2015年3月29日日曜日

年度末にあたって


 今日は3月29日です。あと2日でわが国の学校教育では年度の終わりを迎えることになります。学校に勤務されている方にとって、平成26年度はどのような1年でしたでしょうか。

 このPLCだよりのなかで、すでに何回か掲載されている文章を再度掲載したいと思います。

 それは、「授業に真摯に臨む教師」「蝶であり続けたい教師」「情熱をもって教え続けたい教師」への10の提案です。

 

1.常に学び続ける ~ これしかありません! 学び切ることなどあり得 
  ないので

2.あなたが生徒の最初の先生ではない ~ 責任を背負い込まない。同僚
  や親と協力する

3.同じ学校は存在しない ~ 学校は一つひとつみな違う

4.他の授業を見せてもらう。自分の授業を見てもらう

5.ネットワークを築く ~ バラバラではどうにもなりません! サポー
  トし合うこと/刺激し合うことが鍵です。個人レベルとプロとしての両 
  方で

6.親との関係を築く

7.規則よりも物事の進め方(ルーチン)に重きを置く ~ 管理するので
  はなく、生徒たちが主体的に動けるようにする

8.生徒に敬意を持って接する、パートナーとして接する、質の高さを求め
  る

9.成績に引っ張られず、評価を学びに生かす ~ これについては近々  
  扱いたいと思っています

10.生徒たちがイキイキと学んでいることが何よりも大切 ~ そのため
  にも教師こそがイキイキと学びのモデルを示し続けていることが不可
  欠!

参考: The Passionate Teacher, Robert Fried, Beacon Press, p. 302

(2012429日「PLC便り」に掲載) http://projectbetterschool.blogspot.jp/2012/04/blog-post_29.html

 
 これらは、『校長先生という仕事』(平凡社新書)と『効果10倍の学びの技法~シンプルな方法で学校が変わる』(PHP新書)(どちらも吉田新一郎著)においても、説明されている項目ばかりです。

この10か条は、どれもいろいろな立場で考えることのできる項目です。

 たとえば、「1 常に学び続ける」ことは、教師であればだれもが続けたいことであり、校長などの管理職であれば、自分が学び続けるばかりでなく、職員がどうすればよく学べるようになるか、組織的な面からも考えることが求められます。
   
 また、「3 同じ学校は存在しない」を実現するには、地域や子ども、保護者の実態を知らないとできないことですし、それぞれの立場でかかわり方も変わってくるはずです。よく「横並び」という言葉が使われ、あまり目立たないようにすることがよいことだと言わんばかりの、当たり障りのない経営を信条とする校長をたくさん見聞してきましたが、少なくとも校長には自校の実態を踏まえて、自分なりのカラーを出してほしいものです。そうでなければ、仕事をやっていても何の面白みもないと思うのは、私だけでしょうか。

   ぜひ、新年度を迎えるにあたり、この10か条を自分の仕事の中で見直してみることは大切なことだと思います。

 

 

 

 

2015年3月24日火曜日

3/22の訂正と補足


3/22付の「PLCだより」の冒頭に次のような文章がありました。
   

「ここ数年、アメリカの理科教育を調べているなかで、気になるキーワードが、「ワークショップ型」授業と「科学者のように学ぶ」授業です。」

 
このなかに、誤解を招く部分がありましたので、訂正と補足説明をさせていただきます。


それは、ここで私が「ワークショップ型」授業として言いたかったのは、RW&WW(リーディングワークショップやライティングワークショップ)のような形式の授業であり、参加者や学習者の活動ありきで、教師がファシリテーターとなる、いわゆる従来型のワークショップではないということです。

 
この両者の違いはその前週の「PLCだより」でも取り上げられていますので、必要な方は再度ご確認いただければと思います。

そこで、上記の文章を次のように訂正させていただきます。

 
「ここ数年、アメリカの理科教育を調べているなかで、気になるキーワードが、「科学者のように学ぶ」授業です。」

 
 以上、訂正と補足説明でした。

 

 

 

