私たちは、何かを書くとき、読み手のことを思い浮かべて書きます。★1 書きたいこと、伝えたいことが、心の中に湧き上がってきて、それを誰かに伝えたいと思って書くのです。話したいこと、言いたことが、生まれてきて、猛烈に誰かに伝えたくなって話します。それが、表現することのもっとも根底にあるエネルギーのはずです。
しかし、今の学校教育で行われている、書くことや話すことは、多くの場合、先生が点数(評価)をつけることが目的になってないでしょうか。先生が、唯一の「読者」であり「聴衆」「オーディエンス」になっているのです。
これでは、本来の書くこと、話すことの本質から大きく外れてしまうかもしれません。「より高い点数をとること」に囚われた表現活動になってしまう恐れもありそうです。
この問題を考えるときに、「オーディエンスのヒエラルキー」という考え方が参考になりそうです。
これは、もともとは、アメリカの教育団体 EL Educationのチーフ・アカデミック・オフィサーであるロン・バージャーという人が提案したものです。★2 聴衆や読者にも、階層があって、そのレベルに応じて、生徒のモーティベーションや取り組みへの集中力が変化するという考え方です。
藤原さとさんが、各階層を分かりやすい日本語に翻訳してくれています。★3 階層の上に行くほど、モーティベーションが上がっていくことになります。非常に上手く日本語にしてくれていますが、原文の英語と比較すると、さらに明確になるので、オリジナルの表現も添えて、[注]という形でコメントも添えています。
◉世界に対する実際のサービス
(To be of service [注]少し分かりにくいですが、発表すること、表現することが、実社会に役立つという意味だと思います。serviceは、日本語の「サービス」のイメージとはやや異なり、貢献や業務、公務といった意味を含みます。)
◉プロフェショナル・専門家
(To present to people capable of critiquing: [注] critiqueというのは、「詳細にかつ分析的に理論や実践を評価する」という意味です。
◉学校外の一般の人たち
(To present to a public audience beyond the school)
◉教師・保護者・他学年などの学校コミュニティ
(To present to a school community)
◉保護者
(To present to parents and peers: [注]原文ではpeersが入っています。保護者とクラスメートとほぼ同等のレベルにおいているということでしょうか。藤崎さんが翻訳に含めていない理由は分かりませが、日常性を離れるということが一つの要件と考えているのでしょう。)
◉教師(To fulfill a requirement: [注]原文は、成績をつける、単位を認定するといった意味合いですね。それを「教師」と翻訳しているのが言い得て妙。)
学校のプロジェクト型学習や探究的な活動の発表会に、外部の審査員や助言者を招聘するケースは増えてきていると思います。中高生が行政に政策提案をしたり、企業にアイデアを提案したりということも増えてきました。
私たちは、そのような発表の機会を企画する時に、オーディエンスのヒエラルキーの意義を再確認しておきたいものです。
★1 書くことが目的化してしまっている文章は世の中にはたくさんありますが。。。
★2 EL Educationのサイト
https://eleducation.org/resources/hierarchy-of-audience
★3 藤原さと(2020)『「探究」する学びをつくる』(平凡社) p.90
0 件のコメント:
コメントを投稿