2019年12月28日土曜日

イノベーションを起こせる組織とは

    イノベーションを起こせる組織とはどのようなものか。山口周さんによるとその要因の一つは「人材の多様性」であると言います[1]。この人材の多様性は、「考え方の多様性」「意見の多様性」につながるものです。また、ただ人材の多様性が確保されていればよいかと言うとそうでもなくて、大切なことは「多様な意見」を促す組織運営に関するリーダーシップです。このようなマネジメントはますます学校という組織で求められていくものだと思います。

『次世代スクールリーダーのための「校長の専門職基準」』という本があります[2]。このなかに「基準1」として次のように書かれています。 

「学校の共有ビジョンの形成と具現化」小項目1「情報の収集と現状の把握」
校長は様々な方法を用いて学校の実態(児童生徒の学習・生活、教職員の資質・能力や職務の実態、保護者・地域からの期待、地域社会の環境、これまでの経緯など)に関する情報を収集し、現状を把握する。 

実態の把握、現状分析はまずマネジメントの出発点で重要な要素です。そのために、自ら求めて、様々な立場の人とコミュニケーションを図り、日頃から学校内外の情報を取りに行かなくてはなりません。それを校長室で待っているだけではご機嫌伺の部下からの耳触りの良い情報しか入ってこないのです。それでは、校長として学校経営の大切な場面で、判断や指示を誤ることになります。人には残念ながら二面性があり、自分の利益を優先する姿を表面的には隠していたり、相手への嫌悪感や嫉妬などを笑顔の下に隠したりしているものです。それを見抜くことは難しいことですが、絶えずその二面性を意識しながら話を聞くという心構えがリーダーには求められるのではないでしょうか。 

また、最近出版された『先生、この「問題」教えられますか?[3]では、高校の職員会議の様子を再現するということで、次のように紹介しています。議題は「新学習指導要領による2022年以降の高校のカリキュラムをどうするか」とのことです。そこに描かれた会議の冒頭のあいさつと最後の締めくくりとしての校長の発言は以下のようなものです。 

「今日は、2022年以降から実施される高校の新学習指導要領について皆様の意見をお聞きしたい。生徒たちにとって大変重要なものであると認識しているので、しっかりと議論をしたうえで、本校の独自性が感じられる内容にしていきたいと考えている。」
「今日は、活発な議論をありがとうございました。カリキュラム改訂は、「学校」としては教育の根幹を担う重要なものと考えておりますので、今後も皆様のご意見を聞きながら検討していきたいと思います。」 

これを読まれてどのように感じられましたか。
この類の話は学校ではよく聞く話かもしれません。しかし、考えてみれば、このような話では、校長が学習指導要領の改訂をどう受け止めているかわかりませんし、この学校でそれをどう展開したいのかが全くわかりません。学校の現状を踏まえたうえで、学習指導要領が求めているような生徒を育てていくためには、「何を」「どうやって」いけばいいのか、具現化するための道すじを示す必要があります。その過程で、職員の多様な意見を拾いながら、活かせるものは提案として活かしつつ、具体的な方針を示すことで、学校が組織として動き出すことになります。
結局、このようなマネジメントが行われないために、ただ表面上「やっているふり」をするだけの状態が続くことになるのです。これでは、いくら学習指導要領で次世代の教育方針を示したところで、学校現場で効果をあげることは難しいと思います。

本来、校長会、教頭会はチャレンジ精神のある会員をサポートする役割を担うべき組織のはずですが、これもまた年間の様々なイベントをこなすだけの組織になってしまっています。米国にも校長で構成する職能団体がありますが、ここには学校経営に役立つ情報やサポートがふんだんにあります。
この彼我の差を埋めるための情報提供もこのブログの目的の一つです。ぜひ、『教育のプロがすすめるイノベーション』(新評論2019)をまだお読みでない先生方には手に取っていただきたいと思います。改革のための道すじがはっきりと見えてきます。学校にはICT教育など取り組まなければならないことが山ほどありますが、それを仕方なく、「やらされているという意識」で取り組むのと、自ら主体として取り組むのとでは天地ほどの差があります。 
今年一年このブログの記事をお読みいただき、ありがとうございました。
また、年明けからも引き続き、皆さんとともに、「学びの共同体」づくりを考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

[1]山口 周『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』光文社新書/2013
[2]日本教育経営学会実践推進委員会編『次世代スクールリーダーのための「校長の専門職基準」』花書院/2015
[3]石川一郎・矢萩邦彦『先生、この「問題」教えられますか?』洋泉社/2019

2019年12月22日日曜日

新刊『だれもが<科学者>になれる!』



 サブタイトルは、「探究力を育む理科の授業」ですが、探究の授業に興味のある方には必読の本です。探究の本質がわかる内容になっているからです。それを図で表すと、次のようになります。

 この図を記憶にとどめたうえで、4人の読者(この本の下訳を読んだ協力者=「科学者の時間」に取り組んでいるメンバーたち)の感想をお読みください。

◆井上太智さん(元公立中学校の理科教師、今年度から私立小中一貫の教師)

すべての子どもは科学者である ~ そういわれて素直に頷けるでしょうか?
あなたの生徒たちは、理科を暗記教科だと勘違いしていませんか?
もしくは、実験をレシピの決められた料理のようにこなしてはいませんか?

もしそうだとしたら、教師であるあなた自身の授業がそうさせているのです。
まさか、すべての子たちが、教科書と同じ順序で、同じペース、決められたやり方で学んでいるなんてことはありませんよね?

その時、学ぶべき内容は生徒一人ひとりの心の中(問い)にあるものです
しつこいようですが、質問を続けます。

あなたの授業では、教師が想定していたこと以外のことが起こりますか?
それに感動したり、新たな発見があるでしょうか?

