2022年4月23日土曜日

本のもつ魅惑

 

長田弘さんの『すべてきみに宛てた手紙』がちくま文庫で復刊されました。

そのなかの「手紙9 世界は(あなたの)一冊の本」に次のような一節があります。

存在するものは、かならず自分の物語といえるものをもっています。その物語をじっと聴きとる。そして、わたし自身の言葉で書きとってゆく。「書くこと」は、つまり、「読む」ということにほかならないのです。「書く」とは存在するものの言葉を「読む」ということです。

 「書くこと」と「読むこと」は別物と捉えてしまいがちですが、「書くこと」=「読むこと」であることを再確認したいものです。

また長田さんは「手紙7」のなかで、「本のもつ魅惑」について次のように述べています。

本のもつ魅惑は、本のもつ「今」という時間の魅惑です。

「今」といっても、それは刻々に過ぎさる、ただいま現在のことではありません。

~途中省略~

 時代の歴史のなかには、そのような「今」という時間が、ゆっくり座りこんでいます。本を読むというのは、そのような「今」を、じぶんのもついま、ここにみちびくこと、そして、その「今」を酵母に、一人のわたしの経験を、いま、ここに醸すことです。

  歴史上の過去の人物が書いた事柄は、その当時においては「今」現在であったわけです。それを現在の私が読むということは、その過去の「今」を現在の「今」に置き換えて、あるいは過去の「今」から学んだことから、現在の「今」を見つめなおすという作業があるわけです。それこそが、「本を読む」ことの魅力の一つです。

 私が時々読み返す本の一冊に内村鑑三の『後世への最大遺物』があります。この本の中には、誰に頼まれたわけでもなく、隣人たちのために山を掘り、水路を作った兄弟の

話が出てきます。彼らは名も知られることなく、死んでいったわけですが、このようなことは「われわれを励ます所業ではありませんか」と内村は語ります。数百年前のできごとが現在の私を励まし、「今」を考えさせてくれるわけです。

最後に、さきほどの長田弘さんの『すべてきみに宛てた手紙』のなかからもう一つ紹介します。(同書33ページ)

読書するとは、偉そうな物言いをもとめることでも、大それた定理をさがすことでもなく、わたしをして一人の「私」たらしめるものを再確認して、小さい理想をじぶんで更新するということです。

 それぞれが小さな理想を胸に掲げていけば、社会も少しずつよくなっていくのではないでしょうか。

2022年4月17日日曜日

learning, unlearning, and relearning

  教員養成大学で教えている教授から、以下のメールをもらったことが、上の三つのlearningについて考えるきっかけを与えてくれました。すでに、最初のlearningよりも、その後の二つのunlearningrelearningの方が重要な段階に入っているように思うからです。

私が日本の教育で脱却すべきは教科書中心主義だと思っています。教師自身がオリジナル教材をどんどん工夫すべきです。国際バカロレアをはじめ、海外では検定教科書がない分、教師自身が生涯学習者たり得ます。団塊の世代が抜けて、若手教師ばかりになり、しばらくは教科書を使ってしっかり授業できるようにはなってほしいです。が、3年目くらいからはオリジナル教材が作れるようになってほしいです」

あなたは上の文章を読んで、どのような感想・印象、疑問・質問をもたれましたか? ほんとうに、この教授が書いていることは実現するでしょうか? 実現させるために、養成課程ですべきことはなんでしょうか? 現職研修ですべきことは?★

 あなたは、養成課程や現職研修で、自分が生涯学習者になるためにどのようなサポートを受けましたか? 何を学ぶべきかの情報提供は結構あった/あるかもしれませんが、どう学ぶのかに関しては決定的に欠落しているのではないでしょうか? (この点は、最初に紹介した大学の教授の盲点にもなっています。「何を」(教科書を含めて「教材」)ばかりにこだわりすぎるのが日本の養成課程であり、授業であり、現職研修の特徴です! あたかも、教材以外に考えるものがないかのように。「どう」学ぶかの広がりがないので、アクティブ・ラーニングも、個別的な学びも協働的な学びも、20年前の「指導と評価の一体化」もいっこうに実現しない状態が続きます。これも、次に紹介する「unlearn, and relearn」の欠落に原因があります。

