2021年7月18日日曜日

新刊案内『静かな子どもも大切にする』

 訳者の一人の山崎さん(創価大学教職大学院)が紹介文を書いてくれました。

*****

 人と話したり会ったりすることは楽しいけれど、その後は自分の時間が必要。人と関わる仕事をしているけれど、時々「そっと」休憩(自分の時間)が必要。一日が終わると、仲間と集まって何かをするよりも、お家に帰ってゆっくりしたい。こんな人はいませんか? もしかすると「静かな人」かもしれません。

 学校を思い出してください。子どもの声が聞こえ、活気があって、授業は子どもの発言であふれている。こんなイメージが「よい」学校、「よい」授業ではないでしょうか。このイメージに当てはまる「行動」を見せることができない生徒にたいして、「もう少し・・・」と思ったこともあるのではないでしょうか。でも、大人にも、いつも元気で、いつもおしゃべりでいることが辛い人もいます。私も、できれば自分より大きな人の後ろで隠れていたいときがいっぱいあります。仕事終わりには一人でいる方がリラックスできます。

 本書は、「静かな人」も力を発揮できる環境のつくり方や、コミュニケーションのとり方を紹介しています。考える時間を大切にすることや、その人にあった表現方法の選択肢、教室環境のちょっとした工夫、ICTを活用した手を挙げる・口頭発表以外の生徒間、教師-生徒間のコミュニケーションの方法を紹介しています。

 また、生徒の興味関心(教科に関連することに限られません)から発生する学びを尊重する環境づくりについても紹介しています。静かな人も、自分が好きなことや自分の思いが強いものに関しては自然と話すことができます。自分が伝えたいことを話せる環境はどれくらいあるでしょうか。また、お互いにきちんと聴くという環境はどれくらいあるでしょうか。個人の伝えたいことを伝える。お互いの考えていること、伝えたいことをきちんと聴く。このような学びの環境を考えてみませんか。 


◆本ブログ読者への割引情報◆

1冊(書店およびネット価格)2640円のところ、

PLC便り割引だと  1冊=2400円(送料・税込み)です。

5冊以上の注文は     1冊=2300円(送料・税込み)です。


ご希望の方は、①書名と冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 

pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。


2021年7月11日日曜日

11時の1分前は、10時69分 


 いよいよ1学期末。多くの先生が単元末テストの採点や成績処理に追われている頃。「このテストが本当に子どもの評価に値するものなのか」「時間がない中、わからないままではおわらせられないな」など、本来ならば、もう少し子どもたちと時間をかけて考え合いたかったことや、しっかりと復習してあげたかった気持ちが交錯します。自分の至らなさを振り返り、葛藤する時期ではないでしょうか。

 

今回は、数学者の谷口隆さん★が子どもの間違えについて探究するお話です。お子さんの間違いを「事件簿」と名付け、ほっこりするエピソードが語られています。殺伐としたこの学期末、少し息をついて子どもの思考により沿ってみませんか? 

 

予定の11時前よりちょっと早く家に着くときの話。11時より前の時間が話題になったときに、「11時の1分前っていつ?」と谷口さんはお子さんに聞いてみました。すると子どもはしばらく考えた末に「1069分」と答えました。谷口さんは、69分という存在しない時刻に「ある種の不協和音のような響き」と印象に残ったようです。

 

では、どういう思考の筋道でこの事件が起きたのか、みなさんもぜひ考えてみてください。

 

この問題は複雑な繰り下がりが繰り返される、3つのステップを経ます。

    11時から1分は引けない。11時を10時とし、1時間を60分に繰り下げて引く。

    繰り下げてきた60分から1分を引くが、これにも繰り下がりの引き算がある。

    601は、十の位の6から1繰り下げて、101=9と引き算ができ、601=59である。

 

“こう考えてみると1069分と言う答えは誤ってはいるもののほとんど正解であると言えないだろうか。どうやら601の引き算で繰り下がりに失敗し、69になってしまったようだが、このように3つのステップに分解し2度の繰り下がりの計算は実行したことがうかがえる。

