2018年1月28日日曜日

上司と部下


先週のブログ記事に紹介された「プロジェクト酸素」はそのネーミングもさることながら、改めて組織には何が必要かを確認させてくれる事例だと思いました。みなさんはどう考えましたか? 以下のようなくだりがありました。

 最高の上司の特徴を以下の8つの点に絞り込んだのです。グーグルは、これを「ビッグ・エイト」と呼び、重要な順位に並べました。
 
1.よきコーチである


2.チームを後押し、細かいマネジメントはしない

3.チームメンバーの成功や生活に対し、関心がある

4.臆病にならない~生産的で結果主義である

5.よいコミュニケーター~よき聞き手である

6.部下のキャリア形成を助ける

7.明確なビジョンと戦略をもっている

8.チームにアドバイスできる技術的な専門知識をもっている


1は当然そうだろうと思いますが、2の「チームを後押し、細かいマネジメントはしない」はできそうで、案外できないことです。

学校で言うと、細かいマネジメントばかりに目がいく校長は部下職員を委縮させるケースが多いと思います。この20年くらいで教育委員会の管理的な志向に振り回される校長が特に多くなっています。上ばかり見て、下のことを考えない、いわゆる「ヒラメ型」のタイプです。こういう人は、部下の手柄も自分の手柄のように吹聴して、自身の出世ばかり気にします。こういう人の下についた職員は「早く、この人異動してくれないかな」とそればかりを念じるしかありません。当然、職員室の雰囲気も悪くなります。

私が20代の教師だったころ、その学校の校長だったW先生はまさにこの「チームを後押し、細かいマネジメントはしない」タイプの校長でした。若手教師の多い学校でしたので、学校行事にしても文化祭にしても、毎年新しい企画案が出てくるのですが、それをいつも「やってみろ」の一言で後押ししてくれたのです。こういう学校は活気あふれる学校文化につつまれた、よい学校の典型だと思います。結果として、「よいマネジメント」がついていくのでしょう。

この「2」が「7」「8」よりも、上位にあるというのも、面白いことですし、組織としてはそうなのだろうなと納得します。

 4の「臆病にならない~生産的で結果主義である」は、校長として少し勇気がいります。
 
でも、校長になろうと思った人なら、自分が目指す教育が本来あったはずです。それが、できる立場になったのですから、遠慮なく自分の方針を出せばいい、と私などはすぐに思いますが、案外、前任者のやったことを踏襲するだけで、任期を終えてしまう校長がいかに多いことか。校長会という組織がありますが、そこでの話題が学校経営に役立ったという記憶はありません。「こんな学校行事をやってみよう」とか「こんな活動を企画してみよう」などという話題は滅多に出ません。「新たしいことやって失敗するよりは、前年踏襲でそつなくやること」を信条とした、守りの姿勢ばかりが目につきます。こんな保身第一の校長が子供に「チャレンジすることの大切さ」などを説いてみても、虚しい話です。




100%いきなり、すべてを変えたらそれはうまくいきません。でも、30%変えるぐらいはそれなりの準備や段取りを踏めば可能であると思います。それを3年続けたら、どんな学校でも変わります。

 5の「よいコミュニケーター~よき聞き手である」も当然と言えば、当然です。校長がまずよきコミュニケーターにならなくて、どうして子供たちにそれが身に付きますか。
 

6の「部下のキャリア形成を助ける」も大切です。チャンスがあれば、どんどん若手に校内の主要なポジションを経験させるぐらいの度量がなくてはだめです。(そうしたときには、サポートが必要なことは言うまでもないことですが)


大学院派遣や長期研修などの機会があれば、積極的に応募させて、チャレンジさせることです。当然、そのような教師は有能ですから、学校にとっては居てもらった方が自分の学校経営上は楽なのです。しかし、自分の都合でそのようなチャンスを奪ってしまうのは管理職としてと言うよりも、人としてどうなのかと思ってしまいます。

 

 

 

 

2018年1月21日日曜日

グーグルが導き出した「ビッグ・エイト」(最高の上司の特徴)


① あなたが管理職(や教育委員会)に求める資質は、どのようなものですか?
 ② あるいは、子どもたちが教師に求める資質は?

