2018年2月25日日曜日

高等学校学習指導要領改訂案が公表される


14日に文部科学省より高等学校学習指導要領改訂案が公表されました。

215日付の毎日新聞記事(3面)には、次のような解説がありました。


「知識偏重」と批判されてきた授業内容を見直し、主体的に課題を解決するための思考力を重視する姿勢が明確になった。昨年に指導要領が告示された小中学校から入試改革が進む大学まで、一貫してグローバル社会で活躍する人材の育成を目指す。しかし、大きな変化を求められる現場には戸惑いもある。


最後の「大きな変化を求められる現場」について、その隣に補足記事がありました。

 「生徒が何を発言するかわからない」「知らないことを聞かれたら困る」と対話型授業に不安を抱える教員もいる。
 

今回の小中高の学習指導要領改訂のねらいを、ターゲットは『高校』だと話す研究者もいます。大学入試という関門を控えて、「知識偏重」で突き進んできた教員が多い高校が一番対話型授業から距離があることは事実でしょう。文科省のやっている教育行政の良し悪しはひとまず置いておくとして、今回の改訂を少しでも子供たちの役に立つ方向にもっていくために、ぜひ授業における「質問」(発問)づくりに力を入れてみてはどうでしょう。



 その質問づくりに役立つのが、このブログでも紹介されている『たった一つをかえるだけ』新評論(2015)です。
 
この中で、質問づくりの7つの段階が章ごとに具体例付きで紹介されています。



7つの段階とは次のようなものです。


①「質問の焦点」は教師によって考えられ、生徒たちがつくり出す質問の出発点となる。

②単純な4つのルールが紹介される。

③生徒たちが質問をつくり出す。

④生徒たちが「閉じた質問」と「開いた質問」を書き換える。

⑤生徒たちが優先順位の高い質問を選択する。

⑥優先順位の高い質問を使って、教師と生徒が次にすることを計画する。

⑦ここまでしたことを生徒たちが振り返る。

 この質問づくりが授業の一部になれば、いつでも使い続けることのできる、とても効果的な教え方であり、学び方になるのです。したがって、先ほどの記事にあった高校の先生方が「生徒が何を発言するかわからない」「知らないことを聞かれたら困る」といった心配をする必要など全くないのです。教師がすべての答えを知っている必要など全くなく、むしろ問題解決のために必要なアドバイス、サポートをするのが教師の役割です。ただ、そのためには、教科の専門性、あるいは幅広い教養などが求められることは言うまでもありません。「学び続ける教師」であり、生徒のよき理解者・同行者・サポーターであってほしいと思います。
 

また同書では、ボストンの定時制高校の教師たちの発言が取り上げられています。



 「質問づくりを使うことで、私たちをより良い教師にしてくれます。生徒たちは、本当に考えるという頭を使った重労働が、教師の仕事ではなく自分たちの仕事であることを学びます」
 

そして、これも同書に取り上げられているアメリカの有名な教育学者デボラ・マイヤーの言葉ですが、これが実に象徴的です。



 「いい教え方は、生徒たちが質問の仕方を知っていて、本当に知りたがっている質問に私たちみんなで答えられるときにはじまります」
 

そして、この質問づくりは、ミクロなレベル「民主主義のプロセスと行動に取り組んでいる」という同書の締めくくりの言葉からもわかるように、次世代の子供たちが「民主主義とは何か」について身をもって経験できる機会を提供する貴重な時間ともなるのです。




平成30年度は、この『質問づくり』を学校課題として、あるいは個人の研究課題として取り組んでみてはどうでしょうか。

 

 

2018年2月18日日曜日

あなたは学び続けていますか?


