2021年7月24日土曜日

オフサイト・ミーティングで学ぶ

久しぶりに『「学び」で組織は成長する』(光文社新書2006)を読み返しました。

かつて、中学校教員時代、校内研究のやり方を模索していた時にとても参考になった本です。この中で紹介されている「オフサイト・ミーティング」で思い出すことがあります。それは、30代前半のころに勤務していた「子ども科学館」でのミーティングです。

 当時、企画普及課という部署に所属しており、仕事の一つが展示場での解説を行う解説員の人たちの研修業務でした。解説員と言っても、ほとんどの人が文系の人で、どちらかというと小・中・高校時代に理科が苦手な人も結構いたのです。

 その人たちにどうやって科学に興味をもってもらうかをいろいろと考えたうえで、最終的にたどり着いたのが「オフサイト・ミーティング」でした。 

 会合は月1回、勤務後に科学館近くのレストランの一部屋を借り切って定期的に行いました。そのとき、何もなくては話もできないので、とりあえず『量子力学の冒険』(ヒッポファミリークラブ)という本を話の種として選びました。これは理系の人でなくても面白く読める本だと思ったからです。 

 始まってみると、やはりだれもが楽しく読める内容でしたので、話が盛り上がりました。毎回、量子力学だけではなく、物理や生物などにも話が広がりました。時々、知り合いの大学教員にもゲストとして入ってもらって、専門的な話をわかりやすく解説してもらいました。結局、2年ほどこの会合は続きました。

残念ながら、私が中学校の現場に戻ることになり、そこでミーティングも終わりになりましたが、毎回10名前後の職員が参加し、今でも再会するとそのときの話で盛り上がるほど、各自の印象に残る自主研修でした。712日付の「日本教育新聞」には次のような記事が一面に掲載されていました。 

教員免許更新制について、文科省が現職教員を対象にしたアンケート調査の結果を公表した。更新講習に総合的に満足感を示したのは2割にとどまり、否定的な回答が6割を占めた。受講内容が教育現場で役立っていると答えたのも3割程度にとどまるなど、これまで大学を通じて文科省が把握していた結果とは異なる結果が浮き彫りになった。 

教員研修の一環として始められた「教員免許更新制」もその成り立ちからして、現場の教員にとっては迷惑な話でした。指導する側の大学教員にとっても、決して歓迎すべきものでもありません。今回の結果が更新制の廃止につながるかというとどうも見通しは暗いようです。与党の文教族の一部が廃止には反対していることもあり、関係する当事者たちが望まないことがしばらく続いていくのではないでしょうか。 

これは以前からの私の持論なのですが、教員研修は校内もしくは近隣の学校でやることが一番です。当事者のモチベーションを考えても、時間的なことを考慮しても、小グループを基本とした学びが多くの教員にとって望ましいものだと思います。生徒の自立を言う前に、教師自身の自立が大切です。


2021年7月18日日曜日

新刊案内『静かな子どもも大切にする』

 訳者の一人の山崎さん(創価大学教職大学院)が紹介文を書いてくれました。

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 人と話したり会ったりすることは楽しいけれど、その後は自分の時間が必要。人と関わる仕事をしているけれど、時々「そっと」休憩(自分の時間)が必要。一日が終わると、仲間と集まって何かをするよりも、お家に帰ってゆっくりしたい。こんな人はいませんか? もしかすると「静かな人」かもしれません。

 学校を思い出してください。子どもの声が聞こえ、活気があって、授業は子どもの発言であふれている。こんなイメージが「よい」学校、「よい」授業ではないでしょうか。このイメージに当てはまる「行動」を見せることができない生徒にたいして、「もう少し・・・」と思ったこともあるのではないでしょうか。でも、大人にも、いつも元気で、いつもおしゃべりでいることが辛い人もいます。私も、できれば自分より大きな人の後ろで隠れていたいときがいっぱいあります。仕事終わりには一人でいる方がリラックスできます。

 本書は、「静かな人」も力を発揮できる環境のつくり方や、コミュニケーションのとり方を紹介しています。考える時間を大切にすることや、その人にあった表現方法の選択肢、教室環境のちょっとした工夫、ICTを活用した手を挙げる・口頭発表以外の生徒間、教師-生徒間のコミュニケーションの方法を紹介しています。

 また、生徒の興味関心(教科に関連することに限られません)から発生する学びを尊重する環境づくりについても紹介しています。静かな人も、自分が好きなことや自分の思いが強いものに関しては自然と話すことができます。自分が伝えたいことを話せる環境はどれくらいあるでしょうか。また、お互いにきちんと聴くという環境はどれくらいあるでしょうか。個人の伝えたいことを伝える。お互いの考えていること、伝えたいことをきちんと聴く。このような学びの環境を考えてみませんか。 


