2020年12月27日日曜日

オープンであること

授業が大切なことはだれもが理解していますが、授業改善のための教師相互の授業見学は若い教師にとっては大切な方法の一つです。

最近出版された『「学校」をハックする』(新評論2020)では、このことが取り上げられています。同書30ページからの「ハック2」では、「オープンクラス・チャート」サブタイトル「見学可能な授業の一覧表で教師の協働を後押しする」が紹介されています。 

パイナップルは伝統的な歓迎のシンボルです。玄関マットやドアにパイナップルがあるときは、「みなさんご自由にお入りください」というメッセージになります。★)オープンクラス・チャートとは、同僚に対して「見る価値のある面白いことをやりますよ」と知らせ、いつでも見学可能というメッセージを「ウェルカムボード」に託してすべての教室に掲げることです。

オープンクラス・チャートは、ホワイトボードのようなものをカラーテープやマーカーで曜日と時間割を区切ってつくります。そして、職員のメールボックスやコピー機など、多くの人が使用する場所の近くに設置しておきます。 

この部分を読んで、「なるほどこんなやり方があったのか」と、ほんの少しの工夫で相互研修の機会を生み出すことができるのだと思いました。校内研修というと、改めて何かをやるという意識になってしまいがちですが、日常的にこのような機会をつくるのが充分可能であることを再認識する必要がありそうです。校内研修で時間をかけて指導案を検討するのも若手教員には必要かもしれませんが、中堅以上の人にはそれほど効果がないということはこのブログでも再三お伝えしてきたとおりです。それよりも、ちょっとしたアイデアをお互いに見せ合って、意見をもらう方がどれほど役に立つかわかりません。

 また、同書153ページの「ハック9」の「透明な教室」では、SNSを利用して教室の学びを公開する方法が述べられています。

 SNSやその他のアプリで教室の壁を透明にすることが可能になり、授業における学習活動をほかの人たちと共有することができるようになったのです。(156ページ) 

 保護者に対して、頻繁にかつ気軽に教室の中が見られるようにすることで、誤解を与える可能性を大きく減らすことができると同時に、もっとも大事な人々と強いパートナーシップを築くことができます。(157ページ) 

また、同書には、このようなやり方をうまく導入する段階的な方法が「完全実施に向けての青写真」として紹介されています。いきなり何もないところから一足飛びにこのような試みを実行しようとしても失敗する可能性が高いものです。ぜひ、この本を参考に多くの先生方がこのようなことに取り組まれることを期待したいと思います。 

今年最後の「PLC便り」になりました。

来年も引き続き、よろしくお願いいたします。

 

★)同書の訳注にはこのように書かれています。

本物のパイナップルではなくて、サインとして使っています。原書ではパイナップルの説明を使って「パイナップル・チャート」となっていますが、日本語訳としてはピンとこないので「オープンクラス・チャート」にしました。

2020年12月20日日曜日

なぜ『子育てをハックする』が、ハック・シリーズの1冊なのか?

答えは、クラス運営のヒントが満載だからです。

基本的に、「子育て」=「クラス運営」と言い切れます。(対象とする人数の違いはありますが!)

 

 以下は、目次ですが、これから両者の関係性が浮かび上がってくるでしょうか?

 

魔法のことば1: 理解しよう

魔法のことば2: 終わりから考える

魔法のことば3: 一輪走行を選ぶ ~自立した子どもを育てる

魔法のことば4: された質問に答える ~子どもにすべて言いたい衝動を抑える

魔法のことば5: 空腹、怒り、寂しさ、疲れ ~基本的欲求を満たすための世話をする

魔法のことば6: 価値は過程のなかにある ~考える時間を確保する

魔法のことば7: 正直は信頼に含まれる ~子どもとの関係を築く

魔法のことば8: 決めたことは変えない ~一度言ったら、それを貫く

魔法のことば9: 今の世界は大きく変わった ~大切なことを集めたうえで選定し、周りの雑音は遮断する

魔法のことば10 直感は原則に勝る ~たとえみんなに「そうするな」と言われても、自分自身を信じる

 

 見えやすくするために、解説を加えていきます。

 

魔法のことば1の「理解しよう」は、すべての鍵です。これがないと、すべてがうまくいきませんから。ここでは「子育てノート」を付けることが提案されていますが、教室や学校レベルでも同じです。あと2~3か月のうちに出版される『学校をハックする』(ハック10)と『生徒指導をハックする』(ハック9)に、その教室や学校版については詳しく紹介されています。