極めつけは、
実験の失敗に「よーし!燃えてきたぞ!」とワクワクするような子たちが育っているでしょうか?

科学者は学び、探究する足を止めないのです。
たくさんの質問をしましたが、いずれも簡単ではないことはわかっています。
しかし、私たち教師がまず新しい授業への一歩を踏み出すべきではないでしょうか?

この本には、そのためのヒントがたくさん詰まっています。そして、科学者としての子どもたちの姿がそこにあるのです。

これから、あなたと出会うたくさんの子どもたちが「科学者」としての本来の力を発揮することを祈っています。
そして、教師であるあなた自身もそのうちの一人です。
一緒に探究の旅をはじめましょう!


◆青木孝史さん (私立中高一貫校の理科教師)

まずは、臨場感が素敵です。本を読んでいるだけで、ピアス先生の
教室に座って、自分も授業に参加しているような気持ちになりました。
これが、自分が「科学者の時間」の取り組みをしているからなのか、
それとも、理科の教員だからもつ気持ちなのかは、わかりませんが、
とても不思議な気持ちでした。

あと、生徒を一人の人間としてみることの大切さを感じました。
定期購読している「教育」の最新号が
『学校スタンダードと無寛容(ゼロトレランス)』という特集でした。
ななめ読みしかしていませんが、生徒を一人の人間として扱い、
勝手に、「小学生はこんなものだろう」という決め込みをしない
ピアス先生のような授業をすれば、たちどころに、これらの問題が
解決するように、思えました。
ただ、全国の先生方が、ピアス先生のような立ち位置になることは、
簡単な事ではないと思います。できることから始めて、世の中を変える
初めの一歩を踏み出したいと思いました。

また、選書の重要性も感じました。「科学者の時間」のメンバーに
すすめられた『生命と燃焼の科学史』『植物はなぜ動かないのか』
『バッタを倒しにアフリカへ』『生物と無生物の間』も、とても
面白かったです。
こうした本をどんどん知ることで、理科室の書棚を充実させ、
読書から探究にも、行けそうな気がします。

また、ピアス先生の実践を真似しやすいように、記録を残している
ことにも驚きました。少しずつ改変しながら、明日からの授業で
使えそうなワークシートがたくさんありました。
「子ども探究学会」の進め方も同様です。
同じ志を持っている人であれば、読むだけでそのピアス先生と
通じ合えること間違いなしだと思います。


◆梅健さん(元公立中学と高校の理科教師、現在小学校の教頭 ~ 理科の授業はしている)

・多様な実験方法を学びました。
・植物育成用のライトがあることを知りました。日本でも2~3000円で買えることがわかりました。来年から使いたいと思います。
・ミールワームを使って実験できそうです。
・生物の調査をやります。
・以前勤務していた高校では、敷地内の生物調査をして、記録を付けていました。これをやります。
・発見ボックスをつくる。電磁気学の発見ボックスを作れたら最高です。


◆内山智枝子さん (私立の高校の理科教師)

・読み終わって一番自分の中に広がる思いは、生徒は科学者であることを認めるだけでなく、共に探究を楽しむ同志でありたいということです。生徒と教師で肩書は異なりますが、自然の事物や現象と向き合う気持ちや能力において、どれだけ差があるというのでしょうか。教師は少し先を生きて、少し物事を知っているに過ぎません。失っているものもあります。しかし私自身、私たち教師自身が能力の限界を暗示されるような教育を受け、同じように目の前の生徒を限界のある存在として扱っているのだと思います。一条校に勤務する自分が置かれている状況を知る為に、次期学習指導要領が何を目指しているのかを多少探り、比較を意識しながら読みました。『だれもが<科学者>になれる!』との一番の大きな違いは、子どもは子どもであって、教師を超えることがない、という前提が学習指導要領にはあることだと思います。コントロール色はそのままです。これは国として意図的に行っていることなのでしょうか? 行動だけでなく思考さえも従順な国民である方が、国にとっては都合が良い、ということなのでしょうか? 特に、評価に関しては、マインドのシフトチェンジが必須だと思います。文科省はまずは実施してから評価に関して言及するという方針である、という話がある研修会で聞きました。形だけでない探究活動を行うためには、評価方法の問い直しも同時並行で必要だと思います。評価の章、気になります。
・『だれもが<科学者>になれる!』の下訳と出会った当時、とてもつらい状況にいました。伝授型一斉講義を前提とした時間割が組まれ、伝統的な評価方法が求められていたからです。だからと言って、完全に諦めるつもりはありませんでした。『だれもが<科学者>になれる!』に励まされたからです。
・校種が違っても、具体的に導入しよう、役立てようという方法に関する情報を、入手することができると改めて思いました。
<内山さんは、この後、自分の実践を某出版社が主催する実践記録の募集に提出し、みごと特選を受賞しました! この件については来月紹介します!>

 ちなみに、ピアス先生の実践は小学校5年生を理科の授業を対象にしたものです。しかし、上の感想から読み取れるように、中高の先生方が大いに刺激を受けていますし、他教科(国語、社会、算数・数学はもちろん、専科も)の先生が読んでも得るものはきわめて大きいです。
 教師が教えたいこと(教えなければならないこと)と、生徒がよく学べること(主体的に取り組んで、身につけること)のバランスを考えさせてくれ、それを実現するための手立てが満載だからです。

本ブログ読者への割引情報
定価          2640円のところ、  
PLC便り割引だと 1冊=2200円(送料・税込み)
3冊以上の注文は 1冊=2000円(送料・税込み)です。

ご希望の方は、①冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 
pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので(特に、年末年始の忙しい時期を挟みますので、年明けの到着になる可能性もあることを)、予めご理解ください。



