2022年9月11日日曜日

形成的評価できてますか?

この夏に読んだ教育関連の本でよかったものを紹介します。洋書ですが、形成的評価について書かれた本で、実践づくりにとても役立つはずです。

 

Dylan Wiliam, Embedded Formative AssessmentBloomington, Indiana : Solution Tree Press, 2018

 

形成的評価とは「教師と生徒によって行われる学習活動を修正するため、フィードバックに必要なすべての活動」(Paul BlackWilliam,1998)のことです。教師と生徒、その仲間たちが、次の学習に向けた根拠ある意思決定を行うために使われ、生徒がどこまで到達しているのかその証拠を見つけて解釈し、利用するための評価です。テストのための評価ではありません。もし、教師が形成的評価を効果的に使用するならば、1年間で2倍の進歩を遂げられる(Wiliam, Lee, Harrison, & Blade, 2004)強力な教育ツールなのです。

 

著者であるDylan Wiliamは、ロンドン大学教育研究所の元副所長やロンドン大学チェルシー・カレッジ教授を歴任し、形成的評価の第一人者として世界的に活躍してきました。この本は、教育の質を高めるには教師の質を高めることが最善であることを様々な証拠を示し(12章)、形成的評価を日々の授業にどのように組み込むのか「学習目標の明確化とその共有(3章)」「学習したその証拠を引き出すこと(4章)」「学習を前進させるフィードバック与え方 (5章)」「学習者同士が学び合う共同学習(6章)」「学びのオーナーシップをもつ自己評価(7章)」について、それぞれその具体的な実践テクニックを紹介しています。この章立てで、すでに形成的評価の要素が広くカバーされていることがわかります。

 

すべての教育は、①学習者の学習状況を把握し、②学習者がどこに向かっているのかを確認し、③そこに到達するための方法を決定するために(★これはワークショップ授業でおこなわれるカンファランスアプローチそのものです!)、以下の5つの視点で章立てられ説明されています。

 

1.     学習目標の共有

 

学習には、生徒が、その学習の意図や目標を理解することが重要です。それには生徒と教師が協働して、達成基準が明確であるルーブリック共につくると効果的といわれます。より詳細に分割されたルーブリックは、生徒自身が自分の学習が達成基準にどう向かって進んでいるのか、理解するのに役に立つものとなります。以下、日本の教育実践で使えそうな実践テクニックをいくつか紹介していきます。

 

l  長所と短所の話し合い:生徒がつくった作品を見せ、その長所と短所を話し合い、ルーブリック基準をつくる。

l  直後と遅めのテスト:時期をずらして、2回の単元末テストを2週間後に実施する。

 

 

 

2.     学習の進み具合をつかむ

 

生徒が理解できたと評価する前に、生徒が「何を、どう考えているのか」を探ることが不可欠です。正答のみへ焦点を当てるのではありません。生徒の考えを知ろうとして、生徒を解釈するために評価があります。

 

l  質問するとき以外手をあげない「ランダムくじ」:すべての生徒が参加する場とすることを示せる。

l  質問の貝殻:「23は素数?」より「なぜ23は素数?」「なぜ17は素数で15は素数ではない?」と発問をかえる。

 

 

 

3.     学習を前進させるフィードバック

 

形成的評価(効果サイズ0.56)には、生徒に回答の正否のみを提供するフィードバック(効果サイズ0.14)の4倍にも及ぶ効果があるとわかっています。生徒が思い出そうとする作業を助けるため、答えよりもヒントの方が効果があります(Finn & Metcalfe, 2010)。

 

フィードバックは、焦点を絞り生徒と共有した学習目標に関連づけ、与える教師側よりも受け取る生徒側こそがより多くの仕事・学習をするものにしなければなりません。教師のみが忙しくコメントし続けることは効果的ではなく時間の浪費でしかなく、生徒がもらったフィードバックを自身の学びを向上させるために活用して初めて効果が生まれます。教師からの賞賛の言葉はより頻度が少なく、偶発的であることが望ましく、具体的で信頼性があれば、はるかに効果的なのです(Brophy, 1981)。また、学習の結果や才能、能力を賞賛するよりも、その不安定な努力プロセスに焦点を当てる(Dweck, 2006, 2015)ほうがより生徒を伸ばすことができます 

 

l  フィードバック活用術 :4人グループに、4つの作品と4つのコメントが書かれた付箋を渡す。どのコメントがどのエッセイに当てはまるかをグループで決めるため、コメント内容を読み取り、他の人の作品のよさを読み取る。

l  成績低下を許容する評価:期間内であればいつでも、生徒は再チャレンジできる。

 

 

 

4.     学習者を互いの教育資源としていかす協働学習

 

効果的な協働学習には、①グループとしての目標、②一人ひとりを責任もつこと、フリーライダーを許さないことで、大幅に学力は向上します。答えやその手順を教えるよりも、なぜこの答えが正しいのかを説明したほうが、教える側と教わる側の両方にメリット生まれます。特に支援を行う側の学習効果が大きく、少なくとも50%増加することがわかってきました(Webb1991)。なんと、その効果が教師による11の個別指導とほぼ同じ強さになる場合もあるほどでした。

 

l  宿題のピア改善:採点基準のルーブリックを事前に渡し、ペアでチェック。

l  星と願い:良いところ2つと改善点1つを付箋で伝える。教室で付箋を共有し、そのコメントが自分にとって役に立つと思うかどうか、クラスで投票するように求めることでその質が高まる。

l  I-You-we:グループ活動の終わりに、自分の貢献(I)、他の人の貢献(you)、グループ全体の仕事の質(we)に関する評価を記録するため、相互評価の動機付けになる。

 

 

 

5.     学習者自身の学びのオーナーシップ

 

生徒が学ぼうとしないのは、そもそもやる気のないのではありません。生徒の能力と課題のレベルが合致していないからであり、それを調整する必要があるのです(チクセントミハイのフロー理論)。もし、学習者が自分の学習をうまく管理することができればできるほど、学習効果が高まるのは当然のことです。生徒に自己評価をさせることが、生徒の学力を高める最も簡単でコストがかからない方法の1つだという証拠が増えています(ButlerSchnellert& Perry2017)。 自己評価の中でも、最も効果が高かったものに「模擬テスト(記憶の想起練習)」と「時間のおかれた分散テスト(記憶の強度を高める)」がありました。

 

l  色付きカップ:赤(質問あり)、黄(速すぎるのでまって)、緑(OKわかってる)のカラーカップを示す。

l  学習記録:授業の最後に生徒に学習記録を記入してもらう方法。

    今日、私は...を学びました

    私は...に驚きました 

    私が今日の授業から得た最もよかったことは、...

    私は...に興味があります

    私がこの授業で最も好きなものは... 

    私がまだよく理解していないことは...

    私がもっと知りたいと思うことは... 

    授業が終わって、私は...感じています

    もし~だったら、今日の授業でもっと多くのことを学べたかもしれない

 

 

 

いかがでしたか。2学期に活かせそうなものはありましたか。私はさっそく「質問するとき以外手をあげないランダムくじ」を教室で採用し、すべての生徒が参加できるように工夫がはじまっています。2学期、がんばりましょう。

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