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2021年7月11日日曜日

11時の1分前は、10時69分 


 いよいよ1学期末。多くの先生が単元末テストの採点や成績処理に追われている頃。「このテストが本当に子どもの評価に値するものなのか」「時間がない中、わからないままではおわらせられないな」など、本来ならば、もう少し子どもたちと時間をかけて考え合いたかったことや、しっかりと復習してあげたかった気持ちが交錯します。自分の至らなさを振り返り、葛藤する時期ではないでしょうか。

 

今回は、数学者の谷口隆さん★が子どもの間違えについて探究するお話です。お子さんの間違いを「事件簿」と名付け、ほっこりするエピソードが語られています。殺伐としたこの学期末、少し息をついて子どもの思考により沿ってみませんか? 

 

予定の11時前よりちょっと早く家に着くときの話。11時より前の時間が話題になったときに、「11時の1分前っていつ?」と谷口さんはお子さんに聞いてみました。すると子どもはしばらく考えた末に「1069分」と答えました。谷口さんは、69分という存在しない時刻に「ある種の不協和音のような響き」と印象に残ったようです。

 

では、どういう思考の筋道でこの事件が起きたのか、みなさんもぜひ考えてみてください。

 

この問題は複雑な繰り下がりが繰り返される、3つのステップを経ます。

    11時から1分は引けない。11時を10時とし、1時間を60分に繰り下げて引く。

    繰り下げてきた60分から1分を引くが、これにも繰り下がりの引き算がある。

    601は、十の位の6から1繰り下げて、101=9と引き算ができ、601=59である。

 

“こう考えてみると1069分と言う答えは誤ってはいるもののほとんど正解であると言えないだろうか。どうやら601の引き算で繰り下がりに失敗し、69になってしまったようだが、このように3つのステップに分解し2度の繰り下がりの計算は実行したことがうかがえる。

谷口隆著「子どもの算数、なんでそうなる?」(岩波書店)P.70より

 

“人は自分が興味を持ったこと、自分にとって意義があると感じられる事は、自発的に試みて、幾度もの繰り返しから誤りや修正点を見出し、次第に精度を上げていくことができる。時刻について考える機会は、この先この子には無数にある。そう思えば、せっかく子ども自身で考え出した答えの誤りを、とやかく指摘しなくても良いような気がする。”

谷口隆著「子どもの算数、なんでそうなる?」(岩波書店)P.70より

 

 

間違えを、子どもの計算技能の未熟とみるのか、はたまた考える筋道に寄り添うのか、子どもにとっての命運が分かれます。算数は正解・不正解がはっきりしているだけに、苦手をつくりがちの教科です。間違えの中にも部分的には正しい思考の筋道があります。もし、子どもの推論を予想できなければ、子どもに「どうしてそう思ったの?」と聞こうとすることから始められます。そこには、子どもの思考プロセスを汲み取ってあげようとする優しさが伝わってきます。

 

テストを返却するとき、一つ誤答をみんなで考え合ってみませんか。ちょっとスピードを落として「どうしてそう思ったのだろう?」と、子どものつまずきに興味をもって寄り添ってみると、その中に広がる豊かな子どもなりの思考世界が分かってきます。そして、間違えや思考の途中にこそ学びが生まれてくるその意味が分かってくるはずです。海外にはすでにドラフト算数・数学という間違えや下書きを共有しながら対話ですすめる授業実践もあります。★★

 

ある時点で誤った認識をしていても、月日がたち、学びが深まるにつれて、自ら誤りに気付いて修正する力が子どもにはあります。とくに算数のカリキュラムは時期を空けながらも繰り返し学ぶ機会を持てるように、学習単元は配列されています。すべてを今、ここで理解させようとすることを手放して、少しゆとりをもって子どもの事件簿に向き合ってみませんか?

