2025年8月17日日曜日

頑張らない/力を抜く子育て(教育)のすすめ

 『「しない」が子どもの自力を伸ばす 叱らない・ほめない・コントロールしない、狩猟採集民の子育て術』を読んだ熊本県の松永先生(小学校)が感想/紹介文を送ってくれたのでそのまま載せます。

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 みなさんは子育てにおいて、「力を抜く」という視点を持ったことはありますか? 双子の父であるぼくは反対に、力を入れて子育てすることを望んでいました。二人分の子育てを一度にやるのですから、我が子のことを思うと、二倍いや、それ以上に頑張らなくてはいけないと思っていました。しかし、うまくいかないことばかりの毎日に、だんだん疲弊していき、これまで経験したことの無い感情のアップダウンに頭を抱えたことは、一度や二度ではありません

 『「しない」が子どもの自力を伸ばす 叱らない・ほめない・コントロールしない、狩猟採集民の子育て術』(築地書館)の著者であるマイケリーン・ドゥクレフも、同じように頑張って子育てをしているにも関わらず、子どもの激しい癇癪によって母親としてどん底に落ちる経験をしています。そんな彼女が行きついたのは、狩猟採集民の子育てです。それは、(誤解を恐れずに言うと)頑張らない子育てです。

 頑張らない子育ては、ぼく(のような親)や著者のような人たちを、どう助けてくれるのでしょうか。

 

 本書で紹介されている事例の一つに、家事分担表に関することがあります。

もし家事分担表が、火曜日は皿洗い、水曜日は掃除、金曜日はゴミ出しをするように指示していたら、子どもはこれらの仕事だけが自分にとって必要な仕事だと思い込んでしまうかもしれません。そうなると、子どもはそのとき以外には注意を払う必要がなくなったり、分担表に書かれていない家事を無視するようになったりします。分担表が子どもにアコメディードの正反対を教えてしまうことになるのです。つまり、「あなたの責任は表に書いてあることだけ」ということです。

子どもたちが自分の周りの世界に注意を向け、特定の家事がいつ必要なのかを学ぶこと

 家事分担表をつくって、家事に参加させようと頑張る必要はないのです。子どもたちの心には、「貢献したい気持ち」があることも本書は教えてくれます!

 

 「力を抜く」視点の欠落は、何も子育てに限った話ではありません。学校教育でも同じようなことがよくあります。つまり、よかれと思って生徒たちのために頑張りすぎているということです。その頑張りは一体、誰の何のためになっているのでしょうか。子どもたちの自立を促すものになっているでしょうか。先の家事分担表に関する事例で言えば、本書ではこのように書いてあります。

(狩猟採集文化では)子どもが歩き始めるとすぐに、親は小さなお手伝いを頼み始めます。時が経つと、子どもは家の中で何をしたらいいかを学び、そうして、子どもが大きくなるにつれて頼みごとの数は減っていくのです(増えるのではありません)。子どもが九歳から十二歳になる頃には、すでに何が必要かを知っているので、大人はもはや多くのことを要求する必要はありません。逆に、九歳から十二歳の子どもにお手伝いを頼むことは、かなり失礼だと言えます。それは、彼らが成熟していない、学んでいない、そして、幼稚であることを意味するからです。

 学校教育で、掃除当番表や係活動一覧表などを積極的につくってはいないでしょうか。掃除や係活動をしなかった生徒たちがいたときは、「責任をもって行動できないと、社会に出てから困るよ!」と別のあれこれを頑張るようなこと(別の時間に掃除をさせるなど)をしてしまってはいないでしょうか。これらが子どもたちの自立を阻むことになってしまうと考えないままに!

