2021年10月24日日曜日

新刊案内『学習会話を育む』

本には掲載しなかった、「訳者まえがき」の下書きをこの本の紹介として使います。執筆したのは、訳者の一人である竜田徹です。(「生徒」は、小学生、中学生、高校生すべてを含むものとしてお読みください。また、一部は、その後に書かれた「訳者あとがき」で使われました。)


■グループワークやペアワークを高めるために

 本書を読まれるにあたって、訳者の一人としてはじめに三つのことをお伝えします。

第一に、本書の内容は日本の教育現場で行われているグループワークやペアワークを高めることに確実に貢献するだろうということです。小学校・中学校・高等学校等どの校種にも、どの教科の話し合いにも役立てることができる内容です。授業に会話を取り入れるいろいろな方法についても、生徒の実際の会話の記録とともに具体的に紹介されていますので、自分の教室ですぐに実践してみたくなるでしょう。

授業の中で、ペアでの伝え合いや、グループワーク、クラス全体の話し合いや討論に取り組んでいる教師も多いと思いますが、そのときの生徒の様子をちょっと思い出してみてください。次のように感じたことはないでしょうか。

・進め方の「型」や話し方の「型」に捕らわれすぎた結果、生き生きと話せていないように感じられる。言語活動の「型」はどう使えばいいのだろうか?

・活発に話し合っているように見えて、実際には本題から離れた「おしゃべり」になっていることが多い。もっと学習目標に焦点化して話し合えるようにしたい。そして、話し合いを、学習内容の理解や自分の考えを深めることに役立てたい。

・ある論題の賛否をめぐって討論をしたとき、最初の自分の立場に固執してしまい、テーマそのものへの理解を深めるという本来の学習目標を達成できないことがあった。授業の中で討論を行うときのポイントは何か?

・一つ一つの発言が短すぎる。一言だけで済ませようとしている。教師から促されなくても、自ら理由や事例をつけて長く発言してほしい。自分の考えを他の人に伝える際に、自分の言葉を自分で工夫できるようになってほしい。

・ジグソー学習やディベートなどさまざまな言語活動に取り組んできたが、同じ活動ばかりでマンネリ化している。もっと言語活動のレパートリーを広げたい。

・ペアワークやグループ活動の評価がむずかしい。話し合いの何をどのように評価したらよいのか? これまで自己評価やルーブリックなどを活用してきたが、あまりうまくいかなかった。話し合いの学習効果を適切に見取るための方法を知りたい。

・そもそも、どうして授業でペアでの伝え合いや3~4人グループでのやりとりを取り入れる必要があるのか? 話し合いを取り入れることにはどんな効果があるのか? 授業の中に話し合いを取り入れる意義や理由を明確にしたい。

・「言語活動の充実」や「話し合いの工夫」をテーマとして校内研究を行いたいが、教科や学年の垣根を越えて取り組むにはどのようにすればよいかわからない。話し合いを取り入れた授業改善の意義と方法を校内で共有したい。

本書を読めば、これらの疑問や問題に対し、読者一人ひとりがより新しく明確な考えをつくり上げることができるでしょう。


■「学習会話」とは何か? どんな力が必要か?

二番目のポイントは、本書のテーマである「学習会話」とは何かということです。「学習会話」はAcademic Conversations の訳語です。やや硬いニュアンスのある「アカデミック」と、日常的なニュアンスのある「会話」とが組み合わされた言葉です。本書では「学習場面に適した会話」という意味で用いられます。決してお堅い学術用語ではありません。

「学習会話」は、あまり耳なじみのない言葉かもしれませんが、この言葉が日本の学校教育に示唆するものは小さくありません。例えば、日本の授業の場合、「話し合いを始めましょう」と言うことはあっても、「会話を始めましょう」と言うことはあまりないでしょう。しかし考えてみれば、話し合い活動を成り立たせるためには、大前提として、一対一のやりとりを適切に積み上げることが必要です。つまり、生徒同士が自分たちの力で会話を適切に続けることによって、効果的な話し合いは成立するのです。「話し合い活動がうまくいっているかどうか」を捉えることもたしかに大切かもしれませんが、それより教師にとってもっと大切なのは、「生徒一人ひとりがうまく会話をしているか」を捉えることなのです。

