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新型コロナ蔓延による緊急事態宣言の下、教育現場では一斉休校やオンライン授業への対応にせまられ、たいへんなことと思います。
新型コロナ感染防止のための政府の対応は全般的ににぶく、後手後手にまわってしまっている感じをいなめません。テレビや新聞でひんぱんかつ大量に流される新型コロナ関係のニュースに接するたびに、やきもきしている方が、私を含めて多いのではないでしょうか。
しかし、考えようによっては、政府や地方自治体による新型コロナ対策のさまざまな局面は、問題発見解決学習やプロジェクト学習の課題として応用できるものが多いようです。これまでに提示された「問題」を思いつくままに列挙してみます。
1.大型クルーズ船で新型コロナ感染者が出た場合、船内の感染をどのように防止するか。また、感染を船外に拡散しないためにはどのようにしたらいいのか。
2.PCR検査の実施可能量が限られている場合、だれをどのように検査したらいいか。検査結果が陽性だった感染者をどのように隔離したらいいか。
3.医療崩壊を引き起こさないようにしつつ、PCR検査体制を拡充するにはどうしたらいいか。
4.マスクや防護服などの医療必需品をどのように確保したらいいか。
5.一斉休校と、それにともなう諸問題にどのように対応したらいいか。
6.店舗や企業などの休業補償、従業員、アルバイトなどの給与補償をどのようにしたらいいか。
こうしたさまざまな大問題が次々と表面化してくるのに対して、政府の対応はあまりに場当たり的です。対策を決定するプロセスに、近年日本のビジネス界で積極的に採り入れられつつある「デザイン思考」注1的な発想や手法が適用されていたら、もう少しましな方策が実施されていたのではないか、などと思ってしまいます。
デザイン思考は一言でいうと、製品やプロジェクトを開発・立案するデザイナーの発想と手法をさしています。その思考プロセスのキーワードは、「共感→問題設定→アイディア出し→プロトタイプ(試作品)→テスト」です。悪評高いアベノマスク注2のプロジェクトをデザイン思考で振り返ってみましょう。
第一に、アベノマスクでは「共感」のプロセスが全く見受けられません。この場合、「共感」とは配布されるマスクを使う人の身になって、マスクの意味を考えることを表しています。次に「設定」されている「問題」は、「マスク不足への国民の不安を解消させる」ということでしょう。「アイディア出し」は、「洗えば何回も使える布マスクを全国民に配布する」、「日本郵便を使ってすべての郵便受けに投函する」というものです。どういう布マスクを作ればもっともユーザーに喜ばれるかという「試作品→テスト」のプロセスが行われた形跡は、できあがったもの(サイズや密閉性の度合い)を見る限り見あたりません。
デザイン思考では、「共感」の段階を重視します。マスクの場合、新型コロナ感染対策として、マスクはそもそもどのような機能を果たしているのか。マスクが市場に不足しているのはなぜなのか。国民一般はどれだけマスク不足に悩まされているのか。布マスクにはどのようなメリット、デメリットがあるのか等々、ユーザーである国民の身になって調査したりインタビューしたりすることは山ほどありそうです。
プロセスの各段階ですべきことが山ほどあっても、デザイン思考では、与えられた課題を与えられた期限内に果たすことが大前提です。報道(朝日新聞4月2日朝刊)によると、マスク不足問題をなんとかするために、3月初めには厚労省、経産省、総務省からの40人の官僚からなる「マスク・チーム」が立ち上がっているようですが、すでに2か月経っているにもかかわらず、国民が「共感」するような目立った成果はあがっていません。
政府の新型コロナ対策の立ち遅れはともかくとして、教育現場で上述のようなデザイン思考を組み入れることはできないでしょうか。学校現場からすれば、今回の唐突に決まった一斉休校や、これまた突然浮上してきた9月新学期移行案について、そのメリット(一斉休校のメリットについては前々回の通信が論じています)とデメリット、そしてそれらのメリット・デメリットにどうつきあっていくかについて、生徒たちといっしょにデザイン思考してみませんか。
注1) デザイン思考については、ウィキペディアの記述がちょっと入り組んでいますが、概要を知るのに便利です。本では、ティム・ブラウン『デザイン思考が世界を変える』(早川書房)、ジャスパー・ウ『実践 スタンフォード式デザイン思考』(インプレス)がおすすめです。
アイリーニ・マネジメント・スクール(旧・デザイン思考研究所)の以下のウェブサイトから、デザイン思考に関する豊富な情報を無料でダウンロードできます。
初等・中等教育におけるデザイン思考実践としては、2009年に設立された日本教育デザイン学会(JEDI)の活動があります。
大学・大学院教育と政策決定におけるデザイン思考の適用の報告は以下のサイトを参照。
黒川利明(2012)「大学・大学院におけるデザイン思考 (Design Thinking)教育」『科学技術動向』2012年9・10 月号
NIRA総研『わたしの構想―No.
46』「デザイン思考で 人間中心の政策を」2020年2月
注2) アベノマスクについては、以下のサイトを参照。
http://thegiverisreborn.blogspot.com/2020/04/blog-post_27.html
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