未来学者のアルビン・トフラーは大分前(確か、『未来の衝撃 : 激変する社会にどう対応するか 1970年の中で!?)に、「21世紀における無学な者とは、読み書きができない人ではなく、学べない人、間違って学んでしまったことを捨て去れる人、そして、学び直せる人である」と言いました。原語では、「learn, unlearn, and relearn」です。最初の、学べないというか、継続的に学び続けられない人であることは、すぐに納得できますが、後の二つは、世の中の変化が加速化するなかでは特に重要になります。そして、これら二つの大切さはわが国(特に、教育界)ではまだ認識されているとは言えません。

 これら三つの学び方を実現するための方法にはどんなものがあるでしょうか?

1.マインドセット(見方・考え方)を変える

 イギリスのある教育学者が、「すべての教師が、自分たちは教え方がよくないからではなく、さらによくなれるから改善し続けると思えるようになれば、私たちが達成できることに限界はない」と言っていました。

 今の世の中で「unlearning relearning」が求められているのは、教師だけではありません。多くの人が、これが当たり前の状況なりつつあるのです。生徒の場合は、とくに従来の教科書を覚えることでいい成績を上げていた者が、従来の教科書/教師中心の学び(正解あてっこゲーム)から、探究/プロジェクト学習やワークショップによる学び方にシフトすることによって、真の意味で「learn, unlearn, and relearn」することが求められます。そのためには当然、教師もその体験者である必要があります(というか、「learn, unlearn, and relearn」のサイクルを何度も回し続けている人であることが! もはや、教科書をカバーすることで教えているとは言えない時代です)。

2.以前ほど生徒を助けない(手を差し伸べない)

 教師としてのアイデンティティー(仕事)として、これまでは生徒たちを助け、答えを提供し、問題を解決してきましたが、それをすることで、自分たちが他の人から学べるチャンスを失うと同時に、他の人が学ぶ能力を身につけるのを奪ってきました。これまでのように救済するのを控え、自分の役割と採用する方法にもっと戦略的になる必要があります。

 私たちは、生徒の問いに対して「答えを分かりませんが、あなたと一緒にぜひ学びたいです」と言える勇気をもつ必要もあります。そして、自分が教えたり、話したりする時間を減らし、生徒の言うことに耳を傾ける時間を増やす必要があります。

3.たくさんの質問をする

 これは、従来の自分がすでに答えを知っている発問ではなく、自分も答えを知らない問いを発することを意味します。そのためには、自分の好奇心★★や想像性・創造性を活性化させる必要があります。(教科書をカバーする授業によって、それらはほとんど萎えてしまっている可能性が高いですから!)

 あなたが、「unlearning relearning(間違って学んでしまったことを捨て去ったり、学び直したり)」する重要性を認めたとして、何を捨て去ったり、学び直しが必要だと判断するにはどうしたらいいのでしょうか?

 

★ 最初から教科書なしで教えられるように、養成課程でしっかり体験していないとダメです!(それが言い過ぎなら、教科書を参考書程度に使いながら教えられるように、より楽しい、生徒たちがイキイキする授業ができるようにしないと、いったい教師になってから、どこで、それを体験して、そんな教え方自体があり得ることを知るのでしょうか?)体験するには時間がかかりますし、その体験を自分のものにしていくにはさらに時間とサポートが必要です。

★★ この好奇心を失ってしまってしまった集団としての教育に従事する人たちという側面が否定できません。教科書(あるいは、それに代わる何らかの「教材」)がすべてだと、正解を教える側はすでにもっていることになりますから、好奇心が満たされた状態というか、消えてしまった状態を意味します。教師が正解をもっていない状態でこそ、好奇心や想像性・創造性は発揮できるのです! これらを萎えさせず、維持し、活かすための最適の本が『「おさるのジョージ」を教室で実現 ~ 好奇心を呼び起こせ!』『教育のプロがすすめるイノベーション ~ 学校の学びが変わる』ですので、参考にしてください。

参考:https://www.edutopia.org/article/3-keys-evolving-lifelong-learner

 