私たちは成長/学び続けていると思っていますが、一方では、前の年と変わらない(5年前とも、大して変わらない)とも思っています。
しっかり成長し続けているのか、あるいは停滞しているのか、さらには衰えているのかを測る基準が必要です。

1.あなたの信念は進化しているか?
 私たちは、たくさんの信念(正しいと信じる自分の考え)をもって生きています。それが固定されてしまうと、目に見える行動の部分も、大きく変わることはありません。逆に言えば、変化には信念の部分の変化が不可欠です。立場が変わると(たとえば、学生から教師、教師から管理職)信念も変わりやすい部分があります。成長し続けている/学び続けている/他の可能性を見られる状況に自分を置いていると、信念は変わりやすいです。

2.異なる視点が見えるか?
 学ぶ意欲があるということは、好奇心があるということです。好奇心があれば、たくさんのこと/たくさんの可能性/たくさんの視点を知ることになります。それは、選択肢が増えることを意味します。逆に、成長していないと、選択肢がないか、少ないので、同じことをやる以外にありません。

3.非生産的な習慣をやめられるか?
 人間は基本的に、習慣の動物です。9割以上は習慣で生きているとさえ言われます。(そうじゃないと、疲れて死んでしまうそうです!)だからと言って、習慣だけに流されていては、成長はありません。意識を高めて、自分の非生産的な習慣を認識し、それを変える/改善できるか否かが、停滞するか、成長し続けられるかの境目になります。たとえ非生産的であると認識できても、習慣を維持した方が楽な場合が多いので、習慣への依存から抜け出して、成長したいという気持ちがそれを上回らないと、悪習を続けることになります。

4.建設的/生産的な習慣を身につける
 悪習の代わりにいい習慣に転換するためには、時間と労力がかかります。歯磨きをすることなど(それも、悪い磨き方=習慣から、より歯に適正な磨き方=よい習慣に転換する)のはいい事例です。

5.誰かが批判をしても、怒らない

6.数年前には達成できると思わなかったことを達成している。

7.「成功」と捉える中身が変化している

もちろん、ここで紹介した7つ以外にも方法はあります。成長は、体験、教育(情報のインプット)、そして他者との関わり等を通じて起こります。成長を続ける最も確実な方法は、できるだけ意識して、常に学び続けることかもしれません。

 私のここ数年の意図的に行っているのは、先方に嫌われない程度のフィードバックをすることです。投げかけ方がいいと、先方から反応が戻ってきます。すると、こちらはさらに考えることができます。そうするとさらにフィードバックしたくなります。
 相手が学べたり/成長したりしていると、こちらも元気になり、負けずに頑張ります。
 続けば、お互いに成長し続けられます。やり取りが終わると、そこで成長/学ぶ機会を逸します。(極めてシンプルです!)

 もう一つは、ここ10年以上力を入れているメールでのブッククラブです。会ってやれるに越したことはありませんが、みんなが忙しい中で、時間と場所を確保するのは至難です。メールでのやり取りは、時間と場所の制約を受けません。それでいて、自分一人で学べるものの何倍かを学べます。特に、上に書いたようなフィードバックが続けば、なおさらです。

 あなたの学び続ける方法は、何ですか?

 PLCは組織としての学びを目的にはしていますが、そのベースは、個人個人であり、ペアであり、チームであることを、再認識しました。各人が学べて/成長できていないで、組織としての学び/成長があるわけないわけですから。ましてや、学校の場合は、教師が継続して学べていないで、生徒の学びなどあるわけがありません。それは、単に教師にお付き合いをしてくれているだけというか、教育機関というよりも、保育施設として機能しているにすぎません。




2018年2月11日日曜日

理科における探究学習


 ふしぎだと思うこと これが科学の芽です
 よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です
 そうして最後になぞがとける これが科学の花です 

 これは、今回紹介する『探究する資質・能力を育む理科教育』小林辰至(編著)[大学教育出版]★に掲載されているノーベル物理学賞を受賞した朝永 振一郎 博士の有名な言葉です。 

 この本は、理科教育における「骨太の研究」を目指してきた小林氏が、氏の教え子である学校現場の教師たちと協同して創り上げたものです。理論編と実践編、漫画編の3部構成で、B5版サイズで420ページ余りもの読み応えのある正に骨太の本です。 

 この本で紹介されている「探究する資質・能力を育むための具体的なアプローチ・手立て」は、次の6つです。 

自然と触れ合う「原体験」(理論編:第2章、第3章)

仮説を立てる力を育む指導方略The Four Question Strategy4QS)”とこれを生かした仮説設定シート(理論編:第4章、第5章、第9章、第14章,実践編:第3章、第4章、第5章、第6章、第8章)

