2021年1月31日日曜日

世論力学とは

 「世論力学」とはなじみのない言葉です。これは、『銀河の片隅で科学夜話』(全卓樹・朝日出版社2020)の第13夜「多数決の秘められた力」で紹介されていたものです。著者の全卓樹さんは理論物理学者で現在、高知工科大学で教鞭を取られています。

 

 「世論力学」とは、パリの理工科大学であるエコール・ポリテクニークの理論物理学者・セルジュ・ガラム博士の考案したもので、社会の多数意見の形成過程に、数学的法則が隠されているのではないかと考え、生み出したものだそうです。

 その「世論力学」の出発点としてこの本には次のように書かれています。

 

 世論力学の出発点は、われわれの周囲で日常的に行なわれる民主主義的な多数決選挙の、突き放した観察であった。

 多数決の通常の数学的正当化は「三人よれば文殊の知恵」の原理に基づいている。判断の確度が5割以上ある人たちを集めて、各人独立な曇りない意見を持ちよって多数決を行なえば、人を増やすにつれ10割にいくらでも近い判断の確度が得られる、というのである。この原理を発見したのは18世紀フランスのコンドルセ侯爵であるが、事情はインターネット直接民主主義の効用が唱えられている現在でも変わっていない。 ~途中省略~

 ガラム理論では、賛否の意見もった個々人がたくさん集まって多数決に参加する状況を想定し、その際すべての個人が二つのタイプのいずれかに属すると考える。定まった意見があって常に賛成または反対の意見を持ち続ける「固定票タイプ」と、他人の意見を絶えず参考勘案して賛成反対を決める「浮動票タイプ」である。

 

 ここで、その理論の結果として紹介されていることは非常に興味深いことです。というのも、「固定票タイプ」が少し混じっただけで、様々な意見調整を経ると、最終的にはその固定票タイプの意見に集約されていくというのです。特に、「固定票タイプ」が全体の17%以上いるときには、時と共に全員がその固定票タイプの意見になってしまうというのです。

 この力学は、政治の世界だけでなく、商品の選択などにも働いているようです。昨年から爆発的にヒットしているアニメ映画などもその実例かも知れません。「付和雷同」という言葉もありますが、日本人の特性として「同調圧力」が様々な場面で働くとよく言われますが、それがこうした現象に拍車をかけているのでしょうか。

 

 先ほどの「17%の確信的な人々」がいれば、それがいずれは全体の多数意見になるというのは、少し希望の持てる話です。なぜなら、このコラムで取り上げているような「学びのスタイル・学び方・教え方」がいずれは多数意見になるということも期待できるからです。これまでやってきたことにいつまでもしがみつこうとする日本の教育界が雪崩を打って、変わる日もそう遠くないのかも知れません。

 

2021年1月24日日曜日

まちがえって、いったい何でしょう?!


 新刊絵本『まちがいなって ないよ』を読んでいると、そんなものは「ない」し、さらには、創造力/想像力の源であると思えてきます!

 と同時に、単純に見方次第というか、その人の捉え方次第。(つまり、人によっては「まちがい」でも、他に人はそれを「まちがい」とは見ない/捉えない可能性がある!) 

 たとえば、目の大きさを違う大きさで描いてしまったので、眼鏡をかけさせたら、「うまくいった」と納得しています。これは、確実に人によってその捉え方は違う気がします。

 描いた女の子が、かなり地面の上を走っているように見えるので、ローラースケートをはかせたところ、「これはもう まちがいなく “まちがいじゃない”よね」と自画自賛。

 この「自画自賛」力は、とても大切な気がします!

 また、「それから このおんなのこは あしがながすぎる」とまちがいに気づきますが・・・いまさら直せないので、「きっとこのこは いきているあいだずっと この木にのぼりつづけるんだね」と、かなり勝手な解釈を付けています。

 そして、その後には、この足が長すぎる女の子が登っている木にはたくさんの他の子たちも登っていることに・・・・

 といった具合に、ドンドン続きます。

 残りは、絵本を見て/読んでください。

 

この絵本が思い起こさせてくれた他の絵本には、

・イシュトバン・バンニャイの『ズーム』と『リズーム』

・デイヴィッド ウィーズナーの『漂流物』

・トッド・バールの『しっぱい! とおもったけど』(これは、日英両方なので、英語の授業で使える!)

