2014年10月26日日曜日

問いについて


このブログでもたびたび「問い」について取り上げています。

 かつて中学校で理科を教えていたときも、授業の中での「問い」作りに時間をかけていました。どのような問いになるかで、授業の良しあしが決まります。こちらも生徒も追究に熱が入るような授業ができれば、しめたものです。

    最近読んだ大澤真幸さんの「問いの読書術」(朝日新書2014)では大澤さんも読書をするときに問いをもつことの有用性を説いています。その中の第4章「格差社会時代の希望」で、苅谷剛彦「学力と階層」(朝日文庫)を取り上げているのですが、問いとして次のように提起しています。

「学ぶことへの意欲を規定している要因は何だろうか」

    この問いを前にして、最近の学ぼうとしない大学生を考えてしまいます。

 大学生の質の低下が指摘されて久しいわけですが、私の目の前にいる大学生にもこれに当てはまる人がいます。学ぶどころか、遊びやアルバイトに大半の時間を費やしてしまうわけです。そんな学生の「学ぶことへの意欲」をどう高めていくことができるのか、私自身は今この問いと向き合っています。

 
    迷うときは原理・原則に戻ることが一番です。

 そこで、迷った時はいつも「学びの原則」に戻ることにします。

 
 まず、「選択できること」。

 すべてあてがいぶちでは面白いはずがありません。「選択できる」場面を設定したり、課題を複数にしたり、いろいろとやり方はあります。

 また、「安心して学べる環境」。今どきの大学生と言っては失礼かもしれませんが、周りの人とうまくコミュニケーションを取れない学生も少なからずいます。そこで、アイスブレーキングを取り入れて互いの関係づくりをする必要もあります。

 それと「十分な時間を取ること」。人それぞれ学ぶスピードが違いますから、ゆっくり学ぶ人のためにも時間を確保してあげることです。

 (アイスブレーキングについては、「効果10倍の教える技術」吉田新一郎/ PHP新書の「資料編」を参考にしてください。なお、この本は現在入手困難ですが、アマゾンのKindle版は入手可能)

※また、「学びの原則」も上記の本の第2章に掲載されています。

 

2014年10月19日日曜日

歴史の授業


今回は歴史の授業の話題から入りたいと思います。

中学・高校の日本史の授業で学んだ、豊臣秀吉の「刀狩り」を多くの方は覚えておられることでしょう。


 中学校学習指導要領解説・社会科では、歴史的分野の「(4)近世の日本」で、次のような内容の取扱いが示されています。

 

ア 「ヨーロッパ人来航の背景」については,新航路の開拓を中心に取り扱い,宗教改革についても触れること。「織田・豊臣による統一事業」については,検地・刀狩などの政策を取り扱うようにすること。

 

このように示されていることから、当然教科書にも「刀狩り」が取り上げられています。

したがって、秀吉の刀狩りによって民衆は武装解除されたということが従来「常識」となっていたが、近年の研究によりどうもそれが違うという話になりつつあります。


つまり、刀狩り以降も刀、脇差を武士以外の人々も所有していたようなのです。

いずれ、この「刀狩り」に関する記述も変更を迫られることになるかもしれません。

 

「教科書に書いてあることはすべて正しい」と思い込んできた日本人からすると、「なんだ、そうだったのか」となりそうです。このブログで取り上げてきた「教科書をカバーするだけの授業ではダメだ」にも通じる話かもしれません。

 

むしろ、これからは「「刀狩り」によって民衆の武器はすべて取り上げられたのか」をテーマにして調べるような授業のほうがはるかに面白い授業だと言えるでしょう。


実際、日本の歴史では、この「刀狩り」後、2回大がかりな「武器の回収」が行われています。明治維新後の1876年に、「帯刀禁止令」が公布されました。また、第二次大戦後の1945年の占領軍による「武器引き渡し指令」です。この占領軍による回収で、推定300万本の刀が回収され、廃棄されたとのことです。2006年度末の銃刀法による登録された刀が250万点だったので、戦前の日本にはおよそ550万本の刀が「丸腰の民衆」の手にあったことになります。(藤木久志「刀狩り」岩波新書2005による)


 このように、「刀狩り」をキーワードに歴史を見ていくと、歴史の授業の面白さが再発見できるのではないでしょうか。

 

 他教科でも、自分の関心事をテーマとして、探究学習をします。その手法は総合的な学習だけではなくて、様々な教科の学習で活かすことができます。基礎・基本に対して、「活用型」学習という言葉通りの授業を実践したいならば、このような学習を年間の指導計画の随所に取り入れて行えば、無理のない実践が可能になると思います。

2014年10月12日日曜日

いいモデルの大切さ



前回紹介した『理解するってどういうこと?』で、まだ頭が一杯なので、それに関連した内容です。

かねがね、日本の教育で一番欠けているものの一つに、いいモデルがあると思っています。

確実に言えることは、人は教えられて学ぶのではなくて、いいモデルに憧れて、それに近づくため、あるいは刺激されて主体的に学んでいくんだと思います。そして、そのいいモデルを提供できていないところに、いまの学校教育の(最大の?)問題があるのかも、と。

それに対して、この本が殊の外大切にしているのが、モデルであり、メンター(よき先人)の存在なのです。各章は、そのオンパレードと言っていいぐらいです。
ほとんど誰でも知っているのは、ヴァン・ゴッホ(第3章)、ミケランジェロやダ・ヴィンチ(第6章)、パブロ・ネルーダ(第7章)、マティスとピカソ(第8章)。
知る人ぞ知るは、エドワード・ホッパー(第4章)、レイノルズ・プライス(第5章)、エドウィージ・ダンティカ(第9章)、エドゥアルド・ガレアーノ(第7章)。
著者の身近な人としては、編集者兼大学教授(まえがき)、教育長やWWやRWの先駆者たち(第1章)、自分の父と夫(第6章)、二人の祖父母(第8章)、親友(第9章)などです。

このように、常に自分がモデルになる必要はありません。(でも、的確なモデルを選ぶ能力は大切!!)

