良い「学び」を創り出すために、評価を見直すことは避けては通れない問題です。しかし、なかなかハードルは高い。
教員仲間とのブッククラブで、藤原さとさんの『「探究」する学びをつくる』(平凡社)を読みました★1。プロジェクト型学習で、すばらしい学びを生み出しているアメリカのハイテック・ハイというチャータースクールを紹介した本です★2。その学校を取り上げた「Most Likely to Success(これからの学校の役割)」というドキュメンタリー映画★3 が、大きな反響を呼んだので、ご存じの方も多いと思います。
先にあげたブッククラブでの現職の先生方の意見は概ね次のようなものでした。「確かにこの実践のすばらしさは分かる。しかし、現状として、今の日本の学校教育の仕組みから離れることは、すぐには難しい。」と。「こういった本を読むと探究的な学びを礼賛しそうになるが、それだけでは説明しきれない学びは存在するのではないか。」「外部的な働きかけによって‟学び”が起きる瞬間も幾度も目にした。」といった声が聞かれました。
先生方の問題意識の中に、テストや評価の問題があることは明白だと思えました。
この本の著者である藤崎さんは、このあたりのことを非常に的確に指摘しています。
「大学受験で高得点をとるためには、長期にわたる「知識の詰め込み型」の授業が有効であると考えられている。ほとんどの大学の入学試験が「知識の詰め込み」を要求するため、子どもたちたちに詰め込み型を強いてきたということだろう。そうしたネガティブ・スパイラルのなかで、合理性のない授業に学校そして教師は違和感をもちつつも、日々の忙しさや組織の問題など様々な理由で深く振り返ることなく継続しているのが現実なのである。」(pp.158-159)
そのうえで、ハイテック・ハイで実践されている「一般的なテストの常識からはかなりかけ離れた」テストを紹介しています。これは、なかなか面白い取り組みなので、紹介しておきたいと思います。
1 グループテスト。
テストをグループに配って、それらを個別に解いたのちに、それを持ち寄って、メンバーで考えたり、教えあう。このテストは「どれだけ覚えたか(あるいは忘れたか)」を測るものではないのですよね。思いもよらない発想です。
2 テストで成績をつけない。
文字通り、テストの点数で成績をつけないということです。もちろん、教師は採点し、その結果から、生徒が成長できるためのフィードバックは返すけれど、その点数で成績がつくことはないということです。これは、評価(アセスメント)と成績(グレード)を明確に区別していることの表れと言えそうです。
3 テストに意味合いをもたせる。
ハイテック・ハイでは、「テストに注釈をつける」と呼んでいるらしいのですが、自分自身のテスト受験体験をメタ認知化し、学びに役立てることのようです。例えば、「生徒はテストをしながら、「考えたこと」「疑問に思ったこと」などをメモしておく。」→「テストの解答に関して生徒は自信の度合いを何段階に分けて自分でスコアしておく。」→「そのメモ書きをみて教師は生徒が何を学んでいるかを判断する。」といった流れで進むのだそうです。「総括的評価」の「形成的評価」化とでも言えるものでしょうか。
4 納得するまでテストを繰り返し受けても良い。
人は違う進度、違う深さ、違うタイミングで学ぶのだから、同じ時期に同じ内容で、すべての生徒をテストする必要ないという考え方。ハイテックハイでは、何度でもテストを受け、自分の間違いから学んでいくことができる。
確かに、良い学びを生み出すためには、評価やテストの見直し急務だと思うのですが、現在の枠組みから、すぐには飛び出せないと考えている人は多いものです。少し角度を変えて、テストや評価を眺めてみることが、一歩を踏み出すチャンスになると思うのですが、どうでしょうか?
★1 藤原さと(2020)『「探究」する学びをつくる』(平凡社)
★2 ハイテック・ハイ・スクールのホームページ https://www.hightechhigh.org
★3 映画「Most Likely To Succeed」ーこれからの世界で生き抜く子どもを育てる新しい学校教育とは? http://atcafe-media.com/2017/12/26/most-likely-to-succeed/
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