 

 魔法のことば2は、『生徒指導をハックする』のハック2「『ルール』を『期待』に置き換える」と言い換えられます。実現したい特性(期待)のリストは、生徒たちと一緒につくり出したり、取り組む際には仲間やサポートグループを見つけたりしてください。

 

 魔法のことば3は、自立するためのスキルを身につけてもらうことです。具体的には、見たいこと(目指すべきことを明らかにし)と実際に何回見たかというシンプルな方法で可能です。これは、成長マインドセットを培うことに役立ちます。

 

 魔法のことば4~6は飛ばします(その重要性が低いからではなく、自明だと思うからです)。

 

 魔法のことば7と8は、一緒に扱います。子どもを理解し、関係が深まると、信頼も深まります。(「親は、子どもが正直であることからはじまり、親が子どもを信用することで終わるというサイクルを思い浮かべていますが、実勢はその逆なのです。子どもは、信用されていると感じると正直になり始めるのです。つまり、すべては親からはじまるということです」(117~118ページ)は、教師と生徒にそのまま置き換えられます!)そして、同じことを繰り返したり、言っていることを変えたりするのは、関係づくりに役立ちません! そのためには、「あなたの要求をはっきりと言葉にすることを学ぶ」「言ったことを子どもに繰り返させる」「子どもが行動するまで待つ」「ありがとう、と言う」流れが効果的です。

 

 魔法のことば9と10は省きますが、クラス運営との関連を見いだされた方は、pro.workshop@gmail.comへ教えてください。

 

◆本ブログ読者への割引情報◆

 

1冊(書店およびネット価格)2200円のところ、

PLC便り割引だと  1冊=2000円(送料・税込み)です。

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※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。

 


2020年12月13日日曜日

2次元モデル暗記授業にさようなら 3次元モデル探究授業こんにちは

今年は「新学習指導要領」が告示された教育改革の年でした。「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性」が示され、主体的で対話的な学び、深い学びへの授業づくりが始まりました。しかしコロナ禍の休校措置もあり、深い学びを実現するにはかなり苦心したのではないでしょうか。

 

そもそもこの「深く学ぶ」とはどういうことなのでしょうか? 現在、教壇に立っている多くの先生方の学生時代、学習内容を暗記することで試験をクリアしてきた経験があるはずです。そしてその多くはすでに記憶喪失に。教科書一辺倒にカバーするような学習へ違和感を持ち、もっと興味を持って考えたり学びたいと願って教師になった方もいるのでは。

 

これまでの、知識の暗記や計算できるといった技能に特化された2次元モデルの授業は別れを告げるときです。生徒たちには、より深い理解を導くために知識と技能に「概念」を加えた3次元モデルの授業をデザインしてみませんか?

 

Curriculum Shift: Towards Concept- Based Teaching & Learningより

 

左:2Dモデル(技能とプロセス・事実的知識) 

右:3Dモデル(事実的知識・概念と原則・技能とプロセス)

 

そこで今回紹介する本

H.リン.エリクソン、ロイス・A.ラニング他『思考する教室をつくる 不確実な時代を生き抜く力 概念型カリキュラムの理論と実践』北大路書房

は、探究学習をメインにすえた授業づくりの理解を深めることができます。概念的理解を明文化する方法、単元設計の組み立て方、さらに実践例が豊富であり、これまで不確かだった探究学習づくりの一助となるはずです。★

 



 

概念とは、ある共通した特徴をもつ一連の例に枠組みを与える構築物(mental construct)の指します。 例えば、サイクル、多様性、相互依存、不平等、忍耐などがあり、これらは時を超えた普遍的なものであり、抽象的なものです。それではこれまで教えていた学習内容に知識、技能に加えて、新たに「概念」を用いることでどのような能力が育つのでしょうか? 

