2019年11月23日土曜日

PDCAサイクルの神話

この「PDCA」という用語をめぐってはいくつかの神話があるということを初めて知りました。社会方法調査論や組織社会学が専門の佐藤郁哉さんの著書『大学改革の迷走』ちくま新書2019.11に書かれていた内容を紹介します。同書の92ページから96ページにかけて次のような説明があります。

     使用言語に関する神話
×(誤解)PDCAは英語表現である→〇(事実)和製英語である
PDCAPlan ,Do ,Check ,Actionは通常アルファベット表記されます。そのため、これらは英語の略語と受け取られる場合が少なくありません。しかし、これは完全な誤解です。・・・・(以下省略)

     発案者をめぐる神話
×最初にPDCAを提案したのは米国の統計学者エドワーズ・デミングである
→〇提唱者は日本の工学者である
使用言語をめぐる神話は、PDCAサイクルの発案者をめぐる誤解と密接に結びついています。・・・実際には、PDCAサイクルは1960年代に、石川馨(東京大学教授を経て武蔵工業大学学長)と水野滋(東京工業大学教授)の両氏を中心とする日本の工学者たちによって提唱されていった手法なのです。・・・(以下省略)

     学問分野に関する神話
×経営学分野の学術用語である→〇生産管理や品質管理の分野で使われてきた経営用語である
『新大学評価システムハンドブック』(大学基準協会2009)には次のような解説があります-----「経営学で言われてきたPDCAサイクルとは、目標・計画を立て(Plan)、実行し(Do)、結果を点検・評価し(Check)、改善・見直しを行う(Action)といったプロセスを意味しています」。これは、明らかに事実とは異なります。・・・・(以下省略)

     国際的な認知をめぐる神話
×国際的に広い分野で高い評価を受けてきた→〇限定された分野で一定の評価を受けてきた
PDCAサイクルの図式は、1990年代後半から2000年代にかけてISO14001(環境マネジメント・システムに関する規格)ISO9001(品質マネジメント・システムに関する規格)などの国際認証規格シリーズにも取り入れられてきました。この点を根拠にして、PDCAサイクルが国際的に広い範囲で高い評価を受けてきた、という印象を与えるような解説がなされる場合があります。しかし海外では、認証規格や工業製品の品質管理の分野以外では、PDCAサイクルが取り上げられることはそれほど多くはありません。

     汎用性に関する神話
×広い適用範囲を持つ万能のマネジメント・サイクルである→〇特定の業務については有効である
日本では、PDCAサイクルをほとんどあらゆる業務に応用できる経営原理として扱うことが少なくありません。実際、PDCAが適用可能だとされる業務や課題の範囲は、企業活動だけでなく病院や学校の運営、資格試験のための勉強さらには「婚活」にいたるまで非常に多岐にわたっています。
これは一種の幻想に過ぎません。・・・(以下省略)
 
 どうですか。これが「PDCAサイクル」の神話です。
多くの組織がその出所をよく確かめもせずに、いわゆるコピー&ペースト「コピペ」をしてきたわけです。そもそもの適用範囲は工業製品の生産管理・品質管理の範疇でした。それを学校のマネジメントにまで拡大解釈して、果てはカリキュラム・マネジメントに応用することなど、もっともらしい話として語られてきたわけです。
先ほどの③に登場した大学基準協会のハンドブックにも書かれていました。学生にはコピペするなと言いながら自分たちがやっていたという笑えない落ちまでついてきました。この協会自身がPDCAサイクル(?)を回してこなかったことを図らずも証明したようなものです。
それと文部科学省です。最近、「PDCAサイクル」を呪文のように唱えてきた文科省自身がこのサイクルを回していたならば、この30年ほどの様々な施策がほとんど失敗するようなことにはならなかったでしょう。(もっとも彼ら自身は失敗とは認めないでしょう。官僚に誤謬はないそうです。)

これ以外にも、これまでの文教施策が迷走してきた理由が明解に説明されています。興味のある方はぜひ、佐藤郁哉さんの著書『大学改革の迷走』ちくま新書2019.11をお読みください。
また、審議会方式の意思決定のあり方がいかに恣意的なものであるかなどについても考えさせられることがたくさんあります。結論ありきで官僚の書いた筋書き通りに進められる政策決定のあり方を根本的に考え直す時期に来ています。
教育の世界で言えば、「中央教育審議会」における「教育には素人の人々」の思い付きの発言がいかに本質をゆがめているか、あるいは利益誘導とも思える大学入試をめぐる最近のさまざまな出来事など、その類の事例には事欠きません。まず、そのような事実を多くの人と共有することから始めるしかないようです。

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