境がありますから、何も実際に来てもらったりするだけでなく、ネットを通した学びが充分に成立するものと思います。学習成果の発表なども同様です。

 こうした試みにより、間違いなく子どもたちのサイエンス・リテラシーが高まることでしょう。そうした基盤ができてこそ、リニアや原子力発電などの巨大科学を専門家任せにすることなく、クリティカルにものごとを判断できる健全な市民社会が形成されるのだと思います。

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