2023年10月28日土曜日

一人ひとりをいかす学習を考える(評価について)

今月第2週でも取り上げられた『一人ひとりをいかす評価』を今回も参考資料とします。

さて、そのときも話題になったフィードバック(feedback)とは、生徒の考え方や実際の行動に対して評価を行うことです。

もともとフィードバックという言葉は、ITや工学の分野で使われていた用語で、入出力のあるシステムで、「一度出力されたものを入力側に戻して、その後の出力の制御を行う」という意味が、ほかの分野でも広く使われるようになりました(私が教師になった1970年代の終りには、教育工学に注目が集まり、「フィードバック」という用語が使われた記憶があります)

 授業に関連する評価には、単元の初めに行う診断的評価、単元の学習中に行う形成的評価、そして単元の終りに行う総括的評価の3種類の評価が知られています。診断的評価では、生徒がその単元を学習する前にどの程度の予備知識があるのかを把握して、適切な学習計画を立てるために必要なものです。これについては、『教科書をハックする』(新評論)を参考にしていただくとよいと思います。

さて、「形成的評価」をここでは取り上げます。形成的評価がもつ特徴と目標について専門家の共通の見解として『一人ひとりをいかす評価』で次のように紹介されています。(同書90ページ)

 ディラン・ウィリアムは、評価は、指導の次のステップを決めるために、教師が生徒のパフォーマンスについての証拠を集め、解釈し、そして使ったときの方が、証拠もなしに決めたときよりもどれだけ好ましいかという程度に応じて、形成的である度合いも決まるとしています。言い換えると、評価は「証拠が生徒のニーズに見合った指導に使われた場合に」形成的になるのです。 

 この最後の「証拠が生徒のニーズに見合った指導に使われた場合に」の文言はじっくりと噛みしめたいものです。たとえ教師がフィードバックしたつもりでも、生徒のニーズに合わず、学習が改善されなければ「形成的評価」とは言えないという点が重要です。さらに生徒の到達度を向上させるツールとして大切であることが同書91ページに記載されています。

 多くの専門家たちが、形成的評価の効果的な使用は、生徒の到達度を向上する最も強力な授業で使えるツールであると言っています。ハッティは、800以上の項目のメタ分析の結果、「形成的評価の設定」が分散値0.90でランキングの最上位にあるとしています。

ちなみに、「習熟度別グループ編成」は0.12で、0.30以下はほとんど価値がないとのことです。もういい加減に日本も習熟度別編成という役に立たない制度はやめて、形成的評価をさらに徹底させるような施策を考えたほうがよいように思います。

 教師と生徒の両方に役立つ形成的評価はそのフィードバックが両者にとって効果的なものである必要があります。その点について、『一人ひとりをいかす評価』(C.A.トムリンソンほか/北大路書房・2018)96ページには、効果的なフィードバックがもつ特徴として次の点をあげられています。

・明瞭である

・信頼関係を築いている

・具体的である

・焦点が絞られている

・一人ひとりの違いをいかす

・タイムリーである

・フォローアップを引き出す 

こうした特徴をいかす形成的評価の方法として、「見える化シート」「出口チケット」「小テスト」などがあげられます。(同書105-106ページ)宿題もこの手法のなかの一つと言えますが、そこにはこう書かれています。 

「一般的に宿題は生徒たちがまだ習得していない知識や理解やスキルを練習する機会を提供するものでなければならない。」 

この宿題に関しては、『宿題をハックする』(新評論・2019)が参考になります。同書の79ページから始まる「ハック4」では、「生徒のニーズにあわせた特別仕様にする」として次のように述べられています。 

「生徒が理解している少し上のレベルを教師が提供することによって、生徒は飛躍的に伸びます。もし、理解のギャップが大きすぎると、生徒はフラストレーションを起こしてしまい、すぐにやる気をなくしてしまいます。」 

宿題がよい結果をもたらすか、その逆になってしまうかは、授業中の形成的評価によって、どの程度生徒の学習の様子を的確に把握しているかによるわけです。個々の生徒のニーズを無視して、どの生徒にも同じ宿題を与えていては、「学びから逃避する」生徒を生み出すだけです。

