2014年8月31日日曜日

本の紹介


今回は1冊の本を紹介したいと思います。

「言語活動ポートフォリオ実践案内」(小田勝己・アカデメイア・プレス発行)です。

 

著者の小田勝己氏は外交官の経験を有しますが、その外交官時代にアメリカにあるリベラルアーツのカレッジに留学した経験が氏の哲学的な背景にあるようです。

 

本書の第1章は「深い学びの経験は人の心を蘇らせる」というタイトルであり、まず「深い学び」とは何かを問います。その深い学びを学校現場で実践した例として、デボラ・マイヤーを取り上げます。

 

「この人は、本質的な問いを中心に置いて、つまづきやのめり込みをあえて認める度量のある学びを、大学進学者がほとんどいない居住環境が劣悪な地域の高校の生徒たちに与えた。生徒一人ひとりは異なった言語素材を読み、考え、データを探し集め、読み込み、考え、文章化する。ほとんどの生徒が、深い学びのおもしろさに人生で初めて気がつき、蘇る。」(同書p12)

 

タイトルにある「心を蘇らせる」とは、「本当に学ぶ面白さに気づき、学ぶことにのめり込む」ことを「蘇る」という言葉で表現したもののようです。教科書の知識を注入するような授業ばかりで、「学ぶことの面白さ」に気づけない子どもが今でもたくさんいるわけですから、「本質的な問い」を追究していくなかで、学ぶことにのめり込んでいくような体験ができると思います。そう考えると、デボラ・マイヤーの実践は現代の我が国の教育にもつながる貴重な実践だと言えるでしょう。

(マイヤーの実践に関しては、かつて東京大学にいた佐藤学氏(現在は学習院大学)がその著書のなかで紹介していました)

 

この「本質的な問い」の作成には慣れるまでは時間がかかるものです。

「この種の問いは、教科のなかの重要テーマをがっちりとらえておかなくてはならない。そうでないと、ただの難問に終わってしまう。深い学びと難問は、まったく別である。」

(同書p.13)

 

この本は様々な教科で「本質的な問い」を追究し、その学びのプロセスをポートフォリオとして蓄積していくためのよい手引きになっています。

 

このエッセンシャル・クエスチョン(EQ)は、次期学習指導要領の改訂を見据えて、現在文部科学省の調査研究事業でも話題になっているテーマです。これから注目していっても、決して的外れではない研究テーマだと思います。

2014年8月24日日曜日

反転授業とは


最近、わが国でも注目され始めている教育手法の一つに「反転授業」があります。


これは、簡単に言えば、ビデオ授業を宿題として生徒は自宅で学習し、その後、授業で宿題の内容についてわからなかった点を確認したり、課題解決学習に取り組んだりするやり方が多いようです。従来の授業は「授業→宿題」であったのに対して、このやり方は「宿題→授業」と反対の順番になるので、反転授業と呼ばれるようになったとのことです。

 

最近、この授業にアメリカでも初期のところに取り組み始めたバーグマンとサムズの著書「Flip your classroom」の邦訳「反転授業」(上原裕美子 訳)が出版されました。

 

 この邦訳の表紙には、「基本を宿題で学んでから、授業で応用力を身につける」と書かれています。「基本を宿題で学ぶ」のは、教師が一方的に話すビデオ授業で学ぶことです。よいことばかりのようですが、課題もありそうです。

 

まず、課題の一つは、ビデオ授業を作るのに手間がかかるということです。このやり方が広まれば、地区の教師たちが共同で制作するとか、営利企業に任せるとか、いくつかの方策は考えられますが、ここは一つの問題点です。

次に、ビデオ授業のことはさておいても、問題は次の対面授業です。

基礎的なことはビデオで学んだとして、その補充や応用・発展をやることになるわけで、ここで、従来の一方通行の授業をやっていたのでは、その目的は達成できません。ワークショップ型授業のように子ども自身が問題を設定して、追究していくようなスタイルでなければ、応用・発展のいわゆる活用型授業の良さを活かすことはできないでしょう。つまり、このブログでも何回となく取り上げている教師の教え方が変わらなければ、この反転授業もうまくいかないでしょう。もちろん、繰り返しのドリル型学習という意味で使うことで、学力調査のようなペーパーテスト対策の授業としては効果があるのかもしれません。アメリカでこのやり方を利用している教師の中にも、もちろん統一テストの点数を上げる目的でやっている人も多いのではないかと思います。

