2023年7月29日土曜日

「選択できる」学びを考える

今から4年前に出版された『教育のプロがすすめるイノベーション』(新評論)のなかに、「今日の教室で求められる八つの特徴」(同書261ページ)が紹介されていますが、その8つとは次の通りです。

    声を発する・・・生徒は他者から学び、その学びを共有する

    選択   ・・・生徒に選択を提供する

    振り返り ・・・すべての人(教師、管理職、生徒)は自分で学んでいることを書いて振り返る

    イノベーションの機会・・・例)ユーチューブのビデオからホバークラフトをつくる

    クリティカルな思考 ・・・見たものについて問いかけ、チャレンジする

    問題発見・解決  ・・生徒に困難な挑戦を提供し、革新的な解決策を考えてもらう

    自己評価・・・生徒が振り返りの方法を知っていること

    ネットにつながった状態の学習・・・ソーシャルメディアやビデオ会議によって専門家を授業に招く


 今回はこのなかの「②選択」について考えてみます。「選択」は人生においても、学校選択、職業選択など生きている限り、選択の連続かも知れません。

 かつてこのブログでも紹介された『教育のプロがすすめる選択する学び』(新評論2019)の「まえがきXIII」に次のような一文があります。

「選択肢を提供することは、生徒が学校およびその後の人生で成功するために必要となる知識やスキルを身につける過程を教師が助ける方法として、極めて強力な手段なのです。」

  これまでこの国で100年以上続いてきた「生徒を均一化してとらえ、知識を伝達する教育」を変えていく「最初の一歩」がここにあります。同書の32ページに引用されているイギリスの教育専門家・ケン・ロビンソン卿(教育に対する功績からナイトの称号を受けています。2020年に70歳で亡くなっています。)は有名なテッドトークの「教育の死の谷を脱するには」のなかで、次のように語っています。(このトークは現在でも視聴可能で、すでに1200万回も再生されているようです。)

「子どもに座ったまま何時間も低級な事務作業をやらせたなら、ソワソワしはじめてもおかしくはないでしょう」

  学ぶ内容に興味がもてて、刺激があれば、教室を歩き回ったり、抜け出したり、他の生徒にちょっかいを出したりするという、いわゆる「問題行動」(何が問題かと言えば、教師側から見て問題だという視点)の大半は収まるのではないかと考えます。その点からしても、「選択」は重要なキーワードです。

 では、まずどこから手をつけたらいいのでしょう。

 そこで、このブログでもたびたび紹介されている『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』(北大路書房2017)を参考にします。

 同書22ページに「教師は、生徒の多様性のもとに、内容や方法や成果物を変える」という小項目があります。この多様性の一つが生徒の「レディネス」です。レディネスとは当該単元を学習し始める時点で、生徒がもっている特定の知識やスキルの状態のことです。このレディネスのちがいによって、充分な生徒とそうでない生徒と大きく2つに分けることができます。充分な生徒には、すでに修得しているスキルに関する知識や練習を省くことが可能であり、ある程度複雑でオープンエンドな学びが可能になる課題や成果物を求めることができます。反対に、充分でない生徒には、今までの学習で不充分な点を補充したり、個別の練習の機会をもったりすることなどが考えられます。また、それぞれの段階の中間に位置する生徒もいるでしょうから、4段階に分けることも考えられます。

 次の課題は選択肢をどのように用意するかということです。

 このとき参考になるのが、最初に紹介した『教育のプロがすすめる選択する学び』です。

 同書の第5章「よい選択肢をつくりだす」にとてもよいヒントが書かれています。その小項目の一つに、「選択肢は、生徒のレディネスにマッチしていなければならない」があります。その柱は次の4つです。

  ・前年度の生徒の状況を把握する

 ・最初はゆっくり

 ・足場を築きながら選択肢を徐々に広げていく

 ・必要に応じて修正する

 これを見るだけでも、とてもよい授業のイメージが頭に浮かんできませんか。

それをふまえたうえで、「選択肢をつくりだすプロセス」(同書189ページ)に取りかかればよいわけです。さらに、選択肢の具体例が知りたい方は『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』(北大路書房2017)へ進まれるとよいと思います。

