2020年11月15日日曜日

答えよりも考え方へ 下書きアイディアを共有するラフドラフト思考

みなさんは学生時代の算数・数学の授業を振り返ってみると、どのような生徒でしたか? すぐに正解へ辿り着く賢い生徒でしたか? それとも正答を出せずに教室の中では、こっそりと過ごそうとしていた生徒でしたか? 

正解か不正解かを重視する授業では、数学が得意な生徒も苦手な生徒も失敗やリスク犯してまで深く考え、探究しようとしません。何も考えずに解法を丸暗記するのが落ち。しかし、算数・数学の授業そのものが、協力的な環境へと変化すると、生徒たちは自分のアイディアをより積極的に共有し、自信を持ってやる気を感じ、授業へ考える事へ参加するようになります。

 

デラウェア大学教育学部教授のアマンダ・ヤンセン氏は『ラフドラフト数学』で、これまでのような正答を求めるだけの算数・数学から、生徒同士がアクティブに考え合う、共有に重きを置いた新しい数学実践を提案しています。

 

ラフドラフトとは、下書きのことです。ラフドラフト数学は、生徒がその未完成で進行中の自分の考えを共有し、アイディアを修正するために話し合えるようにすることです。答えや計算の手順ではなく、自分の考えについて話してもらうことで、生徒同士が考える機会を増やすことができるのです。算数・数学の問題のラフドラフトを作成し、それらを共有し議論することにより「私のアイディアは重要なんだ」と、生徒はお互いの学習に貢献する喜びが生まれてくるのです。

 


 

 

デラウェア州の数学教師クリスティン・ヒューバード先生は、生徒にドット図をパッとTV画面に簡単に見せ、「いくつの点があるかを考えてください」と、何個の点があるのか尋ねます。すると生徒全員が8つあることを発表しました。「なぜそこに8つの点か、その数え方を共有してくれる人はいますか?」と質問し、生徒が点をどのように数えたのかその方法を検討するようにしました。ある生徒はホワイトボードやGoogleスライドを使い、様々なアイディアを共有しました。




 

その後、生徒たちはダイヤモンドのような形を何と呼ぶか質問し、議論しました。「この形には2組の平行な辺があるので、平行四辺形かもしれない」と提案します。その後、五角形や「まだ見たこの無い奇妙な四角形」など、複数の生徒がアイディアを出し合いながら、数学概念を理解するための探究的な対話に参加することで、クラスは正解へとたどり着きました。  

 

"生徒に数学に興味を持ってもらうためには、生徒が真の意味で探究する機会を提供する必要があります。教科書や教師ではなく、子供たちに質問をしてもらいたいのです。

★★

 

これらのラフドラフト思考を促す問題には、複数の解法や正解がある課題を設定する必要があります。複数の解法や正解がある課題は、数学についての議論を促し、考え方を見直す機会を与えてくれるからです。例えば、ドット図の多様な数え方、グラフから分かることや方程式の中で起こっているストーリーを一人ひとりのアイディアとして紹介し合うことができます。

 

最初に、ラフドラフト(まだ考え中の自分のアイディア)を他の人と共有すること。それには生徒が安心して、自分の考えを聞いてもらう安心感を醸成しなければなりません。最初のアイディアは大切であるけれど、最初に問題を解くことは期待されていないことを、生徒たちが事前に知っている必要があります。アイディアは完璧である必要はありません。何か新しいことを考え、それが自分にとって意味のあることなのかどうかを理解しようとするときには、まだうまく言葉にできないため流暢に伝えられるものではありません。

 

ラフドラフトの共有は、生徒がそれぞれのアイディアを紹介した後、グループで比較検討します。他の人との類似点を見つけることは、今の考え方を広げて深く考えるきっかけとなります。また、他の人のアイディアとの相違点に気づいた場合、その違いが重要かどうか、自分の考え方の間違えや修正する機会ともなります。これらは教師や生徒、そして生徒同士の対話によって、または文章に書き直したものを共有することによって、算数・数学におけるセンスメイキング(自分の学習への意味づくり)の能動的な学習プロセスを作り上げることができるのです。

 

授業の最後に、生徒達は、自分の考え、友だちの考えから、最終的に修正した自分の考え「ファイナル・ドラフト」を書き出します。それは、決して正答や解決方法の結果発表会ではなく、それまでの生徒の思考の変遷そのものが、価値あるものとして体験できるはずです。(そのためのワークシートは、P163。)

 


上:自分の考え

左下:他の人からの考え  右下:考え直したアイディア

 

“生徒が成果を発揮する必要がある(正確な答えを求めること)と感じている教室空間から、生徒が探究する教室空間へと変化していくことが、私の夢です。”P16より

 

教師は、生徒の考えに欠けているものを見つけることよりも、生徒の考えがどのように変化していくか、そのことに喜びを感じるようになることができるとヤンセン氏は語ります。

算数・数学を「共有の探究」として捉え直すことで、より多くの生徒がお互いの問題解決に貢献し、算数・数学の概念を共に考え合い理解する機会を得ることができるのです。生徒一人ひとりのアイディアには強みがあります。教師がラフドラフトの価値を強調し、生徒同士がそのアイディアの何に価値あるのかを指摘し始めると、誰もがみな数学的な強み(生まれつきの数学が苦手な人はいない!)を持っていると考えるようになってきます。

 

正答を直線的に求めることから、その途中のプロセスを仲間と共有し一緒に考え合うこと、深く考えることで、学びにエンゲージし(夢中になり)、間違えや失敗することに臆すことなく自信をもって考えるようになります。ラフドラフト思考は、算数・数学の授業を、生徒が声に出して話し合い、考えることそのものが心地よいと感じるような、魅力的な探究の共有の場にしてくれる強力なツールです。このような実践がより一般化されるためにも、邦訳が待ち遠しいところです。

 

     

Amanda Jansen Rough Draft Math: Rough Draft Math: Revising to LearnStenhouse Publishers (2020/3/17)

 

★★ 

Rough Draft Thinking Can Make Math Class More Inclusive 

https://www.edutopia.org/article/rough-draft-thinking-can-make-math-class-more-inclusive

 

0 件のコメント:

コメントを投稿