 

  • ・事実情報を批判的に検証する能力
  • ・新しい学習を既存の知識に関連付ける能力
  • ・パターンとつながりを見いだす能力
  • ・概念レベルで重要な理解を引き出す能力
  • ・エビデンスに基づいて理解の真実性を評価する能力
  • ・理解を時間または状況を越えて転移させる能力
  • ・概念的理解を想像力豊かに利用して問題を解決し、新しいプロダクト、プロセス、またはアイディアを発明する能力

(本書P.31より)

 

例えば、「美しさ」といった抽象的な概念のメガネをかけることで(概念レンズ)、算数数学の関数を見直したとき、これまで見てきた味気ない問題を解くだけの関数景色から変わって見えるようになります。そこには繰り返されるパターンが見え隠れし、自然界へ目を向ければ、カリフラワーのうずまきや木の枝の分岐パターンなど、ある一定に繰り返される「美しさ」を見つけることができるからです。

 

このように概念レンズを使うことは、これまでの知識や技能について改めて捉え直し、生徒の知識を長い時間記憶保持し、より個人的な意味づけが行われます。そして、学習対象のおもしろさに気づき、気付いたら夢中で努力し、その結果、学習意欲を高めてくれるのです。概念レンズの候補には、以下のものもあげられています。全てを網羅してはいませんが、教える教科の学習内容に関連した概念レンズを選ぶことで、より深く学ぶきっかけとなっていきます。


(本書P.18P.19より)


生徒の概念を理解した深い学びを導くためにも、教えることの全体像を「知識の構造」図、「プロセスの構造」図を用いて、概念的理解明確に学習設計します。「知るべき事実的知識、(事実・トピック)」「理解すべきこと(原理・一般化)」「できるようになること(プロセス・技能)」で明確に表現して構造図としてまとめられ、どの教科でも程度の差はあれ、このふたつの構造図を使っています。これらは理論としてひとつにまとめあげられ、上にいくほど知識抽象度が高くなり、レベルに応じて構造化されて示されます。

 

「知識の構造」図

  • 生徒が知るべき事実(的知識):具体的な知識(教科書の学習内容)
  • トピック:単元(アマゾン熱帯雨林の生態系、数学の式と方程式など)
  • その事実(的知識)から引き出された概念:その教科や単元で焦点をあてたい概念アマゾン熱帯雨林の接待性は、密な生態系を作り出す、224など)
  • 概念:ある共通した特徴をもつ一連の例に枠組みを与える心理的な構築物(mental construct)のこと。 (サイクル、多様性、相互依存、不平等、忍耐などがあり、これらは時を超えた普遍的なもの)
  • 原理と一般化:複数の概念を組み合わせ、時や時間、状況を越えて学んだことが転移される理解で、生徒が一般化するための試行錯誤により、学習転移可能の深い理解となります。原理は一般化と異なり、証明されている真理のことを指します。複数の概念の関係を表した「一般化」は他書では、「本質的理解」「永続的理解」「ビッグアイディア」などと呼ばれ、事実(的知識)や技能と関連して転移可能なより深い理解を反映されます。

 





(本書P.40より

 

文の読み書き、計算を解いたり、または体育や音楽、美術といった技能の比重が大きい教科、「プロセスの構造」によって教えることを構造化し設計されます。これまでやみくもにアルゴリス無を練習していたことから、なぜそれをやるのか理解が深まります。

 

「プロセスの構造」

  • プロセス:連続したステップを踏むもの(書く、読む、問題解決)
  • ストラテジー:学習者が意識して使う学習方法。(自己調整、リスト分けや整理など)
  • スキル:ストラテジーに組み込まれたより小規模なもの。スキルを適切に行うことでストラテジーが機能する。(自己調整ストラテジーにおけるスキルは、読書の目的を知る、振り返る、読み直す、予測するなど。リスト分けや整理のストラテジーにおけるスキルは、必要な情報の特定、組み合わせを決める、リストアップすること、クモの巣マップを書くなど

(本書P.45より)

 

暗記知識詰め込み型、スキル型の2Dモデル授業の学習観を手放すときです。そのための教師の役割は、コーチングや問いかけ、意味のあるフィードバックを提供して生徒が生産的に思考できるように導くことであり、学習内容に関しその理解力に匹敵する思考力を培う課題をデザインすることです。

 

本書では、概念ベースの教師を目指すアナ・スキャネルが以下のように語ります。

 

”「概念型のカリキュラムと指導」に初めて取り組むにあたって最大のチャレンジとなるのは、学習プロセスをコントロールしようという気持ちをある程度手放さなければならないということだと思います。

 