 つまり、頑張らない/力を抜くということは、これまで正しいと思い込んでいた子どもとの関わり方を手放し、よりよい子どもとの関わり方を知ることです。そして、頑張り続けているのにも関わらず、自分にとっても子どもたちにとっても何も残らない(どころか、子どもの自立を阻害してしまっている!)という負のサイクルから脱出することです。

 

 しかし、実際に家事(や学校の中での様々な仕事)に参加させるとなると、時間も労力も忍耐力も必要です。狩猟採集文化の人たちは、一体どうやっているのでしょうか。その答えの一つはやはり、頑張らないと言えるかもしれません。(ただし、「頑張らない=何もしない」ではないことは、改めて強調しておきます!)具体的な考え方や方法は是非、本書を読んでみてください。そのどれも納得してしまいます。なぜなら、本質的によい関わり方を知ることができるからです。(世界中の六つの大陸で何千年もの間試されてきたことです!)つまり本書は、親だけでなく教師にとっても、読む価値が大きいです!

 

 さて、本書で得られる別の視点も書いておきます。

頑張ってしまっていること

阻んでしまっていること

代わりにすること

ほめる

内発的動機づけ・協力

子どもの貢献を承認するなど

叱る

親子関係・よい行動を教えること・感情のコントロール

口を閉じる・その場から離れる・子どもの行動を捉え直す・待ってから修正するなど

コントロールする

内発的動機づけ・親子関係・自分で考え、決定する機会

子どもを励ます・ストーリーテリング・ドラマなど

 よかれと思って、ほめたり叱ったり、コントロールしたりしていませんか?代わりにすることは、第10章「子育てに役立つツールの紹介」もご参照ください。役立つものばかりです。

 

 親も教師も、頑張り過ぎるほどに頑張っています。日々、必死に闘っています。苦しいのは、こうした頑張りが実を伴わないことです。ですから、少し肩を力を抜いてみませんか?そして、力を入れるところ・入れないところを見直すことで、実を伴うことがあるかもしれません。少なくとも、ぼくにとっては力を抜く機会になりました。そして、親や教師として子どもたちと関わるヒントをもらうことができました。それは、「練習・モデル・承認」と「TEAM」です。「TEAM」はTogetherness(共に過ごすこと)・Encourage(励ますこと)・Autonomy(自立)・Minimal interference(最小限の干渉)の頭文字をとったものです。

 以前ぼくは、お腹が空いて「まんま!まんま!」と泣き叫ぶ我が子たちに「準備してるからあっちで待ってて!」と言っていました。しかし、素直に待ってくれるはずもなく、お互いに声のボリュームは大きくなっていました。しかし、本書を読んでからは(半分騙されたと思って)「これ、もっていこうか!」と提案し、一緒に配膳しました。すると、我が子たちは大喜びです!次から次へと準備を助けてくれましたし、互いに大きな声なんて出さずに済みました。また、時に羽交い絞めまでしていた歯磨きは、「自分からやるように伝えて」と言い、歯磨きをするタイミングを子どもたちに委ねたり一緒に隣で歯磨きをしたりしました。二人とも、泣き叫ぶことはありませんでした。最も驚いたのは妻です。普段、ぼくが本から学ぶことが多いのを知っている妻が、「何かいい本あったの?」と聞くばかりではなく、(読書嫌いにも関わらず)「その本貸して!私も読みたい!」と言ってきました。効果は絶大です。穏やかな就寝を迎えることまでできました!

 

 エピローグからは、著者の我が子に対する捉え方が変わったことが伺えます。きっと、優しさに満たされた親子関係が築かれていくのだろうと、心が温かくなりましたし、ぼく自身もそんな親子関係を築けると実感を伴って感じます。

 間違った方向にエネルギーを使ってエネルギーを奪い合うという負のサイクルを脱し、優しさとあたたかさ、そして尊重を伴ったエネルギーのサイクルを回せるようになれば、それはこの上なくステキなことだと思います。是非、そのきっかけづくりに、本書を読んでみてはいかがでしょうか。

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実は、松永先生、こちらの本の紹介文を先に送ってくれました。これを読んですぐに「頑張らない子育ての授業版というか学校版はどんなものだと思いますか?」という質問をしたところ、8月3日に掲載した「教師が『頑張らない』のは、自分のためだけじゃなく、生徒のためにも!」を早速送ってくれました。それには、夏休み中に先生たちが読める本のおススメ・リストが紹介されていたので、こちらと紹介する順番を変更して先に掲載したという経緯がありました。

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