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2020年9月6日日曜日

上位概念による問題解決

学校では、意見の対立は、日常茶飯事だろう。教育の問題は、正解が一つであることはないのだから、当然である。皆さんは、どのようにして様々な問題に対処しているだろうか。

著書『麹町中学校の型破り校長-非常識な教え』などで知られる工藤勇一校長は、上位概念による問題解決を提案している。★1 一例として紹介しているのが、生徒たちが体育祭の種目廃止に取り組んだ事例である。中3生全員参加のリレーは、毎年大いに盛り上がっていたという。その種目をどうするかが問題になった。生徒会がとったアンケートでは、8対1で賛成派(リレー継続)が圧倒的に優勢。多数決でそのままものごとを決する学校であれば、問題なくリレー継続が決まったはずだ。しかし、10%の生徒がリレーを走りたくないという意見をもっていた。

そこで、工藤校長は、生徒たちに結論を委ねるにあたり、「生徒全員が楽しめること」という上位概念を提案したそうである。生徒たちは、白熱した議論を重ねたようだが、最終的に「走りたくない」という少数派の意見を尊重して、リレー廃止を決断したそうである。そのうえで、運動の苦手な生徒も楽しめる種目を考案したとのこと。

重要なことは、生徒たち自身が、少数意見を尊重して、自分たちで結論を出そうとしたことだろう。提示された上位概念について深く考え、単純に多数決で決めなかった。

また、PBLでも、生徒が上位概念によって問題解決を図った事例がある。★2

都市計画のPBLに取り組んだ、アメリカの高校生の事例だ。生徒たちは、アーバン・ランド・インスティチュート(ULI) (https://japan.uli.org (http://minnesota.uli.org/programs-and-events/urbanplan/)が提案した都市計画プログラムに取り組んだ。生徒たちには、ヨークタウンという架空の町のさびれたエリアの5~6ブロックを再開発するための提案書を作成することが求められた。

その中で問題となったのが、ホームレスの保護施設をどこに置くかだった。その施設があることで犯罪が多くなっていたからだ。「実際そこに生活する人だったら、ホームレス保護施設のそばに住んだり、近くを通ることを望まないだろう。」という意見もあった。一方で、ホームレスの人たちを追い出すようなことも望まない意見もあったのだ。

妥協点として生徒たちが見出した結論は、教会の近くにホームレス保護施設を移すというものであった。

なぜ、このような結論に至ったかと言うと、このグループは、まず「ミッション・ステートメント」(企業とその企業で働く従業員が、共有すべき価値観や行動に関する指針や方針を明文化したもの)づくりから始めたらしい。そのミッション・ステートメントでは、「誰一人として排除しない社会づくり」が重要なビジョンだったのだ。生徒たちは、様々な意見をたたかわせ、議論をしたようだが、最終的にはこのビジョンを実現する方法を考え出した。それが先にあげた結論だったのだ。見事ではないか。

何か問題が発生すると、その出来事の細部に目を奪われてしまい、対症療法的な解決策になってしまうことが多い。自分たちがいったい何を実現したかったのか、少し引いたところから眺めて、上位概念を見出し、それよって問題解決の糸口を見つけたいものだ。★3


★1 工藤勇一 (2019) 『麹町中学校の型破り校長-非常識な教え』SB新書.

★2 マーサ・セヴェットソン・ラッシュ (2020)『退屈な授業をぶっ飛ばせー学びに熱中する教室』[長崎政浩&吉田新一郎訳]  新評論  近日、刊行。ぜひ、ご一読を。

★3 学校が、上位概念による問題解決を図るには、学校としてのビジョンの存在が不可欠だろう。ビジョンは、リーダーとして校長が示すこともできるが、教職員との共同作業で、学校のビジョンづくりをすることもできる。吉田新一郎(2005)『校長先生という仕事』(平凡社新書)にその手順や考え方が紹介されているの参考にしてほしい。

2018年5月6日日曜日

「ゴールはどこだ?」

平成30年3月、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」(スポーツ庁)が公表された。中学校での部活動に週2日の休養日を設けることなどが示されている。ようやく、学校教育の「アンタッチャブル」な領域に、国が指針を示した形となった。

このガイドラインに対する反応は様々なようだ。やっと前に進み始めたと歓迎する意見がある反面、「部活動の価値を理解していない!」とする怒りも聞こえる。「あんなものが出ても、無視してやり続けるだけだ。」という中学校教員もいた。部活指導で悩んでいた若手教員は、先輩から「中学校教員が、土日休んでどうするんだ。」とまで言われたそうだ。

このタイミングで、実に興味深い記事を目にした。 加部究という人が書いた「ドイツ人元Jリーグ監督が“部活”に抱いた違和感「練習が休みと言ったら全員喜ぶ」」(THE ANSWER,2018.02.06,https://the-ans.jp/column/16911/)である。