宿題は小中学校ではまだ当たり前のように日常的に出されることが多いようですが、形成的評価の観点からも、その効果的活用という点からも再考されるべき課題です。

ここまで、形成的評価について書いてきましたが、単元(ユニット)の最後の評価である総括的評価については、次回(11/26)に譲ることにします。 

2023年10月22日日曜日

『みんな羽ばたいて 生徒中心の学びのエッセンス』キャロル・トムリンソン著を読んで

 私立桐朋学園小学校(東京都国立市)の有馬佑介先生が送ってくれたので、紹介します。

 この本の「はじめに」の冒頭にはこう書かれている。

「本書は、生徒を中心に据えて、教師が思考、計画、実行、振り返り、修正のサイクルを回す、意図的で継続的な授業づくりを目標にしたもの」。

この本を説明するのには、この冒頭の言葉がしっくりくる。つまりこの本は「生徒を中心にする」ことについて、いったいそれがどういう意味なのか、それをすることで生徒はどうなるのか、そして、それをするには教師はどうしたらいいのか、それが書かれている本だと言える。

 「生徒を中心にする」ということは、多くの教員にとって、目標であり願いだろう。おそらく多くの教員が、自分の置かれた環境のなかで、それに向かおうともがいているのではないだろうか。私もそのひとりだ。

しかし、自分の現状を振り返ったときに、「自分は生徒を中心とした学びを作っている」と自信をもって言えるかというと、大いに迷いが生じる。本書はそんな教員に丁寧に寄り添ってくれる一冊だと感じた。 

私が良いと感じた本書の特徴を3点挙げたい。


 まず1点目は、本書が網羅的な内容になっていることだ。本書の章の構成は以下のようになっている。

1.「生徒中心」とは何か?

2.教師 生徒を尊重し、学びを整える

3.生徒 生徒ひとり一人の成長を促す

4.学習環境 生徒中心のクラスをつくる

5.カリキュラム 夢中で取り組める学びを提供する

6.評価 学びと成長のために評価を活用する

7.教え方 生徒中心の授業をつくる

 いかがだろうか。この一冊を読むことによって、どのように考えるか(マインドセット)から、具体的に授業や評価をどのようにしていけばいいのか、「生徒中心の学び」を実現するための道筋がひととおり書かれている。

マインドセットやカリキュラム、評価それぞれについて書かれている本は多くあるが、これだけ網羅的に書かれている本は多くはないように思う。

本書を丁寧に読み解いていくことで、多くのことを確認し、教員としての自分自身を多面的に更新できると感じた。

 

2点目は、本書の書かれ方だ。1点目に書いたように、本書は生徒を中心とするための教員の営みについて、様々な面からそれを説明しており、多くの引用がなされている。そのため、巻末の参考文献には多くの本が列挙されており、その数は実に100冊をこえている。つまりこの本は、子どもの学習に関する最新の理論のエッセンスを抽出して書かれていると言える。なんと贅沢なことだろうか。さらに、日本語訳の訳注にも50冊をこえる本の紹介がなされている。もし、この本を読んで、さらに自分が特定のことを深めようと思った時に、たとえば私はカリキュラムと評価についてさらに理解を深めたいと感じたが、この参考文献のリストが力を貸してくれると感じた。

また、引用が多くなされているものの、もちろんそこに筆者の捉えや考え、さらには実際の学校(小学校や中学校、幼稚園まで様々)での子どもたちの様子のエピソードが平素な文章で書き添えられており、決して簡単なことが書かれているわけではないが、ひとつずつのことをあざやかにイメージすることができた。

 

3点目として、最後に挙げたいことは、この本の持つ柔らかさだ。

正直、教育書、特に訳書を読むときは、どこか「できていない自分」が責められている気になるものが少なくなかった。しかし、この本はそう感じなかった。

リストの掲げ方からにもそれを感じた。例えばP.86-88「一人ひとりの生徒を肯定するための方法」のリストの最後にはこう書き添えられている。「あなたは、このほかに何を加えますか?」

冒頭にも書いたが、おそらく多くの教員にとって「生徒中心の学び」は目標である。本書では狭い瓶に例えられていたが、不自由な現場のなかで、それでも何とかそれに向かおうともがいているのではないだろうか。本書はそんな教員のできていないことを責めるのではなく、認めてくれている気がする。だからこそ、私は今自分ができていることを立ち止まって確認できた。そのうえで、経験や勘に頼っていて体系立てられていないこと、そしてこれからこの本を参考にやっていきたいことを落ち着いて考えることができた。この本のすごく素敵なところだと思う。

