2016年8月28日日曜日

アメリカの理科教育から


先月下旬、私はアメリカ・コロラド州デンバーでNSTAという理科教師の団体のカンファレンスに、参加してきました。全米のみならず、世界中から参加者が集まってきましたが、当日の暑さもさることながら、参加者の熱気もそれを上回るものでした。
     
今回のテーマは「STEM(Science Technology Engineering Mathematics)でしたので、科学技術につながっていくような「ものづくり」のイメージが強いように思いました。身近にある素材を利用して、橋の強度を教えるような教材や顕微鏡を使用しての観察に適した教材の提示などがあり、その場で気にいったものは購入できるようになっていました。日本と異なり、教材開発なども地元の企業がスポンサーになって、共同開発したものが結構ありました。 

 また、このNSTAという団体は本も出版していますので、当日の会場でもおすすめ本を販売していました。その中の1冊を紹介したいと思います。

Differentiated Instructional Strategies for Science,Grade K-8Gayle H.Gregory,Corwin Pressです。Differentiated Instructional Strategiesは、「子供一人ひとりをいかす」指導法です。この本の序章にも書いてあるように、このやり方を使えば、「アクティブで意味のある学びを通して、子供の関心や意欲を高めることができる」のです。

 1,2章には「一人ひとりをいかす」指導法のためのプランニングガイドが書かれています。

『効果10倍の教える技術』(吉田新一郎)にも紹介されていたコルブの「学びのモデル」やマカーシーの4MATシステムなども解説されています。このあたりのことは世界の常識なのですね。(日本人の教師だけが知らないようです) 

 面白いと思ったのは、子供の実態を知って、その子に合った学び方を用意するために、ある単元に入る前に「理科学習にかんするアンケート調査」のサンプルが紹介されていたことです。少し手直しすればどのクラスでも使えるのではないでしょうか。

 この調査でそれぞれの子どもの興味・関心を把握して、それに応じた教材、指導方略を用意することができます。教室の一角を○○コーナーとして、その内容に関心のある子どもはそこで自分の計画にしたがって学習することができるわけです。

「学びの原則」については、たびたびこのブログで紹介されていますが、その原則の一つに「選択できる」という項目があります。クラス全員が同じ教材を学習するのではなく、子供自身が課題を選べるというのがいいことです。これなら「やる気」が出ます。

 そのような仕掛けが教室の中にいくつもある。これが「一人ひとりの子供をいかす」教室です。それこそが、「アクティブ・ラーニング」だと思います。

今あちこちで語られている「アクティブ・ラーニング」はそのごく一部だけを取り上げて、「これがアクティブ・ラーニングです」と言っている例が多いようです。
     

「理科に関する興味・関心調査」を最後に紹介しておきます。

Differentiated Instructional Strategies for Science,Grade K-8Gayle H.Gregory,Corwin Press,p.44より 



理科に関する興味・関心調査
氏名              日付           
1. 理科という科目に対する興味・関心(○をつけて) 
 低い  まあまあ  高い

2. 理科で一番好きなことは                           

  理科であまり好きでないことは                        

3. 理科の分野で好きな領域は? (○をつけて)

 生命科学     地球/宇宙科学    物理科学

4. 好きな学び方はどれ? (□にチェックを入れて)

□ 本や論文を読むこと

□ ゲームやパズル

□ 問題解決

□ パターンを探すこと

□ ロールプレイング

□ 実験

□ 対象物やできごとのデータを集めること

□ ビデオやスライドショーやパワーポイントのプレゼンを見ること

□ 体を動かす活動

□ 戸外や地域を調査すること

□ 自然を探検すること

□ モデルをつくるようなプロジェクト

□ 動物の世話をしたり、調べること

□ 友だちと一緒に活動すること

□ 一人で活動すること

□ 拡大器や顕微鏡を利用すること

□ その他                                  

 