2019年12月13日金曜日

浅い理解と深い理解から新しい知識をつくるSOLOタキソノミー

SOLOタキソノミーという考え方の分類を聞いたことがありますか? Structure of Observe Learning Outcome :SOLOの略称、「観察学習結果の認知処理分類構造」と呼ばれるものです。1970年代から80年代にJohn BiggsKevin Collisという二人のオーストラリア学者が教育のエビデンス(科学的根拠)を元に提唱したものです。

SOLOタキソノミーとは、人の理解を4つの段階で分類した階層図(タキソノミー)のことです。人が知識を獲得する際に、浅い理解である【単純】な思考から【複雑】な多構造の思考へと発展します。そこから深い理解であるそれぞれの【関係性】から、他の領域への【拡張】へとしだいに複雑化して、新しい概念や世の中の成り立ちを理解していきます。




SOLOタキソノミーの4分類
⓪【Prestructual :知識前の状態】まだ何も知らない状態、または思い込みなどのまちがっている思考段階

物理的で具体的な浅い理解
①【Unistructual :一つの考え・単一構造】課題の1つの側面だけが取りあげられる思考の段階。例「太陽から最も遠い惑星はどれですか?」
②【Multistructual: 複数の考え・多構造】課題について2つ以上の側面で取り上げられ、対象とする量が増え複雑化している思考の段階。しかし、まだそれぞれは相互に関連していません。「地球に最も近い惑星はどれですか?3つ挙げましょう」

複雑化される深い理解
③【Relational :関連する考え・関係構造】全体に一貫した構造と意味を持つように、関係性をみつけて統合していく思考の段階。「太陽からの距離と惑星の温度関係を説明しましょう」
④【Extended/Abstract :拡張する考え・拡張・抽象化構造】一貫性のある関係構造は、より高いレベルに一般化されます。未経験な問題解決へと思考を活用する段階。「太陽に対する地球の位置を考えると、地球の気候と季節にどのような影響を与えますか?」



これを算数問題に適用すると以下のようになります。



①【一つの考え・単一構造】「図のようなマッチ棒3軒の家には、何本のマッチ棒が必要ですか?(答え13本)」図に示されているマッチ棒を直接数えることで簡単に解決することができてしまいます。

②【複数の考え・多構造】「それぞれ家に必要なマッチ棒の数はいくつですか?(答え5本)」ここでは、それぞれの家の棒を数える必要があります。ここでは家とマッチ棒の数の関係性を導き出すためにまだ情報を集めている段階です。

③【関連する考え・関係構造】「53つの家を作るにはマッチがいくつ必要ですか?(答え213本)」マッチの数が増えていくと、直接数えることが困難になります。そこでマッチの数にきまり(パターン)を見つけ、4本ずつ増加することに目をつけます。

④【拡張する考え・拡張・抽象化構造】「マッチの数を□で、家の数を○で関係を式に表しましょう(4○+1=□)」どんな場合でも当てはまるように式で表現します。これによりどんな家の数でも全ての場合において、問題解決できます。

このSOLOタキソノミーに当てはめて考えることを複雑化していく手順は、なかなかわかりやすいと思いませんか? この問題がもつ数学的な構造(パターンや特徴)を式で明らかにして数学的に一般化をするよい見本です。

しかし、実際の授業において、生徒は「浅い理解」をカバーすることが重要であると思っているけれど、教師自身は実は「深い理解」を教えているつもりになっています。教師の質問の60%が事実の再生、20%が作業手順を答えさせる「浅い理解」に関するものであり、生徒に思考を求めるものはたったの20%に過ぎませんでした。多くの教室ではこの「浅い理解」が教えられ、「深い理解」まで使って本当に教えられていないことが問題視されています。ペーパーテストの評価においては、30%の「浅い理解」と30%の「深い理解」をバランスよく取り入れて出題することも推奨しています★★★。

この分類表は、学習を次のステップへ進むための見通しを示しています。最初の「浅い理解」が土台となり「深い理解」を生み出します。深く考えるための浅い材料なくして思考は深まりません。この「浅い理解」と「深い理解」は、学習する文脈や学習者の知識体系に関連して理解する必要があります。より挑戦的な問題で難易度の高い思考を要求することによって、この「浅い理解」と「深い理解」を通して、新しい概念を自分の中に作り上げ、知識や現実世界への打倒な枠組みをよりよく構築していくことができるのです。

このSOLOタキソノミーを使うことで、あなたが教える学習目標を段階的に定めることができます。さらに、思考をより複雑にするために複数の資料を用いることもできるでしょう。この表を意識しながら授業づくりを見直してみるのはどうでしょうか?



★この資料は英文ですがThe SOLO TAXONOMY Abstract - e-asTTleで検索するとPDF資料で読めます。分かりやすいものとしては動画もあります。こちらも英語ですがテロップをつけて観るだけでもわかりやすいかと思います。

★★2001年に改訂版がAnderson, Krathwohlにより出されました。ブルームの6分類の2番目「知識」の次元を4段階(事実的知識、概念的知識、手続き的知識、メタ認知的知識、)に細分化され、SOLOモデルと類似した設定がみられます。ちなみに、ブルームの最初の2分類(記憶と知識=理解は低次の思考スキル、応用、分析、統合、評価は高次の思考スキルと言われています。授業で時間を費やしているのは、どのレベルでしょうか?

