2023年2月25日土曜日

教師自身が絶えず挑戦することの大切さ

 

今日の教え方・学び方のイノベーションの視点の一つは「個別化」です。ただ、言うのは簡単ですが、実行するのは容易なことではありません。

3年前から家族で学習塾を開いているのですが、その塾のコンセプトは「個別学習」です。「個別最適化」はICT教育において盛んにPRされていますが、その子の学びの特徴や学びの内容、また性格に応じたサポートのあり方など考えればきりがありません。しかし、ボランティアではないので、どこかで妥協することも必要です。したがって、いつも理想と現実のはざまを行ったり来たりしている状況です。「個別最適化」で、参考になる文章に出会いました。

『英語と日本人』(江利川春雄・ちくま新書2023)です。(同書279ページ) 

「個別最適な学びとは各自がコンピュータでAIドリルを解くなどの究極の習熟度別授業だ。これを先行実施した諸外国の研究では、教育効果が乏しいことがわかっている。学習者同士のつながりを断ち切り、孤立させてしまう。脳を最も活性化させ、学びを深めるのは、人間同士の協同的で探究的な活動である。

これらを知った上で、デジタルやAIを外国語学習に慎重かつ限定的に活用する必要がある。」 

その通りだと思います。デジタル教材はどの教科でも限定的に使うというスタンスが望まれます。ただ常に学習を変革していくという姿勢は大切です。

「学習は変革につきものだ。うまくいっても、いい気になると、昨日通用したものが明日も通用するという錯覚に陥る。」(『教育のプロがすすめるイノベーション』第1章7ページ・新評論・2019)

 まさにその通りで、ある子どもにうまくいったからといい気になっていると、別な子どもにはさっぱり通用しないということがよくあります。まさに使いまわしが利かないのが一人ひとりの学習です。同書15ページには次のような記述もあります。

「教師にとって毎日問われなければならないことは、「この学習者にとって、何が一番よいのだろうか」ということです。」

 今でも、「この学習者にとって、何が一番よいのだろうか」というフレーズは常に自分自身に問い続けていることです。このような問いかけこそ、イノベーションのスタートであると、同書にも書かれています。(14ページ)

 また、その部分には「奉仕する」という言葉が出てきます。そこの訳注には、「日本の教育界で、『教師が生徒に奉仕する』という感覚はまだ希薄だと思いますが、単に「かかわる」や「接する」と訳してしまっては、教師自身が絶えず挑戦し、変わる必然性は見えてこないと思いますし、この言葉が原書のキーワードの一つであることからも、この聞きなれない言葉を使うことにします。」とあります。この「奉仕」という視点は、教師としての使命感に通じる大切なポイントです。

また「教師自身が絶えず挑戦」ということもイノベーションに通じるものであると思います。『変わらないために変わり続ける』とは、生物学者・福岡伸一さんの有名なフレーズですが、教師も学校も、「変わり続ける」必要があるのではないでしょうか。福岡さんによると、ヒトの体を構成する原子は、1年もするとすべて入れ替わるとのことです。原子レベルで言うと、1年前の私と今の私は別人なのです。ですから、人は自身が変わろうと思えばいくらでも変わることのできる存在という見方もできます。そう考えると、面白いですね。

イノベーションというと何か全く新しいものをつくり出したり、新しいことをやるといったりしたイメージが強いですが、たとえば、「授業で自分がしゃべる場面を減らして、子どもたちの発言を聞く」というところからスタートすることでも充分だと思います。

そうした際にはぜひ自身の「質問・発問」を見直してみるのが良いですね。質問・発問を考えるならば、『たった一つを変えるだけ』『質問・発問をハックする』(どちらも新評論)がとても参考になります。