 『The Best Class You Never Taught(あなたがこれまでに教えたこともない最高の授業)』というタイトルの本を訳しています。これは、教師の介入なしで生徒たちが話し合いをするための手引書です。これ以上の「主体的・対話的で「深い学び」」はないだろうな、と思ってしまいます。

 その中で、以下のような文章があります。(原著10~11ページ)

 学校は、将来のキャリアに必要なスキルを身につけさせて卒業させるために、ソーシャル・スキルを教えるためのより効果的な方法が必要です。2009年に、グーグルは会社を辞める決断をした人たちがどんな理由をもっていたかを明らかにする調査をしました。その結果発見したことは、もっとも大きな要因は「ひどい上司」でした。そこで、型破りなテクノロジーの企業であるグーグルは、いい上司と悪い上司の数を把握できないかと自問したのです。その結果、「プロジェクト酸素(Project Oxygen)」★が生まれました。グーグルが得意な大量のパフォーマンス評価、フィードバック調査、優秀社員賞への推薦者等のデータを解析することによって、会社にとって最高の上司の特徴を以下の8つの点に絞り込んだのです。グーグルは、これを「ビッグ・エイト」と呼び、重要な順位に並べました。

  1. よきコーチである
  2. チームを後押し、細かいマネジメントはしない
  3. チームメンバーの成功や生活に対し、関心がある
  4. 臆病にならない~生産的で結果主義である
  5. よいコミュニケーター~よき聞き手である
  6. 部下のキャリア形成を助ける
  7. 明確なビジョンと戦略をもっている
  8. チームにアドバイスできる技術的な専門知識をもっている
 「プロジェクト酸素」のチームは、「社員がもっとも求めているのは、一対一でのやり取りに時間を割いてくれ、答えを左右するのではなく、問いかけることによって問題を解決するのを助け、部下の暮らしやキャリアに興味を持ってくれる、バランス感覚をもった上司」であることを発見しました。★★このリストでもっとも興味をそそるのは、1、2、3、5番はすべて協力して仕事をしたり、コミュニケーションに関連するものだということです。そして、リストの最後に挙がっているのが「技術的な知識」でした。内容理解よりも、あなたが指導している人たちを元気づける方がはるかに重要なのだというのは、私たちのほとんどが教わったのとはまるで逆さまですが、完全に筋は通っています。グーグルのような企業にとって、協力することこそがデザインしたり、創り出ししたり、実施したりするすべてと言っても過言ではないのです。★★★

▲以上、長い引用終わり

 上記の本で紹介してある話し合いを継続してすることで、これらのスキルをほとんどの生徒が身につけてしまうというわけです。やってみたいと思いませんか?

★ 「Project Oxygen」で検索すると、このプロジェクトに関する多数の日本語情報も入手できます。すでにビジネス界では、知る人ぞ知るの情報です!
★★ これは、まさに『校長先生という仕事』に書いたことと同じです。
★★★ これはグーグルのようなハイテク企業に限らず、学校も含めて、これから21世紀を生きていくのに欠かせないリストが「ビッグ・エイト」だと思います。
★★★★ ちなみに、冒頭の①と②の答えは、「ビッグ・エイト」そのものです。両者は入れ子状態ですから、同じです。

2018年1月14日日曜日

教師(教える)という素晴らしい仕事


 2018年の滑り出しはいかがですか?
 年始早々から『In the Middle』という本の翻訳作業をしています。この本は、読み書きの教え方に革命を起こした本★です。訳しているのは、第3版ですが、その初版は数十万部売れ、その印税で著者は自分の学校をつくってしまったぐらいですから。それも素晴らしいのは、Center for Teaching and Learningという名称にしたことです。生徒たちにとってはもちろん、教師たちも学び続けるセンターにしたことです。まさに、PLC。ここでいう教師は、自分の学校の先生だけでなく、全国(全世界)からワークショップの教え方を学びたい、体験したい先生方を意味し、1週間を単位として受け入れています。
 はたして、日本にそういう発想をもった学校があるでしょうか?