★★★この論文が出た当初はそれぞれのバランスが25%となっていましたが、最近では30%に落ち着いたようです。

2019年12月8日日曜日

子どものエンゲイジメント以上に大切な教師のエンゲイジメント


生徒のエンゲイジメント(夢中で取り組むこと)の大切さについては、https://projectbetterschool.blogspot.com/2015/03/blog-post_15.html
で触れました(し、『教育のプロがすすめるイノベーション』の第6章で詳しく扱われています★)が、より重要な(というか、その前提になる)教師のエンゲイジメントについてはまったく抜かしてしまっていました。

あなたは、自分の仕事(教えること)にどれくらい夢中で取り組めていますか?
次の3択で答えてみてください。
1) 夢中で取り組めている(常に、新しくてより良い方法を模索している)
2) 仕事には満足していても、自分の時間を使って研鑽しようとはしていない。もはや教えることを自分の情熱とは思えていない。
3) 仕事に満足しているところが見られないし、やる気も失っている。良くしようとする者の「足の引っ張り役」になっている。

あなた自身は、1)だと思いますが、周辺にいる先生たちを見渡すと、1)~3)は何割ぐらいずついるでしょうか?
アメリカのある調査によると、なんと3割、6割、1割という数字が出たそうです。3)に教えられたり、同僚にもったりした教師は悲惨です。そして、圧倒的多数の2)の教師にもたれた生徒たちも不幸です。日本でいえば、つつがなく教科書をカバーすることに焦点を当てている教師がこれに当たると思います。単に教科書をカバーされるレベルで、その教科が好きになったり、自立した学び手になったりする確率は極めて低いですから。

しかし、より大切なことは、いったいどうしたら教師のエンゲイジメントの(夢中で取り組む)レベルを上げることができるかです。

教師にとってのエンゲイジメントの定義は・・・自由裁量のある時に、生徒の学びの質と量を向上させるために自分を磨く、同僚や学校に貢献すること、と言えると思います。

セルフ・チェック・リスト:
 ・自分は成長しているが、限界を感じるほどではない。
 ・他者を肯定的に認めるようにしている。
 ・同僚や生徒の成長を週ぐらいの単位で積極的に励ますようにしている。(もちろん、自分に対しても!)
 ・自分が好きな仕事を毎日選択して行っている。
 ・自分の仕事を日々改善するエネルギーがある(自分の仕事を改善し続ける努力をしている)。
あなたは、上の図のどの象限(Quadrant)にいますか?
第3象限も決して悪くはありませんが、一番魅力的なのは、第1象限です。
左半分の状態で仕事をし続けることは、かなりつらいものがあります。そしてそれは、確実に生徒たちに伝播します。

第3象限に流されず、第1象限に留まるための方法としては、
1) 元気にしてくれる人と一緒にいるようにする。
2) 元気にしてくれるイベントに参加する。
3) よく食べて、動いて、寝ることに注意を払う ~ 元気を維持するベース
4) 元気にしてくれる仕事の環境をつくる
5) 仕事以外で、自分を元気にしてくれる余暇の活動をもつ
などがありますが、他に、あなたがすでにしていることはありますか?


★ 残念ながら、日本で行われている授業の多くは、まだ生徒たちが夢中で取り組む以前の「従順、服従、忖度」の練習の場となっているようです。生徒たちがエンゲイジする授業に、そしてさらにエンパワーする授業を目指してください。そうでないと、生徒たちがその教科を好きになり、かつ「主体的で自立した学び手」になることはありませんから。『教育のプロがすすめるイノベーション』には、そのための方法が具体的に書かれています。

2019年12月1日日曜日

授業観察・授業参観から何を学ぶか

ほとんどの学校で、授業参観、授業観察の機会があると思う。同僚の授業を見たり、他の学校の教員の公開授業を見ることもある。また、自分自身が授業者になることもあるだろう。

自ら進んで授業を公開しようとする人もいるが、授業を公開することはストレスフルで、負担になると感じる人も多い。また、事後の協議でも、たくさん意見が出されても、それが効果的に授業者の成長につながらない場合もある。

授業観察は、評価のためではなく、成長のためであるべきだと言われる(教員養成段階では評価も必要)⭐︎。どうせ実施するのであれば、授業参観や授業公開を少しでも有意義ななものにしたい。そこで、学校を、教師の学びのコミュニティーにできる授業参観の方法を、Harmer(2015)の「授業公開、授業参観のこれまでとは異なるやり方(Different ways of observing and being observed)」(pp.129-132)から考えてみたい。

1 焦点化すること
授業後の協議のテーマを1〜2つの項目に絞る。例えば、英語の授業であれば、「生徒と教師の英語でのやりとり」「エラーの訂正」などに絞る。授業参観者は、授業で観察した全てのことを議論の俎上に載せたがる傾向がある。その結果、協議は総花的なものになりがちで、授業者にとって意味のあるフィードバックとはならない。思い切って、テーマを絞ること、この"Less is more.(少ないことは豊かである)"を実践することで、より深い議論が可能になり、授業についての新しい考え方が生まれる可能性が出てくる。

2 参観者に焦点化する
授業参観を、参観者の成長という視点で実施する。もちろん、授業者の成長が第一義だが、その授業から参観者が何を学びうるかを大切にする。観察した授業の優れた点や価値を、自分のものにしようとする試みであると言える。他者の授業を通した、自分自身の授業実践の振り返りとも言えるだろう。(「仲間による省察的授業観察」[reflective peer observation]とも呼ばれるらしい)。

3 学びが継続されるような工夫 
参加者全員が、主体的に関わることができて、楽しい学びの機会になるように工夫したい。明るく、前向きなムードで終えることができるような流れを作りたい。そして、それが継続的な学びにつながるように仕組んでいきたい。一回限りのイベントにしないことが大切だ。

授業参観・授業観察自体はずっと以前から続けられてきた方法である。我が国の教員研修や校内研修ではかなりのウエートを占める方法と言えるだろう。多くの人が「授業を見せ合うことは大切だ」と言うが、その具体的なノウ・ハウは十分に確立されているのだろうか。