2023年2月19日日曜日

評価は多様な視点で

年度末になると「評価」が始まる。私はこの時期あまりハッピーではない。というか、いつも悩み続けているといった方がいい。

不合格をつけるときは、本当にそれまでに十分に声がけや励ましをしたのか、学習のプロセスは適切だったか、さまざまなことに思いを巡らせ、難しい決断をします。良い成績を残している学生たちに対しても同様です。十分に学びがいのある内容であったか、それによって、気づきや成長をもたらすことができたのかといったことは、とても気になります。それを、5段階(私のところは、AA,A,B,C,Fです)の単純な記号や数値に置き換えて示す。実に難しいと思うし、納得のできない思いが残り続けます。

各学校が、一年間の教育実践を評価(自己評価)し始めるのもこの時期です。私は、職場のある町の小学校のコミニティースクール運営指導委員会の委員をしていて、先日は学校が一年間の取り組みを自己評価し、それに対して運営指導委員会が意見を述べるという会合がありました。この日、学校が示した自己評価は、S,A,B,CのうちすべてがB。日頃から学校の様子を見ている委員からも、「そんなに低いはずがないだろう」との意見がでました。学校の見解を正したところ、「この程度の目標は、100%達成されて当然である」と頑なに主張する人がいて、達成度が80-90%を超えているものも、ことごとく低評価になっていたというのです。当然のことながら、委員からは「達成可能なゴール設定をすることが大切ではないか」との意見が出されました。

研究指定校なども年度末の実践を評価します。私のかかわってきた学校では、実践研究の客観性を高めたいとの思いが強すぎて、数量的データを多用しすぎる事例もありました。数値的、量的な評価にのみ依存してしまうと、授業の中で測定しやすいデータのみを取り出そうとするなど、単純化、断片化した結果分析に陥る危険性もあります。

教育というのは、とても複雑で、雑多な営みです。そして、人間的営みであるとも言えます。数量的データに加えて、教員による観察やひらめきが必要だったりすることもあるはずです。

評価のためのデータ収集の方法も多様化すべきです。いくつか事例を紹介しておきたいと思います。★1

1  授業記録(フィールドノート)
2  授業記録のグラフ化(タイムログ)
3  観察ノート(生徒の発言の回数を記録するなどテーマを設定して)
4  日誌や感想文(ジャーナルとも呼ぶ)
5  ビデオによる撮影
6  転写(トランスクリプション、授業内の発言を文字で書き起こしたもの)
7  写真や絵
8  言葉による収集(アンケート、インタビュー、生徒の事故報告、生徒の作品など)

また、一つの数値や記号による評価に、様々な要因を入れ込むことへの対応策として、「三つのP」を使ってはどうかという提案は、実に示唆に富んでいます。★2

三つのPとは次のようなものです。

Performance / Product(パフォーマンスないし成果物):学習目標としての知識・理解・スキルに対する生徒の状況

Process(プロセス):困難な時にどのようにやり通せるか、改善するのにどうフィードバックを生かしているか、必要に応じて確認の質問ができるかなど

Progress(成長):成績表をする期間における学習目標としての知識・理解・スキルにおける生徒の成長

この3つのPを平均して成績を出すのではなく、それぞれが別々に報告され、それぞれが何を表しているのか明確な指標と一緒に提示されるとしています。

評価は、懲罰のためにするものではないはずです。生徒や学校が成長するために、本当に必要な評価とはどのようなものか、これからも考え続けていきたいものです。




★1  佐野正之(2000)『アクション・リサーチのすすめ』大修館書店, pp. 61-85.

★2  C.トムリンソン&T.ムーン(2018)  『一人ひとりをいかす評価: 学び方・教え方を問い直す』北大路書房, pp. 193-196.