ありました。単行本では、

・ジョン・スペンサー他の『あなたの授業が子どもと世界を変える ~ エンパワーメントのチカラ』(特に、第9章[私たちの学びのストーリーには、「失敗」ではなく「失敗すること」が含まれるべき。これら二つには大きな違いがある]

あなたが思い起こした関連テーマの絵本や本をぜひ教えてください!

 

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2021年1月17日日曜日

新刊『学校図書館をハックする』

 訳者の松田ユリ子(県立高等学校図書館司書)さんが、学びのコミュニティーである学校のハブとしての機能をもたせるための本『学校図書館をハックする』の紹介を書いてくれましたので紹介します。

*****

学校図書館を外から見るとどんな感じかなーといつも考えます。

人によっては、もしかしたら巨大なガラスの広口瓶みたいなイメージかもしれないなぁ。「分厚いガラスの内側がなぜかいつも曇っていて、外からは中がぼんやりとしか見えない。」ふむふむ。「中に入るためには梯子を上って蓋を取らなくちゃならない。」

なるほど。いつも曇っているのは、閉め切りがちな上に、その内部で働いている人の熱量が有りすぎて、外部との温度差によってガラス面に結露を生じてしまうからなのかも? 梯子が必要で蓋バリアが行手を遮るのは、めちゃくちゃ敷居が高いイメージだから?

とにかく、こんなイメージを壊さないと! 実際の学校図書館は全然違うんだから! でも「実際」の「本当」が伝わらない。「これほど」や「あれだけ」の仕事が届かない。じゃあどうする? 

この問いに、明快かつパワフルかつポジティブに答えてくれるのが、本書です。学校図書館の内にこもったエネルギーを、学校に、そしてより広い「学びのコミュニティー」に放出して、子どもの興味を掻き立てて学びを促すタービンを回すことに使いませんか?と、あの手この手(つまり、ハック)を繰り出して誘うのです。

思い立ったらすぐに試せるハックが満載なのも、やる気をそそります。楽しんで取り組んだ結果として、曇っていたガラスがクリアになって活動が良く見えるようになれば、誰でも中に入るのが当たり前になり、バリアもいずれ消滅するに違いありません。

とても実用的ながら、本書は単なる実践者のためのハウツー本ではありません。子どもの学びにとって学校図書館のポテンシャルがどれほどのものかを具体的に見せてくれるショーケースでもあります。つまり、自分の頭で考えられる未来の市民を育てる人すべてにとって、学校教育を考える時に欠かせない本なのです。 

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2021年1月10日日曜日

好奇心を活かした授業づくり

 13県では緊急事態宣言とほぼ同時に、新学期が始まりました。教師にとっては、感染予防や行事予定の見直しなど、徒労感と緊張感のある学校生活がまた始まろうとしています。これまでは土曜日を返上したり、授業時数を増やしたり、冬休みを短縮してまで、休校中に遅れしまった学習進度の負債をようやく解消したにもかかわらず、都心部ではまたの緊急事態宣言。今回は、学校閉鎖はしないとはいうものの、都心部では分散登校や時差登校、さらにはオンライン授業に切り替えた学校もあります。早く感染拡大に歯止めをかけて重症患者数が減り、子どもたちが安心して学校生活をおくれるようにと、願うばかりです。 

 

分散、時差登校に併せて生まれる懸念が「カリキュラム履修状況」です。急いで本年度の学習内容をカバーしようとまた、土曜日授業や春休みの短縮など失われた時間を取り戻そうと教育委員会は躍起になるかもしれません。文科省は今年度中でなくともよいとしていますが。。。三学期に時間をかけるべきところは「浅く広くのこれまで通りのカリキュラム」ではなく、本当に学ぶべき事へ焦点を当てることです。それには、教師が教えることを選択しなければなりません。時間をかけなければ理解は進みませんから。教科書をさらりと効率的に「やったこと」にすれば、本年度でカリキュラムに決着をつけられますが、はたしてそれが子どもたちの心に響き、深い学びとなっているのでしょうか? それは、子どもたちの好奇心を突き動かした学びとなるのでしょうか? 