日本版プロセス・スキルズ「探究の技能」(理論編:第7章、第13章)

観察と実験の「問い」の立て方(理論編:第8章)

小学校中学年(34年生)の子供を対象とした仮説を立てる力を育む指導方略“The Two Question Strategy2QS)”とこれを生かした仮説設定シート(理論編:第10章,実践編:第1章)

探究の過程の8の字型モデル(理論編:第11章,実践編:第2章、第4章、第6章) 

 それぞれの実践的研究や研究的実践についての詳細は、本を読んでいただきたいと思います。どれも理科における探究学習を進めていくうえで役に立つと思いますが、これらの中から、ここでは「4QS(フォークス)仮説設定シート」と「探究の過程の8の字型モデル」について紹介します。  

◆【4QS仮説設定シート】〈図1〉





4QS仮説設定シートは、STEP1からSTEP44段階の「問い」で構成されています。
STEP1では、変化する事象から従属変数を同定して簡潔に記述します。STEP2では、従属変数に影響を及ぼすと考えられる要因、独立変数を挙げます。STEP3では、STEP2で挙げた独立変数を実験条件としてどのように変化させるのかを考えて、それを記入します。STEP4では、STEP1で挙げた従属変数をどのように測定したり数量として表したりするのかについて、その手立てを考えて記入します。そして、最後にSTEP3STEP4とを関係づけて一つの文にすると、「・・・すれば、・・・は、・・・になる」というように、どのように条件を変えると、結果がどのようになるのかを見通した「作業仮説」を設定することができるのです(理論編4849ページ)。★★
 4QS仮説設定シートの具体的な事例もいくつも紹介されていて、シートの活用の仕方が理解しやすくなっています。以下は、小学校5年の単元「電流のはたらき」における小学生による記入例です(256ページ)。4つのSTEPを経て、作業仮説を立てるプロセスがよくわかります。

【記入例】〈図11 



◆【探究の過程の8の字型モデル】〈図5〉


   

 これまで理科における探究の過程(問題解決の課程)は、「自然現象へのはたらきかけ」→「問題の把握・設定」→「予想・仮説の設定」→「検証計画の立案」→「観察・実験」→「結果の整理」→「考察」→「結論の導出」というような直線的なモデルが多く使われていました。小林氏らは、観察と実験との探究の過程の違いに注目し、実際の学校での観察・実験を中心とした理科学習に合った「探究の過程の8の字型モデル」を開発・作成したのです。図に示されているように探究の過程を、「観察による問題解決」のサイクル「実験による問題解決」のサイクル2つのサイクルに分けて表現してあるところがこのモデルの特徴です。★★★ このモデルは、理科だけでなく、社会科の課題研究や問題解決学習、総合的な学習の時間などでも使えるものです。 

 この本の実践編では、特に、探究学習によって仮説を設定する力や実験計画を立てる力、分析・考察する力など子どもたちの資質・能力や理解度、学習意欲がどのように変容するのかを調べる・分析する方法論も具体的に紹介されていて、小中学校・高校の先生が学校現場で探究学習の研究的実践を進めていくうえでとても役に立つと思います。子どもの変容を探る方法論については、どの教科でも、道徳や特別活動、総合的な学習の時間でも活用できるものです。 

 そのほか、アメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of ScienceAAAS)が開発した初等理科コースのカリキュラム“Science-A Process Approach”SAPA)の教師用解説書で示された13のプロセス・スキルズとそれぞれの下位目標群を参考にしながら小林氏が開発・作成した日本版プロセス・スキルズ「探究の技能」について詳しく紹介されています(理論編6584ページ)。これは、子どもたちと共に探究学習を進めていくうえで極めて重要な「ルーブリック」として活用できるもので、この本には探究学習を実践していくために必要なものが数多く詰まっています。 

