前回は(2019年4月21日)、「働く野性」というとてもインパクトのある言葉を冠した研究を紹介した。特に、働くモチベーションを生み出す機能がうまく働いていない組織のパターンとはどのようなものかを考えた。今回は、それを受けて、同書が提案している「VOICEモデル」を紹介したい。
VOICEモデルとは、モチベーションの高い組織を生み出すことのできる5つの経営手法を提案したもので、若い世代を対象とした働く意欲に関する調査研究や企業のケーススタディなどをもとに策定されたものある。5つのアプローチの頭文字をとってVOICEモデルと呼んでいる。以下、その概要の掲載する(pp.56-74):
Value Approach(共有価値観のデザイン)
企業のミッションやビジョン、あるいは行動哲学、行動規範などの製作と共有化を通じて、その事業の社会貢献性や社会変革性などを従業員が実感できるようにすることでモチベーションを高める。
Opportunity Approach(成長機会のデザイン)
組織を、従業員にとっての「成長の舞台」という観点から組織のあり方を見直す。
Innovation Approach(創造する楽しさのデザイン)
組織内にイノベーションのメカニズム(改善、改革、創造を尊重する文化と仕組み)を作り出すことによって、従業員の創造性や起業家精神を引きだし、モチベーションを高める。
Communication Approach(情熱循環のデザイン)
仕事に対する情熱やプロとしての自己成長について、従業員同士が自然に語り合う機会や組織風土を作り出すことでモチベーションを高める。
Empowerment Approach(能力発揮環境のデザイン)
従業員個々人がフラストレーションなく存分に実力を発揮できるような権限と職場環境を整備する経営手法。ワークライフバランスや労働の自主・自律性の付与と深く関係している。
教師の成長は、専門職としての力量の形成や向上といった観点、教育公務員としての使命感、倫理観などの観点から語られることが多かったのではないか。
一方、現職の教員が、生き生きと、元気に働き、成長していくための指針やモデルはこれまでほとんど提示されてこなかったのではないかと思う。例えば、Communication Approachのように、仕事に対する情熱やプロとしての自己成長について、従業員同士が自然に語り合う機会を意図的に設けている学校はどれだけあっただろうか。
同書には、「働く野性とは、職務に対する情熱であり、成長や卓越性への意欲であり、仕事への集中や没頭をもたらすもの」(p.23)とある。これは、報酬や福利厚生、従業員満足度といった外発的なものを超えたところにあるものとしている。
さらに、働く野性は「仕事そのものの面白さや深遠さ、あるいは組織に所属する人間集団の質など、より本質的な部分に宿っている」(p.23)としている。
今の学校が、この「本質的な部分」から遠ざかる方向に向かっているとしたら、非常に大きな問題であるし、子どもたちにとっても不幸なことだろう。子どもたちは、魅力的で、生き生きと、元気に働いている先生と一緒に学びたいはずだ。
今の学校は「働く野性」を生み出す組織になっているだろうか。私はちょっぴり不安だ。
<資料>
「PLC便り」「「働く野性」を考える(1)ー モチベーションが生まれる組織になっているか」2019年4月21日 https://projectbetterschool.blogspot.com/2019/04/1.html
野村綜合研究所(2008)『モチベーション企業の研究ー「働く野性」を引き出す組織デザイン』(東洋経済新報社)
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