2020年12月13日日曜日

2次元モデル暗記授業にさようなら 3次元モデル探究授業こんにちは

今年は「新学習指導要領」が告示された教育改革の年でした。「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性」が示され、主体的で対話的な学び、深い学びへの授業づくりが始まりました。しかしコロナ禍の休校措置もあり、深い学びを実現するにはかなり苦心したのではないでしょうか。

 

そもそもこの「深く学ぶ」とはどういうことなのでしょうか? 現在、教壇に立っている多くの先生方の学生時代、学習内容を暗記することで試験をクリアしてきた経験があるはずです。そしてその多くはすでに記憶喪失に。教科書一辺倒にカバーするような学習へ違和感を持ち、もっと興味を持って考えたり学びたいと願って教師になった方もいるのでは。

 

これまでの、知識の暗記や計算できるといった技能に特化された2次元モデルの授業は別れを告げるときです。生徒たちには、より深い理解を導くために知識と技能に「概念」を加えた3次元モデルの授業をデザインしてみませんか?

 

Curriculum Shift: Towards Concept- Based Teaching & Learningより

 

左:2Dモデル(技能とプロセス・事実的知識) 

右:3Dモデル(事実的知識・概念と原則・技能とプロセス)

 

そこで今回紹介する本

H.リン.エリクソン、ロイス・A.ラニング他『思考する教室をつくる 不確実な時代を生き抜く力 概念型カリキュラムの理論と実践』北大路書房

は、探究学習をメインにすえた授業づくりの理解を深めることができます。概念的理解を明文化する方法、単元設計の組み立て方、さらに実践例が豊富であり、これまで不確かだった探究学習づくりの一助となるはずです。★

 



 

概念とは、ある共通した特徴をもつ一連の例に枠組みを与える構築物(mental construct)の指します。 例えば、サイクル、多様性、相互依存、不平等、忍耐などがあり、これらは時を超えた普遍的なものであり、抽象的なものです。それではこれまで教えていた学習内容に知識、技能に加えて、新たに「概念」を用いることでどのような能力が育つのでしょうか? 

 

  • ・事実情報を批判的に検証する能力
  • ・新しい学習を既存の知識に関連付ける能力
  • ・パターンとつながりを見いだす能力
  • ・概念レベルで重要な理解を引き出す能力
  • ・エビデンスに基づいて理解の真実性を評価する能力
  • ・理解を時間または状況を越えて転移させる能力
  • ・概念的理解を想像力豊かに利用して問題を解決し、新しいプロダクト、プロセス、またはアイディアを発明する能力

(本書P.31より)

 

例えば、「美しさ」といった抽象的な概念のメガネをかけることで(概念レンズ)、算数数学の関数を見直したとき、これまで見てきた味気ない問題を解くだけの関数景色から変わって見えるようになります。そこには繰り返されるパターンが見え隠れし、自然界へ目を向ければ、カリフラワーのうずまきや木の枝の分岐パターンなど、ある一定に繰り返される「美しさ」を見つけることができるからです。

 

このように概念レンズを使うことは、これまでの知識や技能について改めて捉え直し、生徒の知識を長い時間記憶保持し、より個人的な意味づけが行われます。そして、学習対象のおもしろさに気づき、気付いたら夢中で努力し、その結果、学習意欲を高めてくれるのです。概念レンズの候補には、以下のものもあげられています。全てを網羅してはいませんが、教える教科の学習内容に関連した概念レンズを選ぶことで、より深く学ぶきっかけとなっていきます。


(本書P.18P.19より)


生徒の概念を理解した深い学びを導くためにも、教えることの全体像を「知識の構造」図、「プロセスの構造」図を用いて、概念的理解明確に学習設計します。「知るべき事実的知識、(事実・トピック)」「理解すべきこと(原理・一般化)」「できるようになること(プロセス・技能)」で明確に表現して構造図としてまとめられ、どの教科でも程度の差はあれ、このふたつの構造図を使っています。これらは理論としてひとつにまとめあげられ、上にいくほど知識抽象度が高くなり、レベルに応じて構造化されて示されます。

 