 この本は、次の文章ではじまります。

40年間の国語教師としての人生を振り返って、私はこの仕事がとても素晴らしい仕事の一つだと確信しています。もちろん、時間と労力はかかります。けれど、充実していて、やりがいがあって、何より刺激的です。毎朝教室に入る時、私は確信しています。きっと今日も、若い書き手や読み手たちの言うこと、行うことに目を見張るだろう。(『In the Middle』 の第1章「教えることを学ぶ」の3ページ)

 「この仕事はとても素晴らしい仕事」、まったくその通りだと思います。
 日本の国語教師はもちろんのこと、すべての教師に同じ思いをもってほしくて、この本を訳しています。
 次のページで、アトウェルは次のように書いています。

ビセックスの才気あふれる著書『GNYS AT WRK★★(ことばを学ぶ天才)』は、彼女の子どもポールの幼少期のことばの学習、特に、就学前に彼が独自に考えだした綴りに注目しています。この本が出版されるまでは「書くためには、まず読めないといけない」という考え方が一般的でした。しかし、ポールは、読めるようになる前に、ありとあらゆるメッセージを書き散らしていたのです。ビセックスの観察は、子どもが実際に学ぶ方法と教師が教える方法との間にはギャップがあることを伝えてくれます。そこから、「私たちが教える論理が、子どもたちが学ぶ論理と同じとは限らない」という彼女の言葉は、私の座右の銘となりました(この章の冒頭にも引用しています)。この言葉を目にするたびに、私は立ち戻ります。生徒を観察すること、現状維持に疑問を抱くこと、そして、教室で起きていることを理解しようとすることに。(原書、4ページ)

 日本では、いまでも濃厚に「書くためには、まず読めないといけない」という捉え方があるのではないでしょうか? 実は、聞いたり、見たり、真似したりしながら、子どもたちは「読めるようになる前に、ありとあらゆるメッセージを書き散らしてい」るのに。

 しかし、ここで指摘したいのは(それも、大文字で!)、アトウェルが座右の銘にしているという、次の部分です。
 「子どもが実際に学ぶ方法と教師が教える方法との間にはギャップがある」ことを発見し、「私たちが教える論理が、子どもたちが学ぶ論理と同じとは限らない」と言い切ったことです。

 それに対して、日本の授業は、「教師が教えること=子どもたちが学ぶこと」という成立するはずのない前提で行われ続けています。
http://projectbetterschool.blogspot.jp/2017/12/blog-post_31.html で紹介した(というか、反面教師にしてほしい)『授業の見方』もその発想で書かれている本です。
しかし、それは大人の都合でしかありません。子ども一人ひとりには自分の都合というか、学ぶ論理がありますから。
当然のことながら、どちらの立場に立つかで、まったく違った授業をすることになります。
同じではなく、違うと思えたら、アトウェルが次に書いている「生徒を観察すること、現状維持に疑問を抱くこと、そして、教室で起きていることを理解しようとすること」の価値が見出せます。★★★
でも、思えないと『授業の見方』(=指導案、一斉授業)のアプローチが続くことが約束されています。
 どちらを選ぶか、あなたには選択があります!


★ ある意味で真に革命を起こした本は、彼女のこの本に先行すること4年前に出たドナルド・グレイヴス(Donald H. Graves)著の『Writing: Teachers and Children at Work(書くこと~学習中の教師と子ども)』です。こちらは書くことに焦点を当てています。それをアトウェルは読むことにも応用し、両方を中学校レベルで実践した本として紹介しました。私の中では、『「考える力」はこうしてつける』『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』『「学びの責任」は誰にあるのか』の3冊で書かれている内容がすべて押さえられているというか、実践されている本です。『In the Middle』は今夏に、三省堂から翻訳出版される予定です。http://wwletter.blogspot.jp/search?q=in+the+middleIn the Middle』関連の記事がたくさん読めます。

★★英語圏の子どもは、英語の音を聞いて自分なりの英語の単語の綴りをつくりだす時期があります。英語の原題『GNYS AT WRK』は、Genius at Workを、自分なりの英語の綴りで表現していることを象徴的に表しています。


★★★ 違うと捉えると、必然的に『「考える力」はこうしてつける』『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』『「学びの責任」は誰にあるのか』や、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップ関連の実践になります。これは、この本の第1章のタイトルとも関連します。それは、「教えることを学ぶ」というか、「教えることを学び続ける」か、それとも固定的な教え方で満足してしまうかの分かれ道です。繰り返しますが、教師は誰もが選択をもっています。

2018年1月7日日曜日

『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり』


 新年を迎え、第1回目の今回は、探究学習・探究活動に関する次の2冊の比べ読みをしようと思って読み始めました。 

■「探究」を探究する~本気で取り組む高校の探究活動』田村 学・廣瀬志保(編著)[学事出版]★

■『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり~日常生活の問題から確かな学力を育成する』L.トープ/S.セージ(著)[北大路書房] 

