2016年1月31日日曜日

問いを大切にする教室


先週の火曜日まで1週間、アメリカのサンフランシスコに行ってきました。

目的は科学館・博物館の展示手法や普及教育の実態調査です。

 かつて30代前半の6年間、私が住む県の科学館に出向していました。

そのとき、科学展示のお手本にしていたのが、サンフランシスコの「エクスプロラトリウム」です。当時は、写真等で見るしかなかったのですが、今回やっと長年の夢が実現しました。

実際に自分の目で見ると、ここの展示品をマネすることはできても、「来館者にface to faceで科学の面白さを伝える」サイエンス・コミュニケーションという部分では本家を超えることはできなかった、というのが正直な感想です。

さて、このブログの新年第一回目のところで、パートナーから紹介のあった「ルネサンス的思考を促進する教室」の根底にある考え方が、今回見学した科学館や博物館の展示においても、大きな柱の一つになっているように思います。

 
「たくさんの質問を自ら作り出し、・・・」「思索や、推測や、仮説や・・・」という『理解するってどういうこと?』第6章に書かれたことが、自然界の様々な事象や変化の中に自ら疑問や質問を見出して、それを探究していくという「科学」に通じるものであり、まさに「ルネサンス的思考」の具現化にほかならないことを示しています。

 
今回、見学した科学館・博物館にはちょうど休日でしたので、多くの家族連れが訪れていました。家族で科学の面白さを楽しみ、好奇心に満ちた眼差しで館内を歩いている子供たちの様子を見ると、「夢中になる」活動を授業の中でも実現することが大切だとあらためて確認した次第です。そのための方法は、前回の記事にたくさんのヒントがありますので、現場の先生方はぜひ取り入れていただきたいと思います。(現行のわが国の教育システムの枠内でも、できることはたくさんあります。要はやるかやらないかです。)

 
前回の記事にある「生徒たちが『夢中で取り組む』授業のつくり方」で、特に、私がいいなと思うのは、「3.絵本を有効に活用する。」です。

絵本なんてと思う方もいるかもしれませんが、幼児に限らず、小学校・中学校でも非常によい教材になります。今回、見学した科学館・博物館でも、館の一角に絵本のコーナーがあって、そこでは読み聞かせができたり、自由に寝転んで読めるようにクッションが置いてあったりしました。

パートナーも指摘しているように、

『読む力=書く力=聞く力=話す力=見る力=考える力=・・・であることがわかります。』は間違いないことです。

これをいろいろな教科の時間に取り入れていけば、間違いなく、現行学習指導要領のポイントの一つである「言語活動」の充実というねらいが達成されることになります。

教室の中が、多くの「疑問」「質問」であふれる授業をたくさんつくっていきたいものです。

 

2016年1月24日日曜日

生徒たちが「夢中で取り組む」授業のつくり方



今回は、そのための具体的な方法を、元小学校の先生のティシャ・シップリーさんが集めた情報をベースに紹介します。
(日本では、ここ1年ぐらい盛んに言われている「アクティブ・ラーニング」とどういう関係があるか、考えるヒントにもなるかもしれません。ちなみに方法同士は、必ずしもつながっているわけではありません。バラバラに考えてください。そして、利用できると思った方法を積極的に活用してください。)