私も、授業についての評価やコメントをもらってきた。同僚や現職の教員からは公開授業を通して。学習者からは授業評価などを通してである。それらの評価やコメントには、心から納得を覚えたこともあるし、小さな反発を覚えたこともある。しかし、それらが自分自身の力量形成に効果的に働いたかどうかは、ずっと、確信がもてないできた。

唯一、効果を実感できたのは、1)自分自身が問題意識や興味をもてた問題に焦点化した時 2)その後、ある程度の時間をかけて、授業の中で実践と省察を繰り返してきた時であったと思う。いただいた多くの評価やコメントは忘れてしまったが、その後、自分自身が主体的に取り組んだものは、血となり肉となったように感じる。

自分にとって大切な実践上のテーマを見出すきっかけとなったのが、授業参観だったように思う。

[文献]
⭐︎Jeremy Harmer (2015) The Practice of English Language Teaching, Pearson. (ジェレミー・ハーマー『英語教育の実践』ピアソン).

2019年11月23日土曜日

PDCAサイクルの神話

この「PDCA」という用語をめぐってはいくつかの神話があるということを初めて知りました。社会方法調査論や組織社会学が専門の佐藤郁哉さんの著書『大学改革の迷走』ちくま新書2019.11に書かれていた内容を紹介します。同書の92ページから96ページにかけて次のような説明があります。

     使用言語に関する神話
×(誤解)PDCAは英語表現である→〇(事実)和製英語である
PDCAPlan ,Do ,Check ,Actionは通常アルファベット表記されます。そのため、これらは英語の略語と受け取られる場合が少なくありません。しかし、これは完全な誤解です。・・・・(以下省略)

     発案者をめぐる神話
×最初にPDCAを提案したのは米国の統計学者エドワーズ・デミングである
→〇提唱者は日本の工学者である
使用言語をめぐる神話は、PDCAサイクルの発案者をめぐる誤解と密接に結びついています。・・・実際には、PDCAサイクルは1960年代に、石川馨(東京大学教授を経て武蔵工業大学学長)と水野滋(東京工業大学教授)の両氏を中心とする日本の工学者たちによって提唱されていった手法なのです。・・・(以下省略)

     学問分野に関する神話
×経営学分野の学術用語である→〇生産管理や品質管理の分野で使われてきた経営用語である
『新大学評価システムハンドブック』(大学基準協会2009)には次のような解説があります-----「経営学で言われてきたPDCAサイクルとは、目標・計画を立て(Plan)、実行し(Do)、結果を点検・評価し(Check)、改善・見直しを行う(Action)といったプロセスを意味しています」。これは、明らかに事実とは異なります。・・・・(以下省略)

     国際的な認知をめぐる神話
×国際的に広い分野で高い評価を受けてきた→〇限定された分野で一定の評価を受けてきた
PDCAサイクルの図式は、1990年代後半から2000年代にかけてISO14001(環境マネジメント・システムに関する規格)ISO9001(品質マネジメント・システムに関する規格)などの国際認証規格シリーズにも取り入れられてきました。この点を根拠にして、PDCAサイクルが国際的に広い範囲で高い評価を受けてきた、という印象を与えるような解説がなされる場合があります。しかし海外では、認証規格や工業製品の品質管理の分野以外では、PDCAサイクルが取り上げられることはそれほど多くはありません。

     汎用性に関する神話
×広い適用範囲を持つ万能のマネジメント・サイクルである→〇特定の業務については有効である
日本では、PDCAサイクルをほとんどあらゆる業務に応用できる経営原理として扱うことが少なくありません。実際、PDCAが適用可能だとされる業務や課題の範囲は、企業活動だけでなく病院や学校の運営、資格試験のための勉強さらには「婚活」にいたるまで非常に多岐にわたっています。
これは一種の幻想に過ぎません。・・・(以下省略)
 
 どうですか。これが「PDCAサイクル」の神話です。
多くの組織がその出所をよく確かめもせずに、いわゆるコピー&ペースト「コピペ」をしてきたわけです。そもそもの適用範囲は工業製品の生産管理・品質管理の範疇でした。それを学校のマネジメントにまで拡大解釈して、果てはカリキュラム・マネジメントに応用することなど、もっともらしい話として語られてきたわけです。
先ほどの③に登場した大学基準協会のハンドブックにも書かれていました。学生にはコピペするなと言いながら自分たちがやっていたという笑えない落ちまでついてきました。この協会自身がPDCAサイクル(?)を回してこなかったことを図らずも証明したようなものです。
それと文部科学省です。最近、「PDCAサイクル」を呪文のように唱えてきた文科省自身がこのサイクルを回していたならば、この30年ほどの様々な施策がほとんど失敗するようなことにはならなかったでしょう。(もっとも彼ら自身は失敗とは認めないでしょう。官僚に誤謬はないそうです。)

これ以外にも、これまでの文教施策が迷走してきた理由が明解に説明されています。興味のある方はぜひ、佐藤郁哉さんの著書『大学改革の迷走』ちくま新書2019.11をお読みください。
また、審議会方式の意思決定のあり方がいかに恣意的なものであるかなどについても考えさせられることがたくさんあります。結論ありきで官僚の書いた筋書き通りに進められる政策決定のあり方を根本的に考え直す時期に来ています。
教育の世界で言えば、「中央教育審議会」における「教育には素人の人々」の思い付きの発言がいかに本質をゆがめているか、あるいは利益誘導とも思える大学入試をめぐる最近のさまざまな出来事など、その類の事例には事欠きません。まず、そのような事実を多くの人と共有することから始めるしかないようです。

2019年11月17日日曜日

教員研修や研究授業よりも優れた、教師にとっての学びの方法がある!


