2018年7月1日日曜日

メンターとしての指導主事の成長と悩み


県教委が実施する英語教員研修のサポートを依頼された。その時の私からの提案は、講演や演習のみの集合研修タイプのものはやめようというものだった。その代わりに、二つのことを実践することにした。一つは、参加者が、教室において、自らの力量を伸ばすことのできる長期的、継続的な研修を行うこと。もう一つは、研修を企画運営する側の指導主事も一緒に学ぼうというものだった。

参加者は、テーマを決めて、各自の学校で、小規模な実践研究(アクション・リサーチ)を行ない、指導主事は、メンタリングについて学びながら、メンターとして受講者をサポートする新しいタイプの研修がスタートした(「自律型共同研究による英語教員研修の実施とOJTによるメンターの育成」,教員研修モデルカリキュラム開発事業, 教員研修センター,2010-2012委託事業)。そのうち、今回は、メンターとして関わった指導主事の皆さんのことを書いておきたい。

指導主事グループの研修には3つ目的があった。
(1)メンタリングの理解
メンタリングに関する本(福島正伸(2005)『メンタリング・マネジメント』(ダイアモンド社)を、オンライン・ブッククラブで読み、意見交換をしたり、情報を共有する。
(2)メンティー(受講者)の理解
電話、メール等による相談、授業参観、面談を行い、その結果をジャーナルに記録する。定期的に、メンター会をもち、そのジャーナルの報告や情報の共有をすることで、より深い受講者理解を図るとともに、必要な支援策を考える。
(3)メンタリング・スキルの定着
メンタリングの事例研究と振り返りのセッションをもち、メンターとしての成長を確認するとともに、自身の課題を明らかにする。

1人の指導主事が、6〜8名の受講者を担当し、他にも多くの業務を抱えた中で、彼ら、彼女らは、熱意をもって、メンタリングを学び、そして、メンティーを支え続けた。また、メンター会での事例研究や振り返りを経て、メンターの間にも良い人間関係が形成されていくことが見て取れた。

年度末に、メンターの振り返りのワークショップを行い、成果と課題をまとめた。

メンターとしての成長と気づきとして、次のようなことが出された。
1)自分自身の強みや課題の発見することができた。
2)メンティーの成長を確認できる喜びを実感した。 
3)メンタリングを通じて身につけた知識やスキルの通常の業務への応用ができた。

ワークショップ後に書いてもらった振り返りには、「他のメンターや講師の先生から自分自身の関わり方を認めてもらったり、自分の発言を価値付けてもらったときに喜びを感じた。」(メンターK指導主事)とある。

一方、課題として次の3点が出された。
1)時間的制約が厳しい。メンティーともっと関わりたいと感じた。今後は、職場内での同僚とのピア・メンタリングなどが必要ではないか。
2)教科(外国語教育)の専門的知識の不足を実感した。メンターの自己研修も必要だが、大学などの専門機関との連携も不可欠。
3)待ち(傾聴)と攻め(リーダーシップ・指導助言)のバランスの判断が難しい。受講者の現状と行政からの要請の板挟みで悩んだ。

振り返りの言葉には、メンターとして関わった時のもどかしさが読み取れる:

「傾聴と待つということを意識した。できるだけ相手の話してもらえるように問いかけた。すいぶん待った。実は何もしなかっただけかもしれない。でも、そんなことを考えている自分は、あきらかに6年前にはいなかった。」(メンター I 指導主事)

「「私の中にあなたの答えはないよ。」「でも一緒に歩いて行く覚悟はあるよ」ということを相手に伝える覚悟をもつことが、私かなあと思っています。「信頼され、尊敬される理想のメンターではないけれど、腹が立っても、がっかりしても、メンティーを信じ続けたいと思っています。」」
(メンター Y指導主事)

メンターとして関わることは、簡単ではなかったようだ。指示や管理をしている方が、簡単なのだろうとの意見もあった。しかし、その悩み抜いたプロセスは、メンター自身の成長ももたらしていた。

オンライン・ブック・クラブでみんなで共感しあった一節がある。

「人は自分の力で成長しようとしない限り、成長することはできない。」(福島,2005,p.24)

皆、これを実現しようと努めた。必ずしも、大成功を収めたわけではなかったが、メンティーとともに、学び続けたメンターの姿には心打たれるものがあった。自分の力で成長しようとするメンターの姿がそこにはあった。

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