2014年9月28日日曜日

学校ストレス


毎週金曜日は自分の所属以外のキャンパスで講義があります。

帰りは、いつも東京駅の近くにある、書店の丸善に立ち寄ることにしています。


今回たまたま月刊誌「児童心理201410月号」(金子書房)を立ち読みしたら、特集が「学校ストレス」の問題でした。著者は早稲田大学の菅野純さん。著者はその「ストレス減としての学校」を分析するなかで、心理的側面として次のようなことを指摘しています。

(同書p.2)

 

・学校生活で守るべき規則が多く複雑である

・授業進度が速くとり残される可能性がある

・興味のない授業でも、授業内容がわからない授業でも、静粛に授業を受けることを求められる

・・・・・(以下、略)

 

学力テストの結果がこれまで以上に重大視されている今の学校現場では、このような問題が生じることは当然のことです。「興味のない授業でも、授業内容がわからない授業でも、静粛に授業を受けることを求められる」という悲劇的な状況を教室内に作らないことにまず全力を注ぐことから始めたいものです。

そのための方策は、このブログですでに紹介されています。

まず、自分の担任する学級で、また管理職の方であれば、校内で協働的な関係を土台として、教職員と一緒に作り上げていくことからすべては始まります。

 

さきほどの雑誌の79ページでは、「水曜日も休みだったフランスの学校」という論文も掲載されています。著者は南山大学の小林純子さんです。

 

「フランスの公立初等学校は、2013年の新学期から、1週間に24時間の教育を月曜日、火曜日、木曜日、金曜日の午前と午後、水曜日の午前の計九回の半日に、一日の授業時間数が五時間半を超えないように割り振ることになった。」

 

これを読むと、日本人はおそらくだれもがびっくりするでしょう。

土日以外に水曜日の午後が休みとは。しかし、2013年以前は土日以外に水曜日が丸一日休みでした。さすがに、週4日の授業日では一日当たりの授業時間数が多くなるので、4日制から4日半制になったようです。面白いのは、このように変更するために「時間割編成に関する国民会議」なるものが設置され、いろいろな団体から意見を聞いたり、ウェブ上でも意見収集をしたりしているということです。


日本では、最近土曜授業を復活させて、土曜日を授業日にする動きが大きな流れになりつつあります。

これは、「授業時数を増やせば、学力向上」を目論んでのことですが、すでに先行研究では反対の結果が出ています。

要は授業の質の問題です。「学びの原則」をふまえた授業を実現するということです。(「学びの原則」については、「『読む力』はこうしてつける」吉田新一郎2010・新評論p.60を参照してください。)

 

2014年9月21日日曜日

理科の指導法について


 最近ある教育雑誌の依頼で小学校理科の指導法を解説する原稿を書きました。
   
 テーマは小学校6年生理科の「太陽と月」です。

学習指導要領では、その内容が以下のように示されています。

 

 月と太陽を観察し、月の位置や形と太陽の位置を調べ、月の形の見え方や表面の様子についての考えをもつことができるようにする。
 
 
ア 月の輝いている側に太陽があること。また、月の形の見え方は太陽と月の位置関係によって変わること。

イ 月の表面の様子は、太陽と違いがあること。

 
 これを教科書通りに教えるのは面白くありません。

Nurtiring Inquiry」の著者ピアースの方法から入ることにしました。子どもたちが読んだ本(この場合は、月や宇宙に関する本)をもとにして、議論を行わせます。そこでは、次のような台本に基づいて話し合いを行います。

 
リーダー:だれか読んだ本の中で一冊紹介してくれませんか。

メンバー:(本について説明する)

リーダー:だれか付け加えることはありますか。

メンバー:(話し合う時間をもらう)

リーダー:次に別な本を紹介してくれませんか。

・・・それまでの繰り返し

リーダー:だれか事実に関する質問をしてくれませんか。

メンバー:(質問が行われ、話し合いが行われる)

リーダー:だれか因果関係に関する質問をしてくれませんか。(以下略)

 

このような内容で議論が行われ、それが子どもたち自身によるブックレビューになっています。さらに。ピアースは自分たちが探究したことをもとにして、それを一冊の本にまとめるという活動もカリキュラムに組み込んでいます。


これによって無理なく「読む」「話す」「書く」という言語活動が展開されることになります。学習指導要領にも示されているように、学習活動の基盤となるのは,言語に関する能力であり各教科等においても言語活動を充実することが求められているのです。理科は観察・実験が中心の教科ですが、科学読み物などの「読み」も大切にしたいものです。

     
もう一つ小学校理科の授業実践を紹介します。
月の満ち欠けに関係する実践記録の一部です。
Teaching Students to Think Like Scientists
Maria C.Grant 2014 Solution Tree Press)に掲載された実践です。
 
