みなさんは、先日、BS1スペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」をご覧になりましたか? そこに登場する梅田明日佳くんは、小3~中3までの7年間、自らテーマを見つけ学ぶ「自主学習ノート(自学ノート)」にのめり込んだ少年です。★
“「自学」とは、自分でテーマを見つけ学ぶこと、と言うとえらそうだが、単に「好きなことをして『学んだ』と言っていい」ということ。小学生時代に宿題として始まったこの取り組みは、おそらくほとんどの人が卒業と共に止めてしまったが、その頃にはこれが遊びの中心をなっていた僕は、中学生になってからも部活代わりのように続けていた。”『ぼくのあしあと 総集編』より★★
小学校から始めた自学ノートを、彼は中学に入っても一人で細々と続けていました。周りの生徒たちは、部活動や友達、恋愛、受験勉強に忙しく、自学ノートをしている子はすでにもういません。何が梅田君を夢中にさせたのでしょうか。
梅田君は、ある日「祇園太鼓像のばち」が盗まれてしまう新聞記事を見て、自学ノートにまとめました。数日して、その太鼓のばちが修復された新聞を読み、「ばちがもどってほんとうによかったと思います」と実際にその場に行ってまで写真を撮っています。その後もこの祇園太鼓ばち事件の追跡を継続。この行動力はすばらしく、彼の探究心を今後突き動かし続けていきます。
けれども、中学校の先生にこんなことを言われてしまいました。
“終業式の後、担任の藤江先生に言われた。「自学ノートはやってもいいけど、勉強に支障がないようにほどほどにね。」”
あまりに自学ノートへ夢中になりすぎてしまい、おろそかになってしまっていた受験勉強。目の前に迫ってきている受験のことを考えると、先生の親心から来る「お小言」もわかります。しかし、勉強とは一体なんでしょうか? 梅田君の自学ノートは勉強になっていないのでしょうか。
梅田君は自学ノートを続けます。時計好きから「珍しい時計126点展示・門司」に出かけ、自分がまとめた自学ノートを持参しました。実際に展示会の社長にそこで会って、感想をもらいました。それを皮切りに、夏休み短縮反対に向けて実際に市長へも手紙を出しました。北九州市立平和資料館、北九州市立文学館、産業技術保存継承センター、安川電機みらい館、漫画ミュージアム、松本清張記念館などの多くの館長さんたちの元へ、自分がまとめた自学ノートを持ち込み、次々とフィードバックをもらい続けていました。好奇心に突き動かされるように「いきつけ」の資料館がいくつも生まれ、博物館界隈ではちょっとした有名人に。★★★
そこでの生のやりとり、手紙でのやりとりを通して彼は、“学校で習う理科と社会科が実は地続きだと分かったことが、僕がここに通って得たいちばんの収穫だ”と、本物に触れることや人との出会いからの気づきを体験的に見つけていきました。
また、実際に博物館館長にも、文系か理系か、どちらへ進学するかの自分の進路相談もしています。その際、「文章で表現する力と科学の力には密接な関連があると思います。例えば、相対性理論を発案したアインシュタインはもちろん大天才なのですが、時間や空間の伸び縮みについて、難しい数学だけではなく、例え話で誰にでもわかりやすく表現することに長けていたと言われています。このように自分の考えを伝える力がどのような分野でも重要だと思います」といったような、人生訓をも手にしています。
“このノートを切符に、思ってもみなかった場所に行け、普通なら会えないような人と話せた”
“新聞を読み、本で調べ、時間をかけて書いたノートや、学校に行く時間すら惜しくなるほど丁寧に書いたり描いたりしたものは、僕をいろいろな場所へ連れ出してくれた。”
梅田君が自学ノートで学んでいることは、受験で求められるテストにパスすることとは明らかに異なります。このじっくりと遊びのように夢中になって続けた17冊のノートは最高のポートフォリオです。以前にもこのPLC便りに書きましたが、これを受験の判断材料ひとつに含めたら、どんなことが起こるでしょうか。★★★★
梅田君は自学ノートを通して、たくさんのことを学んでいきました。博物館や科学館、美術館といった施設で本物に触れること。実際に社長や館長、キュレーターの人達と会うことを通して、自分の学びを実際の社会とどうつながっているかを発見していくプロセスは、まさに今、求められている探究学習です。「自学はほどほどに」と、学びの道具を取り上げられそうになった彼は、受験勉強との狭間に揺られながらも、その後、見事に彼の学びを継続しました。
「これ(自学ノート)が遊びの中心」と言っていた梅田君。彼にとって、自学ノートは遊びの延長です。昨今、学校現場で取り組まれている自学ノート実践。どのようにしたら、梅田君のような社会とつながる創造的な探究的な学びにつながることが出来るのでしょうか? 見開き2ページの量や学年×時間を毎日取り組むといった、学びの型を身につけるところから、そろそろ次のステップへと進んでいく時期ではないでしょうか。
それに最もおすすめの本があります。『宿題をハックする 学校外でも学びを促進する10の方法』です。
この本の5章「生徒に学びを奨励するーイノベーションと創造性を促進するために」に紹介されている
ステップ1 学習状況とコミュニケーション・スキルに焦点を当てる
ステップ2 教室で起こっていることを保護者とシェアする
ステップ3 到達目標を遊びと関連づける
ステップ4 遊びをベースにした学校外での活動をリストアップする
ステップ5 ステップ4で表した遊びと学習、および社会性、感情面、身体面の成長を関連づける
この5つの具体策は、意味のある学びをファシリテートしてくれ、丸投げになっている家庭学習に具体的な手立てを与えてくれています。
“いろんな場面で自学ノートが僕を応援してくれるようになっていた。このノートを見たら、僕はいつだって全力ですきなことをしてきたことを思い出せる。そして、やり続けることで、何でも少しずつ上達するということも。このノートはこれからも静かに僕を励まし続けてくれる。”
自学ノートを通して、こんな風に語れる生徒を育てられたら、すてきな事ですね。
★
BS1スペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/2443/2225660/index.html
見逃してしまった方は、オンデマンドの有料配信でご覧になれます。
★★
番組で取り上げた梅田明日佳くんの「子どもノンフィクション文学賞大賞」を受賞した作文『ぼくのあしあと 総集編』は、主催する北九州市立文学館のホームページよりご覧になれます。こちらの方がおすすめです。TVでは、学校に流れる「みんな同じ」といった同調圧力から外れていってしまう、彼のコミュニケーション能力に焦点が当てられていました。そこから、切り取られてしまった梅田君の中で生まれていった学びのプロセスをこの作文は十二分に補完してくれます。彼の本質は行動力へと突き動かす好奇心にあり、この作文こそ、梅田君らしさを伝えてくれています。
http://www.kitakyushucity-bungakukan.jp/wp-content/uploads/2018/03/1fe71b08789fe2f0c29f0d93171f3fae.pdf
http://www.kitakyushucity-bungakukan.jp/wp-content/uploads/2018/03/23b39d70673483d9a1e9caeb58000ce0.pdf
★★★
何よりも、母親のサポートが迷いながらも寄り添ってくれるコーチのようでした。中学校で自学ノートの提出先がなくなった際、調べた博物館に実際にノートを持って行って見せるアイディアをくれたのは母親でした。そして、さらにそこへ同行して付き合っている!ここから、彼の学びは社会とつながり、少しずつ自分をみつけながら、自立に向かっていくことになります。
★★★★
受験パスポートにポートフォリオ評価を
https://projectbetterschool.blogspot.com/2018/09/blog-post_16.html
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