2022年8月21日日曜日

算数・数学をする

  『算数・数学はアートだ! ワクワクする問題を子どもたちに』(ポール・ロックハート著)の中で、「数学をする」ことの大切さが強調されています。それが、どういうことかというと、

    発見と予測、直観とひらめきなどの行為をすることであり、

    「まったく何が何だか分からないからではなくて、あなた自身が意味を与えたにもかかわらず、最終的に何をつくり出すのかまだ分かっていないので」混乱のなかに身を置くことであり、

    画期的な考えを思いついたり、

    アーティスト(算数・数学をする人を、こう捉えています!)としてくじけたり、挫折したり、失望したり、

    痛々しいほどの美しさに畏敬の念を起こさせたり、圧倒されたり、そして

    生き生きと意味のある形で学べること(40ページ)

と捉えています。

 

 あなたは、生徒たちに以上のどれほどを提供できていますか?

 

 似たようなことが、本書の別のところでは、少し異なる形で書かれています。

 「数学をする」とは、パターンで遊び、いろいろなことに気づき、予測し、例や反例を探し、ひらめいて発見や探究をし、論証を考え、それを分析し、新しい質問を出す、ということです(139~140ページ)。

 

 生徒たちからそれ[=算数・数学]に取り組む(自らの質問をし、予想や発見を出し、間違え、創造的に挫折し、ひらめきをもち、そして自分の説明や証明をまとめる)機会を奪い去ってしまったら、数学自体をさせないということを意味します(29ページ)

 

 あとの二つの引用に書かれていることは、「数学的思考」とは何かの説明とも捉えられると思います。

 

 私が、この本を訳した理由は、自分自身が「数学的思考」がまったく身についていないことに気づいたことであり(それは、多分に50~60年前に受けた算数・数学教育の結果であったわけですが)、そして、「数学的思考」を身につけることを丸ごと抜かした算数・数学教育が現在も続いているからでした。

 

 それでは、数学的思考が身につく教え方(=「算数・数学をする」教え方)は、どのような教え方なのでしょうか?

 確実に言えることは、算数・数学の教え方はこれしかないと思われて今現在も行われている教え方でないことは確かです。『算数・数学はアートだ!』の著者は、次のように言います。

 

 学校の算数・数学において、最大の課題は問題そのものがないことです。算数・数学の授業で問題として扱われているのは「退屈な練習問題」なのです。

 「これが問題です。これがその解き方です。はい、テストに出ます。1~35問の奇数番号を宿題とします」

 なんと悲しい算数・数学を学ぶ方法なのでしょうか。まるで、トレーニングを受けてチンパンジーのようです(45~46ページ)

 

 この「偽の算数・数学」ないし「正解あてっこゲーム」が得意な人たちを「算数・数学好き」といい、得意でない人たちを(その中には、本当の意味での数学的思考に長けた人たちがいるかもしれないにもかかわらず)数学の世界から遠ざけてしまっています。(著者は、大学で教えていたことがあるので、次のように言っています。「10年以上にわたって『数学が得意だ』と言われ続けた多くの大学院生が、実際には真の数学的な素質は何ももっておらず、ただ指示に従っていたことに気づいたときに悲しい思いをしています。数学は、決して指示に従うことではなく、新しい方向をつくり出すものなのです」31ページ)

 

 それでは、「偽の算数・数学」や「正解あてっこゲーム」の過ちにはまり込まない鍵は何かというと、生徒たちがどうしても解きたくなる「よい問題」です。

 「よい問題」は、「退屈な練習問題」とは違って、上で紹介した「算数・数学をする」=「数学的思考を磨くこと」を可能にする問題です。それは、「あなたが解き方を知らない問題のことです。だからこそ思案するわけですし、そのよい機会を提供してくれます。よい問題は、独立して存在しているわけではなく、ほかの面白い問題へのジャンプ台という役割も果たします・・・よい問題には、その背景となる歴史、そして創造的なプロセスがあります・・・指導案も、教科書もしまって、単純に生徒たちと一緒に算数・数学をしてみてください」(46~47ページ)

 

 有名なピタゴラスの定理は、その解法は一つしかないと、一般の人は(その教えられ方の結果)思い込まされていますが、なんと数百もあり、いまだに増え続けています! 間違いなく、「よい問題」のひとつです。他にも、本書や『教科書では学べない数学的思考』や『楽しく考える問題と発問 : 算数・数学科の問題解決』で紹介されています。これら以外に「よい問題」を紹介している本をご存じの方は、pro.workshop@gmail.com宛にぜひ教えてください。

 

なお、今回「算数・数学をする」で書いたことは、「国語をする、理科をする、社会をする、英語をする」等でも同じように言えます。社会科では『歴史をする』や『社会科ワークショップ』がすでに出版されていますし、国語ではhttps://sites.google.com/site/writingworkshopjp/teachers/osusume のリストが、理科では『だれもが科学者になれる』が出ていますので参考にしてください。

0 件のコメント:

コメントを投稿