2019年8月25日日曜日

自分の授業を見直す

先日、この4月から東京都や埼玉県、神奈川県などで教師としての生活をスタートさせた教え子たちと再会する機会がありました。たった数か月ですが、学生時代とは違った精悍な顔つきになった彼らの様子を見ると、仕事で鍛えられたくましくなったように感じました。
翻って、自分の初任時代を思い起こすと、真っ先に脳裏に浮かんだのは「授業日誌」のことでした。この日誌は毎日、その日の授業で気になったことやうまくいかなかったこと、生徒の様子で記憶に新しい残ったことなどを書き留めたものです。これは、自分で思いついて始めたことではなかったのですが(実は、学習指導主任の先生から書くように言われたのです)、いざ始めてみると書くことがいろいろと出てきて1年間続けることができました。その後、学級経営日誌なども付けるようになり、今から思うとあのとき「書きなさい」と言ってくれた先輩に感謝です。この「書く・記録する」ことはその後、教師を続けていくうえで大変役立ちました。
その「授業日誌」について昔読んだ本の一節を思い出しました。
『成長する教師』浅田匡ほか編・金子書房(1988)です。その第10章に「自分の授業を見直す」という箇所があります。そこでは、秋田喜代美氏の教師教育における省察(振り返り)概念に関する省察の三つのレベルが紹介されています。

(1)「いかにできたか」
(2)「なぜこの方法なのか」
(3)「何のために、誰のために(自分の)知識が使われているのか」「なぜこの教材なのか」「なぜこの場でこのような形で授業が成立するのか」

そして、このような分析が可能になるためには、「自分の授業を記述する」ことから「自分の授業から学ぶ」ことが必要になります。そこで、自分の授業を記述することから「授業日誌」を書くことが推奨されるわけです。
この論文で、日誌を書くことは二つの意味があると説明されています。
1つは、自分が覚えているエピソードを書くことで、必然的に先ほどの三つの省察レベルで授業を見直すことができるというわけです。もう1つは、自らが関わる出来事を書くことで、「自己」を書き記すことで、「自分の活動の細かいところまで注意が払われ、自己体験が強化され、拡大されることになる」ということです。
 その本の中では、日誌の形式として、「日時」「具体的な状況」「対象とする子供」「状況の解釈や判断」「用いた手立て」「その手立てを用いた理由」などが紹介されています。
この書式については、やりながら改善を加えていくことで、自分の書きやすい形式が見つかると思います。
 現在は、ディジタル時代ですから、この日誌もディジタルを利用して当然です。米国ではブログなどを利用することが一般的ですが、日本の場合はまだまだこのあたりのイノベーションについては遅れていますから、自分の置かれた場所で無理のない形で進めるのがよいと思います。また、新しいことをすれば、当然守旧派からは反発をされ、たたかれることになります。そのダメージがあまりにも大きければ、好きな教師の仕事も続けられなくなってしまうこともありますから、そのあたりはバランスをよく考えるとよいでしょう。
今後、「現状維持型」の教師から「イノベーション型」の教師へ、多くの先生方がそのように変わっていけばよいと思います。

2019年8月18日日曜日

「もっとも大切な人」


今となっては、この写真をどこで見たのか覚えていません。

ある教師が、医者の待合室で撮った写真だということと、その文章を教師と生徒との関係に置き換えられたらどんなに素晴らしいだろう、ということだけは覚えています。

 詩を訳すと、次のようになります(直訳バージョン)。

患者は、私たちの仕事でもっとも大切な人です。
私たちは彼らが来てくれることに依存しているように、
彼らは私たちの専門性に依存しています。
患者は、私たちの仕事の妨げではありません。
患者こそが、私たちの存在意義です。
患者が私たちのところに来てくれることで、大いに助かっています。
私たちが彼らに役立つことで、助けているのではありません。
患者は統計値でもありません。
それぞれが、私たちと同じように、感情と気持ちをもった人間です。
彼らは、私たちのところにニーズや要望をもってやってきます。
それらを満たすことが、私たちの使命です。
私たちが提供できるもっとも丁寧で思いやりのある治療を
患者は受ける資格があります。
患者は、私たちの仕事の活力源です。
彼らなしで、仕事を続けることはできません。

(直訳バージョンでも)詩のパワーは、すごいです。
どなたか、これを教師バージョンに「リミックス」★してみませんか?
 しかし、より大切なことは「あるべき姿」を額に入れて飾ることではありません。
 実践することです。
 あなたにとって、それをもっとも体現した形で投げかけてくれているものは何ですか?
 私が推薦できるのはたくさんある中で、特に『教育のプロがすすめるイノベーション』と『イン・ザ・ミドル』です。




オリジナルバージョンの素材を一部や大部分を抜くなど、積極的に新しいバージョンを作成すること。

2019年8月11日日曜日

 学校研究はチームづくりと明確な目標を



多くの学校がプール指導や出張、さらには研修に追われた夏期休業の前半戦の終わりもみせ、いよいよ多くの教員たちは夏休みになった頃でしょうか。初任者はまだ初任者研修が続くと聞きますが。

束の間のお盆休みを終えると、研修の後半戦がはじまります。

さて、あなたの職場の学校研修では、あなたはよりよく学べていますか? もしそうなら、どうしてでしょうか? もしそうでないのなら、なぜ学べないのでしょうか?

