2024年8月11日日曜日

対話からはじめる 5つの対話の基礎力

夏休みに入り、普段ではじっくりと関われなかったけれども、長期休業の間は、これまであまり話せなかった人とゆっくり話をする機会が増えると思います。または、教員研修が続く日々!?を過ごす中、自分とは異なる価値観をもつ人との対話が増えるのではないでしょうか。こういった機会を通して、私たちは学び、成長していきます。

では、人が成長するために欠かせないものは何でしょうか。先に答えを言うのなら、それは「リフレクションと対話」です。これらは、人との出会いや他者との会話を通じて得られるものです。

しかし、対話の場において、一人でも評価や判断を保留できない人がいると、その場が壊れてしまいます。本人は気付いていないかもしれませんが、そのことに気付き、私たちは対話の場に貢献する仲間となることが重要です。一人で早く進むよりも、みんなで遠くへ行くため、「一人ひとりがリフレクションできること」と「対話ができること」が大切なのです。

ここでは、ふりかえりと対話を通じて、新たな価値や解決策を生み出す「創造活動」の手段としての対話の実践方法を紹介します。対話に参加する私たち一人ひとりが身につけるべき5つの基礎力とその実践方法についてお伝えします

 

ひとつ目の「リフレクション」とは、昨今、教育界でよく聞くキーワードとなりました。これは自己を客観的かつ批判的に振り返り、未来を創造する力のことを指します。自己を振り返り、批判的な姿勢で経験から学ぶことが求められます。OECDも指摘しているように、多面的・多角的に物事を捉える能力を養うためのひとつの有効な方法です。「一度こう思ったら私はもう考えない/考えをかえない」という姿勢では、真のリフレクションはできません。答えが明確にある場合にはそもそもリフレクションは必要ないのです。

 

ふたつ目の「対話」は、そのリフレクションの場となります。対話には、自分の安心して考えられる思考の枠を超えて他者と向き合う力が求められるのです。そこでは評価や判断を保留し、多様な視点に触れることで、自分自身の枠を超えることが重要です。リフレクションはどこか一人になって熟考するものだけではなく、対話の中で行われるダイナミックな活動なのです。

対話を効果的に行うためのポイントは次の通りです。相手の世界に対しても同じように耳を傾け、その背景や理由を理解しようとする姿勢が大切です。

1. 自己内省自分の考えを客観的に振り返ること。

2. 共感の聴き方相手の意見だけでなく、経験、感情、価値観にも焦点を当てて聴くこと。

また、よくあるディベートと対話には違いがあります。ディベートは自らの主張を変えず、リフレクションを必要としません。正当性を示すことが目的です。一方で、対話では「主張は変わりうる」ものであり、傾聴と相互学習を通じて、自己の中に変化が生じます。すべての参加者が関わることで、共創が生まれるのです。つまり、対話は共創のための手段であり、対話を通じて共に創り上げることが目指されます。

さて、あなたの職場の職員会議や学年会はディベートと対話どちらになっていますか。対話には、異なる考え方や、自分には全くない発想に慣れていくことが求められます。「その発想は全くありませんでした。もっと教えてください」や「真逆ですね。意見の背景を教えてください」といった会話が交流されることから始められます。この意見の違いを賞賛する文化こそが、多様性を活かし、これまでにない創造性を発揮できる鍵を握ります。共通点のみに焦点を当てるチームは多様性を失ってしまいますが、それぞれの違いを尊重するチームは、多様性を活かすことができます。

 




それでは、対話の5つの基礎力を紹介します。

① メタ認知

メタ認知とは、自分が何を考えているかを認識する能力で、理解や学びのプロセスにおいて重要です。この力を高めるには、自分の内面を客観的に見つめ、考えがどこから来ているのかを問いかけることが必要です。