  具体例については、また次回(8/27)取り上げたいと思います。

 今の学校では、教材づくりをしたくても会議や行事が多く、勤務時間内では困難という声をよく聞きます。そのあたりのことも踏まえて考えていきます。

  まだまだ酷暑が続きますが、くれぐれもご自愛ください。

2023年7月23日日曜日

『子どもの誇りに灯をともす』を読んで

 埼玉県の公立小学校の清水先生が『子どもの誇りに灯をともす』(ロン・バーガー著/塚越悦子訳、英治出版、2023年)の書評を書いてくれましたので紹介します。

「私の息子は変わりました。いくらテストの結果が振るわなくても、息子は自分が勉強のできない生徒だと思わなくなりました。あのプロジェクトを成し遂げたのだから、自分にはそれだけの能力があると信じているのです。」

これは、本の中に出てくる子どもの保護者の言葉です。私は、自分の担任するクラスの保護者にこのように思ってもらえるような授業やクラスをつくりたいと願っています。この本の中に出てくる保護者は、なぜこのような言葉を言う状態にまでなったのでしょうか。

それは、本書を読むことによって伝わってきます。『分かる』ではなく、『伝わる』という言葉を使ったのは、この本はノウハウの本ではないからです。この本は、プロジェクトを中核にした学びを大事にする教師の思いや、プロジェクトに正面から向き合う子どもたちをどのように見てきたのか、またどう支えてきたのか、そして、なにを大事にしてきたかが子どもたちとのエピソードとともに、ビシビシ伝わる本でした。

おそらく、この本は読む人によって伝わってくることがだいぶ変わるでしょうし、同じ人が読んでも、違うタイミングで読めば、また伝わることは違ってくるのではないかと思うのです。

さらっと読んでしまうことがもったいなさすぎて、読んでは自分自身の経験や想いとつなぎ合わせ、じっくり、じっくりと噛み締めながら読んでいました。まるでスルメを味わうかのように。ドッグイヤー(いいなと思ったページの本のはじを折ること)が55ページ連続する本と、私は今までに出会ったことがありません。この本は私の大切な本の一つになりそうです。

私がこの本を読んで感じたキーワードは、「作品★の質を求める」でした。

「作品の質を求める」とはどういうことでしょうか。

私は公立小学校の教員ですが、今まで、テストの点数を求めていた自分がいました。質よりも提出期限を子どもたちに求めることを優先している自分もいました。テストの点数だけではその人の全てを評価することはできないと思うようになってからは、子どもたちに作品をつくってもらうことをするようになりましたが、どうしても学校でやらなければならないたくさんのことや、学力テストの点数にとらわれすぎていて、作品の質にこだわることは、正直この本に書かれているようにはできていませんでした。

テストの点数で子どもが自信をなくすことなく、その子が自分の人生に希望を持ち、その子の学びが未来につながるためにはどうしたらいいのだろうか。という自分自身の中の大きな問いに対して、「子どもの作品の質を求める」という一つの答えをこの本からもらいました。

また、本書では、子どもの作品の質を求めるために私たち大人(教師)はどうしたらよいのか、様々なヒントがありました。

――――――――――――――――――

・子どもがその作品を作りたいと本気で思う環境を、大人(教師)がつくること

・子どもがつくる作品が世の中に本当に影響を及ぼすことを体験できるように、大人(教師)がつくること

など

――――――――――――――――――

子どもが自分自身でつくる作品が、世の中に本当に影響を及ぼすことを知ると、子どもたちは、作品をよりよくするために何度も草案をつくりなおすことを求めるようになるとのことでした。そのためにクラスのみんなで批評をしあって、より良いものをつくろうとしていました。プロジェクトを授業の中核にすることで、これらのことが可能になるというロン・バーガーさんの提案でした。

公立学校にいると、やらなければならないことが多すぎて、なかなか作品の質を求めるということができていなかったなと、自分自身の今までをふりかえり、ハッとさせられました。

勉強を一生懸命にすることが当たり前の文化のコミュニティにいると、勉強をすることが当たり前になりやすいという話が本に書いてありましたが、教室で質を求めることが当たり前の文化をつくりだすことは、教師としての大きな仕事なのだと感じました。

つまり、何かを身につけるために、教え手の義務感で教えるのではなく、いいものをつくりたいと思える環境をつくりだすことが大切だということをこの本から学びました。

キーワードとは別ですが、子どもの誇りに灯をともすために、教員の誇りにも灯をともす必要がある、という教員の働き方改革へのヒントも見えてきた本でした。本を読みながら、「そうそう」と、頷けるところが本当にたくさんありました。