2023年2月12日日曜日

ナンシー・アトウェルから学ぶ「段階評価」よりも「丸ごとの評価」

 前回は、ナンシー・アトウェルの実践をもとに学習者の自己評価における重要性についてふれました。アトウェルは各学期末に行う質問用紙「自己評価用紙」を使って、自己評価を総括的な評価に活用しています。

 

PLC便り: 『イン・ザ・ミドル』から学ぶ 学期末に向けた自己評価

 http://projectbetterschool.blogspot.com/2023/01/blog-post_08.html


 

『イン・ザ・ミドル』から、今回は「教師からの評価」について考えていきます。

 




私は1つひとつの作品に成績をつけることはしません。同書P.330

 

例えば、アトウェルは、 ライティング・ワークショップ(日本における「作家の時間」実践)においては まず生徒の自己評価を読みます。それから、生徒がするのと同じように、評価の根拠になるものを以下の資料を見てふるい分けていきます。

 

完成作品ファイル、批評家ノート、簡単な説明書きを加えたポートフォリオ(自分で選ぶ一番良いレター・エッセイ、筆記記録と読書記録、自分のメモ付きの一番良い詩、校正項目リスト、役に立ったミニレッスンの情報)、 毎回授業で使う今日の予定表とチェックイン表などなど。これらすべてのデータに基づいて、 学習者の読み書きについて、まずメモ書きをしてから、生徒の成長記録を書くというわけです。

 

そのあらゆる場面で、生徒は書き手として成長しています。一つの作品で、生徒の能力を正確に測ることなど不可能です。ある作品は、生徒の成長過程にある段階を示しているに過ぎません。しかも、新しい技巧、形式、ジャンルに取り組むのは、どの年代の書き手にも負担が大きく、いつも前進できるとは限りません。同書P.330

つまり、学習者の成長には、一直線ではいかずに、なかなか時間のかかるものなのです。

 

ここにアトウェルの評価観は、学習者を総合体として丸ごとみようとする重要さを示しています。このあたりの感覚は日々「個別最適」に翻弄されてしまう私たちとって、学ぶことが多くあることでしょう。

 

パーソナリティー心理学においては、学習者を各要素に分けたその総和として「個」を理解する「特性論的アプローチ」の限界がすでに指摘されてきました。(Argyris1957) 現行における個別に評価される観点別評価は、一人ひとりを要素にわけて「できる/できない」といった視点で捉えると一見、合理的のように見えます。しかし、学習者を一人ひとり、かけがえのない唯一無二のユニークな存在としてみることができません。トータルな総合体としてまるごと捉えることこそがより重要な実践的課題となっています。

 

この段階別の成績を出さざるを得ない状況においても、学習者の目標設定をもとに評価を決めようとアトウェルは既に対応していました。

 

教師が評価をするのではなく、読み手、書き手としての自分で設定した目標の進捗状況を土台にすることで、この問題を解決しました。各自で立てた目標達成していればA。着実に学び、一定のレベルを超えていたらB、 水準レベルで可もなく不可もなければC、目標に遠く及ばず取り組み不足のせいとはD、になりました。同書P.340

 

ここにおいても生徒の自己評価をベースにして、教師からの評価をしている点が特徴的です。これは、通知表の文言をさがすためのあらかじめ生徒にとる事前アンケートとは全く意味が異なります。

 

意味のある評価は、自分の学習成果への見方、先生からの見方が一致すること、結果、それが信頼性となります。こういった評価を工夫することで、評価が誰の物かが明確になるはずです。

2023年2月5日日曜日

新刊『学びは、すべてSEL』を読んで

 今週末に出る予定の『学びは、すべてSEL』(ナンシー・フレイほか著、新評論)の下訳段階の原稿を去年の夏の間に読んでくれていた私立かえつ有明中・高等学校の大木理恵子先生(国語)が、書評を書いてくれましたので紹介します。

SEL(感情と社会性の学習)が生徒にとって大切なもので、教室の中にその実践を取り入れたいと思ってはいるものの、そのための特別な時間を捻出することはできない、と足踏みをされている先生方も多いのではないでしょうか。この本は教科の指導とSELの取り組みは別枠で取り組むべきと思い込んでいた私に目からウロコの視点を与えてくれました。