【コア概念】
 宇宙のなかの地球の位置を理解する
【授業の目標】
 月の満ち欠けについて議論し、太陽。地球・月の位置関係によって月の満ち欠けが起きることを理解する
【焦点化する方略】
 大きな声でテキストを朗読し、アイデアを共有するためのウェブページを作成する
NGSSの関連】
 昼と夜の長さが日ごとに変化することや夜空の星が季節的に変わることを図示することでそのパターンを説明できること
CCSS(Common Core State Standards各州共通基礎スタンダード)との関連】
 ・「話す」「聞く」のスタンダード
 トピックとテキストをもとにして、様々な仲間と一緒に自分や仲間の考えを発展させながら協働的な議論を効果的に進めること
(以下略)
 
 この本に紹介されている授業実践者マルチネスによると、まず導入として「The Moon Book」(Gibbons,1998)とそれに関連する何冊かの本を朗読するそうです。このとき、同時に先ほどの図1のような月の満ち欠けを示す大きなポスターを黒板に掲示します。そして、子どもたちに次のように投げかけるのです。
 「昨日の夜はほとんど満月だった。さて、明日の晩や来週は月の形はどうなるのだろう」

 この教師は子どもたちにまず本とポスターによって情報を提供したのです。そして、最初の問いを投げかけました。そこで、さらに教師は次のように続けます。
「ポスターから月は地球の周りを回っていることがわかったね。私たちが最初に読んだ「The Moon Book」で太陽の光はこのポスターの右側からやってきていたね。太陽はかなり遠くにあるし、とても大きいからこのポスターには入りきらないので右側に書いてある。私たちが月を見ることができるのは、太陽に照らされているからなのかな。
私が地球上のここに立っていたとしたら(教師は月を観察する地球上の位置を示しながら)、太陽に面していない月のこちら側を見ることができるのかな。(新月の位置を指し示しながら)
これを新月と呼んでいる。新月は太陽の光で照らされている側が地球から見えないので私たちには何も見えないのだ。」
 
次に子どもたちの月に関するバックグラウンド情報を提供するために、「Glogster」という教材のウェブサイトを利用します。このサイトからは、NASAから提供された月の写真や「Expedition5」という宇宙飛行のミッションで撮影されたビデオクリップの映像などもダウンロードできるのです。こうして様々な映像資料やテキスト資料を利用して、多角的に授業を進めることができます。
 
まさにこの本のタイトルにある「Think Like Scientists」が可能になるわけです。教室内の閉じた知識ではなく、教室の外の社会とのつながりのある学びが実現できるということです。   
 
※各州共通基礎スタンダード(Common Core State Standards:CCSS)は、州教育長協議会(Council of Chief State School Officers)と全米州知事会(National Governors Association Center for Best Practices)が調整役となり、48の州と2つの準州とワシントン D.C.の知事及び州教育長を含めた各州指導者によって開始された取組である。この共通基礎スタンダードの対象教科は英語と数学であり、最終版スタンダードは 2010年6月2日に国民に公表された。「Teaching Students to Think Like Scientists」には、NGSSCCSSに基づいた理科授業の実践事例が取り上げられている。
 
 


 

 

 

2014年9月14日日曜日

具体的なサポート/フォローアップの仕方



前回の記事に対して、「研修をやりっぱなしにしないために、具体的なサポート/フォローアップの仕方はどうすればいいのですか?」という質問をもらいました。

いろいろ方法はあり得ますが、今回は2つ紹介します。

まずは、ある一定の期間をおいて、継続的に場を設けることです。そこで、①やれたこと、②できなかったこと、③応用して取り組んだことなどを披露し合うのです。そうすれば、すでにできてしまった人にとっても新しいきっかけがもてるでしょう。

ちなみに、このやり方は『ペアレント・プロジェクト』(ジェイムズ・ボパット)で紹介されている方法です。通常の保護者を対象にした研修会もイベントとして行われます。(従って、何を扱おうが何も変わらないことを約束しています。アメリカでは、そんな無駄なことは最初からしないようです。)6回連続で行われるのがポイントです。そして、さらに大事なのは会と会の間にすることの方です。(まあ、両方大事なのですが。)さらに、最後は出版物まで作ってしまい、参加者みんなでお祝いします。大人を対象にする研修に大切な要素が、すべて含まれています。

これは、ライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップを親に体験してもらうプログラムとして開発されました。いろいろ試した末、6回に落ち着いたそうです。4,5回では足りず、7回以上でもダメそうです。
そして、「学びの原則」のほとんども満たされています。


二番目の方法は、研修の対象を個人と設定するのではなく、「チーム」と設定することです。
そうすれば、受講者がチームで相互にサポート/フォローアップし合う役割を担えます。

欧米では、すでに90年代から、研修は個人を対象にするものから、チームを対象にするものへと転換しています。
チームの構成メンバーは、教員だけよりも、管理職が含まれていた方が、メンバー以外への普及度も高まります。

従来の個人を対象にした研修だと、よくて研修の内容を会議等で他の教員に伝える機会が提供されるぐらいで、それで研修は誰にとっても終わったことを意味していました。実践に移すことなど考えていた人はいるでしょうか? 主催者も、講師も、受講者も、ましてや校内で受講していなかった人も。 誰も、研修で扱った内容を活かして、実践に移すことなど考えていないのです。 たとえ、講師が実践を重視した研修をし、受講者も実践に大きな興味を持ったとしても、サポート/フォローがない状況では、受講者の一人相撲になりがちです。実践に移せる人は10人中一人か二人はいるかもしれませんが、圧倒的多数にとっては、失敗体験を味わうか、実践にもこぎつけない状態で終わってしまうのですから。