2015年3月22日日曜日

アメリカの理科教育


先月末の一週間、アメリカのボストンで理科教育に関する実態調査を行ってきました。

ここ数年、アメリカの理科教育を調べているなかで、気になるキーワードが「科学者のように学ぶ」授業です。
   
 これは、理科を教室内で完結させる授業と言うよりは、現実社会とのかかわりや、より本物のサイエンスを体験させることに重点が置いたものと理解することができます。わが国でも、現行の学習指導要領のなかで理科については、「理科を学ぶことの意義や有用性を実感する機会をもたせ,科学への関心を高める観点から,実社会・実生活との関連を重視する内容を充実する方向で改善を図る。」と改訂の基本方針の中で示されているわけですが、目指す方向性は同じでも現実に形になっているものはかなり違います。あちらでは科学・技術・社会の関係が様々な視点から検討されています。

 
今回の調査訪問において、「サイエンス・トーク」という言葉に出会うことが何回かありました。「サイエンス・トーク」の手法はいくつかあるようですが、基本的には次のようなものです。

「科学者がデータを共有したり、結論について話し合ったりするように、子どもたちが自分の経験や集めたデータについて語り、思考を深め、結論を導き出すこと」(The Essentials of Science and LiteracyKaren Worth et al. 2009 Heinemann )
 
言い換えれば、一人ではできないような認知的な発展をクラスの仲間や先生と語り合うことになって行うこと、とまとめることができるでしょう。

通常は教室で輪になって座り(床に座るか、又は椅子に座って円を作る)、その授業で行った実験・観察などに関して、語り合うという形式です。そこには、いくつかの特徴があります。

 
・子どもたちはお互いの顔が見られるように輪になって座る。

・その場には、だれもが理解している明確な規範がある。

・教師主導の質問や意見交換よりも、子どもたち同士の自然な会話の流れが 
 ある。

・多くの子どもが参加し、話し合いは特定の子や先生によって支配されてい
 ない。

・話し合いは焦点化されており、子どもたちは特定の話題について時間をか
 けたり、他の考え方との関連性について考えたりする。

 
    特に、輪になって座るということが、話し合いの質を高めるうえで有効とのことです。日本でも授業な内容や形式によって、座席の形態を変えることはやられているが、アメリカの場合はもっと自由です。

みんなの顔が見えて、話を聞けるということが、全員がその場に参加していることを実感させてくれます。


今回の訪問で公立学校の7年生(中学1)の理科授業では、授業の終末で、子どもたちが同じテーブルに向かい合って座っている仲間と、その日のテーマであるDNAモデルについて語り合う場面がありました。これもまたサイエンス・トークの一つの形態であったようです。

DNAらせんモデルは日本では高校の学習内容ですが、州ごとの裁量が大きいアメリカではカリキュラムは日本よりも幅があると言えます。この市では、独自のカリキュラムコーディネータを配置して、州からの要請を満たしつつ、市独自のカリキュラムを編成していました。2月に出来上がったばかりのあるプロジェクトのカリキュラムを見せてくれましたが、わが国でも近年やっと知られるようになってきた「逆向き設計」の考え方に基づいて、Big IdeaEssential  Questionなどを盛り込んだ魅力あるカリキュラムに仕上がっていました。今後、これを公開して、現場の先生方の意見を取り入れながら修正していくとのことでした。

 このあたりも参考にしたいところです。

 

2015年3月15日日曜日

エンゲイジメントないしインゲイジメント



原語はengagementです。発音すると、上のようになります(厳密に言うと、最初のeはエとイの間だと思います)。
いま日本のビジネス界でも、結構使われ始めている言葉の一つです。
仕事に「活力、熱意、夢中、没頭」して取り組むことが求められているからです。

一般的には、結婚を約束する「婚約」として知られていますが、ここでのニュアンスは大分違います。

欧米の教育書を見ていても、この言葉ほど多く見かけるものはありません。
学習にも、「活力、熱意、夢中、没頭」が求められている、といえば通じるでしょうか?
(しかし、学習する時のengagementと仕事上でのengagementがつながっていることは確かです。★)

学習の場合は、ニュアンスとして、「夢中で取り組む 」が一番ピンと来ると思います。
(興味関心を)引く・魅了する」でもいいかもしれません。★★
そういう状況を、教える側が創り出すことが大切なのですが、教科書をカバーする授業では、それはなかなか困難です。教える内容がすでにあるので、興味関心をもつのは、生徒たちに委ねられてしまって、教師側の努力はあまり期待できなくなっています。

