2021年1月10日日曜日

好奇心を活かした授業づくり

 13県では緊急事態宣言とほぼ同時に、新学期が始まりました。教師にとっては、感染予防や行事予定の見直しなど、徒労感と緊張感のある学校生活がまた始まろうとしています。これまでは土曜日を返上したり、授業時数を増やしたり、冬休みを短縮してまで、休校中に遅れしまった学習進度の負債をようやく解消したにもかかわらず、都心部ではまたの緊急事態宣言。今回は、学校閉鎖はしないとはいうものの、都心部では分散登校や時差登校、さらにはオンライン授業に切り替えた学校もあります。早く感染拡大に歯止めをかけて重症患者数が減り、子どもたちが安心して学校生活をおくれるようにと、願うばかりです。 

 

分散、時差登校に併せて生まれる懸念が「カリキュラム履修状況」です。急いで本年度の学習内容をカバーしようとまた、土曜日授業や春休みの短縮など失われた時間を取り戻そうと教育委員会は躍起になるかもしれません。文科省は今年度中でなくともよいとしていますが。。。三学期に時間をかけるべきところは「浅く広くのこれまで通りのカリキュラム」ではなく、本当に学ぶべき事へ焦点を当てることです。それには、教師が教えることを選択しなければなりません。時間をかけなければ理解は進みませんから。教科書をさらりと効率的に「やったこと」にすれば、本年度でカリキュラムに決着をつけられますが、はたしてそれが子どもたちの心に響き、深い学びとなっているのでしょうか? それは、子どもたちの好奇心を突き動かした学びとなるのでしょうか? 

 

ちょっと視点を変えてみませんか? 浅く広くのカリキュラムには建前上おつきあいしつつも、子どもを原点(学習者中心)に考えることです。

 

子どもは好奇心旺盛です。好奇心は子どもの深い学びを導きます。物事を確かめてみることや試したりすること、自分の周りと交流する事へとつながっていきます。それは、子どもの認知発達を推進し、新しい知識をもたらす原動力となります。そして、これらの好奇心は全ての子どもがすでに持っているのです。

 

この好奇心をいかした授業の具体的な方法を紹介しているのは、ウェンディ・L・オストロフ著・池田匡史・吉田新一郎訳『おさるのジョージを教室で実現 好奇心を呼び起こせ!』です。おさるのジョージは原文絵本には「Curious George」とあり、直訳すれば「好奇心のジョージ」です。まさに、ジョージは好奇心のシンボル。その好奇心ゆえにかわいらしく愉快なトラブルばかりのお話ですが。

 




PLC便り 新刊『「おさるのジョージ」を教室で実現 ~  好奇心を呼び起こせ!』

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/10/blog-post.html


PLC便り 書評:『「おさるのジョージ」を教室で実現~好奇心を呼び起こせ!』

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/11/blog-post_8.html

 

 

本書では好奇心を授業に活かすそのよさを以下の3つにまとめています。

    好奇心は内発的な動機を活性化し、維持し、深い学びを起こしやすくする

    好奇心はドーパミンを放出し、喜びをもたらすだけでなく観察力と記憶力も向上させる

    好奇心旺盛な人は高い認知能力を発揮する

 

好奇心を授業に結びつける効果的な実践例が紹介されています。人は、動機付け無しに学習することはあり得ません。やる気は外からの報酬によって作られるものではなく、心の内側からやってみたい、知りたいといった内面の好奇心から生まれるものです。これを阻害しているのが、追い立てられるカリキュラム、評価や成績、認められたい・褒められたいといった気持ちなどの心理的ストレスです。残念な事実は、好奇心を失っている得られる学びはほとんどありません。

 

優れた成績の証として与えられる金賞などの外部からの報酬は、子どもの内発的動機付け、自身、自己決定が損なわれるエドワード・デシらによってエビデンスが示されています★。逆に、ある活動が内発的動機付けによってなされている場合は、報酬はその行為自体の一部となり、報酬はただの小さな贈り物程度と位置づけられます。内発的な動機は、ある程度の自由、学習の決定権、自信がなければ維持することができません。

 

教育哲学者であるアルフィー・コーンは、

“もし成績をつけなければ ならないのであれば、生徒には2つの選択肢だけを提供するようにと推奨しています。選択肢の1つは「A」であり、もう一つは「まだ終わっていない」というものです。生徒がその学習をマスターしているかまたはまだ学習を終えていないかのどちらかというとしかいえないからです。”

本書「好奇心を活用する方法⑪ 努力とプロセスのみを評価する」P.118より

 

テストとは終わりではなく、また理解のプロセスのまっただ中と理解することで、学びは続けることができますね。ちょっとだけこれまでの視点を変えることで子どもたちがいきいきと学び始めることができます。その教室で好奇心を活用する効果的な実践方法が33挙げられています。ここに各章の中から、3学期に使えそうな方法を紹介します。そして、本書を読むことで、好奇心を活かす理論やその方法の背景について併せて学習してみてください。