よく学べていると感じるのは、きっと研究主任の先生が、職員皆さんのために職場づくり、そして研究テーマの授業づくりへとバランスよく取り組めるように場作りをしてくれているのではないでしょうか。そのことをぜひ、フィードバックしてあげてください。

いかに研究主任の仕事は孤独な仕事か!そもそも、多くは誰にも歓迎されていないプラスアルファの仕事と受け取られがち。学校研究に「学びがある」と言えるのならば、主体的に参加しているあなたの力だけではなく、素晴らしい管理職や研究主任などの支えがあってのことでしょう。

一方、校内研修で「学びがない」と感じているのなら、どうしてそうなってしまったのでしょうか? 学校全体が一つにまとまって取り組んでいくはずの研修が、うまく機能していない。それぞれの学年がやっていることは見えてこなかったり、ベテランの教師から「チャンスだから」と勧められて?授業をやらされたこともあるのでは。理由はまだまだありそうですね。

人に学びが起こるには、いくつか原則があります★。人が学び始めるには、心理的な「安心感」があることは基本です。「こんな授業をしてしまったら、批判されるのでは」「こんな意見をいってしまったら、恥ずかしい」など、その不安のなかでは、のびのびと試行錯誤や失敗をしながら、教師が成長していくことができないばかりか、言われたこと、管理されたことを指示されたとおりにやっていくことが一番安全。そこでは、自分の身を守る術を学んでいくことになってしまいます。

学校研究を通して、職場内に安心の場をつくろうとしている研究主任の話を、最近、聴くことができました。

「まずは徹底的に、学校研究のハードルを下げることです。指導案もペラ1枚にして、気軽に全員、授業提案ができるようにする。そういった授業はみんなで見合うことができて、その後、気軽に話し合っています」

こういう学校では、何かのびのびと新しいことを学び始めてみようと思えるのではないでしょうか。心理的安全感がある職場ではそれぞれのパフォーマンスが発揮されます★★。このような職場では、ベテラン教師と若い教師が共に学び合えるよい環境が容易に想像できます。

しかし、多くの学校はここで失敗しています。それぞれがお互いのことを知り合ったり、それぞれの価値観をもっと知ろうともしていない。そのような職場集団で、いきなり「学力向上とは」「教科の専門性を深めるには」と研究に入るから、学びが全く発動せずに、「造詣の深い先生」の講義型の知識伝達で終わってしまうのです。その教科に長けている人だけは、イキイキしているかもしれませんが、大抵はその指導者といったところでしょうか。多くの人はついていけずに、こなすためだけの学校研究となってしまいます。

一人ひとりが学び、成長していくためには、メンバーの内に安心感といったチーム作りの要素は欠かせません。この夏の学校研修は、お互いの夏休みのことや教師として大切にしていることから、お互いを知り合うコミュニケーションの量を増やすことから初められるといいですね。

一方、職場内のコミュニケーションが円滑にいくようになってこれたら、そこに止まる必要はありません。職場内の関係性ばかり追ってしまうと、同調圧力が強くなり、それはそれでお互い自由闊達な意見交換ができなくなってしまう恐れが生まれます。仲良しチームになれたとしても、なかなかチームのパフォーマンスが上がらないということはたくさんあるからです。そこで、職場内のチーム作りに平行して、学校研究で追求する「目標を明確に」していくことが必要です。

このチームの安心感とパフォーマンスを発揮することは対立することもあり、バランスよく発揮していく必要があります★★★。学校全体がなんのために学校研究を行っているのか、明確な目標をそれぞれの案で合意形成をつくりあげていく。「どんな子どもに育ってほしいのか?」「本当に身につけてほしい力とはなんなのか?」こういったことこそ、ゆとりのある夏期休業中の校内研修でじっくりと話し合っていきたいものです。

学校研究において、明確な目標があることによって、継続したフォローアップが可能となります。何に向かっていて、どこまでができていて、何ができていないかを教員同士が支え続けるのは、明確な目標がなければできません。これはまさに形成的評価の学習モデルであり、校内研究を通して、教師自身がその職場内に支えてもらえる体験が可能となります。それによって、実際の授業においても、自分が職場の先生たちに教えてもらったように、子どもたちを支援しながら教え続けるといった学習を維持するができるのではないでしょうか。大切なことは、支援し続けること、関わり続けること、研修後のフォローアップですから。