ここ最近、日本の学校では、プロジェクト学習や探究学習などに取り組む学校が増えているように思います。しかし、それらの取り組みは難しい取り組みだから、私立や国立などの優秀な子たちだからできるのではないか、その辺の公立小学校では無理ではないかと思ってしまいがちですが、公立小学校だからこそ取り組む価値があるのだと強く思わせてくれる本でした。というのも、この本の中で、「学習が苦手な子」や「落ち着きのない子」たちが、自分達の作品に誇りを持ち、変わっていく姿が伝わってくるのです。

自分自身が大事にしようとしていることと、重なることが多く、勇気づけられるとともに、自分自身がまだできていなくて、この本を読んだからこそ、改めて気付かされるところもたくさんありました。この本は、ぜひ同僚とブッククラブをしたい本でした。

 

★紹介されている本ではもちろん、紹介者も作品を生徒たちがつくり出すことを前提にした授業として描いています。しかし、成果物(生徒の作品やパフォーマンス)を授業中につくり出す授業や、それらに対する評価は、日本ではこれまでほとんどしてきませんでした。それに対して、教育界の傾向は、テストに向けての授業や、テスト以外に評価方法は考えられないという「偽の教え方」や「偽の評価」から、「本物の教え方」や「本物の評価」に転換する要として、作品/成果物が位置づけられています。この点で参考になる本には、今回紹介されている本以外に、『学びの中心はやっぱり生徒だ!』『一人ひとりを大切にする学校』『みんな羽ばたいて ~ 生徒中心の学びのエッセンス』『あなたの授業が子どもと世界を変える』『だれもが科学者になれる』および下のhttps://docs.google.com/document/d/1FPuGUOEtCb-sd-_FH-18Iv1WCDpooEewLedBTFAIao4/editにリストアップされた「作家の時間」や「読書家の時間」に関連したものがあります。それらのなかでは、本物の作品/成果物やその発表の対象なしの学びは、「生徒中心の学び」とは言えない、という主張が貫かれています。プロジェクト学習には、https://wwletter.blogspot.com/2021/08/wwrw.html がおすすめです。以上のなかから一冊でも、二冊でも、夏休みの間に読む一冊にぜひ加えてください。

2023年7月16日日曜日

教え方の「これまでのアプローチ」と「これから求められるアプローチ」 (+この転換を実現する本の紹介)

 姉妹ブログで、WW/RW便り: 従来のアプローチ と 求められるアプローチ (wwletter.blogspot.com)を紹介しましたが、今回はそれに寄せられた何人かの先生からのリストを紹介する続編です。

 まずは、オリジナル版の修正案は、以下の通りです。(少しは、分かりやすくなりましたか?)

従来のアプローチ          求められるアプローチ        

与えられた内容を詰め込む      生徒のニーズや興味関心を引き出す

教師の敷いた路線で教える      教師と生徒は学びのパートナーである

内容を伝える/話す/板書する    生徒相互の学び合いを促進する

正解だけを求め、引き出そうとする  生徒の思考の表出をサポートする

 

 次に、紹介者(吉田)の追加リストです。


★おとなしく聞いて、暗記するのでは(テストのために「覚えては忘れる」の繰り返しでは)、楽しいはずがない! これでは、4C(クリティカルな思考、創造力、協働する力、コミュニケーション力)も、SELhttp://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.htmlも、「思考の習慣」https://bit.ly/3XZmfbhも、身につく(練習できる)はずはない!

それに対して、右側は、自分で考え、クラスメイトと話し合い、成果物をつくり出し、発表の対象からのフィードバックをもらい、有能感を味わえるので楽しいし、4CSELも、思考の習慣も身につく/練習できる教え方・学び方のアプローチ。


◆北元先生(兵庫県)の追加リスト:


◆大久保先生(千葉県)の追加リスト:


◆自分の小学4年生の子どもの授業参観をして感じたことをまとめる形で書き出してくれた飯村先生(宮城県)の追加リスト:

従来のアプローチ              求められるアプローチ          

生徒は、教師に言われた通りにやる。(実態は、やる振りをしている子の方が多い、あるいはよくわからずにただやっている)