私はかつて、理解すべきことを生徒に直接教えたり、すぐに手出しをしたくなったりしていたのですが、学びのほとんどは試行錯誤を得てこそ得られるものです。ですから、私たち教師は一歩引いて、生徒が自分たちの力でそこにたどり着くことができると信じなければならないのです。

 

教師として私たちの役割は、いくつもの道筋を示すこと、生徒が必要とする学習の材料や経験を提供すること、そして生徒が自らの力で概念的理解を達成できるようにすることです。これは、最初は難しいかもしれません。生徒が目標とする一般化にたどり着けないのではないかと心配になってしまうからです。しかし実際の経験から分かったのは、多少言葉が違っても、適切なサポートがあれば生徒は確実に目標とする考えにたどり着けること、そして時には私が考えもしなかったような別の理解まで引き出す事ができるということでした。”

(本書P.101より) 

 

教師が主体となってこれまでカバーし続けてきた教科書、そしてそれを暗記してきたことだけでは忘れ去られてしまいます。知識を構築し統合していくのは、学習者自身です。知ること(事実的知識)やできるようになること(技能)を重視している2次元モデル。一方、3次元モデルは、学習の単元に関連する理解すること(概念)を深めるべく、概念、知識、技能を学び、低次のプロセスから高次のプロセスに知性に働きかけることができます。概念ベースの学習は、まさしく新学習指導要領が目指している主体的で対話的な学び、深い学びへ誘うことができるのです。

 



これまで、概念的理解を取り入れた教育実践にはG.ウィギンズ・J.マクタイの「逆向き設計」の『理解をもたらすカリキュラム設計』がありました。この本を開いた?方なら分かると思いますが、言葉の定義も複雑なためなんとも難しい。

 

PLC便りの筆者のひとりは1990年代初頭には、すでに概念理解を取り入れた国際理解教育「ワールドスタディ」の紹介、実践が行ってきました。

知識ではなく、概念を中心に据えた授業/カリキュラムづくりを!

http://projectbetterschool.blogspot.com/2020/10/blog-post_18.html

ここにはワールドスタディの10この概念も紹介されています。

 

最近では、京大を中心に実践本も日本から出されるようになり、だいぶ分かりやすいものとなってきました。尚、現在こうした流れをくんだ「Doing History(歴史をする? 歴史する?)」という本を翻訳中です。お楽しみに。

 

2020年12月9日水曜日

『生徒指導をハックする』

 これまで私が訳した中で北米で最も売れていた本(Amazonの評価数で判断する限り)は、よりよい授業/学校/教育制度をつくり出すためのアイディアが満載の『教育のプロがすすめるイノベーション』でしたが★、それを抜いてしまったのが、今回の新刊の『生徒指導をハックする』です。

 洋の東西を問わず、教師の最大の悩みは、教科指導をどうするかや、いかによりよい学校がつくれるかや、よりまともな評価はどうしたらいいか等ではなくて、生徒指導のようです。(これらはすべて人間関係がベースにあるということでは共通しています!)

 以下は共訳者の高見さんが書いてくれた新刊案内から:

 「生徒指導の方法を誤れば、生徒のその後の人生に大きな影響を与えてしまう」。本書の「はじめに」に述べられている言葉です。大変重い指摘ではないでしょうか。生徒は成長の途上にあるわけですから、様々な問題行動が現れてくるのは当然でしょう。しかし、その問題行動が誰かに取り返しのつかないほどの深い傷を負わせてしまうような事態は阻止しなければなりません。その行為を受けた生徒の人生に、それこそ深刻な影響を与えてしまうことになります。
 では、問題行動に対して、私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。厳罰を課すだけでは真の成長は難しいとしても、本人が行為の深刻さを受け止めず、結果への責任もとらないのであれば、それこそ成長は望めそうにありません。
 本書では、その解決方法として、アメリカですでに効果が実証され、今後の発展にも大きな期待が寄せられている「関係修復のアプローチ」を紹介しています。「関係修復のアプローチ」とは、誰であれコミュニティーから排除しないという信念のもと、関係性の修復を重視するものです。本書ではまた、学級や学校を安心して学びあい、成長できる場(コミュニティー)とするために、学校として取り組むべき日常の予防的な方策についても詳述しています。とくに、マインドセット(第5章)、マインドフルネス(第6章)、共感力(第7章)に関して描かれていることは、不安定な感情や困難に直面したときに生徒がそれを乗り越えるための現実的なツールを提示しており、その後の人生においても心強い指針となるでしょう。
 著者の、どこまでも愛情深い眼差しと、確かな実践に裏打ちされたヒントが満載の本書を、ぜひ日本の教育現場で奮闘されている先生方、またその指導に接している生徒と保護者のみなさん、そして教育にかかわるすべての方々に読んでいただきたいです。