谷口隆著「子どもの算数、なんでそうなる?」(岩波書店)P.70より

 

“人は自分が興味を持ったこと、自分にとって意義があると感じられる事は、自発的に試みて、幾度もの繰り返しから誤りや修正点を見出し、次第に精度を上げていくことができる。時刻について考える機会は、この先この子には無数にある。そう思えば、せっかく子ども自身で考え出した答えの誤りを、とやかく指摘しなくても良いような気がする。”

谷口隆著「子どもの算数、なんでそうなる?」(岩波書店)P.70より

 

 

間違えを、子どもの計算技能の未熟とみるのか、はたまた考える筋道に寄り添うのか、子どもにとっての命運が分かれます。算数は正解・不正解がはっきりしているだけに、苦手をつくりがちの教科です。間違えの中にも部分的には正しい思考の筋道があります。もし、子どもの推論を予想できなければ、子どもに「どうしてそう思ったの?」と聞こうとすることから始められます。そこには、子どもの思考プロセスを汲み取ってあげようとする優しさが伝わってきます。

 

テストを返却するとき、一つ誤答をみんなで考え合ってみませんか。ちょっとスピードを落として「どうしてそう思ったのだろう?」と、子どものつまずきに興味をもって寄り添ってみると、その中に広がる豊かな子どもなりの思考世界が分かってきます。そして、間違えや思考の途中にこそ学びが生まれてくるその意味が分かってくるはずです。海外にはすでにドラフト算数・数学という間違えや下書きを共有しながら対話ですすめる授業実践もあります。★★

 

ある時点で誤った認識をしていても、月日がたち、学びが深まるにつれて、自ら誤りに気付いて修正する力が子どもにはあります。とくに算数のカリキュラムは時期を空けながらも繰り返し学ぶ機会を持てるように、学習単元は配列されています。すべてを今、ここで理解させようとすることを手放して、少しゆとりをもって子どもの事件簿に向き合ってみませんか?

 

谷口隆著「子どもの算数、なんでそうなる?」(岩波書店)

著者の数学者ならではのものの見方とその優しさが伝わってきます。

 

315」にマルをつけた数学者が語る、子どもの算数の見守り方 間違いを否定せず、考えた道筋を共有しよう

2021/06/18(東京新聞WEB

https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/education/44649/

 

★★

デラウェア大学教育学部教授のアマンダ・ヤンセン氏は『ラフドラフト算数・数学』で、これまでのような正答を求めるだけの算数・数学から、生徒同士がアクティブに考え合う、共有に重きを置いた新しい数学実践を提案しています。

 

ラフドラフトとは、下書きのことです。ラフドラフト算数・数学は、生徒がその未完成で進行中の自分の考えを共有し、アイディアを修正するために話し合えるようにすることです。答えや計算の手順ではなく、自分の考えについて話してもらうことで、生徒同士が考える機会を増やすことができます。詳しくは以下のPLC便りを参考にしてください。

 

PLC便り「答えよりも考え方へ 下書きアイディアを共有するラフドラフト思考」

20201115日(日)

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/11/blog-post_15.html

 

 

 

 

2021年7月4日日曜日

新刊案内『社会科ワークショップ』

 執筆者の一人の西田雅史先生が、紹介文を書いてくれました。

  *****

 子どもの頃、社会科の授業が大嫌いでした。そんな私が教師になって最初に行っていた社会科の授業は「教科書をなぞる」というものでした。黒板に授業の目的を書く、教科書を生徒に順番に読ませる、教室全体に向けて発問する、発問の意味が分かった一部の子どもだけが参加する――こんな授業を繰り返していました。しかし、本書で紹介する「社会科ワークショップ」が、社会科に対する見方を180度変えることになりました