 『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』の増刷に際して、4人の実践者に「自分にとってのブッククラブ」について書いてもらいました。http://wwletter.blogspot.com/2019/11/blog-post_8.html
で、すでに二人分は紹介したので、こちらでは残りの二人分を紹介します。教師にとっての優れた学びの方法であることを理解していただけると思います。(「継続性」と「自分にとっての意味(こだわり)」などがポイントです!)

●岸陽介さん――「学ぼう! 変わろう!」とする組織・チーム・個人にとって、もっともシンプルで効果的な方法

言うまでもなく、本の読み方は一人ひとり違います。同じ本を読み進めると、その本のどこにヒットして、何を思い、考えるかが人によってかなり違ってきます。もちろん、その本の同じところに多くの人がヒットすることもあります。だからと言って、同じことを思い、同じことを考えるのかというと、やはり違います。当然と言えば当然のことですが、その当然さを日常のコミュニケーションのなかでどれほど大事にしているかと言えば、意外と【なおざり】にしがちとなっているものです。
だから、「学ぼう! 変わろう!」とすると組織・チーム・個人でブッククラブを行うことに意味があると言えます。ブッククラブを行うと、組織・チーム・個人のコミュニケーションの現状が明らかになるんです。問題点もそうですが、それ以上に、個々人の興味関心のあり方や得意なこと、そして才能などが明らかになります。それらを組織・チーム・個人が受け入れることによって、どういう方向に向かっていったらよいかも自ずと明らかになってきます。
イベント的な研修会をただ単に繰り返すくらいならば、ブッククラブを繰り返し行う方が学びも多いし、変化も大きいと言えます。また、定期的に行われる形式だった飲み会よりも、継続的な読み会(ブッククラブ)のほうが圧倒的にコミュニケーションの質は高まります。さらに、その後に活かされる確率も格段に高くなります。何と言っても、【しらふ】でやり取りをしていますから。

冨田明広さん――ブッククラブへの「かかわり方」と「学び方」

 もう一人の冨田明広さん(小学校の先生)の文章は、その長さもあって、本の「まえがき」には含められなかったので、本文に入れました。ここでも、その一部しか紹介できません。「読書が自分の成長にとって欠かすことのできないものであること」を知っていても、忙しくて時間が取れない自分、そして他の教師に、ブッククラブをすすめてくれています。
 冨田さんは、ブッククラブの効用を「かかわり方」「学び方」そして「仲間づくり」の3点から説明してくれています。

    かかわることで人を知るブッククラブ
 (ブッククラブでは)著者と自分、そして他の参加者の間で解釈の「ぶつかり合い」や「影響し合い」が生まれます。そうかと思うと、他の参加者が「仲介」や「橋渡し」をしてくれたり、「三つ巴」になったりすることもあります。著者と自分という二者間の対話では生じ得ない思考や動力が生まれるのです。
 彼が特別支援級を担任していた時に、高学年の女子生徒と「ペア読書(ブッククラブのペア版)」をした時の経験も紹介してくれています。
 本の内容はジェネレーションギャップのせいで(?)の連続でしたが、女子生徒の考え方や価値観には「なるほど!」と相槌を打つことができました。要するに、ブッククラブを通じてこの女子生徒とつながりをもつことができ、内面をうかがうことができたわけです。教育の現場において、これ以上の充実感はありません。ブッククラブは、一般的な読書よりも、相手とのかかわり方を高める一つのツールと言えます。

  自分にムチを打ち、相手に学びを促すブッククラブ
 まず選書ですが、ブッククラブの場合、一人ではなかなか読めないような分厚い本や、自分の嗜好ではなかなか手に取らないだろうという本などで行うと自らの学びを深めることにつながります...信頼できるメンバーに本を選んでもらうというのも面白いです。いずれにしろ、自分では手に取らないだろうなという本ほど新しい発見があるということです。
 ブッククラブを行う場合、当然、計画を立てることになりますので、その日までに頑張って読み切ろうとするプレッシャーが高まります...(他のメンバー)がいることによって弱い自分にムチを打って、よい意味でのプレッシャー、つまり「ピア・プレッシャー」がかかることになるわけです。内容に対する反応においても同じです。「ちょっとかっこいいことを言いたい」とか「相手が、『おっ!』と思うようなことを言いたい」など、カッコつけたいという欲求のおかげで、分厚い本でも頑張って読んでいこうという意欲が湧くのです。たぶん、みなさんも同じでしょう。愚かな「よく思われたい」という人の欲求を、学びへの意欲に転用するということです。
 「自分にムチを打つ」と表現するとスパルタ的な印象を与えてしまいますが、それは自分にかぎったことであり、相手に対して用いるときには逆の印象となり、学びを促すことになります。研修会などでブッククラブを活用してみるというのはいかがでしょうか。
一人の講師が全員に向かって熱弁しても、熱量が多すぎて参加者に煙たがられるものです。私自身、そういう雰囲気を好ましいものとは思っていません。そうではなくて、自分の言いたいことを表現してくれている本を通じて伝えていくのです。ブッククラブは、それを可能にする最高の方法なのです。

    長く、ゆるい関係をつくるブッククラブ
いくら仲がよくても、お互いに仕事をしているとなかなか会う機会がないものです。季節ごとに1回ブッククラブを計画すれば集まることができますし、元気な顔をお互いに見るとエネルギーをもらうこともできます...着飾ることがなく、緩みすぎないブッククラブによって選書もでき、学びの場としてもちょうどよい雰囲気がつくられ、本を読み続けていきたいという気持ちにさせてくれるのです。

 そして最後は、以下のように結んでくれています。
ブッククラブを通じてかかわり合った仲間は、長くゆるくつながり、時には「支え」となる関係にもなります。ブッククラブという機会が、そのような空間をつくり出していると私は思っています。「どうしようか……」と思っているあなた、明日にでもはじめてください!

