2020年4月25日土曜日

オンライン授業のスタート

現在、新型コロナウイルス感染症対策で、引き続き多くの自治体の小・中学校は休校措置になっています。自宅での学習ができるようにタブレットを利用したりして、工夫されている学校もあると思いますが、自宅のネット環境や機器の関係でうまくいっていないところも多いと思います。 
私の勤務する大学もオンライン授業が始まりましたが、3か月前は誰もこのような事態を想定していませんでした。私たちも試行錯誤で準備に当たり、現在もその仕事が進行中です。 
そのような準備を進めていく中で、頭に浮かんだのは以前このブログでも紹介した『教育のプロが進めるイノベーション』(新評論・2019)の文章です。 

「教育におけるもっとも重要な三つの言葉は、関係、関係、関係です。それがなければ、私たちは何もできません。」(同書80ページ)

  今回これまでやっていなかったことを始めるわけですから、その準備にあたるメンバーを初めに招集して、授業のガイドラインなどを作成しました。その過程で、メンバー間のやり取りなどをみていて、人と人との「関係性」の大切さを再確認しました。このようなときに普段からリーダーがメンバーたちとどのような関係性を築いているかが問われるのだと思います。

 「人々は、新しいことを試すことに価値があり、安心してできると知ってさえいれば、新しくてよりよい何かに向かって努力する可能性があります。」(同書118ページ)

 私の職場を見ていても、今回は自分たちが望んでというよりも、緊急事態によってやらざるを得ないというところ仕事が始まったわけですが、それでも「新しいことを試すことに価値がある」とそのプロセスの中で多くの先生方が気付いたので、オンライン授業が動き出したという実感があります。

これまで、テレビ会議などをやった経験がない先生方も、実際にやってみて、その便利さを実感したことで、初回よりも2回目、2回目よりも3回目という具合にスムーズに会議を進めることができ、会議の時間も対面時よりも短縮することができて、その可能性を多くのメンバーが理解したのだと思います。

「オンライン授業」という学びの過程を教師自らが経験することで、ICTが学生にもたらす機会をより深く理解することができたのです。『教育のプロがすすめるイノベーション』の104ページに書かれていることが実感できた瞬間でした。

2020年4月19日日曜日

生徒が学校に合わせるのではなく、学校を生徒に合わせるべき


 いまが、まさにそのタイミング!!
 (ピンチがチャンス!)
 学校の合わさせたくとも、学校に来られなくて、みんなバラバラな状態ですから。
 ある意味では、学校(教師)が生徒に合わせなくてはならない状況に置かれています!

上記のタイトルは『あなたの授業が子どもと世界を変える』の第10章のタイトルです。その中身を紹介します(本の174~176ページからの引用です)。

 第二次世界大戦中、アメリカ軍はパイロットの高い死亡率という問題を抱えていました。◆原注15◆軍は、兵士養成の仕方の問題か、それとも速度の速い飛行機にパイロットが順応できないのではないかと推測しました。そして、パイロットに何か問題があるのではないかという前提のもとに、すべての問題に対する解決策を探り続けました。しかし、いかなる微調整をしても改善を図ることができませんでした。
 最終的に、すべてのパイロットを評価したところ、「平均」的なパイロットは一人も存在しないという結論が出ました。四〇〇〇人以上もいるなかに、たった一人も「平均」とされるパイロットが存在しなかったのです。
実際のところ、「平均的な男」に近いと判断されたパイロットがごく少数いました。平均というのは錯覚で、たくさんのデータを単純化する形で見せていたのです。言うまでもなく、それは人間が開発したものですし、科学的/数学的な真実があるということで社会が受け入れていただけなのです。
 この真実は、軍に衝撃を与えました。問題は、パイロットや飛行機、あるいはトレーニングの仕方にあったわけではなかったのです。真の問題は、さまざまな身体つきをしたパイロットを同一規格のコックピットに押し込めていたことでした。
 問題を解決するためには、これまでとはまったく違うアプローチを見つけ出す必要がありました。