 上記は「社会科ワークショップ〜自立した学び手を育てる教え方・学び方」の新刊案内の冒頭部分です。現在私は4年生の担任で社会科ワークショップを実践していますが、4月当初、「社会いやだなあ」と言っていた女の子が、「先生!たんきゅうはまだですか!」と言ってくるほどです。また、毎時間Google formでアンケートを作成し、子どもたちに放課後に回答してもらっていますが、高い割合で子どもたちが「たんきゅう」を楽しんでいることもわかります。私だけでなく子どもたちも社会科に対する見方が変わってきているのです。

 これまで実践してきた中で子どもたちが「探究が楽しい!」と感じていることが多かったのですが、その要因は大きく2つだと私は考えています。

自分でテーマを決める楽しさ

 これまでの社会科の学習ではクラス共通の学習課題に取り組んできた子どもたち。それが自分の興味関心に合えばいいのですが、全ての子どもたちがそうなるわけではありません。一方で社会科ワークショップでは学習のゴールは子どもたちに共通としてあるものの、そのゴールまでの道筋はバラバラであっていいという考え方のもと子どもたちは学習を進めています。子どもたちは自分で選ぶことができると知るとその時点でモチベーションがぐぐぐっと上がるものです。

 例えば私が今年度実践している4年生の社会科「お水ハンター〜安全で安心なお水のヒミツを調査せよ〜」では、学習のゴールを「安全で安心した水を安定して供給できるシステムを理解すること」としていますが、子どもたちは「浄水場」「下水道」「ダム」の中から一つテーマを選び、それらのシステムについて調べています。最終的に3つのテーマ同士が集まって発表し合うので、子どもたちは扱っていないテーマについても理解することができます。

共同で考えを作り出すことの楽しさ

 本書の「学習コミュニティーを育てる」の章にも登場しますが、子どもたちは社会科の学習を通して自分の考えをもち、それを発信し、友達と議論するなかで新たな考えを生みだしていきます。5年生の社会科ワークショップの工業ユニットで自動車会社を設立したときには、自動車工場を国内、国外のどこに作るかで2つの会社が議論をかわす場面がありました。

 わいわい盛り上がって楽しいの「fun」ではなく、知的好奇心がくすぐられ、興味関心が湧いて楽しい、という意味の「interesting」の要素をこのとき子どもたちから感じたのを今でも覚えています。子どもたちはこのようなことを繰り返しながら主体的に参加するコミュニティーをクラス内につくっていきます。社会科ワークショップが行われている教室は、ある意味「理想の社会」の縮図になっているとも言えます。

 また、社会科ワークショップでは、教師の子どもたちとのかかわり方も、これまでの授業とはまったく変わってきます。教壇に立って、子どもたちに向けて一斉に指示を出すといった授業を繰り返すのではなく、一人ひとりに対してカスタマイズされた支援を行っていきます。本書では、ライブ感豊かにその様子を紹介していますが、これこそが「自立した学び手」を育てる一助となっています。

 最後になりましたが、私は子どもを変えたいのなら、まずは教師が変わらなければいけないと考えています。変化することを恐れている場合ではありません。そのための一助に「社会科ワークショップ〜自立した学び手を育てる教え方・学び方〜」がなることができれば幸いです。

◆本ブログ読者への割引情報◆

1冊(書店およびネット価格)2640円のところ、

PLC便り割引だと  1冊=2400円(送料・税込み)です。

5冊以上の注文は     1冊=2300円(送料・税込み)です。


ご希望の方は、①書名と冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 

pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。


2021年6月26日土曜日

問いと民主主義

以前このブログで『文部省著作教科書 民主主義』を紹介したことがありました。

最近このタイトルを久しぶりに目にする機会がありました。

それは、今月10日に発行された『プリンス』(真山仁・PHP研究所)という小説の中です。真山さんは新聞記者を経て作家になった人で、2004年に『ハゲタカ』でデビューしました。大森南朋さん主演でドラマ化されたので、ご覧になった方も多いと思います。その真山さんの最新作が、「アジア最後のフロンティア」というメコン国という架空の国を舞台に描かれたこの小説です。「ラストフロンティア」という文言を聞くと、モデルはあの国だろうと見当はつくかと思います。この本の帯には次のように書かれています。 