1.生徒たちがすでに知っていたり、興味のあることをベースにしてテーマ学習のユニットをくむ(これについて詳しく知りたい方は、テーマワークを参照してください。
2.そのテーマ学習と関連させる形で、教室の内部に異なる形でテーマに迫る学習センターを数か所設置する(通常は、1か所で2~5人が取り組むので、教室の生徒数で割った数のセンターが必要になります)。センターでは、ハンズオンの物が使えたり、ロールプレイをしたりなどなど思考をこらします(要するに、センター毎に生徒たちがすることは違うわけです。こういう学び方に興味のある方は、吉田(pro.workshop@gmail.com)まで連絡ください。
3.絵本を有効に活用する。(これについて詳しくは、『「読む力」はこうしてつかう』をご覧ください。読む力=書く力=聞く力=話す力=見る力=考える力=・・・であることがわかります。絵本は、類稀なる学習材です。
4.一緒に料理をする。(詳しくは、http://projectbetterschool.blogspot.jp/2014/08/blog-post_17.html
5.選択を提供する。(学習スタイルやマルチ能力などの学び方や、一人で、ペアで、小グループなどの形態も)
6.本づくりなど、自分たちの学んだことを発信する成果品をつくる。(実際に本当の対象を設定して作るといい。フィードバックももらえるから。たとえば、本づくりの例として、http://busyclassroom.weebly.com/make-and-take-books.html
7.学びのコミュニティをつくる ~ 生徒たちが、クラスは自分たちのものと思え、互いに助けあい、教えあい、刺激しあい、学びあえるところこそが、確実に授業に「夢中で取り組む」条件!
8.7と関係するが、生徒たちができることは任せているクラス。教師が教えることも含めて、やり過ぎないクラス。しっかり生徒たちがやれるためには、そのための準備と練習が必要なこともお忘れなく。
9.生徒のことを知る。質問する。(すべてのベースと言えるかもしれません。これなくして、1を含めて、ほとんどが実現できないぐらいに。)

そして、私なら
10番目として、「モデルで示す」を加えます。教師自身の、夢中で(熱烈に)取り組んだ経験こそが上記のベースだとも思うからです。この点については、ぜひ『理解するってどういうこと?』を参照してください。教科書をカバーすることでは「夢中で取り組む」授業はもちろん、単に取り組んでもらうこと自体が難しいと、薄々あなたはお気づきではないでしょうか。

 以上の10個を振り返って、すでにしていることはどれだけありましたか?
 書いてあることは、自分なりに形を変えて試してみてください。
 常に改善できる方法を考え続けて、そして試してみてください。
 同僚や本からいい方法は拝借し、そして自分なりにアレンジして試してください。
 そして、振り返って、さらに次の時に活かしてください。
 その繰り返しからしか、生徒たちが「夢中で取り組む」授業は実現しませんから。

   (出典: http://inservice.ascd.org/ten-ways-to-engage-all-students-in-the-classroom/


1の追加です。

「生徒たちがすでに知っていたり、興味のあること」をベースにするからといって、学習指導要領や教科書を無視するわけではありません。もちろん、それらも押さえながら計画を立てます。
通常は、教科書優先で、「生徒たちがすでに知っていたり、興味のあること」は軽視か無視されるのと対照的なわけです。


2016年1月17日日曜日

『スティーブ・ジョブズ』上・下2巻

前回紹介した「教師にオススメの教育書以外の本」6冊のうち、3冊はすでに読んでおり、1冊は日本語ではまだ入手できないので、2冊を借りてきて読みました。でも、ウォルト・ホイットマンの『草の葉』は読めなかったので、唯一読めたウォルター・アイザックソン著の『スティーブ・ジョブズ』の教育と関係する部分を中心に紹介します。(個人的には、上巻の方からも結構メモを取りましたが、下巻中心です。数字はページ数。青字=~以降は、吉田のコメント

JobsAppleへの復活
65 「アップルには優秀な人間がたくさんいるのに、彼らは皆、間違ったことをしている。計画が間違っているからだ。優れた戦略があればそこに参加したいと思う人はたくさんいるというのに、そういう戦略がいままでひとつもなかったんだ」 ~ いまの学校に計画や戦略はあるかな??

86 ジョブスの得意技に“集中”がある。
 「なにをしないのか決めるのは、なにをするのか決めるのと同じくらい大事だ。会社についてもそうだし、製品についてもそうだ」

  パワーポイントが嫌い → 使用を禁止
  自分の仕事をちゃんとわかっている人はパワーポイントなんかいらない ~ 大いに賛成。 教師のプレゼンもパワポは使わないように!

90 アップルを救ったのは、彼の「絞り込む力」だった。 ~ 学校に欠けているのも、この「絞り込む力」!!
94  「洗練を突きつめると簡潔になる」
    「シンプルにする、つまり、背景にある問題を本当に理解し、エレガントなソリューションを考え出すというのは、とても大変な作業なんだ」
    製品の本質を深く理解しなければ、不可欠ではない部分を削ることはできません。
    デザインとは、表面的にどう見えるかだけの問題ではない。製品の本質を反映していなければならない。

99 会社がどこにエネルギーを集中しているのか、またどことどこがつながっているのかを把握するのです。そして、「あっちが伸びている状態でこっちをやる意味はあるのかい?」などと聞くわけです。彼はいろいろなものを関係性で把握するのですが、会社が大きくなるとそうするのはとても難しくなります。ここのテーブルにモデルを並べて一覧することで、スティーブは3年先の未来を見るのです。 ~ 同じ方法は学校にも役立つはず。しかし、教科でブツギリになっているので、それを最初から放棄している!

