『「しない」が子どもの自力を伸ばす 叱らない・ほめない・コントロールしない、狩猟採集民の子育て術』を読んだ熊本県の松永先生(小学校)が「頑張らない子育てのすすめ」という内容の感想/紹介文を送ってくれました。それに対して、「頑張らない子育ての授業版というか学校版はどんなものだと思いますか?」という質問をしたところ、早速次の文章を送ってくれたので共有します。
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子育ての最初は、みな初心者です。何をどう頑張ればよいのか分からぬままただひたすらに頑張り続けた結果、時間的・精神的余裕がなくなり、我が子にあたってしまった経験はありませんか? 一所懸命頑張っているのに…と空回りすることは、とてもつらいです。
教師も同じく、最初からスーパーティーチャーのような人はいません。だからこそ、よいとされているものに(素直に)従って頑張るものの…それがゆえに時間的・精神的余裕をなくすことになってしまっては、自分も生徒もつらい状況に陥ってしまいます。
教師はしばしば、”生徒のために/よかれと思って”してしまうことがあります。発問・導入・指導案・授業研究会・学級経営・生徒指導・評価などなど、教師はよいとされてきた(本当に)多くのことに、一所懸命に取り組んでいます。
しかし、こうした頑張りは一体どれほど、誰かの・何かのためになっているでしょうか?
『「しない」が子どもの自力を伸ばす 叱らない・ほめない・コントロールしない、狩猟採集民の子育て術』(マイケリーン・ドゥクレフ著、築地書館)では、子育て/教育においてよいとされ続けてきた「叱ること」や「ほめること」すらもしない狩猟採集民の子育てについて書かれています。驚くべきことに、狩猟採集民の子育ては、子どもの自立を促すものになっています!
つまり、よいとされてきたものの多くは、近代の西洋文化においての話であって、世界的/長い歴史的視点で捉えると、よいとは決して言い切れないのです。同じく、教師として一所懸命に頑張り続けているものも、その全てが生徒の(自立の)ためになっているかどうかは、定かではありません。
ただ…そうは言われても、(代わりに)何をどう頑張ったらいいの?という疑問が浮かんできます。その答えの1つは、「支援者としての主体性」と言えるかもしれません。『はじめに子どもありき 教育実践の基本』(平野朝久著、東洋館出版社)には、以下のように書かれています。
そもそも人間の真の成長は、どんなに幼い子どもでも、他人(教師)がさせてなるものではなく、他人の支援は受けつつも、自らが築きあげていくものである。人間が人間らしく生き、成長する限りにおいて意思決定の主体者は、あくまでその子ども自身なのである。もちろん教師は、その支援者として為すべきことがある。支援者としての主体性は発揮しなければならない。しかし、支援者なのであるから、子どもに代わって意思決定(判断)し、それに子どもを従わせたり、子どもを操り人形のように操作して子どもになにかをさせるのではない。
一つの事例として、宿題について取り上げてみます。
目指すべきは、教師が宿題を出さなくとも、生徒が自ら学べるようになることです。つまり、生徒の自立です。宿題を出し続けたりやり直しをさせたりすることにエネルギーを割いてしまっていては、自分だけでなく、生徒もエネルギーを奪われます。(しかも、学び嫌いにもさせてしまいます!)言葉を濁さずに言うと、「ムナシイ頑張り」を続けることになりかねません。
そうは言っても、生徒が自ら学べるようにすること(生徒が自立すること)はそう簡単ではありません。(平野さんの言葉を借りれば、子どもは操り人形なんかではなく、人間なのですから!)しかし、「ムナシイ頑張り」を手放すことはできます。
日々のくらしを振り返ってみて、「ムナシイ頑張り」だと思うものが1つや2つではなかった場合、一度それらを手放すことで、時間的・精神的余裕が生まれるでしょう。浮いたエネルギーを、生徒の頑張りに寄り添うことに充ててみてください。生徒がいて、生徒に合わせて頑張る※のですから、頑張りがムナシク空を切ることはありません。それは、https://projectbetterschool.blogspot.com/2015/03/blog-post.html の表の一番右側にある「responsive teaching」と言えるでしょう。そして何より、(自分のためだけでなく)”結果として”生徒の(自立の)ためにもなります!
「ムナシイ頑張り」を手放し、何にどう力を入れたらよいのかについて知るためのヒントとして、(※の2冊以外にも)以下がおススメです。夏休み、時間的・精神的余裕をつくって、読んでみてはいかがでしょうか。
・『「しない」が子どもの自力を伸ばす』
・『学びの中心はやっぱり生徒だ!「個別化された学び」と「思考の習慣」』
・『教育のプロがすすめる選択する学び 教師の指導も、生徒の意欲も向上!』
・『あなたの授業が子どもと世界を変える エンパワーメントのチカラ』
・『聞くことから始めよう!やる気を引き出し、意欲を高める評価』
※生徒がいて、生徒に合わせる教師の関わり方の一つに、カンファランスがあります。生徒一人ひとりの状況に応じてやり取りをすることです。また、やり取りしたことを評価し、次のやり取りへ活かしていきます。『社会科ワークショップ 自立した学び手を育てる教え方・学び方』や『作家の時間 「書く」ことが好きになる教え方・学び方 実践編』(https://x.gd/v3zaU)をご参照ください。
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ありがとうございました。
おススメの本には、次のようなものも含められます。
・『宿題をハックする 学校外でも学びを促進する10の方法』
・『教科書をハックする 21世紀の学びを実現する授業のつくり方』
・『教育のプロがすすめるイノベーション』
・『一人ひとりを大切にする学校』
・『「考える力」はこうしてつける』