 

「生徒中心の学び」を叶えたい教員には、手にとることをすすめたい。

2023年10月15日日曜日

生徒が自分の最適な「学習ゾーン」を見つけられるようにする

生徒一人ひとりは(教師一人ひとりも!)、「学習ゾーン」(図を参照)と呼ばれる3つのゾーンをもっています。

ゾーンは、個々人のそれまでの体験や蓄積および置かれている状況などに応じて刻々と変化することも表しています。つまり、あるテーマを授業で扱っている時、ある生徒たちは快適(簡単すぎたり、容易に扱える=ほとんど学びが起こらない)ゾーンに、他の生徒たちはチャレンジ(適度の学習が起こる)ゾーンに、さらに別の生徒たちは過度のリスク(難しくて歯が立たない=学習が起こらない)ゾーンにいる可能性があるということです。このような状況では、すべての生徒があたかも同じレベルにいると仮定する一斉授業は成立しません。教師の役割は、一人ひとりの生徒がリスクを冒してでも自分のコンフォートゾーン(快適な領域)を超えて、適度のチェレンジゾーンで学べるようにすることです。一方で、過度のリスクでパニックを起こしている生徒にも適度のリスクを提供することで、適度のチャレンジを実現することです。

常に教師に助けられないと動けないのでは困りますから、生徒が、いま自分がどのゾーンにいるのかを理解して、それに応じた目標を設定し、達成に向けて進捗状況を振り返れるように、教師はサポートすることも大切です。これは、練習次第で小学校低学年でも可能でしょう。なお、学習ゾーンは「成長マインドセット」とも大いに関係します。以下は、『SELを成功に導くための五つの要素』の120~1ページからの引用です。

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 アメリカの心理学者であるキャロル・ドゥエック(Carol S. Dweck)は、著書『マインドセット~「やればできる!」の研究』(今西康子訳、草思社)のなかで、学習ゾーンにうまく向きあうことがもつ別の重要な点について説明をしています。彼女は、生徒は自分が何者で、自分には何ができるのかについて固定観念をもってしまっているとリスクを冒したがらず、難しいと感じることはすぐに諦めてしまいがちとなり、辞めたがると指摘しています。しかし、私たち教師は生徒に対して「成長マインドセット」をもち続けるように励まし、サポートすることができます。

「成長マインドセット」については、「人間が生まれもった資質は、努力によって洗練させられると信じること」と、彼女は定義しています。さらに彼女は、「先天的な才能や適性、興味、気質などは人によって異なるかもしれないが、応用と経験を通して、誰もが変化して成長することができる」とも述べています。

 生徒に対して、学習ゾーンを把握してそれと向きあうように促すことは、生徒が外的リソース(入手できる資料・情報や、得られる人的な助けなど)と内的リソース(性質・能力・関心・嗜好など)をうまく扱い、レジリエンスを高め、自分が思っている限界(例えば、「このクラスではCしか取れません」や「私が数学を得意になることは決してないだろう」など)の先へと進む能力を育成することにつながります。

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 ちなみに、学習ゾーンの図は、ヴィゴツキーの「発達の最近接領域(英語訳は、Zone of proximal developmentZPD)」と同じで、成長するのに最適なゾーンのことです。「発達の最近接領域」を分かりやすく言うと、「今日誰かの助けでできることは、明日一人でできるようになる」です。 https://projectbetterschool.blogspot.com/2022/10/blog-post_23.htmlhttps://wwletter.blogspot.com/search?q=%5CZPD を参照ください。

また、「学習ゾーン」や「発達の最近接領域(ZPD)」と似た図をもう一つ紹介します。これは、生徒が学習に取り組んでいる様子を分析した結果から得られた知見を、生徒の学習に対するやる気や無気力・無関心に対処する画期的な方法を開発する過程で考え出されたものです。

 この図と「学習ゾーン」を比較すると、「積極的に取り組」んでいるのは、チャレンジ・ゾーンにいる生徒たちとなります。「見せかけの努力」をしているのは、過度のリスクゾーンの一部と快適ゾーンのほぼ全員です。そして、「持続的な挫折」をしているのは、過度のリスクゾーンのほぼすべてとなります。こちらも、クラスにいる生徒たちを均一の生徒と捉えるのではなく、様々なやる気や関心をもった存在であり、それへの対処法も異なることを表しています。興味をもたれた方は、『挫折ポイント』(アダム・チェインバーリンほか著)を参照してください。