それに対して、チームで参加していれば、研修後に相互にサポートし合えますから、研修の終わりがすべての終わりではなく、すべての始まりになり得ます。ある意味では、研修の後の方がはるかに時間を要します。それが実践に移すということなのですが、年次研修や教員免許更新制に関わっている人たちも含めて、「研修とは何で、どうしたらいいのか」ということを理解できている人が、日本には少ないので、無駄な時間(とお金とエネルギー)を費やすだけで、使った時間が授業の質を改善する方向にはまったくいきません。 それが、すでに過去数十年続いているというわけです。

研修は、子どもたちの学びの質と量に繁栄されない限りは、何の意味もありません。単に、時間とお金を浪費しているだけです。それを、これ以上続けるのはおかしいです。

ぜひ、「これからは、子どもたちの学びに直結する研修しかはやらない」ということで主催者(企画者)、講師、そして受講者★は取り組んでほしいです。


★ 義務研修の場合、受講者にできることはそうはないかもしれません。しかし①「市民的不服従」の発動はできます。拒否です。②主催者、企画者、講師への提案もできます。今回と前回書いたようなことを含めて。③研修内容に価値を見出せたら主体的にチームをつくってしまうことさえできます。選択は与えられていないようで、実は結構あります。そして、誰も変えてくれませんから、あなたのアクションからしか、改善は期待できません。

2014年9月7日日曜日

夏休み中の研修



あなたも、夏休み中に研修を受けられましたか?

たくさんの先生方から、いかに義務として参加させられる教育センターや免許更新制の研修がひどいかを聞かされました。★
10人中9人は、「時間の無駄」と言っています。
主催者の中には、「これで先生方も、子どもたちがいかに苦しい思いをしているかお分かりになったでしょう」とまで受講者に言い放った人がいたそうです。苦しまないで済む方法での研修に自ら挑戦しようとせずに。
10人中1人ぐらいは、「とても参考になりました」という反応がありましたが、2学期以降に実践できるのかは、はなはだ疑問です。

表1を見てください。


これは、アメリカではすでに1980年代にわかっていたことです。

これを日本で行われている研修に照らし合わせると、97%の研修は、AかBで行われているのではないでしょうか? 要するに、講師が講義し、受講者はひたすら聞く、という形で。講義の中には実例の紹介も含まれている場合が多いと思います。

Cで行われるのが残りの3%ぐらいと見積もっています。要するに、最近増えつつある「ワークショップ型」というやつです。「体験」を重視しています。しかし、応用/活用の数字を見てください。ほとんど上がっていません。
理由がわかりますか?
教師同士でやるのと、個々のクラスの実態はあまりにも違うからです。
教師同士だと、それなりに合わせてくれます。しかし、子どもたちは合わせてくれませんから、ほとんどの体験者は、実際にやれるとは思えないのです。

Dの研修後のサポート/フォローアップまで含まれた研修は、今の日本では行われているでしょうか?
これこそが、研修効果を上げる唯一の方法であるにもかかわらず。
(逆に言えば、たくさんの受講者に話を聞かせても、単に、関わる人全員の時間とお金の無駄遣いをしているだけなのです。受講者の数を減らしても、受講者が確実に活用できるまでサポート/フォローアップした方が、ゆくゆくはその紹介したものが普及する早道なのですが・・・)

ちなみに、受講者の中には、このサポート/フォローアップが必要ない人もいます。
表1を見てください。話を聞いただけでもできる人は、20人中1人か2人はいます。
残りの人たちも、その必要度は様々です。1回~2回で必要がなくなる人から、5回、10回、20回必要な人まで。
さらにいえば、価値あるものは継続してこそ得られるものが大きいです。そうでないものを、あえて紹介する必要はないわけで。

サポート/フォローアップの重要性は、納得していただけたでしょうか?
納得していただけたら、ぜひ、校内研修も含めて、この要素こそを中心に据えた研修に転換していってください。
(どのようなサポート/フォローアップ体制を構築できるかが、研修の企画者の腕の見せ所です。本来は、これこそがもっとも大事なことなのですが、これまでは、それが研修計画の中に含まれて来ませんでした。)
それが実現されない限りは、授業でも「サポート/フォローアップ」こそがもっとも重要なんだということが、いつまでたっても軽視されたままが続くだけですから。(自分が体験していないものを、子どもたち対象にすることはほとんど不可能ですから。)


★ 自主的に参加した民間団体の研修に参加した先生の反応の方が、少しは良かったですが、とても表1を意識しているとは思えないものでした。単に、いい講師を揃えている、というだけ。従って、Aの話の内容が少しはいいだけ。とてもじゃありませんが、「授業の主役は子どもたち」のモデルになるような「研修の主役は受講者たち」が日本で実践されるのは、大分先の話のようです。