教師は、生徒のニーズや興味関心をいかして課題の選択肢を提示する。生徒がそこから自分の裁量でやることを選ぶ。(『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』『教育のプロがすすめる選択する学び』『一斉授業をハックする』『「考える力」はこうしてつける』などを参照。)

教師が自分の都合で活動をコントロールする。(生徒の進み具合は気にせず、授業時間のみを気にする)

教師が、生徒と相談しながら、全体の時間を管理している。生徒は、活動の進め方を教師と相談しながら調整し、納得のいく活動を継続的に行う。

教科書やワーク、ワークシート、ドリルの空欄を埋める。

答えを求めるだけでなく、求め方や、その答えと自分の生活との関わりがわかるような活動になっている。

終わった人は、次の先生の指示が出るまで静かに待つ。

終わった人は、次の自分の課題を自分で決められる。(あるいは、選択肢が提示されている)

 

 さて、あなたはどのような項目や内容を付け加えますか?

 

 最後に夏休みに読める「これまで」から「これから」に移行するのに役立つ本を紹介します。自分の興味関心に合わせて、1~2冊を選んで読むところからスタートしてください。(すべては、つながっています!)

●全体的に参考になる本

・『みんな羽ばたいて』キャロル・トムリンソン著、新評論、2023年

・『学びの中心はやっぱり生徒だ!』ベナ・キャリックほか著、新評論、2023年

・『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』キャロル・トムリンソン著、北大路書房、2017年

・『あなたの授業力はどのくらい?』ジェフ・マーシャル著、教育開発研究所、2022年

・『効果10倍の学びの技法』吉田新一郎+岩瀬直樹著、PHP研究所、2007年(『シンプルな方法で学校は変わる』増補改訂版、みくに出版、2019年)

●教科別

〇国語

・『イン・ザ・ミドル』ナンシー・アトウェル著、三省堂、2018年

・『国語の未来は「本づくり」』ピーター・ジョンストンほか著、新評論、2021年 +

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1KXuWtBc4kl6jRr2KGwnqPAH1vSryYkM7qNXd0ArKpYU/edit#gid=1042705275