 

ちょっと視点を変えてみませんか? 浅く広くのカリキュラムには建前上おつきあいしつつも、子どもを原点(学習者中心)に考えることです。

 

子どもは好奇心旺盛です。好奇心は子どもの深い学びを導きます。物事を確かめてみることや試したりすること、自分の周りと交流する事へとつながっていきます。それは、子どもの認知発達を推進し、新しい知識をもたらす原動力となります。そして、これらの好奇心は全ての子どもがすでに持っているのです。

 

この好奇心をいかした授業の具体的な方法を紹介しているのは、ウェンディ・L・オストロフ著・池田匡史・吉田新一郎訳『おさるのジョージを教室で実現 好奇心を呼び起こせ!』です。おさるのジョージは原文絵本には「Curious George」とあり、直訳すれば「好奇心のジョージ」です。まさに、ジョージは好奇心のシンボル。その好奇心ゆえにかわいらしく愉快なトラブルばかりのお話ですが。

 




PLC便り 新刊『「おさるのジョージ」を教室で実現 ~  好奇心を呼び起こせ!』

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/10/blog-post.html


PLC便り 書評:『「おさるのジョージ」を教室で実現~好奇心を呼び起こせ!』

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/11/blog-post_8.html

 

 

本書では好奇心を授業に活かすそのよさを以下の3つにまとめています。

    好奇心は内発的な動機を活性化し、維持し、深い学びを起こしやすくする

    好奇心はドーパミンを放出し、喜びをもたらすだけでなく観察力と記憶力も向上させる

    好奇心旺盛な人は高い認知能力を発揮する

 

好奇心を授業に結びつける効果的な実践例が紹介されています。人は、動機付け無しに学習することはあり得ません。やる気は外からの報酬によって作られるものではなく、心の内側からやってみたい、知りたいといった内面の好奇心から生まれるものです。これを阻害しているのが、追い立てられるカリキュラム、評価や成績、認められたい・褒められたいといった気持ちなどの心理的ストレスです。残念な事実は、好奇心を失っている得られる学びはほとんどありません。

 

優れた成績の証として与えられる金賞などの外部からの報酬は、子どもの内発的動機付け、自身、自己決定が損なわれるエドワード・デシらによってエビデンスが示されています★。逆に、ある活動が内発的動機付けによってなされている場合は、報酬はその行為自体の一部となり、報酬はただの小さな贈り物程度と位置づけられます。内発的な動機は、ある程度の自由、学習の決定権、自信がなければ維持することができません。

 

教育哲学者であるアルフィー・コーンは、

“もし成績をつけなければ ならないのであれば、生徒には2つの選択肢だけを提供するようにと推奨しています。選択肢の1つは「A」であり、もう一つは「まだ終わっていない」というものです。生徒がその学習をマスターしているかまたはまだ学習を終えていないかのどちらかというとしかいえないからです。”

本書「好奇心を活用する方法⑪ 努力とプロセスのみを評価する」P.118より

 

テストとは終わりではなく、また理解のプロセスのまっただ中と理解することで、学びは続けることができますね。ちょっとだけこれまでの視点を変えることで子どもたちがいきいきと学び始めることができます。その教室で好奇心を活用する効果的な実践方法が33挙げられています。ここに各章の中から、3学期に使えそうな方法を紹介します。そして、本書を読むことで、好奇心を活かす理論やその方法の背景について併せて学習してみてください。

 

好奇心を活用する方法② 生徒に探究の方法を選んでもらう

【第1章 探究と試行を促進する 教室での探究と試行についての足場づくり】 

たとえば、生物であれば細胞についての授業で、興味に応じて6つか7つの異なる方法を選べるようにすることです。植物細胞の確認を終えたら、動物細胞のスライドガラスを観察するのかPCを使ってさらに画像を探すのか、または、顕微鏡の歴史、様々な動植物細胞の比較などの様々な選択肢から生徒が学習方法を選択することです。最終的にはどうなるのか、きっと夢中になって学ぶでしょう。

 