<ここまで読まれてきて、学校や教室で日々していることとの共通点が、あまりにも多すぎると思われませんか?>

オーダーメイドの操縦席をつくるのか? もしそうなら、そのコストに対応できるのか? そして、パイロットが引退したり死んだりした場合はどうするのか? そのとき、この飛行機は使いものにならなくなってしまうのか?
 ほかにもアイディアが出されました。操縦席にぴったりフィットする身体をもったパイロットのみを選ぶというものです。しかし、これも現実的ではありません。なぜなら、軍にとっては、戦争で戦うのにもっとも適したパイロットが必要だからです。
 とはいえ、最終的には解決策にたどり着いています。

ものを調整可能にする


 そのとおりです! ヘルメットのストラップを調整できるようにする。ペダルを調整可能にする。座席を調整可能にする。柔軟な「デザイン」と「平均」という神話に人を合わせることから解放されたことで、突然、死亡率が下がったのです。
 最初の制度は、平均という概念によってつくられていました。平均がまるで役に立たないということではありませんが、それはすべての人(パイロットの場合が典型です)に合わせたように設計されています。さらに悪いことは、個々人の知識、スキル、資質を評価しようとする際にその平均を使ってしまうことです。このような現象は、常に学校で起こっていることでもあります。★注・一斉授業もテストも「平均」の発想がないとできないこと!?
ハーバード教育大学院で「心・脳・教育プログラム」を主宰している心理学者であるトッド・ローズ(Todd Rose)の「The Myth of Average(平均の神話)」 というタイトルのTEDトークで、上記のストーリーのすべてを聞くことができます◆原注15◆。

平均という捉え方は、教室で教える教師にとっては捉えにくい部分もあります。★注・言葉を換えると、教師の多くは次に掲げてあるような問いを常に頭に描いて授業をしているということです。そうでないと、指導案や指導書自体の存在自体が危ういものになりますから。しかし、「平均」という捉え方自体に問題があることが分かった今、それをベースにした授業をやり続けてしまっていいのでしょうか?
 平均的な生徒は、何を知っているべきでしょうか? 平均的な生徒は、これを学ぶのにどのくらいの時間がかかるでしょうか? 平均的な生徒は、このプロジェクトにどのくらいの時間をかけるべきでしょうか?
 やはり問題があります。私たちは、平均的な生徒などに教えることはないのです!

 平均的なパイロットが存在しなかったように、平均的な生徒も存在しません。平均を狙うと、私たちが行う指導は誰にも合いません。
 時間のことを例に取ってみましょう。あなたは、生徒たちが課題をこなすために一五分という時間を提供したとします。早くできる人もいるし、時間のかかる人もいます。平均は、誰にとっても役立つものではありません。生徒たちは、退屈したり、怒り出したり、イライラしたり、上の空だったりしているはずです。

<この平均思考を脱する教え方と評価の仕方については、『あなたの授業が子どもと世界を変える』以外に、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』や『教育のプロがすすめる選択する学び』を含めて、https://sites.google.com/site/writingworkshopjp/teachers/osusume で紹介されている本が参考になります。先週の本ブログの記事も、です。http://projectbetterschool.blogspot.com/2020/04/blog-post_11.html

原注15TEDトークは、平均思考は捨てなさい : 出る杭を伸ばす個の科学』(トッド・ローズ著小坂恵理訳、早川書房2017年)に基づいています。教師必読の本です!!

2020年4月11日土曜日

オンライン学習だけがすべてじゃない! 子どもに創造的休暇を!