 本のタイトルと編者の名前に魅かれて1冊目を購入して読みましたが、小中学校の教員の立場から正直に言わせていただくと、あまりにも期待はずれで、比べ読みに耐え得る内容になっていないので、2冊目のPBLの方のみを紹介します。 

 『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり』については、既に昨年1112日のPLC便りでも紹介されていますが、探究学習として教科の授業を大きく変える可能性をもつPBLProblem-Based Learning)の実践例と理論的基礎、カリキュラム設計、評価などについて、とてもわかりやすく書かれている本なので、再び取り上げました。 

 この本には、サブタイトル「日常生活の問題から確かな学力を育成する」にあるように、解決策(正解)が一つとは限らない日常生活の問題について、学習者がその問題の当事者(利害関係者)として、仲間と協同しながらその解決策を考えていくという探究学習・PBLについて、その理論と実践が体系的に具体的に書かれています。 

私が最も関心をもって読み進むことができたのは、やはり学校現場でのPBLの実践のための第4章~第7章でした。特に、第6章に書かれている内容は、『「学びの責任」は誰にあるのか~「責任の移行モデル」で授業が変わる』[新評論]の「協働学習」で紹介されている内容とも重なり、本物の探究学習であるPBLの素晴らしさと大きな可能性を感じることができました。 

PBLでの教師の役割(第6章:PBLの実践方法)
 文部科学省の「学習指導要領解説・総合的な学習の時間編」では、教師のかかわり方について、「学習指導の基本的な考え方」や「探究的な学習の指導のポイント」という形でいわゆる「指導上の留意点」が示されていますが、PBLでは学習者の「コーチ」としての教師の役割が、9つのプロセス★★ごとに具体的な行動目標と共に解説されています。それどころか、PBLでは、教師は学習者である子どもたちと一緒に探究のプロセスを歩み、子どもたちの学びを深める「責任」が求められているのです。 

 「コーチ」としての教師の役割について、PBLを実践している先生方の言葉が紹介されています(93ページ)。 

「(前略)私たちが学んだもう一つのことは、自分が説く者ではなく問いかける者としての役割を受け持ち、生徒を自分で考える立場に引き込むよい問いかけをするということです。(中略)生徒たちが自分で考えなければならないような問いを投げかけると、直接教えなくても、学ばせたい内容を生徒たちから引き出すことができました。つまり、生徒たちは自分たちで学習内容を見つけ出すことができるのです。」<フリードリッチ先生・高校> 

 「学習内容を決めているのは教師だ、と私は思います。このことは、学習者がうまく学べなかったとしたらそれは学習者の責任だ、という的はずれなことを意味しているのではありません。そうではなくて、学習内容とは、学習者が問題を展開させる先にある、学ぶべき大切な現実的な調和のことなのです。だから、私はコーチとして、学習者がそれを自分から見つけ出してくれるように、十分に問いかけるのです。」<トンプソン先生・高校>

  PBLにおける「主体的なコーチとしての教師」と「主体的な学習者としての生徒」のそれぞれの役割が、図6.2 学習者の意味構築を促すコーチング として示されています(98ページ)。 


 PBLは、次期学習指導要領が育成を目指すコンピテンシー・ベースの学力を大きく育むことができるものです。『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり』は、指導と評価の一体化を含め、総合的な学習の時間だけでなく教科の授業を、本気で子ども主体の「学び」に改革・改善しようと思っている人にとって役に立つ、探究学習の選りすぐりの1冊です。ぜひ多くの先生方に読んでいただきたいと思います。


★  この本は、月刊の教育誌に約5年間連載した高校の探究学習・探究活動の実践からよさそうなものを選んで掲載してある実践事例集でした。その前後に探究に対する考え方と編著者の対談を載せた安易なつくりで、期待していただけに、正直、がっかりしました。 

★★  PBLの学習プロセス(探究のプロセス)は、およそ以下のとおりです。PBLにおける学習活動は、厳密なものでも決まりきったものでもありませんし、それらの配置の順序も決まっているわけではありません。学習者は探究を深める中で、PBLのプロセスのうち、特に「問題記述の明確化」と「情報収集・共有」を何度も行うことになります(4748ページ)。
(1)PBLに取り組む心の準備をする。
(2)問題に出合う。
(3)知っていること、知るべきこと、思いついたことを書き出す。
(4)問題記述を明確化する。
(5)情報を収集し、共有する。
(6)実施可能な解決策をつくり出す。
(7)最適な解決策を選び出す。
(8)解決策を発表する。
(9)全体を振り返る。