 本書を読むと教科指導にこそSEL の土台づくりが必要だということがよくわかります。生徒たちが本当に「よく学ぶ」ためには、彼らのエージェンシー(主体性)が必須です。そのマインドセット(無意識の思考・行動パターン)が出発点となって、真に意義ある学びの世界の扉が彼らの前に開かれます。生徒たちが自らの感情に意識を向け、そして上手に扱えるようになること、また社会性を育み、共に生きる他者との良好な関係性を結ぶことで、生徒にとって安心安全の場がつくられ、自らの学びを豊かに広げていける環境は整っていきます。SELを単独で扱うのではなく、教科の学びのベースとして組み入れていくことが、生徒の学びをより充実したものにしていくだけでなく、豊かな成長を促すという相乗効果が期待できるという点でも、非常に重要なアプローチだと思います。本書は、教科の中でどのようにSELを扱うのか、豊富な実践例が紹介されています。

さらに本書は、生徒の成長マインドセットを育む機会は日常の何気ないシーンの中に転がっていることを教えてくれます。生徒からの些細なサインや私たちにとって好ましくないような行動にこそ、彼らのマインドセットをより良い方向へ変えていくチャンスがあります。彼らの一番身近にいる大人である私たち教員が、彼らのサインを見落としたり、目を背けたりせず、丁寧に受け止め、豊かな学びの世界に招き入れるためにも、SELのスキルや知識を理解し実践していくことが大切です。そのための指南書として、本書は多くの先生方に手にとっていただきたい一冊です。

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2023年1月28日土曜日

『デンマルク国の話』

デンマークは人口579万人(2020年の統計資料による)、国土の面積は43千平方キロと、日本の約九分の一の広さです。立憲君主制で、女王マルグレーテ2世が在位されています。

自治領として、グリーンランドとフェロー諸島があります。最近放送されたテレビドラマでこのフェロー諸島を舞台にしたものがありましたが、手つかずの自然が残る地域のようです。ただ、北欧に近く、いかにも寒そうな印象を受けました。

 さて、何でこのような話をしたかというと、年明けに内村鑑三の『デンマルク国の話』を久しぶりに読んだからです。私が最初にこの話を読んだのは、中学生のころでした。もう半世紀以上の前になりますが、その後の生き方に大きな影響を受けました。

 これは、1911年10月に行われた講演がもとになっているものです。 

その内容はおおよそ次のようなものでした。

1864年、ドイツとオーストリアとの戦争に敗れた小国デンマークが南部の肥沃な土地を奪われ、経済的にも困窮しました。それを植林によって、肥沃な大地をつくり出し、国を立て直したという実話に基づくものでした。その中心がダルガス親子なのですが、不屈の精神をもって、作物の育たない不毛の大地を肥沃な土地に変えていくという、多くの人に勇気と希望を与えた話です。当時、内村は最愛の娘を亡くし、人生の大きな試練に立たされていたのですが、そのさなかに自らの生きる力を鼓舞するようにこのお話を語ったということです。

また、『後世への最大遺物』も多くの人々に力を与えてきましたが、『君たちはどう生きるか』の著者である吉野源三郎も内村に大きな影響を受けた一人です。彼が、高校生のときに内村の『リビングストーンの一生』という講演を聞き、その感動を長く忘れることはなかったと書いています。その後『後世への最大遺物』に触れる機会があり、それが自分の人生に不安を抱いたときに自分を支える大きな拠り所となったようです。

この二つの講演はこれからのわが国の未来を考えるうえで、とても大きな指針になるように思います。また、人間の強い意志というものは、人から人へと伝わっていくものであることがわかります。ここにこそ未来への希望があり、「バトンを渡していく」ことが教育の大きな目的であることを改めて確認させてくれます。 

2004年の国立大学の法人化に伴って、国立大学の予算を年に1%ずつ削減していきました。このことが今になって、じわじわと日本の科学技術の先行きを暗いものにしています。