◆本ブログ読者への割引情報◆

1冊(書店およびネット価格)2420円のところ、
PLC便り割引だと      1冊=2000円(送料・税込み)です。
5冊以上の注文は     1冊=1800円(送料・税込み)です。

ご希望の方は、①冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 
pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。

本ブログを見て、今月はじめてブッククラブに参加してくれた方が、以下のコメントを書いてくれています。http://projectbetterschool.blogspot.com/2019/10/vs.html#comment-form



2019年11月10日日曜日

「ふりかえり」が、算数・数学の世界を拡げてくれる


算数授業の子どもたちの様子を思い出してみてください。「答えがわかった! やり方がわかった! さぁ、次の問題へ」と、子どもたちはたんたんと、問題を消化することで終わっていませんか? 多くの子どもたちは、答えを知ることや計算ドリルを早く終わらせることに、とらわれてしまっていることのなんと多いことか!

算数・数学がもつおもしろさは、その問題を様々な角度から考え直し、算数・数学のもつ世界を自力で押し広げていくことにあります。それには、解き終わった後の「ふりかえり」が欠かせません。

問題を解決した後に、自分がどんなときに解決方法がひらめいたのか、そこまでの「ウーン!」や「アハ!」といった感情のゆらめきや、まだ不安だった解法が確信へと変わったきっかけ等を振り返ったりすることで、より深くその問題を理解することができます。また、自分のその特殊な解法が本当に、他の問題にも一般的に当てはまるのか確かめてみること。自分の意思で数値や条件を変えて新しい問題をつくったり、解いてみたりすること。他の子がどのような方法で解いたのかを紹介し合うことで、より多面的に問題を理解することができて、人とつながり、共有する価値が高まります。

これらのふりかえりを練習することは、子どもたちの算数の世界を拡げ、より高度な数学の証明世界へ入っていくことなのです。授業の最後に、感想やわからなかったことを聞き出してノートに記述させることは、数学的なふりかえりでは決してありません。



さて、算数・数学を深める「ふりかえり」を体験してみましょう。まずは下の問題に挑戦しましょう。

【問題 はい回る虫たち】
ロス君は、トカゲとカブトムシとミミズを集めています。彼は、トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っています。全部で12の頭と26本の足があります。ロス君は何匹のトカゲを持っていますか?
ジョン・メイソン リオン・バートン他(著)、吉田新一郎(訳)(2019)「教科書では学べない数学的思考「ウーン!」と「アハ!」から学ぶ」新評論 75頁より引用

ペンと紙を用意しましょう。今、やってみてください! ここから先は、解き終わってから読んでください。数学的思考を使った解法はPLC便りブログの下の欄に記入しておきます。一度、解いてみてから、解法を確認してください。★



できましたか? 多くの子どもたちは答えが出たことに安心して、答え合わせへと走ってしまいます。ここで終わりではありません。「ふりかえり」をやりましょう。

振り返ることは、数学的思考を伸ばすためにも最も重要な活用であると言えます。何をしたのか振り返らないと自らの体験から学んだとは言えません。同上70

問題を解き終わった後の「ふりかえり」には大きく分けて二段階あります。①最初にその問題を自分の特別なやり方(特殊化)で解いた方法の振り返りと、②さらにその問題を拡げて、その解いた方法を他でも使えるかという応用発展の振り返りです。これは以前のPLC便りで紹介した、「ためす(特殊化)」と「確かめる(一般化)」の法のことです。★★



一つ目「ふりかえり」は、メモを見ながら以下のことを確かめます。「計算」「計算があっていることを確実にする論証」「結論がもたらした結果が妥当かを見る」「解法が問題にあっているかどうか」そして、「鍵となるアイディアと節目」「予想と論証の関係」「解法〜より明確にできないか?」を振り返ります。ノートにメモを残しておくことで、自分の思考の筋道をたどることができます。記録することは、自分の考えを慎重に振り返り、そこから深く学ぶための材料となるのです。


(同上81頁 参照)

取り組みの間に、ひらめきのサインである「アハ!」や、つまずきのサインである「ウーン」をノートにメモしていると、ひらめいた鍵となるアイディアと節目を振り返りやすくなります。私のノートを振り返ると「トカゲとカブトムシの足を足して26本の式を見つけてみましょう」と書いてあります。ここから「アァ! 気が付きました。26本の足の中に、カブトムシの足のかけ算を見つければいいんだ!」と、ひらめいた節目がありました。

私はその後、条件文「トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っている」にあてはまっていない事に気付いてしまい、あきらめかけます。しかし「系統的に」と予想をメモしていたことを思い出し、地道に作業をしていけば、答えにたどり着く感覚を持つことができました。今後、この順番に沿って「系統的」に確認していくことは、かなり強力に私を助けてくれそうな、有効な解法となりそうです。

もう一度、数値や計算が正しいのか、そして、答えの組み合わせは他にもないか気になり、トカゲの数を1匹から系統的に表にして改めて調べてみました。やはり自然数となる組み合わせは、カブトムシが1匹と3匹の2パターンしかなく、この答えが妥当であることが分かりました。

大事なことは、どのように解いたのか、その計画や解決プロセスに目を向けることです。それには、自分をモニターする「ふりかえり」は欠かせません。このように振り返って考える練習することで、考える道筋へと目が行くようになります。すると、他の問題を解いているときにも、これまで解いたことのある問題と感情や解き方がひらめくようにつながってくるのです。

