2021年10月3日日曜日

学校の物語を語ろう 〜「ストーリーテリング」の力〜

高校の世界史の先生はストーリーテラーでした。ジンギスカーンを語れば、黒板の右から左へ、馬に乗って砂漠をかける姿が目に浮かんできました。ワクワクしました。時空を超える感覚というのでしょうか。その時のワクワクした気持ちが、私を教職に向かわせたと言っても過言ではありません。今でも、夕闇迫る教室の光景を鮮烈に覚えています。

ストーリーの力は強力です。マーサ・ラッシュも『退屈な授業をぶっ飛ばせ』★1で、ストーリーテリングにまるごと一章を割いているくらいですから。彼女は、物語の力を力説するストーリーテリング研究者の言葉を数多く引用しています:

「口頭によるストーリーテリングは、人間文化の中で最強のコミュニケーションの形と言っても良いだろう。(p.61)」(ウエイン州立大学クレイグ・ローニー)

「教材が、「覚えることリスト」のようにきっちりと整理され、凝縮された事実だけになってしまったら、生徒は学ぼうしとしなくなるだろう(p.73)」(ジョージア・サザン大学ディローレス・リストン)

ストーリーテリングが、人の心を揺り動かし、人を行動に誘う力をもっていることが、とてもよく表現されていると思いませんか。

このストーリーテリングの力を、学校と保護者・地域とのパートナーシップづくりに活用してはどうか。『学校リーダーシップをハックする』★2 の第5章では、そのような提案がなされています。

生徒に物語を語ってもらうことで、学校と家庭、地域の間のつながりを強化しようという試みです。学校は、基本的に受け身で、地域や家庭と積極的につながりをつくろうとしない傾向があります。そのような旧来の考え方を打ち破り、学校から主体的に情報を発信しようというのです。

学校での出来事や授業で学んだこと、できるようになったこと。そのようなことを、興奮気味に、生き生きと伝える生徒の声は、学校に関わるすべての人を変えてしまうくらいのインパクトがあるはずです。

これを実践している学校では、ポッドキャストやビデオキャストを利用して、学校の物語を配信しています。学校内での素敵な出来事を取り上げて、保護者や生徒に知らせる週一回の番組を作っている学校もあるそうです。もちろん、ニュースキャスターは生徒です。

「私たちは、情報提供を通して信頼関係を築いています。学校での出来事を知れば、保護者は子どもが受けている教育の質をより確実に感じることができます。一回でも自分の子どもが語る学校でのストーリーを聞けば、きっとあなたの活動を称賛してくれるでしょう。そして、あなたのねらいややり方を理解することで、一番の理解者になってくれるはずです。日々の学校でのストーリーを配信することが、学校コミュニティーを一つにまとめることにつながるのです。」( 『学校リーダーシップをハックする』原著,p.79)

生徒の映像を配信することに、不安を感じる人もいるでしょう。しかし、これまでに成功を収めてきた事例では、問題が起きているわけではないようです。コミュニティーと、これまでにない良い関係を築けるのであれば、リスクに見合う効果があるとさえ述べているのですから。むしろ、透明性が高まることで、陰湿な問題が起きにくくなるのかもしれません。

いずれにしても、学校で起きている素敵なことを、もっと多くの人に知ってもらう。学校のファンやサポーターを増やすためには、今すぐにでも取り組みたいことです。


★1 マーサ・ラッシュ著 (2020) 『退屈な授業をぶっ飛ばせ-学びに熱中する教室』新評論.

★2 近日発刊予定 『学校リーダーシップをハックする』 ハック5「生徒の声で語ってもらう―積極的にアピールして周囲の支持を高めよう」.


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