思いつきのような施策を展開するのではなく、百年先を見据えて手を打つことがいかに大切か、私たちも内村や吉野から受け取ったバトンを次世代につないでいきたいものです。

前回も書きましたが、日本の企業の稼ぐ力が本当に弱くなっています。過去の成功体験に引きずられて、なかなか改革の進まないのは、あらゆる分野に共通することです。ここでじっくりと未来を見据えて新たな道を切り拓くことです。多くの若者が未来に希望が持てるようなイノベーションをあちこちで起こしてほしいものです。 

2023年1月22日日曜日

新刊『成績だけが評価じゃない ~ 感情と社会性を育む(SEL)ための評価』

 これまでに評価関連の本は、すでに何冊か出してきました。たとえば、

・『テストだけでは測れない! : 人を伸ばす「評価」とは』

・『成績をハックする ~ 評価を学びにいかす10の方法』

・『一人ひとりをいかす評価 ~ 学び方・教え方を問い直す』★

です。それらに加えて、なぜ新たな本を加える必要があるのでしょうか?


  著者本人の言葉(「はじめに」より)で紹介します。

私たちが生徒を評価する方法を思い浮かべれば、何を重視しているかがよく分かります。また、それを重視すれば誰が一番得をするのかという点についても分かります。誰が意思決定をしているのか、そしてその決定が、生徒を評価し、レッテルを貼り、彼らを無気力にしてしまうプロセスをつくりだす方法にどのような影響を与えているのかについて、教師として認識しなければなりません。言い換えれば、生徒にレッテルを貼ってしまうと、彼らに固定観念をもたせてしまい、時にはそのレッテルが剥がせなくなってしまうということです。

生徒は、教師の話すことを聞き、それを自分のなかに取りこみ、良くも悪くも「これが自分だ」と信じこんでしまいます。

本書の目的は、管理職と教師などの教育者を対象にしたもので、「感情と社会性の学習(SEL)」★★を教科内容に組みこんで評価を実践する場合、どのような評価が最適なのかについて検証する際に手助けすることです。そして、その結果、すべての生徒が学習に対する前向きな気質を育み、学校と教育の制度が一人ひとりの学びの尊厳を保障することを目指します。

たとえ教育を管理する際の効率化のためであっても、テストや成績を使って子どもを序列化してはいけません。また、「将来、あなたはリーダーという立場に就くとよい」とか「あなたは従属的な役割が向いている」などと社会的なヒエラルキー(階層)を指定するようなことが言ってもいけません。

 (中略)


私は、オルタナティブ・アセスメントとアセスメント改革にかかわってきた経験(『成績をハックする』を参照)とSELに関する研究から、これらの領域が重なる部分をさらに深く掘り下げる必要があることを知りました。そして研究を進めるなかで、核となる5つのSELに出合いました。これらのスキルは、教科指導とSELの統合を推進する目的で1994年に設立された非営利団体「Collaborative for Academic, Social, and Emotional Learning=CASEL」によってまとめられたものです。

●自己認識とは――自分の感情を認識し、それに名前をつけ、その感情が自分の学習、他者とのつながり、自分の反応などにどのような影響を与えるのかを特定する能力です。評価の観点では、自己認識は振り返りの形で現れ、生徒自らが学びとったことを根拠にして、自分の知っていること、できることを表現する能力です。生徒自身が自分の学習状況を理解すれば、自分が何を必要としているのかを私たちに伝えられます。

●自己管理能力とは――自分の感情を調節し、整理して、自らを動機づける能力です。ここでは、目標設定と結果責任について考えます。生徒は振り返りのなかで、自らの形成的な学習経験からのフィードバックを受け取り、次の目標設定に活かせます。このようにして私たちは、学習状況を把握し、目標を設定し、自己評価への理解を深めるように生徒を指導します。

●社会認識とは――他者の視点をもって、他者に共感する能力です。また、文化的な認識と多様性にもかかわるものであり、さらに教育の場合は公平性(公正)の問題ともなります。評価の領域では、クラスメイトからのフィードバックと相互評価を指します。