好奇心を活用する方法⑥ アクションリサーチ・プロジェクトを実施する

【第2章 学習を自立的で苦にならないものにする 生徒たちによる学習は生徒自身が決める】

総合学習の学習内容に現在生徒がもっている情熱や興味を結びつけます。地域の課題解決から優先順位を立て、カリキュラムと照らし合わせて、チームを結成しプロジェクトの計画づくりから実行します。それは、自分たちの地域の課題解決に市民としてか変わるコミットメントを高めることになります。

 

好奇心を活用する方法⑫ 正解したものだけをマークする

【第3章 内発的動機づけを取り入れる 失敗を受け入れる】

宿題の確認では、正答だけに印をつけ、間違った答えはそのままにして残しておきます。何が失敗なのかから何が正しいのかへ視点を移すだけです。プリントが返されると生徒たちは熱心に目を通し、自分の考えを振り返り、促されなくとも間違えを理解しようとします。しかも、メタ認知が高まるといったオマケつきです。

 

好奇心を活用する方法⑯ 協力してつくり出す物語

【第4章 想像力・創造力を強化する ストーリーテリング】

物語つくったり演じたりすることは想像力や物語を使って好奇心をかきたてる一つの方法です。ロールプレイ(役割演技)をすることで、生徒たちが読んできた物語や各自でまとめた歴史新聞など、想像力を使って感情的に結びつけることができます。役割を演じることで、登場人物になり、同時に複雑な役割関係をも理解することもできます。

 

好奇心を活用する方法㉒ 100個の質問をする

【第5章 質問することを支援する 子たちたちの質問】

ひとつのテーマで100の質問を考えます。素朴な疑問から、少しずつ分析な質問をするようになります。2030個も出せばアイディイアはつきてしまいますが、他の生徒とペアを組んで自分の質問リストを組み合わせながら100個に近づけるか試してもらいます。これを繰り返すことで、日頃の授業でも質問する習慣が身についてきます。

 

好奇心を活用する方法㉙ より長い時間のまとまりを週のスケジュールでローテーションする

【第6章 時間をつくる フロー状態】

授業の最後になってようやく学習に盛り上がりを見せ本領発揮することが多く、終了間際には夢中になっている活動を中断しなければならないこともよくあります。これまで11コマだった授業を2コマ続きとすることで、試行錯誤を伴う活動では、途切れることのない長い時間が好奇心を開花させます。

 

好奇心を活用する方法㉝ 外での学びを生み出す

【第7章 好奇心の環境をつくる 明るさ、騒がしさ、暗さ、静かさ】

「天気が悪いなんて事は無い。服が悪いだけだ」と、雨の日であっても好奇心に溢れた教室の子どもたちと野外に出かけましょう。子どもたちは世界がどのように機能しているのか、自然現象や周りの世界に興味をそそられます。観察し、耳を傾け、小さな生態系に気づけるようになるからです。木下に座って物語を読んでいる。遊び場で友だちと一緒に物語を書いてみる。厚手のコートを着て歌いながら歩いてみる。学習の空間として校庭を使ってみましょう。

 

 

コロナ禍での新学期。スケジュールをこなすことや焦りから一歩離れ、子どもたちの好奇心を引き出す具体的な取り組み、してみませんか? 好奇心の目を輝かせた子どもたちの姿を実感すればするほど、子どもたちにとって本当に大切なことが身に染みます。私たちにはまだ教育を変えていけるその力があります。そして、私たち教師が好奇心を失わないことです。

“人間、好奇心がなくなったらおしまいだ。” 遠藤周作 ★★

 

 

エドワード・L・デシの『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』は、内発的動機付けを「自律性」(=自己選択)、「有能感」、「関係性」から解説したやる気を理解するには最良の本です。

 

★★

遠藤周作はシリアスな小説以外にも『ボクは好奇心のかたまり』『好奇心は永遠なり』など、幅広い好奇心に基づいた愉快なエッセイ・対談集もおもしろいです。



★★★

PLC便りの好奇心に関連する最近のブログ


「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/10/blog-post_11.html


センスオブワンダー

https://projectbetterschool.blogspot.com/2019/04/blog-post_28.html


新刊『好奇心のパワー』

https://projectbetterschool.blogspot.com/2017/02/blog-post.html

 