「軍事政権下の東南アジアの国・メコンから日本に留学したピーター・オハラは、大学での政治活動に情熱を注ぐ犬養渉と知り合う。祖国メコンを民主化するため、父・ジミーが大統領選に出馬することを知ったピーターは、父の選挙を応援するため、渉とともに帰国する。一方、人々の期待を一身に背負い、ジミーが帰国するが-------- 

 この本の各章の扉に、実は『文部省著作教科書 民主主義』からの引用があるのです。

 たとえば、第2章『狙撃』には次のような文言が引用されています。

「民主主義を単なる政治のやり方だと思うのは、まちがいである。民主主義の根本は、もっと深いところにある。それは、みんなの心の中にある。すべての人間を個人として尊厳な価値を持つものとして取り扱おうとする心、それが民主主義の根本精神である。」

 この本の舞台となっている途上国と先進国の関係は、かつての宗主国と植民地の関係をそのまま引きずり、支配・被支配の関係が長年続いているとも言えます。特にアフリカではそれが顕著であると言えるでしょう。今日のアフリカの飢餓問題などはすべてそのあたりに根っこのある問題です。

 それにしても、「民主主義」を大切にしていくには、多くの努力が必要なことがわかります。特に教育におけるそれが重要なことは明らかです。そのためには、『たった一つを変えるだけ』(新評論2015)が一つ重要な手掛かりを提供してくれます。その「おわりに」にこう書かれています。(274-275ページ)

      どの学校のどのクラスでも、すべての生徒に質問ができるように教えることで、教育を改善することが今日からでもできる。

      生徒たちに質問ができるように教える教師は、より高い満足とより良い結果が得られる。

      自ら質問することをすべての生徒に教えることで、広い見識をもった市民と、市民中心で、力強く、より活気のある民主的な社会をつくり出すことができる。

 このあたりを手掛かりに、日々の実践を積み上げていきたいものです。

 

 

2021年6月20日日曜日

学校のマインドセットを変える

初めて教壇に立った日のことを覚えていますか。少し高揚した気分を胸に、校門をくぐった日のことです。これから起きるであろう、少年や少女たちとの様々なエピソードに胸をときめかせていました。彼ら彼女らの成長を見つめ、一緒に歩めることに、心躍らせていたのです。

しかし、そのような思いが打ち砕かれるのに時間はかかりませんでした。私が最初に赴任した学校は、いわゆる指導困難校と言われているところでした。「この子たちには無理。。。」「厳しい親の家庭が多からね。。。」「教師も楽をすることしか考えたないし。」とにかく、ネガティブな発言のオンパレード。多くの教員は年齢に関わらず、面倒な仕事から逃れようとしていました。仕事の押し付け合いの対立など日常茶飯事。

指導困難な学校でなくても、学校というところは、ネガティブな思考に陥りがちな傾向があるようです。『学校リーダーシップをハックする』★には、アメリカの学校の様子が具体的に描かれていますが、学校の一つの大きな問題として、教師がネガティブ思考に陥りがちであることをあげています。しかも、一章すべてを、このネガティブ思考の問題に充てているのです。この章の書き出しは「全国の教師たちと関われば関わるほど、彼らがネガティブ思考にどっぷり浸かっていることを実感します。」です。

教師や学校がネガティブ思考に陥ることは、悲劇的とも言える状況をもたらします。教室で、教師は、子どもたちの可能性を否定し、子どもたちの質の高い学びを奪ってしまうのです。教師や学校が、問題点や欠点にのみ目を向けると、子どもたちの可能性の芽は摘まれてしまいます。