 

反転授業のよさについて、この本の61ページにこんな記述があります。

「私たち教員は、学校で勉強を教えるだけではなく、生徒の背中を押したり、励ましたり、彼らの声に耳を傾けたり、進む方向を示したりする役割を担う。こうしたふれあいは人間関係という形を作って生じる。優れた教師は生徒と人間として絆を結ぶものではないだろうか。・・・(中略)・・・・・反転授業を始める前からそうした人間関係の構築に努めてきたが、反転授業にしたことで、さらに良好な関係を作れるようになった。」

その理由として、「教師と生徒のインタラクションが増えるからだ」と述べられています。

授業の中では、少なくとも一方通行のスタイルを止めたからですね。

しかし、インタラクションを増やすのは、何もビデオ授業を取り入れた反転スタイルでなくてもできることです。リーディングワークショップにしろ、ライティングワークショップ、サイエンスワークショップなどの授業でいくらでも実現できることです。

 

たしかに、ビデオ授業をタブレットPCで見たりすることで、ICT授業の先端を行くことに意味があるのかもしれませんが、要は子どもたちに「深く考えさせる授業」をどう作り上げていくが目標であり、それが本当に実現できるかどうかが最大の課題です。

 

ICTを活用することで、見た目の良さに気を取られて、本質を見失ってはいけないと思います。

 

2014年8月17日日曜日

マルチ能力

 マルチ能力に関して、あと2か月ぐらいで出版される『理解するってどういうこと?』(エリン・キーン著、新曜社)の中で、私は以下のように解説しました。

 訳者の一人の吉田は、「知的な得意な部分」と言われても、何も浮かびません。しかし、マルチ能力なら「身体運動能力」と「空間認識能力」と答えられます。それもあって、『マルチ能力で育む子どもの生きる力』というタイトルの本を訳してしまったぐらいです。「知的」ないし「能力」の捉え方を広げることで、救われる子どもたち(大人も)がたくさんいると思ったからです。ちなみに、マルチ能力として捉えられているのは、上記の2つ以外に、「論理的数学的能力」「言語能力」「音感能力」「自己観察管理能力」「人間関係形成能力」「自然との共生能力」の8つが含まれています。普通の人は、これらの中で1~3つは得意なものがあり、1~3つはかなりダメなものがあり、残りは平均という感じです。これなら、救われると思いませんか? ちなみに、マルチ能力と教科はまったく対応していないことを付け加えておきます。た とえば、吉田は空間認識能力があるので、地理や歴史は得意なのですが、場所に関連づけてくれさえすれば、算数・数学、理科、国語、英語等でも得意になれた 可能性はあるわけですが、残念ながらそういう教え方はしてくれませんでした。また、それぞれの能力は固定化されたものではなく、変化もします。たとえば、 人生の半分は読む・書くがまったくダメだった私ですが、いまはそれなりに読み・書きができ、公開ブログを3つ、非公開ブログも3つ書いていますから。
以上、引用(第8章の訳注[2])終わり。

その『マルチ能力』の本の中には、
  たとえば料理をつくるとき、私たちがどんな能力を使っているかを例にとってみましょう。レセピを読んだり(言語)、人数に合わせて量を配分したり(論理的 ―数学的)、家族全員を満足させるための献立を考えたり(人間関係形成)、自分自身の食欲をコントロールしたり(自己観察・管理)します。さらには材料へ のこだわり(自然との共生)や、ある程度の包丁さばきや道具を扱う器用さ(身体―運動)が求められるわけです。(『マルチ能力が育む子どもの生きる力』44ページ)

と家庭科の中の料理実習でもふんだんにマルチ能力が使われています。

このことに興味を持った知人★が、
  お料理をするときに複合的に使う能力が載っていましたよね。あれには空間と音感が乗っていなかったのですが、おいしく見えるように彩りを考えたり、盛り付けを考えたりするのが空間能力として加えられるのではないかと思って紹介したら、お肉などを焼いている時にジュージューと音の強弱で焼け具体を調整したり、食材をきる時にトントンとリズムに乗って切るのが音感で付け加えられるのではないかと、研修会の参加者が発見してくれました。(2003年4月16日 のメール)

ということで、料理をするのにも8つのマルチ能力をすべて使っています。
プロの料理家は、これらすべてを使いこなしていると思いますが、私などもほとんどを??

