神奈川県立高校の佐藤陽亮先生(数学科)が感想を書いてくれたので、紹介します。
「教師は何らかの意図をもって生徒に声かけをしていますが、それが不安感を落ち着かせることにはならず、その言葉によってさらなる疎外感や孤独感につながってしまいます。(p.23)」
これは、本書の第1章の引用です。教師は誰もが「生徒のために」と様々な前向きな声かけをしますが、その多くは先回りして「不安」を取り除こうとするものではないだろうか。そして、身近な一人の大人である私が誤ったアプローチをすることで、その「不安」をさらに大きくしてしまっているのではないだろうか。本書を通して、不安を抱いている生徒とのこれまでの向き合い方について振り返ることができました。
突然ですが、ある生徒がお別れの際に私にくれたメッセージをご紹介します。
「私は数学がとても苦手で、他の子がすぐに理解して解けるようなとても基礎的なところから理解できないことも多かったのですが、そんなときも先生が一つ一つ丁寧に教えてくださったことで、心が折れずに、嫌にならずに数学を勉強し続けられたと思います」
私はこれまで「丁寧に教えること」の大切さを今後も忘れないように、お守りとしてこのメッセージを大切にしてきました。しかしこの1年間を振り返ると、この生徒は「不安そうな表情をよく見せてくれた」おかげで、躓きそうなところをよく観察でき、授業の中でも「何かできることはあるか?」とよく尋ね、一緒にスモールステップの目標を立てて自ら実行できるようにサポートしてきました。そのようなサポートが偶然できたことは、不安であることを教師に分かるように示してくれたからだと気づきました。しかし、意識していなければ、日々一緒に過ごしている生徒の中には、このように向き合うことができていない生徒も多くいるはずです。
本書では、不安に対する見方を変えるところから、その不安な心をサポートするための具体的な方法について、不安な生徒に直面したときのエピソードとともに述べられています。
「生徒の不安を取り除いてあげたい」という感情を抱くことは自然なことだと思います。しかし、最も大切なことは生徒自身がその不安と向き合って対処できるようになることであり、感情的に生徒と関わって解決しようとしてしまうことは、この先同じ不安を抱えても対処できなくなってしまいかねないというループが起きてしまう可能性があると著者は述べています。生徒が不安を抱いているとき、保護者が冷静に判断して行動することは難しいです。身近な一人の大人である教師だけが、冷静によく見て、判断し、実行できる存在かもしれません。そして、その不安と戦うことができるのは、不安を抱えている本人だけです。そのことから、教師として生徒の心に寄り添うための準備をしておく必要があるのです。
本書を読んだら、不安を抱いている生徒と向き合ったとき、「どうするか」という手立てをもつことができます。その手立ての準備があれば、「どうあるか」という教師としての在り方にも注力できるかもしれません。心の余裕があれば、教室で笑顔で過ごすことができます。教師が笑顔で寄り添ってくれるということが、生徒にとっての安心感につながるはずです。
メッセージをくれた生徒との大切な日々を思い出させてくれた『不安な心に寄り添う』(クリスティーン・ラヴィシー-ワインスタイン著)と訳者に心から感謝いたします。
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