対話においては、「なぜそう考えるのか」を自分の外にある事実ではなく、内側のメンタルモデルに求めます。意見の背景には、過去の経験を通じて形成された見方(メンタルモデル)が必ず存在するためです。そのため、自分の内面を客観的かつ批判的に振り返るリフレクションが重要になります。批判的とは、多面的・多角的に捉えることを意味します。

メタ認知の「4点セット」として、意見、経験(知っていることも含む)、感情、価値観があります。感情に紐付いていない経験は記憶に残りにくく、感情を伴うことで価値観が明確になります。

 


② 評価判断の保留

評価や判断を一時的に保留し、自己内省を行うことで、他者への共感が生まれます。評価を保留できないと、新しいことを学ぶのが難しくなります。対立の原因は意見の違いではなく、判断基準の違いにあります。人々が守りたい価値観を理解し、その背景を探ることが重要です。価値観レベルでの合意は難しいかもしれませんが、習慣化することで可能になります。

リフレクションを通じて「自分」と「自分の考え」を切り離すことが必要です。評価を保留することは、自分の意見を捨てることではなく、ネガティブな感情をコントロールする手段です。相手の意見が自分の大切にしているものを脅かしていると感じたとき、その感情を理解し、コントロールすることで、相手の話に耳を傾ける姿勢が整います。評価の保留は傾聴のための手段であり、自分の意見を永遠に手放すものではありません。傾聴が終われば、再び自分の意見に立ち戻ることができます。

 

③ 傾聴

傾聴とは、相手の意見だけでなく、その背景や経験、感情、価値観を理解しようとすることです。「他者に共感する」とは、他者の立場になって考え、理解してみるということであり、共感は「他者の靴を履いてみること」と説明されることもあります。

ここで注意してほしいのが、共感は、相手に賛同することでも、相手に感情移入することでもないということです。意見に対して反応するのではなく、その背景を知り、理解しようとする姿勢が重要です。あくまでも、相手がどう考えているのか、どんな気持ちなのか、それはなぜなのかを、相手の立場になって深く理解することを意味します。

 

④ 学習と変容

傾聴を通じて得た新たな視点を自分のものとすることで、学習と変容が生まれます。学習と変容のプロセスには、まず相手の世界を想像し、次にその世界に共感し、最後に新しい視点を手に入れることが重要です。

対話を通して相手の世界を傾聴できたなら、その学びを自分の世界に取り込みます。対話における学習とは、傾聴を通じて得た情報を自分のものにするプロセスであり、それが変容をもたらします。この学習は、自分の意見を変えることや、相手の意見に賛同することを意味するのではなく、対話を通じて自分に新たな視点を加えることを期待します。

たとえ相手の意見に賛同しなくても、傾聴を行えば、相手がそう考えるに至った経験や大切にしている価値観を知ることができます。これにより、自分の知らない世界を知る機会が生まれます。

対話における学習と変容は、相手の世界を想像し、共感し、新しい視点を得るという3つのステップで進行します。相手のメンタルモデルを理解し、共感し、新たなものの見方を取り入れることで、自分自身も変容していくのです。

 

⑤リアルタイムリフレクション

対話に参加している際に自分に起きていることを俯瞰し、自分の言動と内面をメタ認知することです。 リアルタイムで自分を振り返ることで、対話の質を高めることができます。

私たちは人間ので気をつけていても評価判断をしてしまうことがあります。大切な事はその瞬間に自分が評価判断を行っていることに気づき、自分の中のネガティブな感情を制御し、評価判断のスイッチをオフに切り替えることです。なかなか簡単なことではありませんが、評価判断の保留を習慣付け身に付け、徐々に難易度の高い対話に挑戦していくことが求められます。

 

 

創造的な知識は、一人で生み出すものではなく、個別化されたものでもありません。一人で考えることには限界があります。チームでリフレクションと対話を繰り返すことで、多様な学びを得ながら、新しい価値や解決策を創造できるのではないでしょうか。

 

 

★熊平美香『ダイアローグ 価値を生み出す組織に変わる対話の技術』第1章参考

 

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