この「学習会話」について著者は次のように主張します。

一年間をかけて、教師に頼らなくても自分の会話をコントロールできるようにするということに重点を置きましょう。また、考えを明確にすること・支えること・評価することは、双方向のスキルであることに気づかせましょう。つまり生徒は、いつ、どのような形でパートナーにこれらのことを促すかを理解する必要がありますし、同時にパートナーから促された場合の対応の仕方も理解しておく必要があります。(p.257

 つまり、生徒たちが学習場面に適した会話の力を身につけること、話し手としても聞き手としても自分の会話のあり方を自覚的に高めていくことが目標とされているのです。このような生徒が育てば、アクティブ・ラーニングなどの対話的・創造的な学びの効果が高まることは間違いないといってよいでしょう。中心的な学習会話の力として本書で提案されるのは、具体的には次の五つのスキルです。

①考えをつくり上げるスキル。②~⑤を包括するスキル。考えをつくり上げるという目的やそのプロセスの全体像を見通す。

②最初の考えを出すスキル。考えをつくり上げていくためのたたき台となる考えを出す。これがなければ学習会話は始まらない。

③考えを明確にするスキル。質問したり言い換えたりすることで、会話する人同士がその考えの意味を共有する。

④根拠を用いて考えを支えるスキル。適切な根拠、事例、理由づけなどを用いて自分の考えの説得力を高める。

⑤つくり上げた考えを評価するスキル。討論などで、複数の考えを判断基準に照らして比較し、価値づけ、一つを選び出す。

 これを図で表すと、図1-2になります。


本編では、各スキルの内容や指導法、生徒同士の会話のサンプルなどが詳しく紹介されており、「学習会話」を育てる指導を考えるうえで大いに役立つことでしょう。


■考えをつくり上げるための有効な方法

最後に、スキル①の「考えをつくり上げる」について簡単に触れておきます。「考えをつくり上げる」は、Building up ideasの訳語です。当初、ideaにはそのまま「アイディア」という訳語をあてていましたが、日本語の場合、「アイディア」には初期の一時的なもの、思いつきというニュアンスをもつことがあります。それに対し、本書のideaは、会話を通して練り上げていくもの、プロセスを含むものとして提案されています。そこで、本書では「考え」と訳すことにしました。

「考え」には、個人的な意見だけでなく、各教科が育成する概念的理解、複雑な問題に対処する方法、出来事や作品の解釈、解決策なども含まれます。このことは、「学習会話」が、国語科のみならず、各教科における思考力・判断力・表現力の育成に役立つということを示しています。

著者は、「会話は、ただ役に立つだけでなく、学習に不可欠なものです」と述べています。日本の学習指導要領でも、学習内容の深い理解に至るためには対話的な学びを取り入れることが重要だと書いていますが、「学習会話」はその有効な方法の一つとなるにちがいありません。

学習会話は各教科の学習でどのように使えるのか、学習会話の中で生徒たちはどんな考えをつくり上げていくのかを分かりやすくするために、本書の特設サイト(https://sites.google.com/view/academicconversations/)には、本書で紹介されている学習会話のアクティビティーをまとめた索引をつけました。そこでは、本書には掲載されなかったアクティビティーを読むことができます。また、本書で多数紹介されている「問いかけ」も索引化しています。これらは、授業で学習会話を計画するときの参考資料としても活用していただければ幸いです。


■本書の提案の新しさ

授業中の話し合いを向上させる鍵は、生徒一人ひとりがもつ「会話スキル」にあると捉えた点に、本書の提案の新しさがあるといえるでしょう。会話にアプローチすることが、話し合いの学習効果を高めることにつながるのです。それが「学習会話を育む」という発想です。話し合い指導の工夫はこれまでも数多く積み重ねられてきました。しかし、話し合い学習を充実させるために生徒一人ひとりが身につけなければいけない力は何か、また、グループやペアでのやりとりを高めていくために教師がすべきことは何かという点については課題も多く、ノウハウが十分に共有されていない状況です。それらの問いに対して、本書が示す「学習会話を育む」という発想は、シンプルで明確な方向性を示すものだといえます。


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