2023年10月8日日曜日

「一人ひとりをいかす評価」は生徒だけでなく教師も育てる

個別最適化が求められていますが、生徒たちの学びを個別最適化するためにはどのような理解が必要なのでしょうか。最近、再読した以下の本がとても理解を助けてくれる効果的な本でしたのでここに紹介します。

  

C.A.トムリンソン, T.R.ムーン (), 山元 隆春山崎 敬人,𠮷田新一郎(訳)

『一人ひとりをいかす評価学び方・教え方を問い直す』 北大路書房(2018/9/7)




 

形成的評価は学習者の成功だけでなく教師も成長させてくれる

 

形成的評価を学習の中心に据えることは、生徒が成績や順位にとらわれることなく学習と成長に注目することができるようになります。生徒たちは成績よりもフィードバックに価値を見出すようになり、教師からもらったコメントの再読と自己評価を促進します。それに基づく教師のより具体的なアドバイスやコーチングが学習者の成功の源となっていきます。こんなに効果的な形成的評価、これを使わない手はありません。

 

それだけではありません。形成的評価は、生徒のみに効果があるものでは決してありません。ローナ・アールは形成的評価を「学びのための評価」と「学びとしての評価」という2つの側面から定義し、教師と生徒の双方が評価の情報を活用して学習や指導を最適化することが強調されています。また、ジョン・ハッティの研究やブラックとウィリアムの指摘によれば、形成的評価は特に学習に苦労している生徒に対しても良い影響を及ぼします。教師は形成的評価のデータを活用し、指導の効果や改善点を見つけることでプロフェッショナルとしての成長を促進します。つまり、自分の授業スタイルの省察を促すため、教師にとっての成長と学習の方向性を示す貴重なツールともなるのです。

 

 

 

形成的評価は自立した学習者を育てる

 

形成的評価は、生徒を中心に据えた評価であり、単に教師から生徒への一方通行の評価ではありません。学校の主要な目標は、生徒が自立した学び手として成長することです。自立した学び手とは、学習の目的や目標を理解し、必要なリソースを活用し、自分の進捗をモニタリングし、必要に応じて学習の調整や評価を行い、最終的に目標の達成度を確認できる生徒のことを指します。

 

自立した学び手になるためには、教師からの適切な支援が必要です。この支援を通じて、教師もまたメタ認知的な視点を持つことができ、教えるプロセスを深めることができます。教師は、学びの目標、その価値、成功の基準、生徒の自立した学びのレベルの評価方法、そして生徒の更なる成長を支援する方法を明示する必要があります。

 

そのための指導計画を立てるには、学習中の評価から得られる情報をうまく活用することが重要です。この活用は、評価のデザインだけでなく、もっと広くカリキュラムデザインを考慮することから始まります。形成的評価に基づく理解と計画の2つの要素は、評価の運営前から重要となります。この2つの要素とは、目標の明確化と指導の流れの理解です。

 

 

「目標の明確化」と「指導の流れ」で一人ひとりをいかす評価をつくる

 

形成的評価を効果的に活用するためには、目標をはっきりと定義することが必要です。同時に、目標達成の基準を指導開始前に生徒に伝えることも大切です。明確な目標は、適切な内容の選択、学習活動のデザイン、そして評価の開発や解釈といった点で役に立つからです。

 

指導の流れを理解することは、カリキュラムデザインの担当者や生徒の違いによって、学習の流れも異なることを意味します。生徒の興味や学習履歴は多様で、習得する順序も異なります。したがって、指導の流れや進度を正しく判断する基準を考察することが必要です。指導の流れを深く考えることで、教師は生徒が特定のスキルや知識を効果的に学ぶ順序を理解し、自身の指導方法を反省することができます。

 

すべての生徒が同じ速度や方法で学ぶわけではありません。設定された目標に対して、生徒がどのような学習成果を示しているか。学習のループの中で、どの段階に位置しているか。指導の流れの中で、どの部分の学習に取り組んでいるか。それらを明確にする必要があります。

 

 

 

評価は、生徒を単に分類する手段や学習の妨げとなるものではなく、学習を如何に促進すべきかを判断するためのものです。重要なのは、学習者として、そして一人の人間として生徒を理解し、彼らの個性や能力を最大限に活かすことです。教師が生徒に関する深い知識と、何を学ばせるべきかについての明確な知識を持っていれば、それぞれの生徒の特性を活かし、効果的な指導が可能となるからです。形成的評価は生徒だけにおわらず、教師自身の授業のあり方を見直すきっかけを与えてくれるのです。

2023年10月1日日曜日

学校は開かれつつある?