では、学校リーダーは、どうすれば、学校からネガティブ思考を追い出すことができるのでしょうか。先にあげた『学校リーダーシップをハックする』の提案を見てみましょう。

ステップ1 子どもがもつ潜在力に着目する。

課題や問題点を指摘することから、強みに焦点をあてることにシフトする。しかも、教員個人ではなく、組織としてこの取組を進めること。また、その際、生得的な知能や能力ではなく、生徒が実際に起こした行動やプロセスに焦点をあてることの重要性も強調されています。

ステップ2 学校リーダーがモデルを示し続ける。

教師であれ、生徒であれ、リーダーが、その強みを発見し、それを認める姿勢を示すこと。そうすることで、職場全体のマインドセットが、優れた実践を探り、生み出そうとする協力的なものになっていく。

 ステップ3 難易度の高い学びにチャレンジさせる。

ものすごくシンプルなことですが、子どもも、大人も、ダメなことを指摘されて学ぶよりも、褒められて学びたいはずです。自分が学習者だったときのことを心情を思い出しましょう。そして、子どもたちを質の高い学びに導いていきましょう。

ステップ4 生徒たちに多様な学びの機会を与える。

生徒たちの能力は多様です。★★すべての生徒がその能力を伸ばすことができるように、「主要五教科」と言われるもの以外も大切にしましょう。入試に出ることだけが学びのゴールではありません。狭い世界に子どもたちを閉じ込めるのではなく、広い分野での学びを紹介することで、子どもたちにポジティブなマインドセットを育んでいきたいものです。

ステップ5 学校で起こっている秀逸なことを祝福する。

この本で繰り返しでてくる提案です。日本の学校は特に弱い部分と言えるかもしれません。秀逸な取り組みを発掘し、それらを高く評価するだけでなく、コミュニティー全体にまで広げましょう。地域の皆さんはきっと学校のファン、そして、心強いサポーターになってくれるはずです。

この章の結びには、「子どもたちが安心して、しかも夢中になって学べる教室こそが、イノベーションの土台となるのです。失敗を恐れず、再挑戦ができる場所です。子どもたちができないことではなく、できることに焦点が当たる教室です。」とあります。

問題点や課題を、新しい学びや成長のチャンスであるととらえなおす。ポジティブなマインドセットに変えること。まずはそこから、学校イノベーションを始めましょう。★★★


★近日発刊予定 『学校リーダーシップをハックする』第10章(ハック10 マインドセットを変える ―ネガティブ思考を葬り去る)

★★ 人の能力の多様性については、『マルチ能力が育む子どもの生きる力』を参照ください。

★★★ このテーマに特化した本が『教育のプロがすすめるイノベーション』です。


2021年6月13日日曜日

声をあげる 大阪市立木川南小学校の久保敬校長「提言書」より

 先月、大阪市立木川南小学校の久保敬校長が、市の教育行政への「提言書」を松井一郎市長に実名で送りました。それは、4月の緊急事態宣言期間中は市立小・中学校の授業をオンラインで実施する考えを示したことへ批判してのこと。一律オンライン授業の実施により、環境が整っていない家庭や学校現場から悲鳴の声が聞こえています。久保校長は、この時期に実名で提言書を出し、教育行政に声をあげました。多くの先生は「よくぞ言ってくれた」と勇気をもらったのではないでしょうか。あらためてここに紹介し、声を上げることの大切さについて考えてみます。

 

2021年5月20日の朝日新聞デジタルにその提言書全文が載っています★。提言書には「豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」とあり、子どもたちが豊かな未来に向けて、公教育は今、一体どうあるべきか真剣に考えるときだと訴えられています。

 

学校は、グローバル経済を支える人材という「商品」を作り出す工場と化している。そこでは、子どもたちは、テストの点によって選別される「競争」に晒(さら)される。そして、教職員は、子どもの成長にかかわる教育の本質に根ざした働きができず、喜びのない何のためかわからないような仕事に追われ、疲弊していく。さらには、やりがいや使命感を奪われ、働くことへの意欲さえ失いつつある。