〇算数・数学

・『教科書では学べない数学的思考』ジョン・メイソンほか著、新評論、2019年

〇社会科

・『社会科ワークショップ』冨田明広ほか著、新評論、2021年

・『歴史をする』リンダ・レヴィスティックほか著、新評論、2021年

〇理科

・『だれもが科学者になれる!』チャールズ・ピアス著、新評論、2020年

●探究/プロジェクト学習/PBL

・『あなたの授業が子どもと世界を変える』ジョン・スペンサーほか著、新評論、2020年

・『子どもの誇りに灯をともす』ロン・バーガー著、英治出版、2023年

・『プロジェクト学習とは』スージー・ボスほか著、新評論、2021年

・『PBL~学びの可能性をひらく授業づくり』L.トープほか著、北大路書房、2017年

・『たった一つを変えるだけ』ダン・ロススタインほか著、新評論、2015年

●生徒が(教師の言うことを聞くだけ/するだけではなく)学びに熱中する授業

・『「学びの責任」は誰にあるのか』ダグラス・フィッシャーほか著、新評論、2017年

・『教育のプロがすすめる選択する学び』マイク・エンダーソン著、新評論、2019年

・『「おさるのジョージ」を教室で実現 ~ 好奇心を呼び起こせ!』ウェンディ―・オストロフ著、新評論、2020年

・『退屈な授業をぶっ飛ばせ!』マーサ・ラッシュ著、新評論、2020年

・『一斉授業をハックする』スター・サックシュタインほか著、新評論、2022年

・『教科書をハックする』リリア・レント著、新評論、2020年

●生徒が主体的に対話する(生徒の声をいかす)授業

・『最高の授業~スパイダー討論が教室を変える』アレキシス・ウィギンズ著、新評論、2018年

・『学習会話を育む』ジェフ・ズィヤーズ著、新評論、2021年

・『私にも言いたいことがあります!』デイヴィッド・ブース著、新評論、2021年

●評価から授業を変える

・『聞くことから始めよう!~やる気を引き出し、意欲を高める評価』マイロン・デューク著、さくら社、2023年

・『成績だけが評価じゃない~感情と社会性を育む(SELための評価)スター・サックシュタイン著、新評論、2023年

・『成績をハックする』スター・サックシュタイン著、新評論、2018年

・『一人ひとりをいかす評価』キャロル・トムリンソンほか著、北大路書房、2018年

SEL(感情と社会性の学び)と教科指導の統合

・『学びは、すべてSEL』ナンシー・フレイほか著、新評論、2023年

・『SELを成功に導くための5つの要素』ローラ・ウィーヴァ―ほか著、新評論、2023年

・『感情と社会性を育む学び(SEL)』マリリー・スプレンガ―著、新評論、2022年

●学校や教育委員会レベルでの転換

・『教育のプロがすすめるイノベーション』ジョージ・クーロス著、新評論、2019年

・『一人ひとりを大切にする学校』デニス・リットキー著、築地書館、2022年

・『「学校」をハックする』マーク・バーンズほか著、新評論、2020年

・『学校のリーダーシップをハックする』ジョー・サンフェリポほか著、新評論、2022年

●学級経営と生徒指導

・『「居場所」のある学級・学校づくり』ローリー・バロンほか著、新評論、2022年

・『生徒指導をハックする~育ちあうコミュニティーをつくる「関係修復のアプローチ」』ネイサン・メイナードほか著、新評論、2020年

教員研修~まずは教師が「これから求められている学び」を体験する

・『「学び」で組織は成長する』吉田新一郎、光文社新書、2006年

・『効果10倍の教える技術』吉田新一郎、PHP新書、2006年

下の2冊を教員版に置き換えると、理想的な研修が実現するはずです。

・『学びの中心はやっぱり生徒だ!』ベナ・キャリックほか著、新評論、2023年

・『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』キャロル・トムリンソン著、北大路書房、2017年

2023年7月9日日曜日

スマホルールは子どもファーストで

 「先生、ありがとう。おかげでアプリをインストールできた。でもスマホを使う時間については、今夜また話し合って決めるんだ」と、 クラスの子が嬉しそうに話してくれました。子どもたちが高学年になると、スマホの問題は避けて通れません。学年が上がるごとに、スマホやSNSに起因する問題、さらにはゲーム依存症が増加します。


この生徒も、親が定めた厳格なルールに耐え切れず、密かに友人からスマホを借りてゲームをしているという情報を、親からの相談で知りました。デジタル世界で子どもたちが安全に活動するためには、インターネットの基本的な使い方、プライバシー保護、情報の信頼性の評価など、デジタルリテラシーは欠かせません。

私たちは、子どもたちが自分自身でルールを守るために、大人としてどのように関与できるのか考えなければなりません。その際に重要となるのは、ルールは子ども自身が作ることです。その理由は、自分自身で作ったルールにのみ、子どもたちは主体的に参加し、それを守ろうとするからです。

この視点を踏まえて、親たちにも協力をお願いし、先日の保護者懇談会でスマホやデバイス、SNSの使い方について話し合う機会を設けました。そこでは、「子どもファースト」を原則に、子ども自身が「自分で決めたことを自分で守る」ことの重要性を強調し、ルール作りのガイドラインを参考に話し合いました。



最初が肝心! スマホを与える際には必ずルールを

ルール決めの7カ条。

① 話し合いは子供ファースト。
親の意見の前にまず子供の意見を聞く一方的に命令されたことに従う素直に従う子供はいません。親としては受け入れがたい内容でも、まずは子供の希望、子供の気持ちを聞く。

② 子どもの意見を聞いた上で、親の考えを説明する
親が心配するのは、生活リズムが乱れる、勉強しなくなる、犯罪に巻き込まれる可能性が多いです。そうならないようにするには、どうすれば良いのかを親子で考えます。時間制限を設けるのか、それはいつまで続くのか、あくまでも話し合いで決めていくことが大切です。

③ ルールを守らなかった場合のペナルティーを決める
話し合って決めたルールも、ほとんどの場合は破られます。その時にどうするのかペナルティーも決めておきます。まず。これもまず、子供にペナルティーを提案させ、親はそれに意見を言う形で進めます。

④ 様々なケースを想定しておく
ペナルティーを実行すると、子供が切れる場合があります。切れたらどうするかまでを話し合っておく。ざっくり決めたルールは抜け穴だらけです。