生徒がお互いに協力しあい、より良い学習環境が構築できるように指導するときは、少し難しい会話ができるような空間をつくって、私たち全員が学習者として成長できるようにします。また、他人の対応やフィードバックの仕方についていえば、その人を丸ごと理解していく必要があります。

●対人関係とは――私たちを互いに結びつける、持続可能で健全な人間関係の形成です。この能力において鍵となるのは、コラボレーション(協働)とコミュニケーションです。教室において、とくに評価にかかわる会話のなかでは、いかに協力して一緒に取り組めるようにするのか、つまり問題を解決するための方法を提供するといった形で生徒が共感し、理解するために、お互いの声に耳を傾けられるようにしなければなりません。

こうした関係性のスキルを深く学ぶ機会を何度も設けて、雰囲気づくりを行うなど、将来、一緒に働く人たちとのコミュニケーションが円滑になるための準備をします。

●責任ある意思決定とは――状況を把握し、起こりうる結果を検討しつつ適切な選択をすることです。問題を特定し、複数の解決法を考え、そのなかから一つを選んで行動を起こします。

この能力を評価するためには、生徒が何をしなければならないかを見定め、よりよい選択ができるような機会を提供する必要があります。生徒の意見が一致しないときに介入するのではなく、意見の相違を自分たちで解決させて、その会話がどのように学習を改善したり、妨げたりしたかについて振り返ってもらいます。さらに、この能力はプロジェクト学習の一環となるので、単に時間を管理するだけでなく、生徒の各チームが目標を達成するように配慮します。

これら5つのSELの核となる能力は、学習するときを含めて、生きていくうえで不可欠となる「思考の習慣」(https://projectbetterschool.blogspot.com/2022/11/blog-post_20.htmlの2つ目の表を参照ください)として研究者が提示しているものと重なります。それらはすべて教えられますし、教えられるべきものです。また、誰にも居場所があるクラスを築くために、すべての年齢層の生徒と接する際には不可欠な要素となります。

 (中略)


本書では、第1章から第4章までにおいて「CASEL」の能力を取り上げ、その内容と、生徒の感情と社会性のウェル・ビーイングを促進しながら、子どもたちの学びをよりよく評価するために学校がすべきこと、そしてそれらの能力との重なりを説明していきます。

また、各章では、単元末のテストや総括的な文章課題だけでなく、継続的に行われる日々の形成的評価も含まれていることを念頭に置いて、全人教育(「whole-child education」のことで、教科の学習だけでなく、感情と社会性の発達など、子どもの成長を包括的に支援する学びを指す)とその評価の経験を築くための授業のあり方を紹介していきます。さらに、第5章では成績について、第6章では個別の評価について取り上げています。

評価とは、固定的なものではなく活動です。すべての生徒が必要なものを得ていると確認するために、継続的に取り組む形成的なプロセスであることを忘れてはいけません。日常的に生徒の学習を評価するというのは、いうまでもなく教師の責任です。これは、教師だけでなく生徒にとっても重要です。

生徒は、自分が何を知っているのか、何ができるのか、そしてそれをどのように学んだのかについて話し合う必要があります。一方、教師は、すべての生徒が効果的に学習できるように、指導はうまくいっているのか、何を修正し、改善する必要があるのかについて知る必要があります。

テストに表れるような成績は、評価全体のごく一部分でしかありません。目につきやすいため思わず重要視してしまいますが、ほんの些細な部分にすぎないのです。このような総括的なものでは、子どもが何を知っていて、何ができるのかは明らかになりません。さらに悪いことには、その後の学習に役立ちません。

フィードバック、振り返り、そして生徒一人ひとりのニーズを考慮した個別的な学習アプローチこそが効果的な学習者を育てるのです。このような学び方であれば、生徒が新しい知識やフィードバックを適用し、練習し、目標を設定し、教師やクラスメイトの助けを借りながら、スキルや内容についての知識を習得する機会が継続的に提供されます。このような取り組みこそ、私たちが重視すべきことなのです。