こういうふうに能力を定義してくれたら、ありがたいと思いませんか?
元気になれるというか。 自分が輝けるチャンスが何倍にも増えるわけですから。
通常は残念ながら「知的」とも「能力」とも捉えられていないものばかりです。
しかし、生きていくには欠かせない「能力」ばかりです!!

ちなみに、いまの学校教育が重視している「能力」は何だと思われますか?

そして、文科省や教育委員会が学力テストで測ろうとしている「学力」には、何は含まれていますか?


★ 6月8日の情報提供をしてくれた知人と同じ。
http://projectbetterschool.blogspot.jp/2014/06/blog-post_8.html

2014年8月10日日曜日

カール・ロジャーズの 効果的な教え方の紹介



 
 これまで私が集めた中で一番いいと思っているのは、カール・ロジャーズが亡くなってから出版されたFreedom to Learn(邦訳:『学習する自由』)の第3版に収録されていた表です。

  教師中心の教え方から生徒(学習者)中心の教え方まで、いろいろあります。目的や対象に応じて使いこなすことが求められます。

 右側のほとんどは、アクティビティですから、数回やればできるようになりますが、左側の多くと右側の仮説実験授業と一番下のライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップ+それらの理科、社会、算数・数学等への応用は、身につくまでは1~3年はかかるでしょう。
 もちろん、すべてを知っていて、やれるようになれないとプロの教師とは言えない、ということではありません。少なくとも、半分とか3分の1がやれればいいのではないでしょうか? 1~3年ずつ新しいのを増やしていけばいいのですから、10~20年ではほとんど身につけられます。常に学び続ける教師でありたいです。その方が楽しいですから。

 ちなみに、この本はオススメです。私は、1995年に英語で読んだので、日本語の訳は保障できませんが。いまでも、私のトップ10の教育書に入る一冊です。

2014年8月3日日曜日

自分が「プロの教師」であるかを確かめる10の質問



自分がプロの教師=生徒のニーズを満たす形で教えられる教師=成長マインドの教師であることを確かめるための10の質問

1.あらゆる方法を使って、子どもたちがベストの学びが得られるようにしたいか?
2.単なる習慣ではなく、子どもたちにとって役立つこと/価値のあることをしたいか?
3.子どもたちを積極的に知って、個々のニーズにマッチする形で指導したいか?
4.多様な効果的な教え方★を自分の持ち駒として増やし続けたいか?
5.授業は自分が教えるのを中心に据えるのか、それとも子どもたちが学ぶのを中心にしたいか?
6.教えることに決定的な影響をもっている、学びや脳の機能についての研究成果、子どもの発達、そして教科の内容等について最新の情報を把握し続けたいか?
7.自分の授業を絶えず評価・修正・改善し続けたいか?
8.他者の評価や提案に対してオープンであり続けたいか?
9.子どもたちに「自立的な学び手」になることを奨励し続け、そのための具体的な方法を提供したいか?
10.自分が知っていることと実際にしていることのギャップを埋める努力をし続けたいか?
(出典: Differentiation   by Wormeliの8ページ)

 これらの質問は、まちがいなく教師が学び続ける鍵です! ~ これらの質問を見ても、日本の教師がよくいう「生徒の思いをくみ取る」「生徒理解を図る」「親のような愛情を注ぐ」「成長を見守る」とは別次元な気がします!!★★


★ 多様な効果的な教え方については、来週紹介します。

★★ 別次元といえば、指導案作成、研究授業、そして校内研究・研修も、です。
   これ、学校における教師の力量形成の「三種の神器」!?
   ある意味で、学校がそれらのみを教師の力量アップの方法として捉えていることへの違和感が、私にこのブログを書かせています。
   これら3つに時間を割いている限りは、教師の授業力向上は夢であり続けます。
   そもそも、これらをしてご自分の授業がよくなった体験をお持ちの方がいたら、ぜひその体験をお聞かせください。お願いします。 可能なら、自分以外の人に広がった体験もです。がんばって、指導案を作成したり、研究授業をして、それなりに得るものがあった人はいると思いますが、それがどれだけ回りの先生に伝播しているでしょうか?

★★★ そういえば、「教材研究」というのもありました。これらは、上記の「三種の神器」と不可分の関係にあります。イコールといってもいいぐらいに。これが、優先される限りは、授業はよくならないと思います。目の前の子どもたちそっちのけですから。