この度合いが、学びの質と量に直接影響し、さらにはその子の学校での体験全体を大きく左右するからです。決定づけます。(教科や学校の好き嫌いを、です。)

生徒たちが「夢中で取り組む 」「(興味関心を)引く・魅了する」状況を教える側がつくれたら、『てん』に登場したワシテの先生がしたようなことが起きます。
それは、一度夢中で取り組んだ者が、次の人たちにバトンを渡していくことができます。

ワシテは、自分の創造力を爆発させて点を描きまくるまでは、確実に絵を描くのは嫌いでした。でも、展覧会でたくさんの点を展示して評価されることで、おそらく絵を描くことは好きになりました。そして、絵が苦手という別な子へのアプローチの仕方も学んだのです。

そういう学びは、絵本の中だから可能なのでしょうか?

皆さんの授業では、どのくらいつくれていますか?

管理職なら、それを教職員にどれくらいつくれていますか?

どういう方法を用いましたか? ぜひ教えてください。


★ 単に、学習上のengagementと仕事上でのengagementがつながっているだけではありません。社会とのengagementともつながっていますから、教室の中で確実に生徒たちが「夢中で取り組む 」「(興味関心を)引く・魅了する」状況をつくることは、とてつもなく大事です。それこそが、教師(や管理職)の仕事と言えるぐらいに。それと比べると、教科書をカバーすることは二義的、三義的ものです。

★★ この言葉/概念、すでに日本語でもありそうな気がします。私が思い出せない/気がつけないだけで。いい言葉をご存知の方は、教えてください。
  ある意味で、「フローの状態」に近いとも言えます。

2015年3月8日日曜日

ドラッカーの「自己の強みを生かす」



経営の神様と言われたピーター・ドラッカーの「自己探求の時代」を読みました。
『ハーバード・ビジネス・レビューBEST 10論文』(ダイヤモンド社)の第3章(60~83ページ)に掲載されています。

何よりも、「自己の強みは何か」を明らかにすることに焦点を絞っています。

強みを知るためには、フィードバック分析をするのがいいそうです。
それは、「なすべきことを決めたり、はじめたりしたならば、具体的に書き留めておくのである。そして9か月後、1年後に、その期待と実際の結果を照らし合わせなければならない。私自身、これを50年続けており、そのたびに驚いている」という単純な方法です。 ~ イメージつきますか??

そして、この論文のハイライトは、「強みを生かすために何をなすべきか」をまとめた部分なので、そのままコピーさせてもらって掲載します。



ほとんど、言い切れていると思われませんか??
(ここまでで消費したページ数は、わずか4ページです。)

これ以降も、それなりに大切なことが書かれています。

64 自分の仕事の仕方を自覚する
65 自分は読んで理解する人間か、聞いて理解する人間か?
67 自分は書くことによって学ぶタイプもいる!
68 理解の仕方と学び方こそ、仕事の仕方に関して最初に考えるべき最も重要な問題である。 ~ この辺について、さらに詳しくは『効果10倍の教える技術』(特に、54~78ページ)を参照してください。
69 自己をマネジメントするためには、自己にとって価値あるものが何であるかについても知らなければならない。
73 つまるところ、優先するもの、優先すべきものとは価値観である。
   自己の強み、自己の仕事の仕方、自己の価値観がわかると、得るべき所も明らかとなる。
74 もはや、決まったことや言われたことをする時代に戻るわけにはいかない。特に知識労働者たる者は、なすべき貢献は何でなければならないのか、という新しい問題を自問自答しなければならない。なすべき貢献は何であるかという問いに答えを出すには、3つの要素を考える必要がある。
   第一は、状況が何を求めているのかである。
   第二は、自己の強み、仕事の仕方、価値観からして、いかにして最大の貢献をなしうるかである。
   第三は、世のなかを変えるためには、いかなる成果を具体的に上げるべきかである。
75 考えるべき問題は、1年半のうちに自分が変えられるものは何であり、それをいかにして行うかである。第一に、目標は、難しいものにしなければならない。同時に、実現可能でなければならない。第二に、意味のあるものでなければならない。世のなかを変えるものでなければならない。第三に、目に見えるものであって、できるだけ数字で表わせるものであることが望ましい。そこから具体的な行動が明らかにとなる。 ~ ここに書いてあることは、『校長先生という仕事』の154ページで紹介しているSMARTな目標と同じ!!