 

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ご希望の方は、①書名と冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 

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※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。

 

★上記のリスト以外に、本全体ではなくても、その一部(かなりの部分)で評価が扱われているものには、

・『イン・ザ・ミドル ~ ナンシー・アトウェルの教室』

・『歴史をする ~ 生徒をいかす教え方・学び方とその評価』

・『一人ひとりを大切にする学校 ~ 生徒・教師・保護者・地域がつくる学びの場』

・『シンプルな方法で学校は変わる ~ 自分たちに合ったやり方を見つけて学校に変化を起こそう』

・『あなたの授業力はどのくらい?~ デキる教師の七つの指標』

・『プロジェクト学習とは ~ 地域や世界につながる教室』

・『教科書をハックする ~ 21世紀の学びを実現する授業のつくり方』

・『増補版 「考える力」はこうしてつける』

・『ピア・フィードバック』

などがあります。

 

★★SELについては、

・『感情と社会性を育む学び(SEL)~子どもの、今と将来が変わる』

・『学びは、すべてSEL ~ 教科指導のなかで育む感情と社会性』

・『エンゲージ・ティーチング――SELを成功に導くための5つの要素(仮題)』

を参照してください。

2023年1月15日日曜日

いい授業の妨げになっている指導案(単元計画)と教科書!?

 WW/RW便り: 従来のアプローチ と 求められるアプローチ (wwletter.blogspot.com)★とPLC便り: 『イン・ザ・ミドル』から学ぶ 学期末に向けた自己評価 (projectbetterschool.blogspot.com)の二つの記事と関連して気づいたことです。

 後者に書かれているような評価をするためには、かなりの部分、前者の表の右側の部分が実現できている授業を、年間を通してしていない限りは難しいからです。

 そんななかで、最近、いくつかの(国語、社会、生活、総合など)授業案・単元計画を見る機会がありました。

 それらは、教師ががんばり、生徒はお客さんないし教師にお付き合い(と忖度を強要する★★)授業です。結果的に、私の知り合いの小学校教師が以下のように書いた状態を起こしてしまう授業です。

 

 娘が小学校で勉強をすることを何よりも楽しみにしていたのですが、そんな気持ちもそう長続きはせず、「国語がつまらない」「算数がわからない」と言い出したのです。どうしてなのか尋ねてみると、「登場人物の気持ちを何度も聞かれるのが嫌」というのです。

 

◆目標/ゴールがズレている。

 多くの子どもが夢を抱いて学校に通い始めるのに・・・すぐに、苦役になってしまう実態があります。しかし、学年が上がれば上がるほど、その度合いは増し、「七五三」などと言われる(高校生の7割、中学生の5割、小学生の3割が授業を理解できない)状態も続いています

 日本で目にすることのできるほぼ100%の指導案は、単元の終わりがそのテーマに関する学習の完結になっています(子どもにとっても、教師にとっても)。

 おそらく、教科書を書く人や、教科指導を専門的に考えている人たちは、年間10前後の単元を教師がこなせば、「あるべき教科の姿になる」と錯覚しているからだと思います。それぞれの単元は、ブツ切りになっていますから、そんなことにはなりませんし、教科の「あるべき姿」すら描かれていません!(それとも、どこかに書かれているでしょうか? 学習指導要領の目標? それは、教師に、ましてや生徒に伝わるものでしょうか?)

 何よりも、それぞれの教科を好きになってもらうことが大切です。(果たして、それを念頭に置いて教科書や指導案はつくられているでしょうか? 苦役をやらされ続けて、好きになれる人はいません! 私自身、社会科以外のすべての教科が嫌いになりました。社会科だけは、空間認識に秀でているので、学校で学ぶ/学ばされることとは関係なく、地理や歴史は得意であり好きであり続けました。他の教科も、空間に関連させて教えてくれたら、好きになれていたでしょう!)

