初めて教壇に立った日のことを覚えていますか。少し高揚した気分を胸に、校門をくぐった日のことです。これから起きるであろう、少年や少女たちとの様々なエピソードに胸をときめかせていました。彼ら彼女らの成長を見つめ、一緒に歩めることに、心躍らせていたのです。
しかし、そのような思いが打ち砕かれるのに時間はかかりませんでした。私が最初に赴任した学校は、いわゆる指導困難校と言われているところでした。「この子たちには無理。。。」「厳しい親の家庭が多からね。。。」「教師も楽をすることしか考えたないし。」とにかく、ネガティブな発言のオンパレード。多くの教員は年齢に関わらず、面倒な仕事から逃れようとしていました。仕事の押し付け合いの対立など日常茶飯事。
指導困難な学校でなくても、学校というところは、ネガティブな思考に陥りがちな傾向があるようです。『学校リーダーシップをハックする』★には、アメリカの学校の様子が具体的に描かれていますが、学校の一つの大きな問題として、教師がネガティブ思考に陥りがちであることをあげています。しかも、一章すべてを、このネガティブ思考の問題に充てているのです。この章の書き出しは「全国の教師たちと関われば関わるほど、彼らがネガティブ思考にどっぷり浸かっていることを実感します。」です。
教師や学校がネガティブ思考に陥ることは、悲劇的とも言える状況をもたらします。教室で、教師は、子どもたちの可能性を否定し、子どもたちの質の高い学びを奪ってしまうのです。教師や学校が、問題点や欠点にのみ目を向けると、子どもたちの可能性の芽は摘まれてしまいます。
では、学校リーダーは、どうすれば、学校からネガティブ思考を追い出すことができるのでしょうか。先にあげた『学校リーダーシップをハックする』の提案を見てみましょう。
ステップ1 子どもがもつ潜在力に着目する。
課題や問題点を指摘することから、強みに焦点をあてることにシフトする。しかも、教員個人ではなく、組織としてこの取組を進めること。また、その際、生得的な知能や能力ではなく、生徒が実際に起こした行動やプロセスに焦点をあてることの重要性も強調されています。
ステップ2 学校リーダーがモデルを示し続ける。
教師であれ、生徒であれ、リーダーが、その強みを発見し、それを認める姿勢を示すこと。そうすることで、職場全体のマインドセットが、優れた実践を探り、生み出そうとする協力的なものになっていく。
ステップ3 難易度の高い学びにチャレンジさせる。
ものすごくシンプルなことですが、子どもも、大人も、ダメなことを指摘されて学ぶよりも、褒められて学びたいはずです。自分が学習者だったときのことを心情を思い出しましょう。そして、子どもたちを質の高い学びに導いていきましょう。
ステップ4 生徒たちに多様な学びの機会を与える。
生徒たちの能力は多様です。★★すべての生徒がその能力を伸ばすことができるように、「主要五教科」と言われるもの以外も大切にしましょう。入試に出ることだけが学びのゴールではありません。狭い世界に子どもたちを閉じ込めるのではなく、広い分野での学びを紹介することで、子どもたちにポジティブなマインドセットを育んでいきたいものです。
ステップ5 学校で起こっている秀逸なことを祝福する。
この本で繰り返しでてくる提案です。日本の学校は特に弱い部分と言えるかもしれません。秀逸な取り組みを発掘し、それらを高く評価するだけでなく、コミュニティー全体にまで広げましょう。地域の皆さんはきっと学校のファン、そして、心強いサポーターになってくれるはずです。
この章の結びには、「子どもたちが安心して、しかも夢中になって学べる教室こそが、イノベーションの土台となるのです。失敗を恐れず、再挑戦ができる場所です。子どもたちができないことではなく、できることに焦点が当たる教室です。」とあります。
問題点や課題を、新しい学びや成長のチャンスであるととらえなおす。ポジティブなマインドセットに変えること。まずはそこから、学校イノベーションを始めましょう。★★★
★近日発刊予定 『学校リーダーシップをハックする』第10章(ハック10 マインドセットを変える ―ネガティブ思考を葬り去る)
★★ 人の能力の多様性については、『マルチ能力が育む子どもの生きる力』を参照ください。
★★★ このテーマに特化した本が『教育のプロがすすめるイノベーション』です。
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