76 互いの関係に責任を負う
   他の人々を受容する
77 コミュニケーションについて責任を負う

2015年3月1日日曜日

フェイスブック1周年記念号!!

こちらのブログを、フェイスブックにもアップし始めてからちょうど1年が経ちます。

兵庫県の高校の教頭先生から、「本校はアクティブ・ラーニングに着目しています。学力向上に欠かせないと考えた結果です。4月から本格的に始動するための準備中です」というメールを2週間ほど前にもらっていました。
その「入れ込み」ようは、相当のものでした!
そのために、7年間の準備期間を経て、普及のための組織をつくってしまい、本を何冊も訳し、海外から講師を招いてワークショップも数多く実施していましたから。

多数の教育委員会や教育センターからも呼ばれて、ワークショップで研修もさせてもらいました。なにしろ「参加・体験型」ですから、大好評でした。
しかし、数年続けてやっていると気づいてしまいました。
同じことの繰り返しだ、と。
また、勘の鋭い指導主事が、「一種の洗脳ですね」と私に言いました。
「そういう言い方もあり得るな」と納得しました。
なんといっても、こちらはすでに最初から最後までシナリオを描いて、参加者にはそのレールの上をつつがなくこなしてもらっているだけですから。脱線をすることはほとんどありません。ある意味では、講師が講義しているのと、さほど変わりないとさえ言えます。
単に、講師が話す変わりに、そのプロセスに参加者を巻き込んで、講師が言うべきことを参加者に楽しく言わせているだけ、とも言えるわけです。
そして、これをいつまでもやっていても、「主体的かつ自立した学び手/考え手」を育てることにはつながらないな~、ということでした。

そこで、1995年から「主体的かつ自立的な学び手/考え手」を育てられる方法はないのかと探し始めて、見つけたものの一つがリーディングとライティング・ワークショップ(RW&WW)でした。★★★
同じ、「ワークショップ」という言葉を使っていますが、上記のファシリテーション型(アクティビティ型、参加・体験型)のワークショップとは大分違います。まったく違う、と言った方がいいかもしれません。
最大の違いが、教師によるカンファランス/コーチングのありなしなわけです。

私も、体験をすることのインパクトは、とても大きいと思っていました(思っています)。そして、体験のサイクルを回すことも。
たとえば、子どもたちが「じゃがいもと友だちになろう」(そのバリエーションの「にんにくと友だちになろう」)をやって、教室でのいじめがしばらくは影を潜めることはあるのですが、しょせんはイベント的(一時的)なのです。
教師が、アクティビティ(活動)を供給し続けなければ、その効果も維持されない構造があるわけです。子どもたちは主体性をもてないからです。
研修で、先生たちに体験してもらう時も同じです。その時は、すごいインパクトなのですが、それが長く続くことは期待できません。次々にアクティビティを(それも新しいアクティビティを)提供することでしか、関心も維持できないのです。しかし、通常の教員研修の枠の中では、それは無理です。ブツギリになっていますから。研修をプロセスと捉えていませんから。

それに対して、カンファランス/コーチングを中心に据えているRW&WWは、何よりも継続性が前提であり、一人ひとりの生徒と接するたびに違うので、飽きることがないというか、常に学びと発見が持続されます。

 
★ この3つについては、すでに『効果10倍の教える技術』2006年の58ページで紹介しました。(この出典は、その後に訳された『理解をもたらすカリキュラム設計~「逆向き設計」の理論と方法』2012年です。)

★★ これは、今流に言えば、「アクティブ・ラーニング」や「インタラクティブ・ティーチング」と同じです。これが、文科省の名の下に普及されるのかと思うと嬉しくもありますが、同時に20~30年前に一生懸命普及していて、その限界にも気づいてしまった者としては複雑です。すでに、結果が見えてしまっていますから。
  以下の表が、その違いをわかりやすく示しています。


★★★ リーディング・ワークショップとライティング・ワークショップ(本当の読み手や書き手になったり、本当に読んだり、書いたりするアプローチ)関連のおすすめ図書は、
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1KXuWtBc4kl6jRr2KGwnqPAH1vSryYkM7qNXd0ArKpYU/edit#gid=1042705275 で見られます。興味のもてそうな本からぜひ読んでみてください。