理科の中で一番学びたいことは                            

2016年8月21日日曜日

教師に「コーチ」という存在がいたら


  欧米では、自校の教師に教え方の指導(=授業改善)をすることは校長の役割の一つに含まれています。(詳しくは、『校長先生という仕事』のパート3、特に、187~210ページを参照ください。日本も建前的には、そのようになっていますか? しかし、実態はほとんど伴っていません!
 しかし、20年ぐらい前から、校長一人がその役割を担っていては、なかなか教え方(=授業)の改善は実現しないということで、読み書きのコーチを中心に多様なコーチが配置されるようになっています。★ ~ ある意味では、それほど教え方=授業の改善を重視しているという証しです。日本も、建前的には校内研究等をしていますから、重視しているとも言えますが、そのやり方に関しては停滞感というか、嫌悪感をもっている教師が少なくないのが現状ではないでしょうか? 毎年、同じようなことを繰り返しても、さっぱり教え方=授業がよくなるとは思っていません。★★
 日本では、最近、管理職以外に担任を持たない教師が増えています。しかし、それで学校はよくなっているでしょうか? 学校が抱える様々な問題に対処するために不可欠ということで配置されているようですが、その多くは教え方=授業の改善が図られないがゆえに存在し続けている問題のような気がします。そのためにも、問題を事後処理する人を増やすよりも、問題を事前に防ぐ人を配置した方が、誰にとってもはるかにいい選択のはずです。(これは、医者を増やすよりも、医者にかかる必要のない健康増進を図る=医療の世話にならなくて済む人を配置する選択と似ています。コストの面も含めて、どちらがより望ましいかは明らかではないでしょうか?)

 読み・書きの指導に特化したコーチが、どのような仕事をしているかを描いた本があるので紹介します。(出典:Becoming a Literacy Leader, by Jennifer Allen、初版。数字はページ数です。) ~ こういう役割を担う人を今の学校で確保することは難しくとも、個々のアイディアから学べることは多いはずです!!

第1章・誰もが自分のためにある、と思える読み・書きの部屋
7 教師たちのオアシスとなるスペースにしたい。空間がつくり出す環境は大切!! ~ こういう発想、日本の教員研修(=教師の学び)にありますか?
9 私の部屋は、子どもたちを対象にしているように見えるが、注意してみると教師用であることがわかる。 基本的に魅力的なレイアウトは変わりない!! ~ 教師を対象にした読み・書きの部屋自体が、教室のモデルとして位置づけられている。図書館は教室の図書コーナーのモデルになっているでしょうか?
  教師がすぐに教室で使える掲示物で壁を一杯にする。
  レイアウト自体も、教室の図書コーナーそのもの。置いてある本まで。 ~ このことからも、いいモデルを示すことが最良の方法であることがわかる。

10 紹介する本や掲示物は、定期的に変えていく。多様な可能性をモデルとして示す。
   ノンフィクションの読み方。関連する雑誌の記事など。
 読み聞かせのおすすめには、特に力を入れる(先生たちが常に探しているから)
   教師のニーズを満たすものという視点で、情報を集め続ける。絶えず集めていれば、負担にはならない。
   とにかく教師に役立つものを集めて、紹介するのは自分の大切な役割。(教師一人ひとりはなかなかその時間がないから。)
11 たくさんのメンター・テキスト(=モデルとなる本)は、教師はありがたがる
13 理解のための方法用へのメンター・テキスト類 ~ 「理解のための方法」については、『「読む力」はこうしてつける』と『理解するってどういうこと?』を参照してください。
15 作家で選書したカゴ、テーマで選書したカゴも用意。
16 教師用の本のコーナー、読み聞かせ用のコーナーも。

17 教師たちのミーティング用のスペース

19 教師が読んでいる教育書の紹介コーナー

第2章・PD(教員研修)★★★
24 自分を紹介するのに7つのストーリーしかないとしたら、何を紹介するか? ~ Paul Newmanの映画撮影からヒント。これを書き出すことで自分が出る!!
 校長が代わって伝統的な職員会議から、学びをつくり出す(学びの場としての)職員会議へ移行し、私も役割をもたされるようになった。★★★★
25 2年間も失敗続きのPDをリードしていた体験が反面教師。やり方が、教員を主役にできなかった。教員たちは「やらされ感」満載の時間だった。

33 スタッフが、自由に自分が書いた「7つのストーリー」を共有し始めた ~ 学びもドンドン増えた。
 雰囲気、主体性、実際に使えるもの、身につくものは、全部比例関係にある。これは子どもたちにも言える。

42 とても大切な教師同士が高め合うピア・カンファランスと、その手順

44 自分の学校でのPD=授業改善が成功した理由
     責任の移行モデルの使用★★★★★ ~ 授業も同じ!
     振り返りを重視した探究活動としてのPD ~ 授業も同じ!
     予想できる(安心できる・期待できる)構造で展開する ~ 授業も同じ!
     共有できる参考資料の確保・提供 ~ 授業も同じ!
     自分にとって意味のある内容を扱う ~ 内容と方法(スキル)の両方に価値がある!! 授業も同じ!
     実際に短い文章を書く ~ 授業も同じ!


