2019年4月28日日曜日

センスオブワンダー

今月10日「ブラックホールの写真撮影に」というニュースが話題になりました。

100年以上前に発表されたアインシュタインの一般相対性理論からその存在が予言されていたのですが、それが実証されたということです。40年以上前に私が大学で相対論の講義を聞いていた頃は、一般相対性理論については少し懐疑的なところもありました。

それが実証されたということも驚きですが、今回の観測に当たって「VLBI(超長基線電波干渉計)のしくみというのも素晴らしいと思います。一つの電波望遠鏡では小さいので、その口径を大きくするために世界6か所にある電波望遠鏡を仮想的につないで、一つの巨大望遠鏡に仕立て上げて観測をしたわけです。言わば、地球を一つの仮想望遠鏡と見立てたわけで、この発想が素晴らしいのです。無いない尽くしの学校現場ではありますが、制約の中で工夫する、イノベーターの発想が求められると思います。

さきほど、アインシュタインの予言の話をしましたが、この一般相対性理論の中心である「アインシュタイン方程式」も実に数学的に美しいと思います。興味のある方は、ぜひ『世にも不思議で美しい「相対性理論」』(佐藤勝彦・実務教育出版2017)を手に取ってみてください。また、映画好きな方は、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』をご覧ください。主人公の家族愛もさることながら、「特異点」「事象の地平面」などが視覚的にわかりやすく描かれています。

理科の学習において、その原理やしくみがよく理解できないのに、問題の答えがわかればよいのだと言わんばかりに、公式や法則を丸暗記させて、指導するやり方が受験対策などで盛んに用いられていると思いますが、それでは理科における探究の面白さを台無しにするだけです。理科の醍醐味は探究の過程にあるのですから、肝心なところを省略して自然の美しさやシステムの精緻さなどを実感することは不可能です。この問題解決のプロセスを大切にすることは、理科に限らず多くの教科においても通じるものがあります。

昨年まで幼稚園教諭免許取得に必要な「保育方法」について教えていたのですが、幼稚園の先生方への指導資料集の中に、「カメがミミズを食べる」場面に子どもたちが遭遇するというものがありました。それを目撃した子どもたちからは命と命がぶつかり合う場面に遭遇して、生きることのすごさを実感している言葉が次々と出てくるのです。「生命の尊さ」はいくら言葉にしてもピンとこない4,5歳の子どもたちもこのような体験を通して、生物の生きる世界の迫力を肌で理解するわけです。「百聞は一見に如かず」とはまさにこのことです。理科という教科はこのような自然体験を通じて、自然のしくみの巧みさや美しさなどを学んでいく教科だと思います。ですから、時には戸外に出て、自然の中に身を置くという体験が欠かせないものだと思います。もし、環境的にそれが困難であれば、校外活動などを次善の策として講じるとよいと思います。

したがって、幼児期のこのような自然体験は人としての健全な成長のためにも、科学の探究の面白さを理解する上でも欠かせないものです。その大切な時期に早期教育と称して、英語やプログラミング教育に必要以上に力を入れることが果たしていいことなのか、じっくりと考える必要があると思います。

ここで、一つ思い出した本があります。『不思議の国のトムキンス』です。
この本は、銀行員のトムキンスが当時流行していたハリウッド映画よりも面白いものは何かと考えて、ある大学の物理学者の講演に出かけるというお話です。その講演の中で、トムキンスは夢を見るのですが、その中で光の収差やドップラー効果などが暗示的に解説され、「量子の部屋」の比喩的な解説などがとても愉快な物語となっています。

その本のタイトルにもなっている「不思議」さに子どもたちが出合い、自然の美しさや巧みさに歓声を上げるような「センスオブワンダー」のある理科の授業を作り出したいものです。具体的な方法については、後日改めてふれたいと思います。

昨日から10連休が始まりましたが、特に遠くに行く予定のない方は、近くにある博物館や科学館に行ってみてはどうでしょうか。新しい発見や不思議なものとの出会いがあるかも知れません。「知りたい」「わかりたい」という欲求は本来だれにも備わっているものだと思います。そのような欲求を満たす授業でありたいものです。

2019年4月21日日曜日

「「働く野性」を考える(1)ー モチベーションが生まれる組織になっているか」

「働く野性」という言葉がある。野村綜合研究所が『モチベーション企業の研究ー「働く野性」を引き出す組織デザイン』(2008,東洋経済新報社)という本で使った言葉である。本来、人間には、何らかの目的で働きたいというナマの欲求があるはずであるという仮説(あるいは希望)に基づいた、面白い言葉だ。営利を主たる目的としない学校においてこそ、求められることなのかもしれないと思った記憶がある。

この本は、2006-7年頃に実施された国際比較調査で日本人の働く意欲が非常に低くなっていたことから問題意識が生まれ、モチベーション・マネジメントの優れた事例を調べるために立ち上げられたプロジェクト研究から生まれたものらしい。個人のモチベーションを高めるテクニックや部下などの力を引き出すためのコーチングについてではなく、モチベーションを生み出すための組織デザインを研究することが主眼であるとしている。