 すべての教科で、自立した学び手・考え手★★★になってもらうことも最重要の目標です。(そんなこと言っている各教科の指導的立場にある人はいますか? いたら、ぜひ教えてください。)

 好きになってもらうことと同じレベルで、それぞれの教科で、自立した書き手や読み手や話し手や聞き手(国語)、自立した問題解決者(算数)、自立した探究者(理科、社会)などに育てることが目標です。

 しかし、私自身、上記の目標のどれも日本の公教育で身につけたとは言えませんでした。海外の公教育や大学教育でも身につきませんでした。やっていたことは、ひたすら「正解あてっこゲーム」でしたから、偉大な時間の無駄遣いでした。

 それが、単元ベースで教科書をカバーしていく正解アプローチの限界(おかしさ!)です。一番大切なことを軽視どころか、無視し続けています。

 

 上記の目標を実現するためには、サイクルを年間を通して回し続けることが効果的です(それらは、すべて基本的には同じといえます)。

国語では、WW/RW便り: 作家のサイクルの検索結果 (wwletter.blogspot.com)

算数では、WW/RW便り: 新刊案内『教科書では学べない数学的思考 ~「ウ〜ン!」と「アハ!」から学ぶ』 (wwletter.blogspot.com)

理科では、PLC便り: 新刊『だれもが<科学者>になれる!』 (projectbetterschool.blogspot.com)

社会では、PLC便り: サイクルを回し続けることで自立的な学びの姿勢を育てる『社会科ワークショップ』とは (projectbetterschool.blogspot.com)

そして、生活科でおもちゃ作りなどの単元では、https://projectbetterschool.blogspot.com/2021/05/blog-post_16.html(デザイン思考)が参考になり、これもサイクルを回し続けることでは同じです。小学生(それも、低学年)でも回せてしまうことが、この本で紹介されています。『あなたの授業が子どもと世界を変える』の第7章でも、デザイン思考が紹介されています。

 これらのサイクルを回し続ける(それも、一回や二回程度ではなく、身につけるために何回も回す)ことの大切さを知ったのは、私が50歳、60歳を過ぎてからでした!

 ちなみに、このサイクルを回し続ける教え方は、

https://projectbetterschool.blogspot.com/2015/03/blog-post.htmlの表の一番右側に紹介されている教え方です。別名は「カンファランス・アプローチ」といいます。それは、常に生徒にフィードバック/サポートし続けるアプローチです。残念ながら、表の左側二つのアプローチには、その機能はありません。すでに教師が事前にお膳立てしたシナリオをこなすことが目的になっていますから。それらには、「形成的評価」という発想すらもありません。

 サイクルを回し続ける授業には、すべてWW/RW便り: WWが成功する要因分析 (wwletter.blogspot.com)のような環境も整備されているのが、大きな特徴です。(言い方を変えると、居場所https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784794812247が確保され、SELhttps://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784794812056も、知的な部分と同じレベルで大事にされていることを意味します。)

 

★これの続編が、https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/07/blog-post_16.html で読めます。

★★お付き合いや従順・複縦・忖度に値するような授業は、そうあるものではありませんが、これらは今の学校で「隠れたカリキュラム」として、「見えるカリキュラム」(教科指導)よりもはるかに効果的に生徒たちに身についてしまっています。それに対して、授業の多くが「従来のアプローチ」で行われる限りは、そのほとんどが生徒たちには残らない/身につかない形で行われ、教師だけは「やった、カバーした」と言えるものであり続けます。

★★★「自立した学び手と考え手」と「自立して行動する人」は切り離せない関係にあると思います。前者がないので、「観客や傍観者や忖度する人」をつくり出しているという結果になっていると思います。サイクルを回し続けていたり、適切なフィードバックやサポートを受けたりしていたら、行動を起こしたくならない方がおかしいです! それほど、この世界はおもしろいと同時に、問題をたくさん抱えていますから。