 ただこの本を読んで物足りなさを感じたのは、具体的な「問い」の立て方についてです。理論編の第8章(8597ページ)で解説されているのですが、実践への応用として今一つよく理解できませんでした。その原因が、この本では理科の教科書に載っている観察・実験を基にして「問い」の立て方を考えているところにありました。学習者である子どもたち一人一人の「不思議に感じたこと」「疑問に思ったこと」「もっと調べてみたいこと」など子ども自身の疑問や興味・関心から「問い」を立てることは、探究の過程の中で最も重要なプロセスの一つです。 

 この「問い」の立て方に関して参考になるのは、『たった一つを変えるだけ~クラスも教師も自立する「質問づくり」[新評論]です。教師による「発問」ではなく、学習の主体者である子どもたち一人一人の「疑問」や「調べたいこと」が、本物の探究学習の出発点なのですから。 



★  小林辰至氏は、神戸市で中学校の理科の教師として15年ほど学校現場で理科教育に関する実践・研究をされた方で、平成4年に大学に移り、現職の先生方と共に理科における探究学習について実践的研究や研究的実践を25年以上された方です。理論編は全部で15章からなり、実践編は8章から構成されています。 

★★  4QS仮説設定シートは、実験での作業解説を設定するのに適しています。しかし、小学生、特に小学校中学年(34年生)の子供たちには4QSの活用はむずかしく、中学年の子供たちにも作業仮説を設定しやすくするために4QSを簡略化した「2QS仮説設定シート」を小林氏らは開発しました(112113ページ) 

★★★  この8の字型モデルは、日高敏隆(著)『新編 チョウはなぜ飛ぶか』[朝日出版社]12ぺージに記載されている観察から生じた疑問から「説明仮説」を発案し、それをさらに「作業仮説」に作り替えて、実験で探究(問題解決)する場面からヒントを得て小林氏らが作成したものす(理論編59ページ)。

2018年2月4日日曜日

増補版『「考える力」はこうしてつける』


以下は、初版が出たときから愛読してくれている野田市の梅先生の感想です。

「今日(年末が近いある日)も『考える力はこうしてつける』を読んでいました。評価についての勉強会を冬休みの間にするためです。もう、何度も読み、手垢で薄汚れてきました。貼った付箋もボロボロです。ジャーナルについて勉強するのもいい、逆さまデザインも重要、ルーブリックも扱いたいと、あれこれ考えています。ジャーナルとカンファランスの手法は、これからの教員に必須の技能ですね。
この本が出たときのインパクトは、『いままで、自分が求めていた教え方・授業の進め方の方向性を示すものがここにあつた!!』ということです。教員生活2年目に『仮説実験授業』を試し、その後、左巻健男先生の本を読み、キャリア教育に力を入れ、『モラルジレンマ授業』を道徳で試しとやってきましたが、どれをやっても何かが抜けている感覚がありました。それを教えてくれた本です。『質問を考える』『メタ認知』『ウエブ図など思考ツール』『振り返り』などが欠けていました。この本で学んだことを日々実践し、振り返り、改良して実践しと繰り返して今日まで来た感じです。あと、この本は、参考文献が丁寧に紹介されているので、一冊読むと、多くの良書とふれあうことができました。近年は、若手にこの本の一部を提示しながらアドバイスをすることが多くなりました。」

 訳者がかなわないぐらいに、本を使いこなしてくれています。本の紹介文としても、実践を踏まえた内容になっています。
今回の増補版用(書店等では、新刊扱い)に、「訳者あとがき」の後に「訳者解説」★を加える過程で、自分もこの本の中で紹介されていることを、過去14年間追い続けてきたことに改めて気づかされました。

 すでに、初版をお持ちの方で、「訳者解説」を読みたい方は、pro.workshop@gmail.comに連絡ください。
 まだお持ちでない方で、購入希望の方には、割引価格があります。
1冊(書店およびネット価格)2160円のところ、
PLC便り割引だと     1冊=1800円(送料・税込み)です。
5冊以上の注文は       1冊=1600円(送料・税込み)です。

ご希望の方は、①冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 
pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。


★ この本は翻訳本ですから、当然のごとく、訳者が勝手に文章を加えることはできません。そういえば、第7章の「自己評価」では、3分の1ぐらいを、訳者の提案で付け加えていました。(もちろん、著者の了解を得て、です。)