⑤ ルールやペナルティーが変更できる付帯条項をつけておく
話し合って、ルールを決めても厳しすぎて守れないなどうまくいかないこともあります。親も子どもも不服申し立てができる、見直しができる条項をルールに加えておきましょう。

⑥ どちらかが感情的になったらストップ
日を改めて話し合う。ルール決めは話し合いの練習の場です。喧嘩や口論では、お互いが納得できるルールに到達できません。感情が高ぶって冷静さを保てなくなったら日を改めます。

⑦ 話し合いのプロセスを動画に撮っておく
動画は、子供にルールを守らせるお持ちになりますが、親が自分の発言を都合よくごまかさないためのものでもあります。撮った動画は親だけでなく、コピーして子供にも持っていってもらいます。★

石田勝紀『子どものスマ歩問題はルール決めて解決します』(主婦の友社)2022参照



我が家のルール(例) 

使用時間の制限
・ メール、ゲーム、動画、全て合わせて1日2時間まで
・ ゲームは夜9時以降はやらない
・ 平日2時間、休日3時間。どちらも夜10時まで
親が様子を把握できる
・ 使うのはリビングで。自室に持ち込まない。
・ アプリのインストールは許可制
・ スマホ画面にロックをかけない
SNS対策
・ SNSに写真をアップしない
・ 連絡先を交換する際は、親に報告する
石田勝紀『子どものスマ歩問題はルール決めて解決します』(主婦の友社)2022参照




懇談会では、「一方的に対応する親の会話例」と「子どもを中心に考え、共に問題解決を目指す親の会話例」を実際にロールプレイで演じる場を設け、体感的な理解を促しました。あえて過剰に一方的な親の会話例を演じた結果、笑いが起こりつつも、ルール作りが各家庭で慎重に考えるべき課題であるという理解が深まったようです。この体験は、大きなトラブルが発生する前に、親子が互いの立場を尊重しながら意見を交換する貴重な機会となりました。ルールは一方的きめることではうまくいきません。

スマホのルール作りを通じて、家庭でも民主的な対話の練習を取り入れることを推奨します。これにより、子どもたちは自分自身の責任で学び、また新たな困難な状況に立ち向かうことの重要性を理解するでしょう。



★クラス実践で上手くいったのは、動画よりも紙に書いて貼っておくことでした。石川結貴『スマホ危機 親子の克服術』(文春新書)2021に取り組み例が詳しく紹介されています。

紙のチェックシートで意見交換を!
スマホを契約する際、多くの人が料金プランの検討をしますが、親子間でそれぞれの考えを共有し合っているでしょうか?私たちは、アナログな方法、具体的には紙に書き出す形での意見交換を推奨します。

まず、子ども自身に「スマホが欲しい理由」を書き出してもらいましょう。その理由として、「LINEで友人とコミュニケーションを取りたい」「暇なときにオンラインゲームを楽しみたい」「学習用アプリを活用したい」などがあるでしょう。

次に、親は「スマホ使用に対する懸念点」を記入します。たとえば、「ゲームに熱中して勉強をおろそかにするのではないか」「SNSを通じて危険な人と関わるのではないか」「LINEでの排除やいじめがあるのではないか」など、思いつくままに書き出すとよいでしょう。このプロセスを通じて、子どもはスマホの利点だけでなく欠点も認識し、親も同様にデメリットを確認することが可能になります。このようなメリット・デメリットのリストアップは、紙に書き出すことでより明確に見える化することができます。

2023年7月2日日曜日

生徒中心の学びは「一人ひとりの生徒を他のレンズで見る」ことからはじめよう

  多くの学校で生徒たちが、ふるいにかけられ、選別されています。私たちは無意識のうちに(そして、残念なことに意識して)生徒たちを「できる子」「何とかなるかもしれない子」「救いようのない子」と見なしていないでしょうか。その結果、特別な才能を見出された生徒にはギフテッドのためのプログラムが用意され、学業に秀でていると認められた生徒には上級クラスで学ぶ機会が与えられ、スポーツの才能がある生徒は選抜チームに招集されます。そうでない生徒たちが背中を押してもらう機会はほとんどありません。当たり前のように行われている習熟度別のクラス編成も、一人ひとりの生徒のための個別最適な学習機会を確保するためというよりは、教師が集団に対して教科書をカバーするための仕組みになっているだけのように思われます。

