先月、大阪市立木川南小学校の久保敬校長が、市の教育行政への「提言書」を松井一郎市長に実名で送りました。それは、4月の緊急事態宣言期間中は市立小・中学校の授業をオンラインで実施する考えを示したことへ批判してのこと。一律オンライン授業の実施により、環境が整っていない家庭や学校現場から悲鳴の声が聞こえています。久保校長は、この時期に実名で提言書を出し、教育行政に声をあげました。多くの先生は「よくぞ言ってくれた」と勇気をもらったのではないでしょうか。あらためてここに紹介し、声を上げることの大切さについて考えてみます。
2021年5月20日の朝日新聞デジタルにその提言書全文が載っています★。提言書には「豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」とあり、子どもたちが豊かな未来に向けて、公教育は今、一体どうあるべきか真剣に考えるときだと訴えられています。
“学校は、グローバル経済を支える人材という「商品」を作り出す工場と化している。そこでは、子どもたちは、テストの点によって選別される「競争」に晒(さら)される。そして、教職員は、子どもの成長にかかわる教育の本質に根ざした働きができず、喜びのない何のためかわからないような仕事に追われ、疲弊していく。さらには、やりがいや使命感を奪われ、働くことへの意欲さえ失いつつある。”
この「何のためかわからないような仕事」に追われている教員の本音を代弁してもらえたのではないでしょうか。そして、評価のための評価、効果検証のための報告書やアンケート、目標管理シートによる人事評価、GIGAスクール構想への懸念、全国学力学習状況調査もいらないなど、持続可能な学校にするためには、本当に大切な事だけを行う必要があり、特別な事業はいらないと言います。学力調査に関して言えば、そのような調査がなくたって“毎日、一緒に学習していればわかる話”であり、現状を“この地球規模の危機を乗り越えるために必要な力は、学力経年調査の平均点を1点あげることとは無関係である”と見事に反駁しています。そして、これらのことが “結局、子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していることに、胸をかきむしられる思いである。”と、声をあげました。
“本当に子どもの幸せな成長を願って、子どもの人権を尊重し「最善の利益」を考えた社会ではないことが、コロナ禍になってはっきりと可視化されてきたと言えるのではないだろうか。社会の課題のしわ寄せが、どんどん子どもや学校に襲いかかっている。”
“子どもたちと一緒に学んだり、遊んだりする時間を楽しみたい。子どもたちに直接かかわる仕事がしたいのだ。子どもたちに働きかけた結果は、数値による効果検証などではなく、子どもの反応として、直接肌で感じたいのだ。1点・2点を追い求めるのではなく、子どもたちの5年先、10年先を見据えて、今という時間を共に過ごしたいのだ。テストの点数というエビデンスはそれほど正しいものなのか。”
“これは、子どもの問題ではなく、まさしく大人の問題であり、政治的権力を持つ立場にある人にはその大きな責任が課せられているのではないだろうか。”
コロナによって、図らずも日本が抱える縦割り行政の問題の一端が浮き彫りとなり、学校現場では様々な不満や「もっとこうしてほしい、こうしたい」といった願いがいろいろ出てきました。今回のように公立学校の一校長が役職と実名をもって声をあげることの賛否はあるかもしれません。しかし、その役職と実名をもって提言したからこそ、その影響があったことは事実です。こと学校教育に関しては、匿名性の高いSNSではこういうことは起こりません。自分で声をあげること、そしてそれを真摯に聴こうとすること、これは民主的な社会において最も基本とされる一つです。子どもたちの声を、そして子どもの学習や遊ぶ権利が学校の中で、どれほど尊重されているのでしょうか。
実名で公表されたため木川南小の学校名は一気に知名度があがり、保護者の中には不安に思う方もいるかもしれません。けれども、以下のようなメッセージも届いていることもまた事実です。
“お名前や役職を公表して意見を述べられたことは、子どもたちに正々堂々とおかしいことはおかしいと、声をあげてもよいと、子どもたちに行動で見せて、大切なことを教えてくださいました。この木川南小学校で我が子が学べることに感謝し、誇りに思います。”
大阪市立木川南小学校HPより★★
一方で、提言に対し大阪市長の松井一郎氏は、以下のようなコメントを残しました。
“「僕とは考え方が違う」とした上で「校長だけど現場がわかってない」「ルール違反ならやめてもらわな」などと批判し 〜 松井氏は、久保校長の書面が教育振興基本計画を否定しているとして「公務員には職務専念義務がある。ルールに従えないというような表現をされたので職務専念義務違反だ」と主張。 〜 「ルールを守るのは当たり前。学校でルールを守れって教育してるんじゃないの。そのルールが自分と違っても決まったルールは守る。当たり前のことだ」と強調した。”
Yahoo!ニュースより★★★
この一件からみなさんは何を感じ、考えましたか? よかったら教えてください。★★★★
★
朝日新聞デジタル「大阪市立木川南小学校・久保校長の「提言」全文
https://www.asahi.com/articles/ASP5N6KWMP5NPTIL00R.html
私の働く私立校においても、この全文は職員会議で全職員に配られ「今、大切なことだから読んでおいてほしい」と紹介されました。
★★
大阪市立木川南小学校HP
http://swa.city-osaka.ed.jp/swas/index.php?id=e641402
★★★
Yahoo!ニュース
松井大阪市長 法曹関係者らの声明に不快感「処分すると一言も言ってない」オンライン授業巡り
https://news.yahoo.co.jp/articles/6e368cc55789c534e80da592cdefa72775455092
★★★★
著:デイヴィッド・ブース、訳:飯村寧史・吉田新一郎『私にも言いたいことがあります! 生徒の「声」をいかす授業づくり』新評論
https://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1175-2.html
この本の子どもたちの小さな声を大切にする実践群、とても参考になりました。子ども時代にこそ、声をあげ、聴いてもらえる経験を積むことが、よりよい民主的な社会を築くその一歩。大人はそのモデルとしてありたいものです。
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