ある町の小学校で、コミュニティー・スクール(学校運営協議会制度) ★1 の委員をしています。9月某日、今年度の第2回運営協議会があり、学校から中間報告がありました。

学校運営協議会の主な役割は、1)校長が作成する学校運営の基本方針を承認する 2)学校運営に関する意見を教育委員会又は校長に述べることができる 3)教職員の任用に関して、教育委員会規則に定める事項について、教育委員会に意見を述べることができるの3つです。学校と地域住民等が力を合わせて学校の運営に取り組むことが可能となる「地域とともにある学校」への転換を図るための有効な仕組みであると言われています。

委員になった当初は、形ばかりの会議が多かった印象なのですが、少しづつですが、学校そのものにも、運営協議会のメンバーにも変化が見られていると感じています。

学校からの報告の中で、印象に残った部分をあげます。

まず、学業成績に関する部分。学校全体としては、運営が上手くいっている学級も多く、全国学力テストでも、いくつかの学年で、良い結果を示しているとのことでした。しかし、学級運営で苦労し、成績も伸びていない学年もあるとのこと。

両者の違いが際立っていたので、質問しました。うまくいっている学年とそうでない学年、何か共通する要因はありますか?

教頭先生が即答しました。「データで明らかになった課題に、すぐに対応しようとする姿勢があること、そして、対応策を決めたら、学年全体で諦めずにやりきろうとするチームワークがすごい。」と、あまりに間髪を入れずに、返答されたので、あっけにとられてしまいました。日頃からそのような姿を幾度となく目撃しているんだろうと思いました。

自分たちの取り組みをきちんと評価し、それに応じた具体策を着実に、しかも、粘り強く、諦めずに実施できている学年が成果を出していることについて、他の委員からも、賞賛の声があがりました。「自分自身の取り組みにも役立つと思う。参考になった」とも述べています。学校が自らの取り組みを検証するサイクルができつつあることが積極的に評価された。校長をはじめ、学校側の参加者の満足そうな表情が印象的でした。

子どもの主体的な取り組みをもっと強化してほしい。これが、運営協議会のここ数年の要望事項でした。子どもの主体性を唱えつつも、結局は学校側がレール敷いていると思える取り組みが多かったからです。大人が与えるのではなく、子どもたちが選び、自分たちが決断し、実行していけるにならないだろうか?という問いかけでした。

今年から、代表委員会の活動に焦点を当てているとの説明がありました。この日の報告では、6年生の3名の子どもが提案者となって「学校にもってくる持ち物について考えよう」という話し合いの様子が報告されました。学校としては、すぐに成果がでなくても、気長に取り組んでいきたいと話していました。

この取り組みを測る指標として、学校評価の中の「みんなで何かをするのは楽しい」という設問を重視していきたいとのことでした。自分たちの取り組みの成果を測定する、具体的な数値も視野に入れているところがとても良いと感じました。

まだまだ、学校主導であるとは感じますし、運営協議会のメンバーも、特に、年配の方を中心に、学校に対する遠慮やリスペクトみたいなものがあるのは感じます。

しかし、ガッチリ閉じられていた学校の門が開き始めた実感はあります。

学校が出してくる自己評価、それに対する運営協議会からの意見やフィードバック。それを受けての学校による考察や議論。そして、新しい取り組みの実行。このサイクルが少しづつ回り始めているようです。★2


★1  コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)について

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/community/

★2  学校改善のためのマネジメントのサイクルとして、インパクト・サイクル(Impact Cycle)というものがあります。米国などで広がってきたインストラクショナル・コーチングで使われている言葉で、特定する(Indentify)、学習する(Learn)、改善する(Improve)の3つのサイクルです。専任のコーチが、教師にパートナーとして寄り添い、問いかけを通じて、教師の成長をサポートしていきます。日本の学校にも、教師をサポートするコーチングが必要になるのではないか。そのような問題意識から、現在、インストラクショナル・コーチングを紹介する本を準備中です。