「世論力学」とはなじみのない言葉です。これは、『銀河の片隅で科学夜話』(全卓樹・朝日出版社2020)の第13夜「多数決の秘められた力」で紹介されていたものです。著者の全卓樹さんは理論物理学者で現在、高知工科大学で教鞭を取られています。
「世論力学」とは、パリの理工科大学であるエコール・ポリテクニークの理論物理学者・セルジュ・ガラム博士の考案したもので、社会の多数意見の形成過程に、数学的法則が隠されているのではないかと考え、生み出したものだそうです。
その「世論力学」の出発点としてこの本には次のように書かれています。
世論力学の出発点は、われわれの周囲で日常的に行なわれる民主主義的な多数決選挙の、突き放した観察であった。
多数決の通常の数学的正当化は「三人よれば文殊の知恵」の原理に基づいている。判断の確度が5割以上ある人たちを集めて、各人独立な曇りない意見を持ちよって多数決を行なえば、人を増やすにつれ10割にいくらでも近い判断の確度が得られる、というのである。この原理を発見したのは18世紀フランスのコンドルセ侯爵であるが、事情はインターネット直接民主主義の効用が唱えられている現在でも変わっていない。 ~途中省略~
ガラム理論では、賛否の意見もった個々人がたくさん集まって多数決に参加する状況を想定し、その際すべての個人が二つのタイプのいずれかに属すると考える。定まった意見があって常に賛成または反対の意見を持ち続ける「固定票タイプ」と、他人の意見を絶えず参考勘案して賛成反対を決める「浮動票タイプ」である。
ここで、その理論の結果として紹介されていることは非常に興味深いことです。というのも、「固定票タイプ」が少し混じっただけで、様々な意見調整を経ると、最終的にはその固定票タイプの意見に集約されていくというのです。特に、「固定票タイプ」が全体の17%以上いるときには、時と共に全員がその固定票タイプの意見になってしまうというのです。
この力学は、政治の世界だけでなく、商品の選択などにも働いているようです。昨年から爆発的にヒットしているアニメ映画などもその実例かも知れません。「付和雷同」という言葉もありますが、日本人の特性として「同調圧力」が様々な場面で働くとよく言われますが、それがこうした現象に拍車をかけているのでしょうか。
先ほどの「17%の確信的な人々」がいれば、それがいずれは全体の多数意見になるというのは、少し希望の持てる話です。なぜなら、このコラムで取り上げているような「学びのスタイル・学び方・教え方」がいずれは多数意見になるということも期待できるからです。これまでやってきたことにいつまでもしがみつこうとする日本の教育界が雪崩を打って、変わる日もそう遠くないのかも知れません。
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