2022年4月10日日曜日

親ともいっしょに保護者会をつくろう

前回、「先生同士で学年開きをやろう★」では、先生たち同士が気軽に話し合える関係性を築き、子どもたちをどんなふうに育てていきたいのか、願いを共有することから始めるために、新学期に向けた「先生同士の学年開き」を紹介しました。

 

PLC便り「先生同士で学年開きをやろう」

http://projectbetterschool.blogspot.com/2022/03/blog-post.html

 

今回は、その保護者編です。私たち教師が悩まされもすれば、励まされもするのが保護者との関係。子どもたちの教育に親が効果的にかかわることは、その場しのぎの教育改革よりも確実に変化をもたらす可能性を持っています。子どもたちを育てるために、一緒に支え合っていくのが学校と家庭。新年度に、その関係性づくりをしていきましょう。

 

膨大な学級事務と新学期準備に追われた4月の始め。そのままの勢いで保護者会に突入してはもったいないものです。子どもたちの成長へとつながるように年間を見通し、保護者と教師、保護者同士がどのように関係をつくれるか計画が必要です。

 

年度が進むにつれて、1学期はほぼ100%に近かった保護者会でも(PTAの役員決めがあるから!?)、年度が進むにつれて参加率は一気に下降し、ほんの数人の年度末。どうして参加人数が減っていくのでしょうか。単に保護者会がつまらない、または刺激を受ける場になっていないからではないでしょうか。配れば済む資料を読み上げること、学校で困っていることの報告事項など、そんな話を聞かされ続けてくれば、保護者会自体にわくわく期待するどころか、PTA役員の決める場程度しか認識されなくなり、それはとても残念なことです。

 

私の学校では保護者全員と一同に会するのは1学期に3回、2学期に2回、3学期に2回の計7回です。7回も一緒に活動ができる時間があるのです!年間を通して保護者の願いとコミュニケーションを深める練習のチャンスと捉えてみませんか? 一年間終わる頃には全員が仲良くとまではいきませんが、お互いを知り合い少し緊張がほどけて話し合える関係に進むものです。それが保護者との協働のベースとなり、日常の子どもへの関わりや学びの支えの授業の素地となっています。

 

1回目の保護者会は、PTA役員を決めたり、年間の学習計画を伝えたりやることも多く、じっくり時間をとることが難しいものですがやってみる価値はあります。ウォーミングアップに「4つの窓で自己紹介」(A4用紙を4つに折りにしたそれぞれの部屋に「子どもの頃呼ばれていた名前」「私のスキな○○」「我が子のいいところ、すごいところ」「今年、子どもたちに成長してほしいこと」)で4人ほどで一つずつ紹介し合い、話しやすい雰囲気をつくります。その後のPTA役員決めも毎回がスムーズとまではいきませんが、温かい雰囲気の中で進められていきます。そこで出てきた「子どもたちに成長してほしいこと」集めておいて、今度に話し合うテーマの一つとし、引き続き次回の保護者会からでも、子どもの成長のために親ができそうなことを考え合っていきます。

 

ここ数年、コロナでオンラインの開催となることが多かった保護者会ですが、社会状況に応じて柔軟に対応していきましょう。大まかな流れは毎年以下のようになっています。

 

 1回目「4月の保護者会」:顔合わせ、自己紹介、子どもたちへの願いづくり。

 2回目「6月の土曜参観」:保護者同士で課題解決のアクティビティで関係づくり「タマゴ星人救出大作戦~大火事編~★」、子どもたちへの願いの合意形成

3回目「7月の保護者会」:保護者からの願いを活かした、夏休みの関わり、できそうなことリストづくり

4回目「9月の保護者会」:夏のふりかえり、課題解決のアクティビティで関係づくり「パイプライン★★」


★★甲斐﨑 博史『クラス全員がひとつになる学級ゲーム&アクティビティ100』(ナツメ社)にある協力するアクティビティがオススメです。


 5回目「12月の保護者会」:冬休みの関わり方、傾聴練習、

 6回目「1月の保護者会:冬休みの様子、子どもたちの学習経験(自主学習ノートなど)

7回目「3月の保護者会」:親子で一緒に活動、そのふりかえりと一年間の願いと成長した点や課題点

 

