教師は悩み多き職業です。仕事に正解はないと言っていい。日々、決断と意思決定の連続です。「悩み多きは正常の証。悩みがなくなった時は教壇を降りる時である」と、私の尊敬する先輩が熱く語ってくれたのを今でも覚えています。
そのような悩みに対処するための手立てがなかったわけではありません。従来の学校は、先輩教員や同僚が、丁寧に時に厳しくリードしてくれたものです。教育委員会の指導主事や指導教諭、主幹教諭なども、教師の日々の実践を支える存在として、期待されているはずです。退職教員が、アドバイザーとして学校に関わる事例も多くあるようです。
しかし、このように教師を導いたり、助言したり、指導したりする立場にある人たちは、その立場に相応しい教育やトレーニングを受けてきているでしょうか。多くの場合、経験や自分自身の学びに基づいた知見に依存していると思われます。個人の経験則に基づいた、時に非常に偏った見識が披露されることがあるとの声も耳にします。
もちろん、豊かな教養や見識、豊富な経験をもった、力のある教師が、学校現場での仕事ぶりを評価されて、そのような立場に就くことが多いでしょうから、その人物や力量に疑いはないはずです。
しかし、この現状は打破すべきだろうと思います。
近く刊行予定の『インストラクショナル・コーチング(仮題)』★ の前書きから引用します:
「日本の学校に、教師のためのコーチングを導入したい。
これが私たちの提案であり、この本を翻訳した理由です。
本書の主題は、教師が教育専門職として成長することを目的としたコーチングです。私たちは、これを「インストラクショナル・コーチング(Instructional Coaching)」と呼ぶことにします。 教師が、教師として成長し、自身のもつ資質、能力、ポテンシャルを最大限に発揮できるようにサポートするコーチングのことです。教育者としての幸せな人生を送ってもらうためのコーチングと言ってもよいと思います。」
本書の原著者であるジム・ナイト氏らは、ICG(インストラクショナル・コーチング・グループの頭文字をとったもの)という団体を運営していますが、そのホームページ(https://www.instructionalcoaching.com)に、インストラクショナル・コーチの役割が書かれています:
「インストラクショナル・コーチは、生徒が学校で成果をあげられるように、教え方や学び方の改善を、教師のパートナーとして支援します。そのために、コーチは教師と協働して、現状の的確な把握、目標設定、目標達成のための教え方の選定、進捗の管理、目標達成までの課題解決などを行います。一言で言えば、インストラクショナル・コーチの役割は、生徒の学びが最大限になるように、教師の仕事を後押しすることと言えます。」
本書の柱は、ICGの長年の研究成果と実践に基づいてまとめられたインストラクショナル・コーチング成功の7つの要因です。
1. パートナーシップの原則
2. コミュニケーション力
3. リーダーとしてのコーチ
4. インパクト・サイクル
5. データ
6. 教師のためのプレーブック
7. サポート
経験則に基づいた指導助言ではなく、教師が自らの力で成長していくことを支援する。主人公は教師であり、コーチはあくまでパートナー。専門的で、厳しい、そして、情熱をもって教師の成長を見守る。
インストラクショナル・コーチングこそが、日本の教育のゲーム・チェンジャーになるかもしれません。
★『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化、2024)まもなく発刊予定です。
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