いつまでたっても「研究授業はブロックの代表がしっかり本番の授業を一本やる」は終わりにしませんか。打ち上げ花火のような研究授業には、教師一人ひとりにとってあまり意味を見いだせません。毎日の授業こそが本番です。そのためにも、教師が教師として育っていけるような意味のあるプロセスを体験できる学校研究が望まれます。学校研究をチームづくりで終わることなく、より教師の専門性も高めるためにも、明確な学校研究の目標をもって、バランスよく学校研究をつくりあげていく。そんな夏の研修にしてみませんか?★★★★

PLCの評価基準表 ・その3
https://projectbetterschool.blogspot.com/2012/03/plc_18.html

★★
「効果的なチームとは何か」を知る
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/

★★★
PM理論 リーダーシップ行動論の1つ。社会心理学者、三隅二不二が1966年に提唱。リーダーシップを「目標達成能力」のパフォーマンスと「集団維持能力」のメインテナンスの2つの能力要素で構成されるとし、そのどちらも兼ね備えているリーダーシップが望ましいとした。

★★★★
この夏期休業中、様々な研修に参加することがあると思います。居心地がいいもの、一方的な知識の伝達で終わってしまうもの。それらを一度ふりかえってみて、チームづくりの集団維持能力の面と明確な目標の目標達成の二つの面で研修を捉え直してみると、自分が次にやるべきことが見えてくるのではないでしょうか。その研修の残念さも!? 

2019年8月4日日曜日

変わる教師の役割

時代とともに教師の役割は変わる。

教師の役割が、一方的に知識を伝授することが中心であった時代は、教師が教室の中で果たす役割は限られていた。生徒たちが学ぼうが、学んでいまいが、用意していた内容を朗々と語ることで事が足りたのだから。

今は、教師がどのように教えるかだけでなく、生徒たちがどのように学んでいるか(あるいはつまづいているか)が、大切にされるようになってきた。教師は、教室の中で、自分自身の実践や生徒の学びを、観察し、振り返りながら、必要に応じて、後戻りをしたり、修正を加えたりする。

教師の果たすべき役割の変化や多様さを考えてもらうために、外国語指導助手(日本の小中学校で英語を教える補助的役割をしている外国青年)の研修会で、教師(teacher)の同意語(synonym)を思いつく限り出してもらった事があった。

出てきた言葉を、大まかに分類すると次のようになった。実に多くの言葉があるの事に驚かされるが、同時に、教師にも多様な役割がある事が確認できる。

・教える人: instructor, lecturer, preacher, professor, trainer
・サポートする人、助言者:tutor, adviser, chaperon, coach, consultant, counselor, helper, mentor, facilitator
・モデルとなる人: example, expert, ideal, model, standard
・リードする人:advocate, captain, director, guru, inspiration, leader, master, pilot, pioneer, governor
・情報提供をする人: guide, informant
・管理する人: authority, conductor, controller, disciplinarian, enforcer, sergeant, counsel
・評価、判断する人:judge, lawyer, monitor, referee, solicitor
・友人、仲間:friend, partner

これらに加えて、外国語教育関係の本に次のような役割が記載されていたので紹介しておきたい(⭐︎)。 先のリストと重複する部分もあるが、これからの教師が担うべき役割について貴重なヒントを与えてくれるのではないだろうか。

◉証拠を集める人(Evidence Gatherer):コミュニケーション活動などをしている時に、生徒のパフォーマンスを観察して、何ができているか、できていないかの情報を
収集する役割

◉フィードバックを提供する人(Feedback Provider):集めた証拠に基づいた、フィードバックを提供する役割

◉プロンプター(Prompter):舞台などで俳優にセリフを教える役割のことをプロンプターというが、この場合は、今やっていることを継続するよう奨励したり、次に何をすれば良いかを提案する役割を指している。背中を教えてあげる役回りということだろうか。

◉編集者(Editor):作文や発表に対して、変更や改善を提案する役割。誤りの修正ではなく、生徒たちがより良く書け、話せるように提案をする事が主目的。

◉活動設定者(Task-setter):生徒が行う活動を設計したり、やり方を説明したりする役割。

教師がこのような役割を担う教室では、学習指導案の位置付けも変わるだろう。前掲書では、学習指導案は「奴隷的に従うための設計図ではなく、行動のための提案(as a 'proposal for action' rather than as a blueprint to be slavishly followed)」としている。

教師が自立して考え、決断していく。そのような教室の姿が想起される。日本の教室もそうなっていくのだろうか。

[文献]
⭐︎Jeremy Harmer (2015) The Practice of English Language Teaching, Pearson. pp.115-117(ジェレミー・ハーマー『英語教育の実践』ピアソン).