 

好奇心を活用する方法② 生徒に探究の方法を選んでもらう

【第1章 探究と試行を促進する 教室での探究と試行についての足場づくり】 

たとえば、生物であれば細胞についての授業で、興味に応じて6つか7つの異なる方法を選べるようにすることです。植物細胞の確認を終えたら、動物細胞のスライドガラスを観察するのかPCを使ってさらに画像を探すのか、または、顕微鏡の歴史、様々な動植物細胞の比較などの様々な選択肢から生徒が学習方法を選択することです。最終的にはどうなるのか、きっと夢中になって学ぶでしょう。

 

好奇心を活用する方法⑥ アクションリサーチ・プロジェクトを実施する

【第2章 学習を自立的で苦にならないものにする 生徒たちによる学習は生徒自身が決める】

総合学習の学習内容に現在生徒がもっている情熱や興味を結びつけます。地域の課題解決から優先順位を立て、カリキュラムと照らし合わせて、チームを結成しプロジェクトの計画づくりから実行します。それは、自分たちの地域の課題解決に市民としてか変わるコミットメントを高めることになります。

 

好奇心を活用する方法⑫ 正解したものだけをマークする

【第3章 内発的動機づけを取り入れる 失敗を受け入れる】

宿題の確認では、正答だけに印をつけ、間違った答えはそのままにして残しておきます。何が失敗なのかから何が正しいのかへ視点を移すだけです。プリントが返されると生徒たちは熱心に目を通し、自分の考えを振り返り、促されなくとも間違えを理解しようとします。しかも、メタ認知が高まるといったオマケつきです。

 

好奇心を活用する方法⑯ 協力してつくり出す物語

【第4章 想像力・創造力を強化する ストーリーテリング】

物語つくったり演じたりすることは想像力や物語を使って好奇心をかきたてる一つの方法です。ロールプレイ(役割演技)をすることで、生徒たちが読んできた物語や各自でまとめた歴史新聞など、想像力を使って感情的に結びつけることができます。役割を演じることで、登場人物になり、同時に複雑な役割関係をも理解することもできます。

 

好奇心を活用する方法㉒ 100個の質問をする

【第5章 質問することを支援する 子たちたちの質問】

ひとつのテーマで100の質問を考えます。素朴な疑問から、少しずつ分析な質問をするようになります。2030個も出せばアイディイアはつきてしまいますが、他の生徒とペアを組んで自分の質問リストを組み合わせながら100個に近づけるか試してもらいます。これを繰り返すことで、日頃の授業でも質問する習慣が身についてきます。

 

好奇心を活用する方法㉙ より長い時間のまとまりを週のスケジュールでローテーションする

【第6章 時間をつくる フロー状態】

授業の最後になってようやく学習に盛り上がりを見せ本領発揮することが多く、終了間際には夢中になっている活動を中断しなければならないこともよくあります。これまで11コマだった授業を2コマ続きとすることで、試行錯誤を伴う活動では、途切れることのない長い時間が好奇心を開花させます。

 

好奇心を活用する方法㉝ 外での学びを生み出す

【第7章 好奇心の環境をつくる 明るさ、騒がしさ、暗さ、静かさ】

「天気が悪いなんて事は無い。服が悪いだけだ」と、雨の日であっても好奇心に溢れた教室の子どもたちと野外に出かけましょう。子どもたちは世界がどのように機能しているのか、自然現象や周りの世界に興味をそそられます。観察し、耳を傾け、小さな生態系に気づけるようになるからです。木下に座って物語を読んでいる。遊び場で友だちと一緒に物語を書いてみる。厚手のコートを着て歌いながら歩いてみる。学習の空間として校庭を使ってみましょう。

 

 

コロナ禍での新学期。スケジュールをこなすことや焦りから一歩離れ、子どもたちの好奇心を引き出す具体的な取り組み、してみませんか? 好奇心の目を輝かせた子どもたちの姿を実感すればするほど、子どもたちにとって本当に大切なことが身に染みます。私たちにはまだ教育を変えていけるその力があります。そして、私たち教師が好奇心を失わないことです。

“人間、好奇心がなくなったらおしまいだ。” 遠藤周作 ★★

 

 

エドワード・L・デシの『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』は、内発的動機付けを「自律性」(=自己選択)、「有能感」、「関係性」から解説したやる気を理解するには最良の本です。

 

★★

遠藤周作はシリアスな小説以外にも『ボクは好奇心のかたまり』『好奇心は永遠なり』など、幅広い好奇心に基づいた愉快なエッセイ・対談集もおもしろいです。



★★★

PLC便りの好奇心に関連する最近のブログ


「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/10/blog-post_11.html


センスオブワンダー

https://projectbetterschool.blogspot.com/2019/04/blog-post_28.html


新刊『好奇心のパワー』

https://projectbetterschool.blogspot.com/2017/02/blog-post.html

 

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