「知識の構造」図

  • 生徒が知るべき事実(的知識):具体的な知識(教科書の学習内容)
  • トピック:単元(アマゾン熱帯雨林の生態系、数学の式と方程式など)
  • その事実(的知識)から引き出された概念:その教科や単元で焦点をあてたい概念アマゾン熱帯雨林の接待性は、密な生態系を作り出す、224など)
  • 概念:ある共通した特徴をもつ一連の例に枠組みを与える心理的な構築物(mental construct)のこと。 (サイクル、多様性、相互依存、不平等、忍耐などがあり、これらは時を超えた普遍的なもの)
  • 原理と一般化:複数の概念を組み合わせ、時や時間、状況を越えて学んだことが転移される理解で、生徒が一般化するための試行錯誤により、学習転移可能の深い理解となります。原理は一般化と異なり、証明されている真理のことを指します。複数の概念の関係を表した「一般化」は他書では、「本質的理解」「永続的理解」「ビッグアイディア」などと呼ばれ、事実(的知識)や技能と関連して転移可能なより深い理解を反映されます。

 





(本書P.40より

 

文の読み書き、計算を解いたり、または体育や音楽、美術といった技能の比重が大きい教科、「プロセスの構造」によって教えることを構造化し設計されます。これまでやみくもにアルゴリス無を練習していたことから、なぜそれをやるのか理解が深まります。

 

「プロセスの構造」

  • プロセス:連続したステップを踏むもの(書く、読む、問題解決)
  • ストラテジー:学習者が意識して使う学習方法。(自己調整、リスト分けや整理など)
  • スキル:ストラテジーに組み込まれたより小規模なもの。スキルを適切に行うことでストラテジーが機能する。(自己調整ストラテジーにおけるスキルは、読書の目的を知る、振り返る、読み直す、予測するなど。リスト分けや整理のストラテジーにおけるスキルは、必要な情報の特定、組み合わせを決める、リストアップすること、クモの巣マップを書くなど

(本書P.45より)

 

暗記知識詰め込み型、スキル型の2Dモデル授業の学習観を手放すときです。そのための教師の役割は、コーチングや問いかけ、意味のあるフィードバックを提供して生徒が生産的に思考できるように導くことであり、学習内容に関しその理解力に匹敵する思考力を培う課題をデザインすることです。

 

本書では、概念ベースの教師を目指すアナ・スキャネルが以下のように語ります。

 

”「概念型のカリキュラムと指導」に初めて取り組むにあたって最大のチャレンジとなるのは、学習プロセスをコントロールしようという気持ちをある程度手放さなければならないということだと思います。

 

私はかつて、理解すべきことを生徒に直接教えたり、すぐに手出しをしたくなったりしていたのですが、学びのほとんどは試行錯誤を得てこそ得られるものです。ですから、私たち教師は一歩引いて、生徒が自分たちの力でそこにたどり着くことができると信じなければならないのです。

 

教師として私たちの役割は、いくつもの道筋を示すこと、生徒が必要とする学習の材料や経験を提供すること、そして生徒が自らの力で概念的理解を達成できるようにすることです。これは、最初は難しいかもしれません。生徒が目標とする一般化にたどり着けないのではないかと心配になってしまうからです。しかし実際の経験から分かったのは、多少言葉が違っても、適切なサポートがあれば生徒は確実に目標とする考えにたどり着けること、そして時には私が考えもしなかったような別の理解まで引き出す事ができるということでした。”

(本書P.101より) 

 

教師が主体となってこれまでカバーし続けてきた教科書、そしてそれを暗記してきたことだけでは忘れ去られてしまいます。知識を構築し統合していくのは、学習者自身です。知ること(事実的知識)やできるようになること(技能)を重視している2次元モデル。一方、3次元モデルは、学習の単元に関連する理解すること(概念)を深めるべく、概念、知識、技能を学び、低次のプロセスから高次のプロセスに知性に働きかけることができます。概念ベースの学習は、まさしく新学習指導要領が目指している主体的で対話的な学び、深い学びへ誘うことができるのです。

 



これまで、概念的理解を取り入れた教育実践にはG.ウィギンズ・J.マクタイの「逆向き設計」の『理解をもたらすカリキュラム設計』がありました。この本を開いた?方なら分かると思いますが、言葉の定義も複雑なためなんとも難しい。

 

PLC便りの筆者のひとりは1990年代初頭には、すでに概念理解を取り入れた国際理解教育「ワールドスタディ」の紹介、実践が行ってきました。

知識ではなく、概念を中心に据えた授業/カリキュラムづくりを!

http://projectbetterschool.blogspot.com/2020/10/blog-post_18.html

ここにはワールドスタディの10この概念も紹介されています。

 

最近では、京大を中心に実践本も日本から出されるようになり、だいぶ分かりやすいものとなってきました。尚、現在こうした流れをくんだ「Doing History(歴史をする? 歴史する?)」という本を翻訳中です。お楽しみに。

 

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