多くの学校が5月までの休校に向け、差し迫った課題準備に戸惑っていることでしょう。この休校中、その学習をカバーしてくれるだろうオンラインツールには、大きな可能性があります。しかし、多くの教師たちにとっては、使い慣れていないデジタル機器を活用しなければならなく、オンライン授業の準備を要請され不安や葛藤の中、その勢いに流されているのではないでしょうか。
確かに、この社会状況下では、なにもやらないよりはいいでしょう。しかし、本当に、このオンライン学習だけが今できる唯一の学習方法なのでしょうか? 子どもの学習と心の育ちを考えると、子どもたちのスクリーンタイムを助長させることを、私たち教師が推進することなのでしょうか? 
そこで、この学校閉鎖中を「創造的休暇」として捉えてみましょう。
13世紀に活躍したニュートンは、当時、大流行していたペストにより、実家のあるリンカーンシャーへ戻り、2年間そこで過ごしました。20代半ば、その後の三大発見である光学プリズム・微分積分・万有引力の基礎理論を築きあげました。ニュートンは当時を振り返り、人生の中で一番充実していた創造的休暇だったと話しています。
この休校中にまとめてとれる時間を、これまで教室でしかできなかった学びとは異なるすばらしい学習を推進できると考えられれば、素敵じゃないでしょうか? そしてこの期間中は、これまで学校で学んできた学習スキルを活かし、自主学習するチャンスでもあります。それは、きっと子どもたちのストレスをも緩和するはずです。
そのための解決方法が子ども向けに5つ紹介されています★。今後の学習課題作りの参考にしてみてください。
1 自分にとって重要なスキルを練習し、記録しよう。
そのスキルがなぜ重要なのか、その練習によってどのように成長したのか、音声、動画、テキストでふりかえってみましょう。 
2 好奇心に夢中になろう。
自分が学びたいと思っていることはありますか? 教師は、子どもが好奇心を発揮する学習に向け、資料や研究方法をどのように提供するのか、調整します。★★。
3 好きなものをものづくりしよう。
動画、歌、美術作品、ツリーハウス、車の改造、アニメや漫画、衣服、料理レシピ、豪華な食事やデザート、その他何でも構いません。作成したものについてふり返りを書いてみます。そこに、これまで学んできた学習スキルがどのように使われているのか考えてみます★★★。
4 自分の住んでいる地域をよりよくする方法を考えよう。
住んでいる役所に連絡し、安全で健康的なボランティア活動を見つけてみましょう。何をしたのか? なぜ重要なのか? どんな学習スキルをつかったのか? ふりかえりをします。
5 自然の中で観察記録をしよう。
観察する植物を決めて、毎日、最低でも20分からその場所で観察します。見たこと、聞いたこと、感じたこと、嗅いだことなど、観察したことを日記に書いてみましょう。もしかしたら鳥や昆虫もやってくるかもしれませんね。
いかがですか? これらの課題を教師が一度回収して、個々の活動を学級通信にまとめて各家庭に送ると、子どもたちの課題の共有も可能ですね。一方、これらのような方法だけでは、この休校の間にやるべきであった全ての学習をカバーすることはできません。しかし、子どもたちはオンライン授業のただの受け手ではありません。自分なりの世界と興味を持って生きています。この学習への情熱をもち、自然とつながって生きようとすることは、このパンデミックの恐怖から、一歩でも前を向かせてくれるのではないでしょうか。
今回、紹介した子どもの学びを奨励する学習方法について、スター・サックシュタイン著、吉田新一郎訳「宿題をハックする: 学校外でも学びを促進する10の方法」の4章〜6章が大変、参考になります★★★★。
4章 生徒のニーズにあわせた特別仕様にするー課題や時間を柔軟に
5章 生徒に学びを奨励するーイノベーションと創造性を促進するために
6章 授業の前に好奇心を刺激するー学びへの興味関心を生み出すつながりをつくる
また、今後、圧力によりやむを得ずオンライン学習を推進せざるをえない際には、デジタルツールを活用して、どのように子どもの学習をサポートしていけばいいのか、具体的な実践も紹介され、この時期に必要なヒントが得られるはずです。

7章 デジタルでやり取りする場を活用するー学びのためにソーシャルメディアを利用する
今、私たちはどんな学びを子どもたちに投げかけ、提供できるのか、今、一度ふりかえってみませんか?
Kate Ehrenfeld Gardoqui「Remember, Online Learning Isn't the Only Way to Learn Remotely」Education weekより
★★
これは、まさに探究学習そのもの。ないし「契約」という学習方法です。いい最終成果物がつくり出せるように、教師や親はカンファランスでサポートしましょう!
★★★
海外では、教室の中だけではなく、いつでもどこでも使える転移可能なスキル(日本の教育でいう思考判断の考え方に近いもの)が重視さいれています。そのため、この休校中は、これまで学んだことを個々が活かすチャンスと捉えられます。
★★★★
新刊案内『宿題をハックする ~ 学校外でも学びを促進する10の方法』