ドイツ人元Jリーグ監督とは、ゲルト・エンゲルスという人で、横浜フリューゲルスや浦和レッズなどの監督を務めたらしい。エンゲルス氏は、Jリーグの前に、兵庫・滝川二高のコーチをやっていた。その時に、サッカー部の活動が、上意下達で進められることや、100人近いサッカー部員がおり、卒業まで一度も公式戦に出ない生徒もいたことなど、数々の疑問を感じたという。

「たぶん生徒たちは、明日の練習が休みだと言ったら大喜びする。でもドイツの子供たちは、今日はサッカーが出来ないなんて言われたら、みんながっかりして落ち込むよ。もしかすると日本は義務と趣味のバランスが悪いのかもしれない。」

そこで、エンゲルス氏は、ミニゲーム行ったり、クラブ内ミニ大会を開催するなど、サッカーの楽しさを味わえるクラブ運営に努めたという。同校でサッカーを楽しんだ少年たちの中から、岡崎慎司(レスター)などの優秀なプロサッカー選手が数多く育っている。この記事は、エンゲルス氏の次の言葉を引用して結ばれている:

「トレーニングをして試合に勝つのも結果だけど、サッカーを好きになってもらうのも大切な結果だよ。僕は80人の部員全員を、しっかりと見たかった。プロになれる可能性のある子と同じように他の子も助けたかった。」

すべての部活動の指導者を、勝利至上主義という言葉で、くくってしまうことはできないが、ガイドラインがでた、この機会に、部活動のあり方を考え直してみてはどうだろうか。勝利に向けて、必死で努力することは、価値のあることに違いないが、そのゴールを、中学校在学中の最優先事項とするのか、もっと先の、生涯スポーツを楽しむための素地をつくることにおくのか。そのビジョンの違いは、子どもたちの人生に大きな影響を及ぼすはずだ。

みなさんの学校は、どのようなビジョンを描いていますか?「土日休んでどうするんだ。」と言われた先生の学校では、50代のベテラン体育教師が、「われわれももう一度考え直してみないといけないかもしれないね。」と提案したことで、空気が一変し、議論が始まったそうである。

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今回から、月に一回「PLC便り」を書くことになりました。いまは大学に勤務していますが、元は高校の英語教員です。学生時代から今の学校教育に疑問をもち、本当に学ぶ楽しさや醍醐味を実感できる学校や授業とはどのようなものか考えてきました。小中高の先生たちと、様々なプロジェクトを行い、共に学び続けることがライフワーク。彼ら、彼女らの日常や学校で起きていることを通して、教師が学校で成長していくとはどういうことなのか、一緒に考えていきたいと思います。

 [高知工科大学 長崎政浩]

2014年2月23日日曜日

カリキュラムづくり


先週の話題は学校のビジョンづくりでした。

 校長が一人で作っていたのでは、他の職員にとっては他人事です。

  やはり、「校長先生という仕事」(平凡社新書)にあるように、
ビジョンづくりにはそれなりの方策が必要です。もちろん、職員だけではなく、子どもたちからも、保護者からも、地域住民からの声を聴くことが大切です。これによって、「地域とともにある学校」になると思います。

 そして、肝心なことは、カリキュラムづくりです。

 どのようなねらいをもってカリキュラムを作るのか、これが学校経営の中核になるようにしたいものです。学校の授業は「教科」で縦割りにされていますが、これは教わる方の都合ではありません。あくまで教える方の都合です。現実世界は今や複雑に相互に関係しているわけですから、学習も複数の教科にまたがった内容を取り扱うことの方がメリットが大きいと思います。

 

 ここしばらく、教育課程関係の研究会に参加する機会が何回かありました。やはり、いいなと思う学校はカリキュラムを自分たちで苦労しながら作っています。お仕着せのものだったり、借り物の計画だったりすることは避けたいものです。校内研修も、もっとこのあたりについて、時間をかけてやるようにしたいものです。以前にもここに書きましたが、授業研究も結構ですが、いつまでもそれだけではだめなのです。

 

 最後に、あるフォーラムで聞いた話を紹介します。

 人は「しぐさ」ばかりでなく、「やる気」のような心情的なものも、人から人へと伝わっていく「共感的存在」であるということです。もし、そうであるならば、「私たちがこう学校を作りたい」「こういう社会を作りたい」という思いを強く持つことで、それが他の人々にも必ず伝わっていくということになります。

 

これこそ、学校の存在意義であると思いますし、私たち教育に携わる人間の役割であると思います。

 悲観的な材料がたくさんある現状ですが、未来への希望を持ち続けていきたいものです。

2012年6月10日日曜日

優先順位の不明確さ=ビジョンの欠如


 行き着いたところの一つは、表題の「優先順位の不明確さ=ビジョンの欠如」でした。これについては、いい学校の作り方について書いた『いい学校の選び方』(中公新書)の「あとがき」にすでに書いていました。読み直してみると、状況は改善しているどころか、さらに悪化しているとしか思えません。(→斜体は、今回新たに付け足したところです。)