122~3 デザインとエンジニアリング(+その他の部門)の緊密なコラボレーション
 「僕らは統合された製品を開発するのだから、プロセスもコラボレーションで一体化する必要があるんだ」 ~ 言葉だけのレベルで存在する「指導と評価の一体化」 → 真に求められているのは「カリキュラムと指導(教える内容と教え方)と評価の一体化」 これが実現されない限りは、ジョブズが返り咲く前のアップルのようにアップアップが続くだけの日本の学校!

 「まぬけの増殖」が起こって会社に二流の人間があふれるのを防ぐために、他部門のトップも採用面接に参加。 ~ 人事は決定的に重要なのに、一番軽視されている?! 採用した後の能力開発もとても貧弱。教員研修のノウハウをまだ見出せていない日本!

 Aクラスだけの人間でチームを組んだ方が、BクラスやCクラスも含まれているよりはるかにいい。 ~ 学校を含めたあらゆる組織が抱える課題

271 リンゴの木の剪定をやりつづける。
    優先順位の高いもの、2つか3つに絞ることをジョブスは求める。

374 説明責任が大事なのではなく、結果責任こそが大事!! ~ モバイルミーでの失敗に際しての行動

404 ジョブスのラリー・ペイジ(グーグルの共同創設者)へのアドバイス: ~ 次の世代(競争相手?)に実践を踏まえてアドバイスできるものをもつことの大切さ! =この本のまとめでもある
     集中すること
     人の選び方
     誰を信用すべきかどうしたらわかるのか
     どうしたら頼れる側近のチームができるのか
     BクラスやCクラスのプレイヤーを紛れ込ませない方法
     ビジョンの大切さ → 多くて5つに集中

429 ディランも、ビートルズも、進化し、前に進んで、自分たちの芸術を少しずつ高めていった。僕もそうありたいと努力してきた。前に進み続けるんだ。そうでなければ、ディランが言うように「生きるのに忙しくなければ死ぬのに忙しくなってしまう」からね。

  僕がいろいろできるのは、同じ人類のメンバーがいろいろしてくれているからであり、すべて、先人の肩に乗せてもらっているからなんだ。そして、僕らの大半は、人類全体になにかをお返ししたい、人類全体の流れになにかを加えたいと思っているんだ。それはつまり、自分にやれる方法でなにかを表現するってことなんだ。(僕はボブ・ディランにはなれない。)僕らは自分が持つ才能を使って心の奥底にある感情を表現しようとするんだ。僕らの先人が遺してくれたあらゆる成果に対する感謝を表現しようとするんだ。その流れになにかを追加しようとするんだ。そう思って、僕は歩いてきた。

2016年1月10日日曜日

教師にオススメの教育書以外の本

『「読む力」はこうしてつける』の第1章では、本を読むことの効用について分析しています。

「読むことが可能にしてくれることは?」という問いには、
①多様な満足  → 楽しむため、豊かにするため
②人とのコミュニケーション
③知識や情報(や体験)の獲得
④読む力と書く力の向上
⑤思考力の向上
⑥態度面の成長 → 生きるため、成長するため
⑦生きる糧
がリストアップされています。
「あなたにとって“読む”とは?」という質問も投げかけています。あなたは、どう答えますか?