◆本ブログ読者への割引情報◆

1冊(書店およびネット価格)2640円のところ、

PLC便り割引だと  1冊=2400円(送料・税込み)です。

5冊以上の注文は     1冊=2300円(送料・税込み)です。


ご希望の方は、①冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 

pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。


  ひょっとしたら、『イン・ザ・ミドル』だったかもしれません。アマゾン時代の前なので統計がないだけで!


2020年12月6日日曜日

新しい学びの時代を始めるにあたって考えておきたいこと

 私たち教師は、子どもたちに、ワクワクするような学びの体験をしてもらいたいと思っている。少なくとも、そう思って教職を志したはずだ。志望動機に多少の違いはあっても、子どもたちがイキイキ学ぶ姿を思い描いて教壇に立ってきたはずである。

一方、現在の我が国の学校教育は一つの転換点に立っていると言える。21世紀型スキルといわれたりするものだ。それには、創造的に問題を解決する力、クリティカルな思考力、コミュニケーション力、協働する力、メディア・リテラシー、テクノロジー、多文化理解の力などが含まれる。講義やワークシート、記憶、暗記などを中心とした教え方では、立ち行かなくなっていく危険性をみな感じているのだ。

「退屈した生徒は、ソーシャル・メディアを使うことで、脳のドーパミンの噴出量を引き上げているかのようだ。考え事をしたりして気を紛らわすことでは太刀打ちできるものではない。教室で学ぶことの、魅力的な代替物となってしまっているのである。それらと、同等に魅力的な教育を提供できなければ、生徒たちは見向きもしてくれないだろう。」(p.47) ◆

というマーサ・ラッシの指摘は強烈だ。教科書を使った、知識の切り売りの授業を続けていたら、日本の学校は本当に大変なことになるかもしれない。

しかし、まだまだ我々が向かうべきところは視界が十分とは言えない。アクティブ・ラーニングという言葉の定義すら、まだ明確とは言えないだろう。伝統的な授業からの脱却を図るうえで、考えておくべき課題を、マサー・ラッシュが整理している。◆

1 意味のある、しっかりとした学習課題に向かわせることのできるエンゲイジメントがあること。

アクティブ・ラーニングといえば、グループワークをしたり、ディスカションをしたり、児童生徒が活発に動く活動を思い浮かべるだろう。エンゲイジメント(ある仕事や活動に夢中になって取り組んでいる状態)を作り出したいのである。しかし、重要なのは、単なるエンゲイジメントではなく、意図がはっきりしたエンゲイジメントである。生徒に迎合するようなお楽しみとは異なるということだ。

2 テクノロジーは答えではない。

ICTは重要だが、テクノロジー自体が重要なわけではない。ラッシュの言葉を借りれば「ノートの代わりにアイパッドを使わせるといったことだけでは、生徒たちを学びに向かわせることはできないのだ。基礎的な知識や語彙を単純に覚えるドリルであれば、コンピューター上でやろうが、紙の上でやろうが、退屈であることには変わりはない。」ということだ。

3 必要な知識はある。

振り子の両端に触れすぎない。基礎的な必須ともいえる内容を落とさずに、新しい学びに挑戦しなければならない。

4 小さくスタートする。

講義型授業とアクティブ・ラーニングを、単純に対立するものとして見てしまいがちであるが、極端に走らないことが重要。「すべての時間でディスカションをする」のように極端に走らず、できることから始めるという姿勢が必要だ。

5 教師自身が、アクティブな学びを体験すること

あなたは、ワクワクするような学びを体験しているだろうか。ワークショップに参加したり、友人とブッククラブを開くなどして、本当に意味のある学びを体験したい。


学ぶことは本来はとても楽しいことだったはずだ。学校をワクワクする学びのあふれる場所にしよう。そのようなビジョンをぶれずに持ち続けたいものだ。

◆ 『退屈な授業をぶっ飛ばせ-学びに熱中する教室』新評論 マーサ・ラッシュ著(長﨑政浩,吉田新一郎 訳) (2020), pp. 50-54