原書タイトルは、Hacking Education(教育をハックする)で、アメリカですでに15冊以上出ているハック・シリーズの最初の本です。訳者として、書かれてある内容を精査すると、「教師の仕事をハックする」というタイトルを考えましたが、「それでは売れないよ」と編集者に言われて、間を取って、『「学校」をハックする』を選択したという経緯があります。(どれも外れていません! 教師が変われば、学校は変わり、教育もよくなりますから。)
この本の著者の一人で、シリーズの発行人でもあるマーク・バーンズは、「ハック」を次のように捉えています。(本書のvi~viiページからの引用)
ハッカーたちは、世の中を当たり前であると考えない。彼らはおかしいと思った部分を壊し、つくり直している。
ハッカーは試行錯誤を繰り返す人であり、修理人でもあります。彼らは、誰もが思いつかない解決策を提示します。・・・彼らは、すでにある課題に対する解決法をより良くしよう、つまりハックしようとしています。それらの課題を、逆さまの視点から見たり、まったく違った視点から考えようとしているのです。
ハッカーの視点は、課題について影響されておらず、課題に内在する問題を違ったところから見ることができる人の視点です。
このような視点に立って学校というか、教師の仕事を見た結果、かなりニーズが高い10のハックにまとめて編集したのが、この本だったということです。そのプロセスについても結構詳しく書かれているので、似たようなことを別のテーマで考えたい人の参考になります。(その後、教育のというか、学校の多様なテーマを扱ったハック・シリーズに成長したわけです。3週間後には、シリーズの中で最も売れている『生徒指導をハックする』の邦訳が発売されますので、ご期待ください!)
この本で扱われているのは、いずれも日本でも共通の(しかも、切実な?!)課題ばかりです。
①
長時間の無駄な会議を葬り去り、クラウド(オンライン)会議に切り換える
②
ほとんど行われていない授業の相互見学を実現する「見学可能な授業の一覧表(オープンクラス・チャート)」で教師の協働を後押しする
③
喧騒から逃れ、静かに授業準備をする(静かなひと時を過ごす)教師の静寂エリアを設ける
④
生徒の小さな問題行動に対応しきれないのを、一冊のノートに行動の記録を収録し、クラス運営をスムースにする
⑤
ICTサポートの不足を、得意な生徒たちに活躍してもらうことで補う
⑥
機能していない指導教官制をやめ、複数のメンターで若い教師を育てる
⑦
家庭学習の部分がうまくいかない反転授業を、家庭学習の部分を授業内で行うことで乗り越える
⑧
本に触れる生徒を増やすために、学校のあちこちに図書コーナーを設置する
⑨
ブラックボックス化している授業を、SNSで透明化する/発信する ~ 発信できるレベルの授業をする!!
⑩ 生徒を数字に置き換えるのではなく、多様な視点から生徒の情報を集め、それを授業に活かす
タイトルからほとんど中身が想像できるのではないかと思いますが、例えば最後の10番目は、教師は教科書を教えて、テストをして、成績をつけてという習慣を改め、まずは、生徒のことを知る努力をしましょうということです。教える相手を知らないで、本当によく教えることなどできるはずがないのですから★。紹介されているのは、生徒の①情熱、②家族構成、③課外活動、④学習状況(得意不得意)、⑤食事関係(好きなもの)、⑥健康状態、⑦スキル、⑧その他、です。(これを一つの表/スプレッドシートに書き出すと、埋められていないところが、情報が把握できていないところだとすぐに分ります!)こういった生徒にとって大事なことを無視したまま、教師と生徒の関係が続くのと、こうしたことも踏まえながら授業が展開されるのとでは、生徒のやる気や取り組み具合は大分違ったものになるのは明らかです。
この本を読めば、あなたもハッカーになれるように書いてあります。ぜひ、ご一読を。
★ それに対して、文科省のアプローチは、教師が誰であろうと、生徒も誰であろうと、教科書さえあれば、「同じ指導が受けられる」を前提にしていないでしょうか? 結果的に、生徒のことをよく知るという当たり前のことがおざなりにされているのではないでしょうか? これこそをハックしないと! (『教科書をハックする』や『教育のプロがすすめる選択する学び』などが参考になります。)
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