 

この「何のためかわからないような仕事」に追われている教員の本音を代弁してもらえたのではないでしょうか。そして、評価のための評価、効果検証のための報告書やアンケート、目標管理シートによる人事評価、GIGAスクール構想への懸念、全国学力学習状況調査もいらないなど、持続可能な学校にするためには、本当に大切な事だけを行う必要があり、特別な事業はいらないと言います。学力調査に関して言えば、そのような調査がなくたって毎日、一緒に学習していればわかる話であり、現状をこの地球規模の危機を乗り越えるために必要な力は、学力経年調査の平均点を1点あげることとは無関係であると見事に反駁しています。そして、これらのことが 結局、子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していることに、胸をかきむしられる思いである。と、声をあげました。

 

本当に子どもの幸せな成長を願って、子どもの人権を尊重し「最善の利益」を考えた社会ではないことが、コロナ禍になってはっきりと可視化されてきたと言えるのではないだろうか。社会の課題のしわ寄せが、どんどん子どもや学校に襲いかかっている。

 

子どもたちと一緒に学んだり、遊んだりする時間を楽しみたい。子どもたちに直接かかわる仕事がしたいのだ。子どもたちに働きかけた結果は、数値による効果検証などではなく、子どもの反応として、直接肌で感じたいのだ。1点・2点を追い求めるのではなく、子どもたちの5年先、10年先を見据えて、今という時間を共に過ごしたいのだ。テストの点数というエビデンスはそれほど正しいものなのか。

 

これは、子どもの問題ではなく、まさしく大人の問題であり、政治的権力を持つ立場にある人にはその大きな責任が課せられているのではないだろうか。

 

コロナによって、図らずも日本が抱える縦割り行政の問題の一端が浮き彫りとなり、学校現場では様々な不満や「もっとこうしてほしい、こうしたい」といった願いがいろいろ出てきました。今回のように公立学校の一校長が役職と実名をもって声をあげることの賛否はあるかもしれません。しかし、その役職と実名をもって提言したからこそ、その影響があったことは事実です。こと学校教育に関しては、匿名性の高いSNSではこういうことは起こりません。自分で声をあげること、そしてそれを真摯に聴こうとすること、これは民主的な社会において最も基本とされる一つです。子どもたちの声を、そして子どもの学習や遊ぶ権利が学校の中で、どれほど尊重されているのでしょうか。

 

実名で公表されたため木川南小の学校名は一気に知名度があがり、保護者の中には不安に思う方もいるかもしれません。けれども、以下のようなメッセージも届いていることもまた事実です。

 

お名前や役職を公表して意見を述べられたことは、子どもたちに正々堂々とおかしいことはおかしいと、声をあげてもよいと、子どもたちに行動で見せて、大切なことを教えてくださいました。この木川南小学校で我が子が学べることに感謝し、誇りに思います。” 

大阪市立木川南小学校HPより★★

 

一方で、提言に対し大阪市長の松井一郎氏は、以下のようなコメントを残しました。

 

「僕とは考え方が違う」とした上で「校長だけど現場がわかってない」「ルール違反ならやめてもらわな」などと批判し 〜 松井氏は、久保校長の書面が教育振興基本計画を否定しているとして「公務員には職務専念義務がある。ルールに従えないというような表現をされたので職務専念義務違反だ」と主張。 〜 「ルールを守るのは当たり前。学校でルールを守れって教育してるんじゃないの。そのルールが自分と違っても決まったルールは守る。当たり前のことだ」と強調した。

Yahoo!ニュースより★★★

 

この一件からみなさんは何を感じ、考えましたか? よかったら教えてください。★★★★

 

朝日新聞デジタル「大阪市立木川南小学校・久保校長の「提言」全文

https://www.asahi.com/articles/ASP5N6KWMP5NPTIL00R.html

私の働く私立校においても、この全文は職員会議で全職員に配られ「今、大切なことだから読んでおいてほしい」と紹介されました。

 