もちろん、教師として上記の③と⑦に焦点を当てた教育書を読み続けることは不可欠です。(日本語で読めるいい本が絶対的に少ないのは、とても悲しいことですが。)★

今回紹介するのは、(上記の①~⑦ほぼすべてに当てはまる?)アメリカの教育サイトに紹介されていた6冊の教師にオススメの教育書以外の本です。

1.ハーパー・リーの『アラバマ物語』 ~ これに匹敵する日本の作家による本は?
2.Steven Naifeh and Gregory White Smith の『Van Gogh : the life ~ この著者2人のペアの本はすでに3冊も翻訳されていますが、残念ながらこの本は未訳です。
3.ウォルター・アイザックソンの『スティーブ・ジョブズ』 ~ Appleのジョブズの本はたくさん出ていますが、ジョブズ本人が依頼して書いてもらったのは唯一これだけです。
4.ウォルト・ホイットマンの『草の葉』 ~ 日本の詩でこれに匹敵するのは?
5.シェル・シルヴァスタインの『おおきな木』 ~ あなたの一冊の絵本は?
6.ランディ・パウシュの『最後の授業』 ~ 動画で見られます。まだの方はぜひ。


そこで、あなたの「教師にオススメの教育書以外の本」をpro.workshop@gmail.com宛にぜひ教えてください。
一冊でも、二冊でも、それ以上でも。よろしくお願いします。(集まった本を、共有します!)
  

★ それに対して、欧米の教育書には①~⑦をすべて満たしている本も少なくありません。たとえば、カール ロジャーズの『学習する自由』第3版や、エリン・キーンの『理解するってどういうこと?』などです。


2016年1月3日日曜日

ルネサンス人とはどういう人たちか? そして、それを今実現する方法は?

2016年をはじめるにあたってこれほど適切なテーマはないかなと思ったので(昨年最後の書き込みの続きでもありますし)、紹介します。

上の2つの質問に、『理解するってどういうこと?』203~204ページで答えてくれています。


●ルネサンス人とはどういう人たちか?

ルネサンス期について私がざっと調べたところによると、ミケランジェロも、レオナルド・ダ・ヴィンチも、その他のルネサンスの同時代人たちも、生涯にわたって、子どものような好奇心を持ち続けていたようです。自らの生み出したさまざまな疑問をもとにして、彼らはその疑問を絵画や彫刻、建築、農業、詩、工学、政治、宗教、医学、音楽、修辞学、そして科学へと深めていったのです。彼らは(読めるものは何でも)幅広く読んで、自分の疑問や思索に関係のあることがらについておびただしいメモを残しました。自分の思考にひらめきをもたらしたり、広げたりしてくれそうな人たちのなかに、自分の身を置きました。彼らはさまざまなアイディアを試したり、実験したり、書いたり、描いたり、やり得ることは何でもしました。でも、何もかも終わらせることはありませんでした。実際のところ、彼らが終わらせたことは、やり始めたこと全体の半分にも及ばなかったのですが、やり通せるかどうかは関係なく、自分のアイディアに正面から取り組みました。彼らは大切な疑問を追いかけ、その疑問への答えを明るみに出そうとしたのです。


●それを今実現する方法は?

 最近の教育理論に照らし合わせて考えると、理科や社会科で探究学習を実践する研究者や教師たち、リーディング・ワークショップやライティング・ワークショップの実践者たち、そして図書館メディア・スペシャリストたちがこの領域を先導してきました。子どもたちが選択を提供され、自分たちが興味のある幅広いテーマを調べたり、探ったりすることを通して自由に探求してもよいのなら、さまざまな知識やスキルや概念を保持したり応用したりすることに、進んで取り組むようになり、学ぶようになるものだと、彼らはこれまでずっと理解してきたのです。ジェローム・ブルーナーやハワード・ガードナーから、デヴィッド・パーキンズ、ロン・リチャート、デニス・パルマー・ウルフといった理論家たちが、これまでに考えられなかったようなレベルで教科の枠を超えて学ぶ機会をもたらす、教師と子どもたちの両方が考え出す質問と、興味関心が持てるテーマを探究する際に果たす教師の役割について探ってきました。

 以上を読んで、2016年にあなたがすることのヒントになる部分はどれくらいありましたか?

 著者は、3つの方法(探究学習、リーディング・ワークショップとライティング・ワークショップ、そして図書館メディアを使った学び)を紹介してくれていますが、これに限定する必要はありません。あなたにとってのこだわりを追求してください。(その際、上に書かれているような特徴をもっていればいいに越したことはないと思います。)少なくとも、確実に言えることは、教科書を確実にカバーするような授業でないことだけは確かです。