もちろん毎回の保護者会では、学習の様子や生活の様子など子どものエピソードを踏まえて紹介しますが、必要な連絡事項も含め、あまり長すぎないようにします。PTA役員さんからは事前に伝えて欲しいことは書面にして教えてもらうとスムーズに進みます。

 

このように、保護者からの願いや親同士のコミュニケーションをねらいとしただけではなく、本質的な学び、親と教師が「読み・書き」を含めた多様なワークショップを毎月、組織する取り組みもあります。それらは親同士の一体感を強めるだけではなく、親自身の学びへの情熱を新鮮なものにしてくれます。ワークショップの学びで親と教師が学び会う学びの場をつくる実践は『ペアレントプロジェクト★★★』にその詳細が紹介されています。ぜひ参照してみてください。


★★★ジェイムズ ボパット(著)・ 吉田 新一郎他 (翻訳)『ペアレント・プロジェクト学校と家庭を結ぶ新たなアプローチ』(新評論)

 

私も、10年ほど前は保護者と読書ワークショップを月1回開催していました。みんなで同じ本を読んで感想を述べ合うブッククラブと読んだ本をブログで紹介しあうリレー方式の読書ブログに数年、取り組みました。


それまでは保護者対応に終われて見えなかった、子どもたちの成長の支えとなってくれる保護者との出会いがたくさんありました。その経験は今でも宝物です。新年度が始まります。保護者との協働をいかにつくるか、ぜひ取り組んでみてください。

 

親は、子どもにとって一番最初の先生であるばかりではなく、実践を通しての先生でもあり、生涯にわたって影響を与え続ける存在です。臆せず、つながっていけるといいです。

2022年4月3日日曜日

パートナーシップに根ざしたリーダーの時代

いつの時代にも、さまざまなタイプのリーダーがいた。権威主義的なリーダーもいたし、民主的なリーダーもいた。学校は、民間企業などに比べると、比較的フラットな社会であると言われており、そこでのリーダーシップのあり方は、まだ確立されたものはないようにも思える。

我が国の学校における、学校リーダーがリーダーシップを発揮しやすい環境を整えようとする動きはあった。2000年の「学校教育法施行規則」の一部改正による職員会議の法的位置付けが規定されるなどの法改正だ。

現状で、日本の学校リーダーは望ましい方向に変わってきているでしょうか?

今後の学校リーダーシップのあり方を考えるうえで、参考になりそうなのが「パートナーシップの原則(The Partnership Principle)」だ。この考え方を主唱しているジム・ナイトは、教育コーチングの研究者であり実践家だが、著書の中で次のように述べている:

「パートナーシップの原則は、実行するには難しさもある。なぜなら、それはリーダーに権力を放棄することを求めるからである。多くの人はそれを望まない。しかし、トップ・ダウン型のリーダーは、その地位によって権力を得てるに過ぎないが、パートナーシップ型のリーダーの権力にはより価値があると言える。なぜなら、人々が自ら望んで、そのリーダーを支持したいと考えるからだ。」(p.177)★ 

ナイト氏が提案する「パートナーシップの原則」は、次のとおりだ:

平等性: 全て人に同等の価値がある。
 
選択:自分自身で選択できることで主体性が生まれる。

声:相手の意見や感情を理解し、共有しようと努める。

対話:対話の中で、影響しあい、学び合う。

振り返り:より深い省察によって学ぶ。

実践:教室(実践の場)において最もよく学べる。

相互主義: 一方が他方を教えるのではなく、お互いに学び合う関係となる。

この原則は、学校コーチングが成功するための、不可欠な原則として提案されているが、学校リーダーが職場や地域で、良い人間関係を築き、学校づくりを進めるうえでも、参考となることが多いのではないだろうかと思う。

特定の価値観を、一方的に教え込むことに価値があった時代は終わった。トップダウンでものごとが、決まり、動いていけばすむほど、教育という営みは単純とも思えない。

学校に関わるすべての人が、パートナーとして、協働し合いながら歩んでいく。そういった新しいリーダーシップが求められる時代になっているのではないかと思う。

★ 出典をお知りになりたい方は、pro.workshop@gmail.comに連絡ください。