人は、どのような環境で、働く野性を最も発揮したくなるのだろうか。従業員の目がいきいきと輝いている会社とはどのような考え方に基づいて運営されているのだろうか。学校という組織を考えていく上でも示唆を得られそうだと思った。

今回は、まず、働く野性を発揮できない環境とはどのようなものかを考えてみたい。本書があげる「モチベーション不全組織のパターン」とその主要因を紹介しよう(p.35、図表3より):

パターン1 存在価値や仕事の意味の喪失
 ・外形的な数値のみが評価基準として肥大化
 ・仕事の矜持に関する対話の減少

パターン2 自己成長に対する閉塞感や不安感
 ・同じリーダー、同じ役割、同じ仕事の継続
 ・ポストの先詰まり、新陳代謝の速度鈍化
 ・新しいことの学習や自己研鑽機会の不足
 ・事業戦略における挑戦の不足
 
パターン3 組織の保守化とイノベーション行動の阻害
 ・既存事業の恵まれた収益性
 ・保守的行動と挑戦的行動に対するリスク/リターン格差
 ・既存事業部門長の権限が大きく、組織横断的なリソース投入が困難
 ・マーケット志向ではなく内部競争志向の従業員意識
 ・内部統制、ネガティブチェックプロセスの発達
 
パターン4 自分に対する被害者意識と他人に対する攻撃性の拡大
 ・成果主義に基づく個人評価の行き過ぎ(手柄を自己誘導する傾向の増大、自己アピールと相互批判の拡大)

パターン5 ワーク・ライフバランスの崩壊
 ・慢性的な過重労働を前提としたビジネスモデル
 ・仕事に対する自己コントロール感の喪失       
 
学校と民間企業とでは、目的や使命において違いはあるが、ここで挙げられているモチベーション不全組織のパターンは、現在の学校という組織にもほぼ当てはまるのではないかと思うが、皆さんはどう思われただろうか。

本書では、組織において、モチベーション低下の原因はどこにあるのか、どのような要因が絡み合って悪循環が起きているのかなど、全体の連関図を的確に把握してはじめて、効果的な手立てを策定することができるはずであると述べている(p.37)。まずは、学校に置き換えて、モチベーション不全の要因があるかどうか、考えてみてはどうだろうか。

次回は、本書が提案するモチベーション再生のための戦略であるVOICEモデルを紹介し、学校組織において有効であるかどうか考えてみたい。

<資料>
野村綜合研究所(2008)『モチベーション企業の研究ー「働く野性」を引き出す組織デザイン』(東洋経済新報社)

2019年4月14日日曜日

一律同時の問題解決型算数授業はまぼろし!? 数学的予想を考える



私たち教師はだれもが、子ども1人ひとりが考えるペースに合わせて授業を大切にしたいと願っています。算数授業ではさかんに問題解決学習が求められていますが、そこでおこなわれている一斉授業では、「問題→計画→解決→話し合い→適用問題(問題解決型学習の流れの一例)」といったようにわかりやすく段階に応じてすすめられています。しかし、全員が同じ学習ペースで計画をする、解決するといったことがありえるのでしょうか。もしかして、それは算数授業のまぼろしかもしれません。

一般的な算数授業で問題を解くときには、その問題から「分かっていること(知っていること)」「求めること(知りたいこと)」を確認しますが、問題解決の見通しをもつための「計画」について出し合います。その際、見通しが立てられる子は、すでにその問題の解決方法が分かっている子ではないでしょうか。あとは計画に沿って、粛々と解決作業を進めるだけです。きっと、多くの子はその問題を解くために、どんな手立てや方法が使えるのか、「計画」そのものが思い浮かびません。そこを「教師からの優しさ」で全員が解決の見通しをもてるようにしてしまうことは、子どもがたくましく考え、問題解決する力を本当に育てているのでしょうか。

世の中にある問題の多くは、事前にすっきりと見通しをもって解決出来る問題はそうそうありません。そもそも、見通しを持てて解決の計画がすんなりたてられるのなら、すでに解決されてしまっています。大事なことは、解決を実行する技能面を育てるだけではなく、解き方が分からない際、その未知の問題に向かって、どういう計画で解いていこうとするのか、ひらめきを育てることです。

そのために、まずは小さく問題に取り組みはじめて、とけそうな自信やとけそうな感覚をもちながら、計画をつくりあげていく。それこそが、数学的に考えて解決していける問題解決の方法ではないでしょうか。そのためのヒントが『教科書では学べない数学的思考』にありました。


https://www.amazon.co.jp/dp/4794811179/

そのひらめきを育てるよりよい方法は「予想」を言葉にすることでした。私たちは、日々、様々なことを問題解決して生活しています。しかしそこでは、一体どうやって解決しているのか、思考はしているのですが、そこでの思いつきや予想をメモしたりノートにその考えを書き記すことをしていないので、振り返って点検することができません。そこで「予想」を添え書きとして、「ウーン」や「アハ!」★とメモすることや、「もしかしたらこうとけそうなのかな?」とその思いつきをメモすることからはじめます。予想をみつけるためには、まず「知っていること」や「知りたいこと」★★に焦点を当てながら、小さく問題に向かっていきます。

