あいかわらず、ブック・クラブを楽しんでいます。(ブック・クラブについてはPLC便りをご覧ください,「ブック・クラブを始めませんか」http://projectbetterschool.blogspot.com/2018/06/blog-post.html)。
ブック・クラブの例会での楽しみの一つは、ブック・イントロダクション(本の紹介)です。いったいどんな本をもってくるのか、その本について何を語るのか、みんなワクワクして待ちます。メンバーの皆さんが、口を揃えて言うのは、「一人では決して選ばなかった本が出てくる。」ということです。ブック・クラブに参加することで、読書の世界が豊かに広がっていく。そのような実感をもつようです。
ナンシー・アトウエルさんは、「読むことも、書くことも、自分で選択できるからこそ、生徒は学びに夢中になれる、私はそう信じています。」と述べています。良い本を選択できる力は、大切な力ですし、良い選書を支えるものも一つが、情熱的なブック・イントロダクションだと思います。
(『イン・ザ・ミドルーナンシー・アトウエルの教室』三省堂、2018,p.45, PLC便り http://projectbetterschool.blogspot.com/2018/07/blog-post_22.html)
そこで、今回は、これまでブック・クラブで読んだ本の中から、好評だった本、当日の議論が盛り上がった本を紹介したいと思います。これからも、不定期に紹介していきたいと考えているので、気になる本があったら、ぜひ、友人や同僚とブック・クラブで盛り上がってください。
☆トーマス・トウェイツ(翻訳 村井理子)(2012)『ゼロからトースターを作ってみた結果』新潮社.
この本は、イギリスの美術専攻の大学院生が、トースター(パンを焼く機械)を、ゼロから作ってしまったてん末を、自らが語ったドキュメンタリーです。「ゼロから」というのは、「原材料から」という意味です。鉱山から鉄鉱石を手に入れた鉄鉱石と銅から銅線をつくったり、じゃがいものデンプンからプラスチックをつくるといった調子です。実に非生産的なことをやったわけです(しかも、大学院の卒業研究だそうです)。
こんなバカバカしいことを大真面目でやったこと、それがこの本の一つの価値。そして、そんなバカバカしいストーリーを、文字にして語ろうと思ったこと。それが二つ目の価値かもしれません。しかも、その語り口は、まったく「あざとさ」を感じさせない。何か、意味のあることを語ろうとして、意図的にバカバカしい行いをしようとした形跡が認められない。極めて、純粋に、自分自身の好奇心と情熱に突き動かされ、トースターづくりという偉業(?)をなしとげているのです。それが実に痛快。
この本は、不思議な魅力をもった本です。彼の行動や考え方に、時に吹き出してしまったり、あきれたりしているうちに、彼のトースター作りの物語に引き込まれていくのです。そして、気がつくと、私たちの日常にあるものごとの見方が変わる。解説者は、この体験を「洗脳が解ける感じなのだ。」(p.204)と言っています。
もう一点、私がおもしろいと思ったのは、彼のトースターづくりに関わった人たちの大らかで寛容な姿勢です。彼が最初に相談した高度鉱物の専門家シリアーズ教授しかり、鉄鉱石の鉱山の鉱夫さん、BP(ブリティッシュ・ペトローリアム)社で働く人などなど。彼の冒険を支えた多くの人が、実現可能性の低さは指摘しても、決して彼の試みを頭ごなしに否定しない。少なくとも、筆者の書きぶりからはそう読める。一人の若者の心に湧き起こった好奇心をなんとか大切にして育ててあげたいと思っているかのようです。イギリス文化がそうさせるのか、偶然そういった人たちの巡り会えたのか、それは分かりません。しかし、私たちが、好奇心をもった児童生徒にどのように接するべきなのかについては、考えさせられてしまいます。
「探究」が今の教育のトレンド・ワードの一つになっていますが、成績は良くて、読み書きもよくできるのに、自ら学ぼうとしない子どもが増えてきていると言われます。「どうやって子どもたちの学ぶ意欲に火をつけよう?」と悩んでいる先生。ぜひ、この本を手にとってみてください。ワクワクする気持ちが、どのようなものなのか、どこから湧いてくるのか、ヒントがつかめるかもしれません。先生方ももちろんですが、中高生にぜひ読んでもらいたい。クラス・メートと一緒にブック・クラブをやって読んでみてほしい本です。
我々の中に埋もれていたり、忘れかけている好奇心や情熱を思い起こさせてくれる不思議な力をもった本です。
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