 

谷口隆著「子どもの算数、なんでそうなる?」(岩波書店)

著者の数学者ならではのものの見方とその優しさが伝わってきます。

 

315」にマルをつけた数学者が語る、子どもの算数の見守り方 間違いを否定せず、考えた道筋を共有しよう

2021/06/18(東京新聞WEB

https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/education/44649/

 

★★

デラウェア大学教育学部教授のアマンダ・ヤンセン氏は『ラフドラフト算数・数学』で、これまでのような正答を求めるだけの算数・数学から、生徒同士がアクティブに考え合う、共有に重きを置いた新しい数学実践を提案しています。

 

ラフドラフトとは、下書きのことです。ラフドラフト算数・数学は、生徒がその未完成で進行中の自分の考えを共有し、アイディアを修正するために話し合えるようにすることです。答えや計算の手順ではなく、自分の考えについて話してもらうことで、生徒同士が考える機会を増やすことができます。詳しくは以下のPLC便りを参考にしてください。

 

PLC便り「答えよりも考え方へ 下書きアイディアを共有するラフドラフト思考」

20201115日(日)

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/11/blog-post_15.html

 

 

 

 

2021年7月4日日曜日

新刊案内『社会科ワークショップ』

 執筆者の一人の西田雅史先生が、紹介文を書いてくれました。

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 子どもの頃、社会科の授業が大嫌いでした。そんな私が教師になって最初に行っていた社会科の授業は「教科書をなぞる」というものでした。黒板に授業の目的を書く、教科書を生徒に順番に読ませる、教室全体に向けて発問する、発問の意味が分かった一部の子どもだけが参加する――こんな授業を繰り返していました。しかし、本書で紹介する「社会科ワークショップ」が、社会科に対する見方を180度変えることになりました

 上記は「社会科ワークショップ〜自立した学び手を育てる教え方・学び方」の新刊案内の冒頭部分です。現在私は4年生の担任で社会科ワークショップを実践していますが、4月当初、「社会いやだなあ」と言っていた女の子が、「先生!たんきゅうはまだですか!」と言ってくるほどです。また、毎時間Google formでアンケートを作成し、子どもたちに放課後に回答してもらっていますが、高い割合で子どもたちが「たんきゅう」を楽しんでいることもわかります。私だけでなく子どもたちも社会科に対する見方が変わってきているのです。

 これまで実践してきた中で子どもたちが「探究が楽しい!」と感じていることが多かったのですが、その要因は大きく2つだと私は考えています。

自分でテーマを決める楽しさ

 これまでの社会科の学習ではクラス共通の学習課題に取り組んできた子どもたち。それが自分の興味関心に合えばいいのですが、全ての子どもたちがそうなるわけではありません。一方で社会科ワークショップでは学習のゴールは子どもたちに共通としてあるものの、そのゴールまでの道筋はバラバラであっていいという考え方のもと子どもたちは学習を進めています。子どもたちは自分で選ぶことができると知るとその時点でモチベーションがぐぐぐっと上がるものです。

 例えば私が今年度実践している4年生の社会科「お水ハンター〜安全で安心なお水のヒミツを調査せよ〜」では、学習のゴールを「安全で安心した水を安定して供給できるシステムを理解すること」としていますが、子どもたちは「浄水場」「下水道」「ダム」の中から一つテーマを選び、それらのシステムについて調べています。最終的に3つのテーマ同士が集まって発表し合うので、子どもたちは扱っていないテーマについても理解することができます。

共同で考えを作り出すことの楽しさ

 本書の「学習コミュニティーを育てる」の章にも登場しますが、子どもたちは社会科の学習を通して自分の考えをもち、それを発信し、友達と議論するなかで新たな考えを生みだしていきます。5年生の社会科ワークショップの工業ユニットで自動車会社を設立したときには、自動車工場を国内、国外のどこに作るかで2つの会社が議論をかわす場面がありました。

 わいわい盛り上がって楽しいの「fun」ではなく、知的好奇心がくすぐられ、興味関心が湧いて楽しい、という意味の「interesting」の要素をこのとき子どもたちから感じたのを今でも覚えています。子どもたちはこのようなことを繰り返しながら主体的に参加するコミュニティーをクラス内につくっていきます。社会科ワークショップが行われている教室は、ある意味「理想の社会」の縮図になっているとも言えます。

 また、社会科ワークショップでは、教師の子どもたちとのかかわり方も、これまでの授業とはまったく変わってきます。教壇に立って、子どもたちに向けて一斉に指示を出すといった授業を繰り返すのではなく、一人ひとりに対してカスタマイズされた支援を行っていきます。本書では、ライブ感豊かにその様子を紹介していますが、これこそが「自立した学び手」を育てる一助となっています。

 最後になりましたが、私は子どもを変えたいのなら、まずは教師が変わらなければいけないと考えています。変化することを恐れている場合ではありません。そのための一助に「社会科ワークショップ〜自立した学び手を育てる教え方・学び方〜」がなることができれば幸いです。

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1冊(書店およびネット価格)2640円のところ、

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5冊以上の注文は     1冊=2300円(送料・税込み)です。


ご希望の方は、①書名と冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 

pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。