二つ目の「ふりかえり」は、「結果の一般化によるより広い場面や状況」「解法への新しいルートを求めることで」「制約条件を変えることで」、新しい問題への応用発展です。「もし〜だったらどうなる?」と、条件文や数値、さらには求答文を変えることで、自分だけの問題づくりに活かしていきます。その新しい問題で、一つ目「ふりかえり」の解き方(特殊化:自分特有のまだ一般化されていない特殊な解法)を使うことで、本当に他の問題にも適用、応用することができるのか確かめて(一般化:どんな問題においても一般的に当てはまるパターン)いきます。

最も魅了する問題は自らが生み出した質問です。〜 また、最も面白くやりがいのある問題は、一見極めてたいくつな結果を一般化しようと試みたときに生まれるものですから、とても興味深いといえます。同上 75

26(足の本数)と12(頭の数)がより大きな数字に変わった場合、この問題をどのように解くことができるのでしょうか? 扱う足の数が260本だとしたら? もしこれが「トカゲ・カブトムシ・クモ」だとしたらわくわくしませんか? クモは足が何本になるのだろう? パターンやきまりが見えてきそうです。または駐輪場にある自転車とオートバイの車輪の数でも表現できそうです。この自分で新しくつくった問題にも「系統的」に解くことが使えるのでしょうか? きっと表にして解いていくことで、この鶴亀算のパターンに気付くのではないでしょうか。

このような問題の応用発展について、教科書では上手にステップアップしていけるように毎時間、編まれています。しかし、これは学習者自身が自分で「ふりかえり」をして、つくりだすそのプロセスに意味があります。同じように、「わり算の問題を二種類つくろう(等分除と包含除)」では、子どもたちの思考は、ただ「あてはめてみる」だけのことで、そこに自分なりの挑戦が生まれず、わくわくしません。

「自分で数字を変えてみたら、おもしろい決まりをみつけたよ」「これなら、どんな時にも答えは出せるはず」「もし、こうなったらどうだろう?」と、さらに知りたくなる。そんな子どもを育てていきたいものです。そのためには、「ふりかえり」の前段階でその問題の良さや解くコツやひらめきく節目わかっていると、応用発展しやすくなります。

学びとは知識の吸収で終わらせるのではなく、ものごとを本当に理解したいという願いを持ち、飽くなき追求を楽しむプロセスそのものなのです。問題を解いて終わりにせず、振り返り、さらに応用発展していくときに、子どもたちは、まだ見ぬ数学世界を求める冒険者となっていくのです。

あなたが、来週から授業で扱う学習内容の中に、「ふりかえり」の応用に値する問題はありますか? もしあるとすれば、子どもたちが自由にふりかえりを使い、算数・数学を探求する機会を与えられそうですか?

    解答
計画段階から進めましょう。この問題では「何匹のトカゲを持っていますか?」が求めることです。問題条件から分かっていることには「トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っている」「トカゲの数+カブトムシの数<ミミズの数」「全部で12の頭と26本の足がある」です。これらの条件から、使えそうなことはなんですか?
ウーン。悩みます。私はミミズには頭はあるけれど(どちらが頭なのかは、よく知りませんが)、足がないことに気付きました。トカゲは足が4本、カブトムシは足が6本あることを思い出しました。これらは使えそうです。
私の予想は、頭の数と足の数を式で表してみると、何かきまりが見えてきそうだと考えました。頭の数の計算は、トカゲの頭+カブトムシの頭+ミミズの頭=12頭 です。
ミミズは足が0本です。トカゲの足の数である4の何倍+カブトムシの足の数である6の何倍<ミミズの頭 が成り立てばいいんですね。これなら、私にも、小学生にもできそうです。系統的に一つずつやっていけばいいだけですから。
トカゲとカブトムシの足を足して26本の式を見つけてみましょう。もし、トカゲ1匹ならば、4×1匹=4本 26本―4本=22本 カブトムシは22÷6本 割り切れません! カブトムシの足が小数点になってしまいます。五体満足出なければならないから、自然数になります。アァ! 気が付きました。26本の足の中に、カブトムシの足のかけ算を見つければいいんだ! 
さっそくやってみます。6×1匹=6本 6×2匹=12本 6×3匹=18本 6×4匹=24本 アァ!この6×4匹=24本はダメですね。これだと、トカゲの足が2本しかなくなってしまいます! 
足の数からカブトムシが1匹、2匹、3匹のときと絞られました。それぞれ確かめてみます。
カブトムシが1匹の場合。6×1匹=6本 足の総数は 26本―6本=20本 トカゲの数を求めると 20÷4本=5匹 アァ!これだ! カブトムシが1匹、トカゲが5匹なら足の数は26本になります。ミミズの頭の数をの式で表すと 1頭+5頭+頭=12頭 ミミズは6匹だ! できた! トカゲ5匹、カブトムシ1匹、ミミズ6匹 です。
しかし、条件文に「トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っている」とありますので、トカゲとカブトムシを足すと 5匹+1匹=6匹 ミミズは6匹ですので多くはありません。ウーン! 他に答えがありそうです。 諦めそうですが、カブトムシの数に戻って、もう一度考え直してみます。
カブトムシが2匹の場合。6×2匹=12本 足の総数は 26本―12 本=14本 トカゲの数を求めると 14÷4本=わりきれません! この組み合わせはダメでした。
カブトムシが3匹の場合。6×3匹=18本 足の総数は 26本―18 本=8本 トカゲの数を求めると 8÷4本=2匹 アハ! 割り切れました。 
さっそく、条件文に照らし併せて確認してみます。「トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っている」とありますので、トカゲとカブトムシを足すと 3匹+2匹=5匹 12頭―5頭=7頭 アハ! ミミズは7匹です! トカゲとカブトムシの合計よりもミミズが多くなりました。
答えは、ロス君は、トカゲを2匹持っていた!です。

★★
https://projectbetterschool.blogspot.com/2019/03/blog-post_10.html