★ コーチは、一つの学校にフルタイムで張り付く場合もありますし、二人の教師が一つのクラスをもって、臨機応変に校内の他の教師をサポートする場合もありますし、さらには、一人のコーチが二校ぐらいの学校を掛け持ちする場合など、様々な境遇で仕事をしています。上で紹介したのは、最初のケースです。

★★ 授業をよくする方法は、校内研究や研究授業以外にたくさんの効果的な方法があります。それらを紹介した本が『「学び」で組織は成長する』と『効果10倍の学びの技法』です。


★★★★ 『「学び」で組織は成長する』の中の会議の章を参照ください。

★★★★★ 『「読む力」はこうしてつける』の66~68ページを参照ください。この子どもを対象にした授業でとても効果的な方法は、教師を対象にしたPDでも効果的だということです。

2016年8月14日日曜日

自分のメンター・チームをつくる


企業やNPOには、その組織を運営する責任母体として取締役会/理事会が存在します。最近は、組織内だけでは統治能力が弱まっている(と同時に客観性をもたせるために)ということで、社外取締役や理事を置くところが増えています。
そういえば、学校も「学校運営協議会」を設けているところが少なくありませんが、その人選は戦略的とは言い難いのが現状です。単に地域住民の代表的な人たちが名を連ねているだけで、そこから、何か面白いことや新しいことが生まれてくる感じは残念ながらありません。(結果的に、かかわる人たちの時間を無駄にしているだけ?)

今回の提案は、それを個人のレベルで考えてみては、というものです。

教師として(あるいは教務主任として、教頭として、校長として、指導主事として、教育委員長として)、さらに自分を伸ばすために必要な人材をピックアップして、自分の理事会(=メンター・チーム)のメンバーになってもらうのです。

1.誰にメンバーになってもらうか?
 人選をするためには、まずは自分のことを知ることが第一段階です。つまり、何は強みで、何は弱みかを。(あるいは、自分が何はすでに満足しているのか、何はもっと伸ばしたいと思っているのか、そして何はほとんど未着手の分野なのか、などを明らかにします。)その上で、強みやもっと伸ばしたいところはさらに伸ばしてくれる人、弱みや未着手の領域はうまく補ってくれる人を人選するのが第二段階です。
 ここでのポイントは、課題ばかりに焦点を当てないことです。より自分が輝けるのは得意分野ですから、両方を大切にしてください。
 また、自分が何を目指すかが明確になれば、人を見る目も徐々に磨けるようになります。(逆に言えば、自分の目的がないと、人を見る目もそのレベルでしか見えないことを意味します。)

2.メンバーの役割?
 会社でも、学校でもなく、あくまでも個人の理事会=メンター(よき先輩たち)ですから、個人的に依頼し、こちらからいろいろと教えを請う関係が築ければ、それでOKです。直接会って、メールで、電話(スカイプ)で等、媒体はいろいろ考えられます。身近にいる人もいいですが、より違った角度からのアドバイス等が得られるのは遠くにいる人かもしれません。授業を見せてもらったり、見てもらってアドバイスをしてもらったり、あるいは相談に乗ってもらったり、と内容も多様です。1で明らかにした目的を達成するための手段としてメンターたちの知識や能力をフルに活用させてもらうのです。人は、質問されたり、助けを求められたら、それに応えるのが大好きですから、躊躇することなく、積極的にアプローチしてください。

3.ミーティング?
 全員が一同に会する必要はありません。あくまでも、目的はあなたの目的を達成することですから。メンバーの人選も、相互の関係を考慮して選んだわけではなく、あくまでもあなたが必要な個々の領域を伸ばすために選んだ人たちなので、互いに顔見知りになる必然性はありません。
 しかし、定期的に振り返って、個人のレポート(ごく簡単なもの)を送るといいでしょう。何は進歩しているのか、何は停滞しているのか、どんな課題があるのか、どんな点で特に助けがほしいのかなどをまとめる形で。それに応じて、積極的なサポートを申し出てくれる人もいるかもしれません。(よりいい方法は、小まめに連絡を取り合うことです。通知表的なのが学期末に送られてきたところで、あまり使い道がないのは皆さんも体験上よく理解されていると思います。)
 もちろん、メンター同士が会うことに価値を見出せれば、それはとても大切なことなので、大いに機会をつくるべきです。

4.メンバーの数?
 メンター制度は、元々は一対一です。両者の馬がピッタリ合えば、それでもいいのですが、なかなかそういうケースは多くありません。(一人のメンターがすべてを提供することも難しいですから。)そこで、このメンターのチーム制を提案しているのです。最初は2~3人がいいのではないでしょうか?(ある意味で、メンターたちに競争させるのも真剣に取り組んでくれる要素になるかもしれませんし、2~3人の中でいい関係というか、3つの目的のうちの一つがほぼ達成されるような結果を数か月~一年後に出せれば、花丸と思って取り組むのがいいでしょう。そのぐらいの気分で取り組んだ方が自分にとってはもちろん、相手にとっても楽でいいです。)
 自分が慣れてきたら、メンターの数を徐々に増やしていってもいいかもしれません。