この本の執筆中に改めて気づかされたことがある。それは、ビジョンの大切さだ。
ビジョンとは、「こんなふうになったらいいな!」と思える未来像である。しかしそれは、実現できるかどうかわからない「夢」や「願い」ではない。努力をすれば実現可能なものである。また、形式的なものでもなく、人をワクワクさせ、元気にし、行動に駆り立てるものでなければならない。したがって、あまり遠すぎる未来像ではダメで、5年から7年ぐらいで実現できそうと思えるものがいい。(→校長さんや指導部長・課長さん、そして教育長さんや研修センター長さんの任期を考えると、いいところ「3年」に設定した方がいいかもしれません。)しかも個人のレベルではもちろん、組織全体に共有されていないと、個人も組織も元気にはなれない。執筆の期間中に接した教師たちや、子どもを学校に通わせている親たちや、教育委員会に所属する人たちに共通に欠けているものが、まさにそのビジョンであった。(→4月1日に書いたように、それは間違っても校長や教育委員会の担当者が一人(ないし数人)で書いてしまうものではありません!それをしている限りは、組織全体での共有は不可能ですから。)

  しかし、ビジョンはないのに、みんな忙しい。"気の毒なほど忙しい"。(→忙しさも、8年前に比べて悪化しているように見受けられます。)よけいなお世話かもしれないが、なぜ忙しいのかを考えてみた。私は何度考えても「ビジョンがないから」という結論に達してしまった。それほどビジョンは大切なものなのである。
  ビジョンがないと、どうなるか?

・ あいまいな目標しか立てられない。なぜならば目標はビジョンを達成するために段階的に立てるものだから。
・ 優先順位がはっきりしない。
・ 本来やらなくていい仕事まで含め、たくさんの仕事を抱え込まなければならなくなる。(→何はやるかと同じレベルで大切なのは、何はやらないかです。ないし何はほどほどに取り組めばいいのかを判断することです! ビジョンないし優先順位がはっきりしていないと、この判断がなかなかできません。)
・ 忙しいので、一見仕事をしているつもりにはなれる。
・ 新しいことをすることが難しい。
・ 考える時間、創造する時間、話し合う時間がない。
・ 本音で話せる仲間が見出せない。
・ 合意を取るのが難しい。
・ 課題の解決に取り組む際は、短期的には問題解決になるように見えても、実はならないか、長期的には新たな問題をつくり出している可能性すらある。

 まさに悪循環である。

  <以下は、メルマガからの続き>

 私にビジョンの大切さを最初に認識させてくれた本は、1991年に出会った『非営利組織の経営』(ピーター・ドラッカー著、ダイヤモンド社)である。この中で著者は、「ビジョンのない組織は消えた方がいい」と言い切っていた。学校も、病院も、役所も、非営利組織であるから、「消えた方がいい」などと言われる前に、そこで働く人も、それを利用する人たちもワクワクできるようなビジョンをぜひつくってほしい。
  『非営利組織の経営』には、残念ながらビジョンの描き方は紹介していなかったので、約4年間探して見つけたのが『エンパワーメントの鍵』(クリスト・ノーデン-パワーズ著、実務教育出版)である。
 これら2つの本を参考にして、まずは忙しさからの脱却と、明確でしかもワクワクするビジョンをつくり出すことをぜひお薦めする。(→ ビジョンが描ければ、優先順位がはっきりし、従って忙しさからも脱却できます。いいこと尽くめです!)

 私が本書の書き出しの部分で、自分の考えている「いい学校のイメージ」を紹介したのも、同じ理由からである。(→それは、この本の5~14ページに書いてありますが、「いい授業のイメージ」も127~130ページに紹介しました。)

★次回の予告: 次回は、いよいよ私の『てん』の解釈を紹介します。

2012年4月1日日曜日

学校経営計画

各学校や教育委員会レベルの今年度の学校経営計画は、すでに立ててしまった(HP等にアップされてしまった)でしょうか?

 前回のPLC便りの関連でいうと、校長や教育委員会の担当者が一人(ないし数人)でつくってしまうことは、極めておかしなことになります。

 それが、計画は掲げられても実行されない理由です。
 たとえ、どんないいビジョンや、それに基づいた目標や計画が提示されようと、それを見せられた教師、生徒たち、親たちにとっては、「標語」や「作文」に過ぎませんから。

 今からでも間に合います。
 本当に実現したい/行動を起こしてほしいなら。
 ぜひ、子どもたちや教師の声と意見を反映したビジョン、目標、そして計画に差し替えてください。

 具体的な反映の仕方は、『校長先生という仕事』(平凡社新書)のビジョンづくりの章(147~161ページ)と『効果10倍の学びの技法 ~ シンプルな方法で学校が変わる』(PHP新書)の「親も生徒も参加してつくる学校の教育目標」(188~193ページ)が参考になります。

 ポイントは、絞り込むことです。★
 と同時に、つくる過程こそが大切だということです。

 学級の目標や経営計画も、上で書いたことがそのまま適用されます。


★ 4~5に絞り込むのではなく、多くても2つ~3つにです。
  普通の人間は、それ以上一緒に取り組むことはできませんから。