そして、各章の最後には、読者(教師)一人ひとりがモデルになるためのアイディアをいろいろ紹介してくれています。なんと言っても、各章の最後で著者は「子どもたちや同僚たちの知的で好奇心あふれたリーダーとして、私たちは日々の生活をどんな形で送ることができるか?」を問うていますから。
ぜひ、ちょっとした努力をすることで(一週間に90分!の時間を割くことで)、子どもたちがワクワクするようなモデルになってください。教科書教材研究することよりも、はるかに重要なことです。


2014年10月5日日曜日

新刊『理解するってどういうこと?』の案内



 子どもたちが理解できる授業が求められているのですが、それはどれほど実現されているでしょうか? あるいは、子どもたちが主体的に学ぶ授業が求められているのですが、それはどれだけ実現されているでしょうか? 
 すでに30年前に教室での実態を知ってから、横行しているのは「教科書をカバーする授業」ばかりではないかと思います。(私が、50年前の小学校時代に体験したことと、見事なぐらいに同じなのに、びっくりもしました! 何も変わっていない。)同じことをやり続けることによって、理解できる子どもたちも数割(楽観的数字!)はいるのかもしれませんが・・・・

 この本は、その極めて基本的な教育現場のニーズに応えるために書かれた本です。

 出発点は、小学2年生のジャミカという女の子が、カンファランス中に著者に発した質問「理解する/わかるってどういうことよ?」がきっかけになっています。それが大切であることは繰り返し聞いていたが、誰もこれまで理解するってどういうことなのか説明してくれたことがないというのです。
 著者は、「理解のための7つの方法」を最初に提示した本『思考のモザイク』(未訳)★の共著者であったにもかかわらず、ジャミカの質問にうまく答えられなかったのです。逆に、答えられなかったことが一冊の本(それも、かなり大部で、中身の濃い本)につながりました。それは、一人の子の質問に答えることをはるかに超えた大きな課題をはらんでいたからです。
何を、どう教えたらいいのか、ということはもちろんのこと、子どもたちとどう接したり、話したらいいのか。どれだけ子どもたちに話し合いの時間を提供したらいいのか。子どもたちに理解のモデルを示す立場にいる教師は、どのような生活を送ったらいいのか(自分が示せない場合は、どこから探してくればいいのか)、同僚たちとの関わり方は、などなど。(これらについては、RW&WW便りのブログフェイスブックで紹介していきます。)

 以下は、出版社が作ってくれたチラシです。



で見られます。

一言でいうと、日本の教育をよくしたいという強い思いで、山元隆春さん(広島大学)と訳しました。

そのために、量的に500ページ以上/4千円ぐらいになってしまう本を、かなりコンパクトにして、448ページ/2200円+税に抑えました。★★

しかも、この値段が訳者に直接注文していただくと、さらに安くなります。なんと、2割引(税込み)1900円です。これだけの内容の教育書を、こんな料金で買えることは、これまでにも、これからもないと思います。
 ちなみに、送料は、1冊 350円、2冊 460円、3冊~9冊 一律500円、10冊以上 無料です。

 注文は、名前、住所、電話番号、冊数を書いて、toUnderstand.jp@gmail.comにお送りください。

 この本の中でも繰り返し紹介されている「理解のための7つの方法」(=①関連づける、②質問する、③イメージを描く、④推測する、⑤何が大切かを見極める、⑥解釈する、⑦修正しながら意味を捉える)を使ってぜひ読んでいただき、感想や実際にやってみようと思ったことなどをtoUnderstand.jp@gmail.comに教えてください。


★ とてもいい本なのですが、そのまま訳すよりは、具体的に教師や指導者ができることがたくさん紹介されていた方が、日本の読者のニーズにあうと思って「理解のための7つの方法」を中心に据えながら書いたのが『「読む力」はこうしてつける』(新評論)です。

★★ なぜ、こんな値段が実現したのか? 
最初は上下2冊の分冊で、それぞれ2千円ぐらいで、とも思いました。しかし、分けられる内容かという議論があり、1冊でいくことになりました。次は、値段の問題です。私自身、これまでに2200円以上の本は出したことがありません。それ以上の本は、本だと思っていないところがあります。自分で買いませんから。そこで、山元さんと決断しました。2年間で初版が売れなかったら、売れ残りは買い取るという条件にして、値段を下げてもらう、です。
ということで、ぜひ本の紹介・普及にご協力ください。よろしくお願いします。(自分が買う代わりに、図書館や友人・知人に購入してもらうことも含めて、です。)