ほとんど機能していない校内研修や教育委員会研修よりも、この方がはるかに確実な成果を上げられること請け合いです。★ぜひ、チャレンジしてみてください。


★ その一つの理由は、http://projectbetterschool.blogspot.jp/2016/07/blog-post_10.htmlで紹介した10項目のほとんどを満たしているからです。




2016年8月7日日曜日

日本の学校文化


今年の3月から、若い先生方とベテランの先生方と一緒に、「教育相談・学級経営」の学習会を始めました。6月の学習会では、特別支援教育に長くかかわってきたメンバーから、アドバイザーなどの経験を通しての話題提供・問題提起がなされました。その中の一つが、日本の学校文化、教師文化についてのものでした。


問題提起の中で、エピソードとして、次のようなことが紹介されました。



「ある小学校で、全校集会が行われた日のことです。子どもたちは、学級委員を先頭に、2列に並んで、教室から会場になっている学校の体育館に向かって移動します。2階の教室から体育館に移動していた4年生のあるクラスが、階段を下りて1階のフロアに着いたところ、体育館に向かう2年生の子どもたちと出会いました。すると、4年生の学級委員の子どもが、後ろを振り返って、自分のクラスの仲間に向かって「ストップ!待って!」と大きな声で言いました。4年生が階段で立ち止まっている間に、2年生の子どもたちは、先に体育館に向かって移動して行ったのです。」



そして、そのメンバーは、次のように話を続けました。



「これは、学校では、上級生として「当たり前のこと」なのかもしれません。日本の「学校文化」といってしまえば、それまでかもしれません。しかし、もしも、階段から1階のフロアに下りた4年生が、2年生に進路を譲らずに先に進んでいたら、どうなっていたでしょうか。おそらくは、下級生に道を譲らないことが、「よくないこと・行動」として、先生たちから注意されていたかもしれません。」



「でも、よく考えてみてください。4年生の学級委員の子どもが、「ストップ!」と仲間に声をかけ、階段のところで止まって、2年生を優先させた行為は、「よいこと」「思いやりのある行動」なのに、学校の中では、「当たり前のこと」ととして、特に注目されるわけでもなく、称賛もされなければ、教職員全体で情報共有されることもほとんどありません。」



私は、はっとさせられました。



私自身がこれまで勤務してきた学校では、教職員チームとしての子どもたちに関する「情報共有」として、なされてきたことの多くは、教師から見ての子どもたちの「気になる行動」や教師・大人から見ての「問題行動」についての情報共有です。もちろん、子どもたちの「よい行動」や「がんばっていること」、「成長したこと」について、報告がされることもありますが、おそらく、そのような子どもたちに関するポジティブなことの情報共有は、教職員全体でなされる情報共有全体のせいぜい30%ぐらいではないでしょうか。



月に1回開かれる小中学校の「生徒指導部会」、中学校で毎週行われる「生徒指導連絡会」や「主任会」、教職員全体で行う「朝の打ち合わせ」でも、生徒指導上の情報共有といえば、そのほとんどが、教師から見た子どもたちの「気になる行動」や「問題行動」です。これらについて、教職員全体で「情報共有」し、問題解決、つまり「気になる行動」や「問題行動」を改善したり、重大な問題にならないよう未然に防ごうという「予防的もしくは治療的な発想」が、日本の学校では一般的だと思います。



もちろん、このような「予防的・治療的な発想」による問題解決・問題改善のための「情報共有」も必要です。しかし、学校教育なのですから、「開発的発想」が優先されるべきです。



教師から見れば「当たり前のこと」かもしれませんが、学校生活や授業・学習における子どもたちの「望ましい行動」や「増やしたい行動」について、日常的に教職員全体で「情報共有」する時間やシステムをつくり、意識的にそれらに注目するのです。



そして、それらの行動に対する称賛や報告など、子どもたちへの「プラスのフィードバックやプラスのストローク(存在や価値を認める言動やはたらきかけ)」を通して、子どもたちの「望ましい行動」や「増やしたい行動」を強化していくことに対して★、日本の学校は、もっともっと力を注ぐべきではないでしょうか。



子どもたちだけではありません。私たち大人も含めて、その人のプラスの面・ポジティブな面に注目し、それらを強化することによって、「望ましくない行動(問題行動)」は、間違いなく減っていくのです。





★ 具体的な報告事例としてはhttp://ci.nii.ac.jp/naid/120005350209がありますし、教育分野の事例ではありませんが、認知症の高齢者への接し方でも大きな成果を上げています(http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3464/index.html)。