★★

大阪市立木川南小学校HP  

http://swa.city-osaka.ed.jp/swas/index.php?id=e641402

 

★★★

Yahoo!ニュース

松井大阪市長 法曹関係者らの声明に不快感「処分すると一言も言ってない」オンライン授業巡り

https://news.yahoo.co.jp/articles/6e368cc55789c534e80da592cdefa72775455092

 

 

★★★★

著:デイヴィッド・ブース、訳:飯村寧史・吉田新一郎『私にも言いたいことがあります! 生徒の「声」をいかす授業づくり』新評論

https://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1175-2.html

この本の子どもたちの小さな声を大切にする実践群、とても参考になりました。子ども時代にこそ、声をあげ、聴いてもらえる経験を積むことが、よりよい民主的な社会を築くその一歩。大人はそのモデルとしてありたいものです。

 

 

2021年6月4日金曜日

教師の「希望」を実現する教え方・学び方

「なぜ私たちの州には『州の昆虫』がないのですか?」


第2章に示されているPBL(プロジェクト学習)の展開として紹介されている学習のスタート地点が、この生徒の発言です。

この生徒の疑問から、州のシンボルの意味や昆虫の生息地、絶滅危惧種とは何か、それを決める存在である議会とは何か、州議会への働きかけ・・・というように、生徒がさまざまな学びを展開する。これがPBLの醍醐味です。


 しかし、「PBL」と言われても、横文字の名前の学習はとっつきにくい人も多いのだろうと思います(昨年度、当時のゼミ生に「PLB!」と言われて、私はポカーンとしてしまいました…)。でも、そう特別なものでもないように思います。


帯文にもある、教員にPBLを展開していくための問いである「あなたが教職を志した理由は何ですか?」という文言。

おそらくほとんどの人が、「生徒に◯◯を考えて欲しい!」と思って教職を志したのではないでしょうか。そしてそれは、一つの教科の枠にはおさまらないほど、壮大なことだったのではないでしょうか。今思えば、恥ずかしいところもあるかもしれませんが(私は「ラブ&ピース」を考えてほしいなどと本気で思っていました。お恥ずかしい…)、そんな「希望」を持っていたことでしょう。きっと、それが生徒たちにとって、「学ぶ意味を感じられるもの」となるはずだと信じて。


ただ、私も、そして皆さんの多くも、大学で教員養成の道を歩み始めてから今まで、教科という枠を大切にしてきて育ち、主に中学校・高校ではその枠で採用され、そして教科書に過度に縛られすぎるなどの現実に向き合い…こうして私たちは、その「希望」を一旦棚上げしたり、もしかすると視野も狭くなったりしてしまっているかもしれません。


「カリキュラム・マネジメント」、「教科横断」、「探究」…このようなことばをキーワードとして、これからの時代の学習のあり方の議論がなされている今なら…。そんな「希望」を形にすることも「よい取り組み」だと見なされるのではないかと思います。世のなかが後押ししてくれているのも同然です。自分が本来もっていたその「希望」を実現できるはずです。その方法がPBLだと言えるでしょう。


もちろん、「先生の想い100%」で突っ走るだけではいけません。学習として成立するために考慮すべき、さまざまなポイントもあります。そこで、本書で扱われている内容が役に立つのです。本書は、その先生の「想い」を見据えつつ、学習者が駆動させる学びの設計をサポートしてくれます。

*****


  以上は、『プロジェクト学習とは』の訳者の池田匡史さん(兵庫教育大学大学院)が書いてくれた紹介文でした。


◆本ブログ読者への割引情報◆

1冊(書店およびネット価格)2970円のところ、

PLC便り割引だと   1冊=2700円(送料・税込み)です。

5冊以上の注文は    1冊=2600円(送料・税込み)です。


ご希望の方は、①書名と冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 

pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。