また、小学六年生と中学三年生を対象に毎年実施されている「全国学力テスト」で結果を出すために、授業時間を削り過去の問題を解かせるなど、行きすぎた対策をしている学校があるというニュースは記憶に新しいですが、正直なところ、教育関係者の多くはそれほど驚かなかったはずです。つまり、標準学力テスト対策、入試対策、次の学校に行く準備が学校の存在理由になってしまっているということです。

しかし、本書のテーマである「生徒中心の学び」は、ただ単に才能のある生徒を見出して、その才能を磨き上げることではありませんし、テストや次の学校に向けてひたすら準備をさせることでもありません。それは、一人ひとりの生徒がもつ才能や興味関心を丁寧に発見し、孵化させ、育み、そして大きく伸ばすことです。そして、これは私たち教師や子どもと関わる大人たちが実現したいと心から願っていることです。

この「生徒中心の学び」は、教師が教える内容ではなく、生徒に注意を向け、生徒を尊重することから始まります。そして、生徒中心のクラスの教師は少なくとも次の4つの方法によって生徒を尊重していると、著者のトムリンソンは述べています。

・一人ひとりの生徒をありのままに受け入れ、肯定する。

・一人ひとりの生徒が成長し、成功する能力をもっていると信じる。

・一人ひとりの生徒についての多面的な知識を広げる。

・一人ひとりの生徒の成長を最大化するように行動し、計画し、対応する。(84ページ)

 

これだけを見ると、果たして自分にできるだろうかと不安になってしまうかもしれません。当たり前のことですが、現実世界にはさまざまな生徒がいて、ありのままに受け入れ、その成長を手放しで信じることが難しい場合もあります。実際、私も何度となく生徒とぶつかり、心ない一言をつい口にしてしまったり、どんなに話しかけても打ち解けてもらえなかったり、限られた行動だけを見て、勝手に問題児のレッテルを貼り、向き合うことを諦めてしまったこともあります。その度に、こんな自分が教師をしていていいのかと自己嫌悪に苛まれました。しかし、トムリンソンは「本能的に・・・愛情を感じられる教師もいれば、そのような気持ちを抱くために、やめるべき習慣、克服すべき偏見、向き合わねばならない経験をもつ教師もいます。もし、あなたが生徒に対して前向きな気持ちになっていないとしても、それは学ぶことで身につけられるものです。要するに、他のレンズを通して生徒を見ればよいだけです」(85ページ)とも述べています。この部分を読んで、私は大いに勇気付けられました。教師も人間です。最初から、どんな状況でも、どんな生徒でも、すぐに受け入れられる、心を開いてもらえるというわけではありません。自分の傾向を認め、自己嫌悪から抜け出し、具対的な方法を学び、実践していけばいいのだと気持ちを新たにすることができたのです。続くページにある具体的な方法のリストを辿りながら、自分が毎日学校で出会う生徒たちの顔を思い浮かべ、他のレンズで一人ひとりを見直すことで自分の中に起こる変化を感じています。

本書では、生徒中心の学びに欠くことのできない「教師」がもつべき倫理観と、その教師が尊重しようとする存在である「生徒」を深く知るための方法についてはじめに丁寧に検討しています。その後、生徒中心の学びを実現するための核となる四つの要素~学習環境、カリキュラム、評価、教え方について順に検討しています。これらは、どんな教師でも日々の実践の中で無意識のうちに心に留めている大事な要素です。自分が課題を感じている要素から目を通してもいいでしょうし、本書が投げかけてくれる数多くの問いに自分なりに答えながら読んでいくのもいいでしょう。本書を読んで、自身の実践を振り返り、紹介されている具体的な方法を試し、生徒中心の教室をより深く理解して、教師という難しくも、世界に必要な大切な仕事を着実に進めていく人が増え続けていくことを心から願っています。そして、私自身がその一人となり、たくさんの生徒たちと共に羽ばたけるよう、精一杯取り組んでいこうと思います(谷田美尾)。

なお、紙幅の都合で割愛した第8章では教育哲学的な部分が述懐されていますが、あまりの捨て難さに、インターネット上で公開していますので、ぜひご覧ください。 https://docs.google.com/document/d/1NLGVsiRh8x0I6F0zA900PpteAIXA6JKGagGyLslQ4ec/edit

 

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