実際に解けそうなところから、これまで解いたことのあるような「類似問題を見つけてみる」「扱う数字を小さくしてみたり」「図や表にまとめてみるといったこと」などを試してみます。そこには小さな自信やできない不安といった繊細な心持ちに向き合っていきます。問題解決していくことは、冷徹な論理的な道筋だけをおっていくものではないことがわかってくるはずです。

その小さく試すことから★★★、解けそうな予感、つまり「予想」が生まれ、直感を信じて、少しずつ霧が晴れるように問題解決の見通しが立ち上がってくるのです。その瞬時のひらめきを逃がさないように即座に次の3つを意識してメモしていきます。

①思いつく予想をメモする。
②その予想を実際に確かめて自信をもつ。
③その予想を疑ってみる。

最初から見通しをもって解決できることは、限られた場面の問題(つまり教科書問題!)にしか過ぎません。数学的思考を使って、創造的な問題解決するためにも、1人ひとりがその問題の核心に近づけるよう、予想を書き出していく、その予想を検証していくことをすすめる、そこから予想を使って解けたときの喜び!そんな授業をすることができたら、きっと、解けないときにも算数数学を楽しむ子どもたちが育っていくと思いませんか。

予想を書き出しながら少しずつ解法へ近づけていく数学的思考を育てる算数授業。現在、算数ワークショップ「数学者の時間」として、「作家の時間」「読書家の時間」に続いて小学校で研究されています。すてきな本になるよう、出版を目指しています。ぜひお待ちください。


ここに紹介する問題を使って、浮かんでくる予想をメモする練習をしてみてください。最初から見通しが立つ事なんてほとんどないとわかるよい例でしょう(『教科書では学べない数学的思考』の152ページ)。



★悩んでいるときには「ウーン」を、アイディアがひらめいたり、解けたりした瞬間などには「アハ!」をノートにメモ書きしていきます。

★★「知っていること」や「知りたいこと」も、問題解決が進むにつれて、予想とともによりよいものへと変化し、解決の見通しが立つようになります。

★★★ PLC便りバックナンバーを参考にしてください。
数学的思考はたった二つ。それは、試す「特殊化」と確かめる「一般化」
http://projectbetterschool.blogspot.com/2019/03/blog-post_10.html

2019年4月7日日曜日

新刊案内『宿題をハックする ~ 学校外でも学びを促進する10の方法』


「宿題」という言葉を聞いて、あなたはどんなことを思い出しますか? 
楽しい思い出はありますか? それとも、やりたくもなく、意味も感じられない「苦役」をやらされた思い出でしょうか?

本書には、子どもが主体的に取り組みたくなるような、ワクワクし、そして継続的に自分の意志で(中には、なんと2年間も!)取り組み続けたくなるような宿題/家庭学習がたくさん紹介されています。

日本では、宿題を学校や教師は出すのが当たり前であり、子どもたち(や、場合によっては親も!)はやるのが当たり前、ということになっているので、宿題論議は存在しませんが、アメリカを含めて欧米では宿題論争が華々しく展開し続けています。それは宿題が大きな問題を抱えている証★です! その中で私たちがもっともおすすめするものを選んで訳すことにしたのが本書です。

著者の一人は、「小学校に通う子どもがテスト対策のためという理由だけで、意味があるとは思えない宿題でカバンをいっぱいにして帰宅するということほど愚かなことはない」と言い切っています。
 さらに著者たちは、「宿題(家庭学習)は、教育においてもっとも誤用されているツールです。あまりにもたくさんの矛盾する考えが、宿題という枠組みのなかに組み込まれています(中略)生活と直接関係しない宿題を出したときは、生徒の時間の価値を貶めているだけではなく、学ぶことの価値も軽んじていることになります」と指摘しています。

 本書は、教師、保護者、そして生徒に対して、「宿題はもういらない」というメッセージを伝えるために書かれたのではありません。宿題に対する伝統的な見方を改め、私たちが生徒だったときに経験したものよりもはるかにエキサイティングで、意味のある宿題/家庭学習の新たな見方とやり方を可能にするために書かれたものです。

◆ 割引情報
1冊(書店およびネット価格)2592円のところ、
 PLC便り割引だと     1冊=2200円(送料・税込み)です。
5冊以上の注文は     1冊=1900円(送料・税込み)です。

ご希望の方は、①冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 
pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。

★ 日本では、問題があるのにそれに気づけない状態が続いているという証となっている? こちらの方が問題ははるかに深刻!!