2021年1月5日火曜日

『読む文化をハックする』の割引情報

 年末年始の休みで入手できなかった大事な情報をゲットしました。


◆本ブログ読者への割引情報◆

 

1冊(書店およびネット価格)1980円のところ、

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※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。


2021年1月3日日曜日

新刊案内『読む文化をハックする』

 新年おめでとうございます。

 2021年もよろしくお願いします。

 あなたにとって、2020年はどんな年だったでしょうか? 新型コロナに振り回された1年だったでしょうか? 2021年はどんな年にしたいですか? しますか? 私は少なくとも、これまで以上によく考えて行動したいと思います。(思考停止のまま、行動することは避けたいです。新型コロナによって、いろいろな意味で不確実性が増しているので!) 本やネット情報を読むこと★は、考えるのに大いに役立ちますが、学校の中では長年軽視というよりも無視されてきています。

 以下は、新年早々のハック・シリーズの発行者兼編集者が、『読む文化をハックする』の「まえがき」に書いた文章の一部です。

もし、生徒全員が本を好きになり、熱心な読み手になったら、教育において私たちが苦慮しているすべての面が向上すると私は信じています。そして、生徒のテストの得点は飛躍的に伸びるでしょう。生徒は、興味のあるすべての教科領域で優秀な成果を収めることでしょう。カリキュラムと並行した活動や地域社会での活動にも参加する者も増えるでしょうし、すべての生徒が卒業できるでしょう(注・アメリカの高校ではドロップアウトが大きな問題です!)。

これらの大胆な信念のうちの一つでも真実であるとすれば、すべての教育者の第一目標は「読むことが好きになる気持ちを育てていくこと」になるでしょう。しかし、現実においては、教養のある生徒を育てようとしているはずの学校でその目標を達成できていません。それはなぜでしょうか? 少なくとも20年以上クラス担任を務めてきた経験に基づく私自身の仮説ですが、その答えの一つは、学校の全体構造が読む力を妨げるようにデザインされていることです。私たちは、教育スタンダードや生徒の学力向上、振り分け機能を持つテスト(学力テストや入試など)の点数を上げることを優先しているため、本を読んだり何かを書いたりするのが好きだという気持ちをサポートすることの大切さに気づけていません。

 本書の著者であり、「教育ハッカー」であるジェラルド・ドーソン先生は、非常に多くの新任教師やベテラン教師が成し遂げられなかった一つのシンプルなアイディア(考え方)に気づきました。それは、生徒が読むことを好きにさえなれば、私たちがこれまで教えようと思って絶え間なく努力してきた何もかもが、実にスムーズにいくようになるというものです。ドーソン先生は、この考え方について単に頭で分かっているだけではなく、実際に行動に移し、活き活きとした「読む文化」を生み出す教室を構築してきたのです。

 本書『読むことをハックする』でドーソン先生は、この読む文化の特徴を明らかにし、どんな教師でもそれを再現することができるようにエンパワーするための取り組みやすい方法を示してくれました。そのなかで彼は、とかくやる気のない生徒に対して毎日教えようとする教師が直面している問題を鋭くつきとめ、教室における読む文化を自分なりに築いてきたほかの教師の事例や逸話も紹介しています・・・・・各章を読み進めていくと、彼の目的がはっきりと分かるようになり、あなた自身も教室や学校ですぐに取り入れたいと思うことでしょう。

 以上のことは、国語の教師だけに任せておけばいいものではありません。社会(生活)、理科、算数・数学、保健体育、音楽、図工・美術、家庭科等、すべての教科で読むことを学びのベースにしていかないとまずいです! (道徳は、逆で読み物教材からの脱出を図る必要があるので含めません。子ども同士の話し合いこそが大事です! https://www.amazon.co.jp/dp/4091045197/ を参考にしてください。)

★もちろん、何でも読めばいいというわけではありません。選書能力がとても大切なのですが、これも長年、日本では扱われてきていません(何せ、どこかの誰かが決めた「良書主義」をとり続けていますから!)。個々の生徒や教師にとってベスト(ぴったり)の本を選べるようにしないと、誰かに操作されやすい社会をつくり出すのに協力しているだけになります!