2020年4月5日日曜日

生徒たちといい関係を築き、尊重しあう


 年度はじめの授業ですべきことで、一番優先順位が高いことは何でしょうか?
 少なくとも、3本の指の一つに入るのが、今回のテーマではないでしょうか?
 いま訳している『Peer Feedback(ピア・フィードバック)』という本の中から、その箇所 (原書の、19~20ページ) を紹介します。

年度のはじめは、何よりも生徒たちといい関係をつくることが大切です。生徒たちの興味関心を知り、彼らが何を大切にしているのかということについて、共有してもらう機会を提供しましょう。生徒たちといい関係を築くということは、あなた自身が教師として関わるのではなく、ひとりの人間として関わることを意味します。まずあなた自身が、率先して自分の学校での経験や家族について話すようにしましょう。あなたが言いづらいことまで打ち明ける必要はありません。しかし、生徒たちがあなたをひとりの人間と認識した時、彼らもあなたに対して、またお互いに対して自分の内面を話しやすくなります。

互い尊重し合うクラスを作るということは、気分がよくなる経験を共有し合うだけでつくることは難しいです。ただ、それもはじめの一歩としては良いスタートでしょう...(中略)...生徒たちにお互いに尊重しあってほしいのならば、私たちが子どもたちに話すときに子どもたちを尊重し、対立を受け入れ、さまざまな視点から生徒たちに語り掛ける必要があります。いくつかの例を紹介します。

・開かれたフォーラム(サークル)を持ちます。そこでは、学習環境に影響を及ぼしている様々なテーマや課題に対する生徒の声(意見)提案を聞きます。学級運営から、プロジェクトに関するフィードバックやグループ分けに関してまでです。生徒たちはクラス全体の話し合いでアイディアを共有したり、無記名で発言できるようにしたり、クラス全体に伝えるために教師に個人的に話したりしてもよいでしょう

・教室の学びに関して生徒たちのフィードバックを引き出すアンケートをします。アンケート結果をまとめ、その結果を生徒たちに伝え、あなたの教え方を修正・改善すると良いでしょう。

 今年は、直接会わないで新年度がスタートというところも少ないかと思います。そうなると、「生徒たちといい関係を築き、尊重しあう」ことは従来にも増して大切と言えます。可能な方法を駆使して、ぜひ実現してください。
 このテーマは、これまでに出した本の中で丁寧に扱われています。すべての基本と捉えられているからだと思います。そのうちに3つを紹介すると・・・
・『「考える力」はこうしてつける』の第2章「自立した学習者を育てる」 ~ タイトルからもわかるように、すべてのベースが紹介されている
・『イン・ザ・ミドル』の第3章「ワークショップ開始」 ~ 特に、アンケートが参考になる。生徒への「期待」が明確に提示されることも。
・『教育のプロがすすめる選択する学び』の第2章「安心でサポーティブな環境をつくりだす」 ~ 「生徒たちをよく知る」「自分のことを紹介する」「もっともよい自分でいる」とのアドバイスもある。この本も含めて、3冊ともソフト面だけでなく、ハード面も押さえられている。

 アンケートをする場合は、https://docs.google.com/viewer?a=v&pid=sites&srcid=ZGVmYXVsdGRvbWFpbnx3cml0aW5nd29ya3Nob3BqcHxneDo4ZTc0Nzc3MWIxZDViM2M も参考にしてください。(これは、読むことに焦点を当てていますが、書くことはもちろん、他教科への応用も十分に考えられるでしょう!)

 このテーマについて日本人が書いた本ですすめられるのをご存知でしたら、ぜひ教えてください。お願いします。

★ 以上が大切なことは、普通の授業をしていても読者の方はお分かりだと思いますが、教師だけがフィードバック(コーチング/カンファランス)をするのではなくて、生徒が相互にフィードバック(コーチング/カンファランス)をしたり、それを受け取ったりする時はなおさらです。「いい関係や、尊重しあう関係」ができていないのに、効果的なフィードバックをしたり、受け入れたりすることは不可能に近いですから。